第3話 吸血鬼救出作戦(9)
「色々と気に食わない事はあるが……、すんなりと事は進んだか」
後ろを振り返り、拘束用魔道具を付けられながらゆっくり歩いている少女を見て、イーサンは今後の方針を考える。
(とりあえず拘束用魔道具はきちんと付いてるから、暴れ出したとしても何とか抑えられるだろう。なら、今すぐコイツを殺す必要は無い…………、いや、そもそも俺達も不死の吸血鬼を殺す方法なんて知らないんだから、今は殺せない……が正しいな)
イーサンは少女の顔をじっくりと見るが、少女の方はイーサンに視線すら向けず、ただただ真っ直ぐ前を見つめている。
(それにしても、こんなちっこいガキみたいな女が吸血鬼とはねぇ……)
魔族はよく分からねぇと思いつつ、イーサンは聖王国へ帰還するために、空飛ぶ魔道乗物を停めてある場所に向かって歩き出す。
「お前達も済まないな。わざわざこんな田舎まで来てもらったのに」
「いえ、お気になさらないで下さい」
「そうですよ。争うがないに越したことはないですから」
とリンドウの言葉に、聖騎士ニルファー直属の部下である二人がそう答える。
そんな二人を見て、「真面目だねぇ……」とイーサンが呟いたその時だった。
ピコーンピコーンピコーンピコーンピコーン
「あん?」
「!?…………クッ!」
イーサンの手に持つレーダーに複数の魔力反応が突然現れたその瞬間、イーサンの頭上から棍棒の様な武器を持った鬼が襲い掛かり、その攻撃をニルファーの部下である双剣を持った女性が何とか防ぐ。
「総員!臨戦態勢を取れ!」
突然の襲撃に、もう片方のニルファーの部下である銃を持った男が、慌てて周囲の兵士にそう指示を出す。
「……外したか」
襲ってきた鬼はボソッとそう呟く。
「おいおい……、なんでこんな所に強大鬼族がいるんだよ!」
イーサンは双剣の女性兵士を盾にしながら、突然現れた鬼を見て思わず喚いてしまう。
そして現れた鬼は拘束されている少女を見て、
「そこのお前、この方の拘束具を外せ」
と近くにいたイーサンの部下に棍棒を突きつけながらそう命令する。
「おい!外すんじゃねえぞ!!」
イーサンはその部下にそう怒鳴りつけるが、鬼から向けられる殺気に怖気付いてしまい、持っていた鍵で少女を解放してしまった。
「よし、では吸血鬼は頂いていく」
そう言って鬼は少女を抱き抱えた。
「おい!お前ら!アイツを止めろ!!」
イーサンは兵士達にそう命令し、ニルファーの部下二人を筆頭に武器を構えるが、
「させませんよ!」
「させねぇよ!」
更にもう二人、黒白斑髪のレイピアを持った女と薄緑髪の槍を持った男が突然現れ、彼らを攻撃し妨害する。
「チッ、次は何者だ!」
次から次へと起こる予想だにしない出来事に、イーサンは苛立ちを隠すこと無く怒鳴りつける。
そしてイーサンの問に、少女を抱き抱えた強大鬼族が、
「我らは魔王軍だ。魔王様の命により、吸血鬼迎え入れる為参上した!」
と声高らかにそう言い放った。
「魔王軍だあ?何でこのタイミングで現れやがる!?おい!早く吸血鬼を取り戻せ!」
イーサンはそう命令するが、
「悪いが俺達は吸血鬼さんさえ手に入れれば、後は要はないんでね…………。ルリィ!」
そう笑いながら言うと、薄緑髪の男は右手を掲げる。すると人差し指にはめられている白い宝石の指輪が光りだし、魔法陣が浮かびあがると、そこから一匹の魔獣が現れる。
「ヒヒ〜ん!!」
召喚された魔獣、白獣馬はイーサンらに雄叫びをあげ、それにイーサンらが怯んだ隙に、襲撃に来た三人は少女と共に白獣馬の背に乗った。
「じゃあな!聖王国のクソ野郎共!!」
そう薄緑髪の男が言うと白獣馬は翼を動かし、一瞬にしてイーサンらの前から飛び去り、
「クソッタレがぁぁぁ!!!」
そして地上に残されたイーサンの叫び声が辺りに響き渡った。
▽▽▽
「はぁ〜、とりあえず上手くいったな!」
白獣馬ルリィの頭を撫でながら、薄緑髪の男、ロゼは魔人化を解いて安堵する。
それに引き続くように白黒斑の女、フォーリアも魔人化を解いて、
「そうですね、戦闘に発展するのを避けられたのは上出来でしょう」
「だな……。特にあの二人はかなりの実力者みたいだったしな」
フォーリアの言葉に、ロゼは聖王国の兵士を指揮していた二人の男女を思い出す。
「あれは上級魔導武器持ちですね。戦いになれば厄介になってた思いますよ」
銀髪赤眼の少女を前に抱き抱えながら、 今は口調を戻している強大鬼族のオニキシがそう答える。
「上級魔導武器持ちか……。それにしてもオニキシさん、さっきは凄い演技力でしたね」
そうロゼが言うと、オニキシは照れくさそうに、
「リンドウ殿になるべく威圧的に接して、奪い返すよう言われましたからねぇ……、私のキャラとは違うので、あれで良かったのかどうか」
と言った。
「それにしても、勝手に魔王ヒナギ様の名前を使って良かったのですか?」
とフォーリアは先程のやり取りを思い出し、そう訪ねると、
「問題はないのじゃ」
とずっと黙っていた銀髪赤眼の少女が喋りだし、
「ヒナギ様は困ってる魔の者には手を差し伸べる方。……そしてそれは配下のワシらも同じじゃ」
と銀髪のウイッグを外したオニヒメはそう答えた。