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第4話 月下動乱(1)

 「クソッ……たれがぁぁぁ!」


 聖王国が誇る聖科学会、その魔道武器開発チームの副所長であるイーサンは、怒りに身を任せて怒鳴りながら近くにある木に蹴りを入れていた。


 イーサンがこれほどまでに怒っている理由、それは当然先程目の前で吸血鬼の身柄を魔王軍に奪われた事である。


 (マズイ…………これはかなりヤベェぞ)


 イーサンは爪を噛みながらこれからの事を考える。


 (まずこのまま手ぶらで国に帰る……、これは論外だ。こんなザマで帰ったら、俺の立場なんて簡単に消し飛ぶに決まってる!)


 イーサンが魔道武器開発チームに属していながら、今回の派遣隊の使者並びに調査員としてこの国に来たのは、吸血鬼の身柄を聖王国へ持ち帰り、吸血鬼の魔力を分析して更に強力な魔道武器を開発する事。また、その際戦闘に発展したら、今回同行させている兵士達が持っている新しく開発された魔道武器のデータを得るよう上から命令された為だ。


 先程スイセンには吸血鬼は即刻殺すと言ったが、実際、吸血鬼という伝説級の魔力を持つあの少女の存在価値は、聖科学会……特にイーサンの属する魔道武器開発チームにおいてかなりのものである。


 魔道武器……、それは()()()()()()()()()()()を用いて作られる。


 そして魔道武器開発チームの見立てでは、現在7本しか生成に成功していない、聖騎士が持つ聖武器である特級魔道武器を作れると予想されていた。


 しかしイーサンは現状、吸血鬼の身柄を奪われた挙句、魔王軍との戦闘でさえも魔道武器を使う前に逃げられたので、データすら手に入れられなかった。


 そんな結果で国に帰れば、聖科学会内での降格や追放処分、最悪罪人として扱われてもおかしくない。


 それほどまで、聖科学会は結果主義なのだ。


 「おい、さっきの魔族共を誰か知らねぇか!?」


 後背を絶たれたイーサンは少しでも情報が欲しく、周囲にいる部下や兵士達に声を掛ける。


 そしてそのイーサンの問いに応えたのは、


 「確証は無いですが、あの集団の中心にいたのは強大鬼族(ハイオーガ)、なら魔王軍幹部鬼神のオニヒメの配下ではないでしょうか?」


 自身の身体より大きいライフル銃のような魔道武器を背負う男、聖王国が誇る聖騎士の土帝ニルファー直属の配下であり、双長と呼ばれるニルファー率いる兵士の隊長の一人であるバームスであった。


 「鬼神オニヒメか…………。鬼族の始祖たる吸血鬼を欲するのはまぁ当然か」


 バームスの言葉にイーサンも納得したように頷く。


 すると今度は、


 「その強大鬼族(ハイオーガ)と一緒にいた二人ですが、特徴から見て、先日の聖魔事変の首謀者であり、新しく魔王軍幹部に入ったという魔法少女ルナの配下二人で間違い無いかと思います」


 黒と白、二本の剣を腰に携えた女性、バームスと同じくニルファー軍の双長のもう一人であるルーミスが、そうイーサンに報告する。


 「魔法少女ルナ……、あの大臣ロイターを討ち、聖騎士の炎帝ルキアートを退けたとかいう奴か。あの二人はソイツの副官といったところか……」


 ルーミスの言葉を聞いてイーサンは再度考える。


 (てことは、今回の魔王軍の動きに魔王軍幹部が最低二人は絡んでいると考えるのが妥当か……。となると力づくで吸血鬼を奪い返すのは現実的じゃねぇ。そもそも奴らがどこにいるか分からない以上、この案も却下だ)


 聖王国に帰ることも吸血鬼を奪い返しに行くのも、今のイーサンには有り得ない選択肢だ。


 「あー、どう考えても詰んでるな、これ」


 あまりの状況の悪さにイーサンは開き直った。


 (あ〜あ、魔王軍さえ介入しなければ、聖王国に吸血鬼を連れて帰って、特級魔道武器を作って、それで俺の出世も間違いなかったんだけどなぁ……。なんでこう、タイミング悪いんだよ)


 「はぁぁぁ…………」


 イーサンは深い溜め息を吐いて空を見上げた。


 (このまま逃げちまうのが一番か……)


 イーサンの脳内は次第に、周囲の部下とバームス・ ルーミスらを誤魔化して、どうにか自分だけ逃げる方法を考える事で一杯になっていた。


 「あの……、イーサン様。我々はどうしましょう?」


 何も指示を出さないイーサンに、ルーミスは遠慮気味に尋ねる。


 「あー、今考えてるからちょっと待ってろ」


 そんなルーミスの言葉に、最早亡命する事しか考えていないイーサンは適当に返す。


 「まぁ、タイミング悪く魔王軍が来たのですから、しょうがないですよ。とりあえず本国に報告しますか?」


 とバームスが肩をすくめながらそう言う。


 「それもちょっと待て、余計な事は考えなくていい」


 (人の立場も考えずに適当な事を言いやがって)


 イーサンは内心苛立ちながらそう返し、


 「あん?」


 ふと先程のバームスの言葉に引っかかる。


 (魔王軍がタイミング悪く現れた?………いや、逆だ。タイミングが良すぎる(・・・・・・・・・・))


 逃げの思考から一転、イーサンは一つの仮定を思い浮かべる。


 (魔王軍とアスカは裏で繋がってた?)


 そう考えるとこうもタイミング良く、イーサン達の前に現れた事にも説明がつく。


 (聖王国に吸血鬼の存在を知られ、俺達に奪われる前に吸血鬼を逃がす。その為に魔王軍と前もって話をつけていたとしたら?そうなればあのリンドウとかいう役人が突然素直になって吸血鬼を渡してきたのにも納得がいく)


 次第にイーサンの中でピースが埋まっていく。


 (確証はねぇが…………、それでもいい)


 イーサンは笑みを浮かべ、


 (仮にこの予想が外れていたとしても、これが真実(・・・・・)という事にしちゃえばいい。そうすれば聖王国にアスカは魔王軍と繋がっている敵として報告し、今回の俺の失敗は有耶無耶にできる)


 と考えた。


 そしてイーサンは自身の部下や、バームス・ルーミスらに、


 「アスカは魔王軍と繋がっている。その証拠を掴みに行くぞ」


 と伝えた。





 

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