第2話 エルフの集落(6)
「ではこちらでご主人様がお待ちになられておりますので、ルナ様、お入りください」
そう言いフォーリアはとある部屋の前に立ち止まる。ここが食堂なのだろう。
「さぁルナさん、入りましょう」
リーシャはそう言ってドアを開けて先に部屋に入り、俺もリーシャに続いて食堂に入った。部屋の中には大きいテーブルに様々な料理が並べられており、いい匂いで満ち溢れている。そしてテーブルの奥に白髪頭に長い髭を生やした一人のエルフが既に席に着いていた。
「お父様、こちらが先程話したルナさん。私を森で助けてくれて集落まで送ってくれた……私の友達です」
「おぉ、貴方様が。この度は娘を助けていただき誠にありがとうございます」
リーシャの紹介にリーシャの父親である族長が立ち上がり、俺に対して深々とお辞儀をする。
「頭をあげてください!こちらこそお風呂にお食事、それに寝床まで用意してくださって感謝してます!」
俺も族長にお礼を述べた。
グゥ〜
俺と族長が二人して互いに頭を下げているところに可愛らしい音が鳴り渡る。顔をあげて隣にいるリーシャを見ると
「あはは……、ごめんなさい」
とリーシャがお腹を抑えて顔を赤くしていた。
「ハハッ、折角の料理が冷めてしまっては勿体ない。とりあえずご飯にしよう」
「そうですね。お嬢様も空腹みたいですし」
族長の言葉に、いつの間にか族長の隣に立っていたフォーリアがそう言い、「どうぞ、ルナ様もお座り下さい」と俺に促した。
俺もこの世界に来てまだ食事を取っていないので、実の所かなりお腹が空いていた。俺は席に着き、テーブルに並べられた料理を見渡す。そこには、サラダ、野菜が沢山入ったスープ、魚とキノコのソテー、何かのお肉のステーキ、焼きたてのパン、葡萄のジュースが並べられていた。どれもとても美味しそうだ。
「うわぁ、鹿肉なんて久しぶり!」
やはりかなりのご馳走なのだろう、リーシャも目をキラキラと輝かしている。
「お客人……いや、リーシャの恩人にして友人がいらしてるんだ、今日は豪勢にと思ってフォーリアに頼んだんだ」
「えっ!?この料理全部フォーリアさんが作ったの!?」
「はい。お口に合えばよろしいのですが」
「大丈夫!フォーリアの作る料理は全部美味しいんだから!」
と何故かリーシャがドヤ顔で自慢する。でもそれも納得だ。もう見た目と匂いで美味しいのが分かる。
「ではいただきます」
「いただきまーす!」
族長とリーシャが手を合わせていただきますを言ったので、俺も続いて「いただきます!」と言って食事を始めた。
▽▽▽
「ふむ、つまりルナ殿は一種の記憶喪失だと」
「はい。なのでこの辺りの事は何も分からないんです」
俺は族長に自分が記憶喪失であり、覚えてるのは名前と魔法と基礎的な知識だけだと嘘をつく。まぁ、これもリーシャが「転生したとかは無闇に話さない方がいいと思う。私達だけの秘密にしよう」と部屋で俺の話を聞き終わったあとにそう言った為である。事情を唯一知るリーシャも特に何も言ってこない。
「それならこの国、……いや、今の世界の状況を説明した方が良いかもしれんな」
族長は食事をする手を一旦止め、テーブルに肘をついて手を組み、いかにも大事な話をしますってオーラを出す。
「そうじゃのう。まずは簡単にこの世界の現状を伝えると、今この世界は人間と魔族が戦争をしている時代なのだ」
「戦争……」
「昔は人間と魔族の間に協定が結ばれていて、人間と魔族が互いに干渉せず穏やかに暮らしていたのじゃ。しかしその協定も自然と有耶無耶になっていき、やがて互いの領土、資源、財産を奪い合うようになったと伝えられている。」
「族長はその時生きてなかったの?」
「昔と言ったが協定が結ばれていたのは500年も前の事じゃよ。それから少しずつ関係性が悪化してのう、特に10年前、聖王国の国王が正式に協定の破棄、魔族に対する宣戦布告をしたのを皮切りに、戦争が公に開戦されたのじゃ。」
クイッと族長は1回グラスに注がれた水を飲み干し、話の続きを始めた。
「そして今この世界は主に3つの勢力に別れている。聖王国を筆頭にしている人類、魔王により支配させられている魔族、そしてそのどちらにも属さない中立国連合じゃ。因みにこの集落は聖王国の庇護下に入っておる。」
「てことはた人類側の陣営って事か……」
「その通りじゃ。我々の集落は数年前に魔族の襲撃にあっての、その時に聖王国ラミーリアに助けていただいたのじゃ。それ以降元々中立国であった我々は正式に聖王国の属州として傘下に入り、魔王軍の脅威から守ってもらってるのじゃ」
「でも魔族って言うのはね、自分たち以外の種族を全て支配しようと考えているのよ」
族長に続き、リーシャも話に乗っかる。
「魔族は逆らう者は殺す。そして奪い取った土地を領土にし、そこの民を奴隷として扱い、そうして勢力を拡大しているの。現にここ最近近くの村が滅ぼされたり、子供達がいなくなるって事件も発生しているわ」
とリーシャは少し不安げに説明してくれる。
「一方人類陣営、……と言うよりは聖王国陣営じゃの。聖王国陣営は魔族陣営には容赦しないが、陣営内の国、人には慈悲深く、正に正義の味方という感じじゃな」
と族長が締めくくった。
|(なるほど、正に魔法少女として活躍するのにもってこいの世界だな)
俺はリーシャと族長の話を聞き、この力で悪を倒し、困ってる人々を沢山助けるぞと決意を固めた。
▽▽▽
「フゥ〜、ごちそうさまでした!フォーリアさん!ご飯とても美味しかったです!」
「はい、お粗末様でした」
族長とリーシャからこの世界の大体の事情を聞き終えた俺は、食事を終えフォーリアさんにそう伝える。異世界の料理がどういう物なのかと食べる前は正直不安が少しあったが、そんな杞憂は一口食べたら吹き飛び、並べられた時に思った感想以上の美味しさだった。
「ではお嬢様。再度怪我の具合を確かめますのでこちらにお越しください」
「もうフォーリアったら……。大丈夫って言ってるでしょ!」
「お嬢様は無理をされる癖があるので、きちんとこちらで確認致します。さぁ行きますよ」
「ぶー。……それじゃルナさん、また後でね」
「ではルナ様。お先に失礼致します」
リーシャの文句を軽くあしらったフォーリアさんは、そう言ってリーシャは連れて食堂から出て行った。リーシャもフォーリアさんについて行き、食堂を出る際にこちらに手を振ってきたので俺も振り返す。
|(さて、俺は部屋に戻れば良いのかな?)
とりあえず俺は部屋に戻ろうとする。
「ルナ殿、少しよろしいですかな?」
俺が席を立つと族長が俺を呼び止める。そして俺の側まで来て、俺の手を握り始めた。
「ふむ、やはり。……いや、思ってた以上じゃな」
「あの、どうかされましたか?」
俺の手を握ったままブツブツと言い出した族長に俺は尋ねる。
「おぉ、これはすいません。少しルナ殿の魔力に興味を持ちましてね」
と手を離し今度は俺の体を上から順に見ていく。
「ワシはある程度、その人物の内に秘められた力を見る事が出来るのだが、ルナ殿。貴方様の体内からは何も感じませぬ。まるで見た目相応の少女の様だ。しかし、その指に付けている指輪からは膨大な魔力を感じます。そしてその指輪はまるで体の一部のようにルナ殿の体に馴染んでおられる。これ程の魔力の秘めた魔道具など見たことありませんし、その指輪から感じる魔力は、魔王の配下である幹部クラスであります。これならゴーレム相手に苦戦せず、一撃で倒したというのも納得致しました。」
と説明する。そして族長は懐から地図らしき物を出し、
「これはこの近辺が記された地図でございます。コレをルナ殿に差し上げましょう」
と俺に渡した。
「折角です。まずは聖王国ラミーリアに行かれはいかがでしょうか?貴方様の実力ならきっとすぐに即戦力として丁重に迎え入れてくれると思います。」
そう言って地図にか聖王国ラミーリアと書かれた場所を指さす。|(因みに文字は日本語ではない見たことない文字なのに自然に読むことが出来た)
「なるほど。確かにそれがいいかもしれませんね」
と俺は答えた。
族長はその後俺に背を向け少し沈黙した後、再度俺の方に振り返り、俺の目をじっと見つめ、
「そしてルナ殿に折り入ってお願い事がございます。」
「えっ、はい。何でしょう?」
族長の強い目線に少し驚きつつ俺は尋ねる。
「どうかこの集落を出る際は、娘のリーシャも一緒に連れて行ってくれませんか?」
と族長は俺に頭を下げてそう言った。