第3話 吸血鬼救出作戦(6)
「スミレ、ここにいたのか」
「リンドウ!」
町から少し離れた森の中でひっそりと身を隠しているスミレに、追いついたリンドウが小声で声を掛ける。
「どうしてリンドウがここに?」
「お前の部下からの報告をザクロの代わりに俺が受けてな。…………やっぱりスイセンは聖王国と繋がっていたか」
小声で尋ねるスミレにそう返し、リンドウは100m程先で聖王国の使者と思われる白衣の男と話しているスイセンを見る。
「はい。研究所からこっそり抜け出す姿を目撃したので追跡したら、ようやくしっぽを掴めました」
「…………それにしても使者の割には結構な大所帯じゃないか」
「…………ですね。向こうも平和的に解決しようとは思ってないのかもしれません」
「100人程とはいえ全員が魔道武器持ちか…………。戦いに発展したら甚大な被害が出るのは間違いないな」
リンドウは聖王国の兵士、特に先頭に立っている二人の男女を見てそう呟いた。
「どうする?流石にもう、ツバキ様の存在を隠して追い返すのは無理そうだぞ」
スミレが難しい顔をしてリンドウに尋ねる。
そしてリンドウはニヤッと笑い、
「スイセンが聖王国にどんな情報を流しているのかは知らないが、既に策は打ってある」
と自信ありげな表情で言った後、スミレの顔を見て、
「スミレ、お前は今すぐ研究所に戻ってツバキ様を解放しろ。既に協力者も手配してるから、合流してどこかに身を潜めるんだ」
と指示を出した。
「わ……分かった。リンドウが言うならそれで大丈夫なのだろう。…………それでお前はどうするんだ?」
スミレの不安げな表情に、
「なーに、俺はお得意の口八丁で時間稼ぎでもするさ」
そう言って、スイセンと聖王国の使者達の元へ歩き出した。
▽▽▽
〜リンドウがスミレと合流する30分前〜
「この国は道すらまともに整備していなのか」
アスカの城へと向けて進行している聖王国の使者グループのリーダーである白衣の男、聖科学会魔道武器開発チーム副所長であるイーサンは文句を言いながら先頭を歩く部下に理不尽な文句をぶつけていた。
「他にもっと楽なルートはないわけ?」
「い、一応これが最短で目立たぬに行けるルートなのですが……」
イーサンの苛立った口調に彼の部下である男はオドオドしながらそう答える。
「チッ、めんどくさいな…………。おーい、お前らの魔道武器で歩きやすくなるよう、ここら辺の木々を一掃してくれないか」
そうイーサンが頼んだのは、今回聖科学会の護衛及び吸血鬼の討伐役として派遣された魔道武器を装備する聖王国の精鋭兵士100名、その指揮官である二人組みの男女である。
「すみませんが、ウチのボスからは不必要な魔道武器の使用は禁止されてるんですよ」
そう答えたのは二人組みの内の一人、自身の身体より大きいライフル銃のような魔道武器を背負った男であった。
「私達はニルファー様の名代です。ニルファー様の名に泥を塗るような行為は、例えイーサン様の命であっても行えません」
とライフル銃を背負った男と呼応するように、黒と白、二本の剣を腰に携えた女性がそう言った。
そんな二人の言葉を受け、
「その持ってる魔道武器を、開発した俺達の為に使って欲しいところなんだが…………。まぁ、聖王国で一番誠実な聖騎士として名高い、土帝ニルファーの部下ならしょうがねぇか」
と快適な移動を諦めたイーサンが溜息をつき、再び歩き始めようとすると、
「イーサン様、前方より何者かが近づいてきます」
先頭を歩いてい部下がその様に報告をする。
「誰だ?俺達を追い返しにでも来たか?」
「いえ……、一人なので違うようです」
そうして直ぐにその男はイーサン達の目の前に姿を現した。
「誰だ?あの白衣の男は」
白衣を着た男という、自分と少し似た外見をしている事に少しイラッとイーサンは、周りの部下に尋ねる。
それに答えたのは先日のアスカ来訪の使者の一人である男で、
「イーサン様、あの男が例の吸血鬼を使って研究をしているというスイセン氏です」
「あ〜、俺達の仲間になりたいって言ってる奴か」
イーサンもスイセンの事は簡単には聞いていた。
(田舎の小国の研究者如きが、俺達天下の聖科学会に入りたいなんて、どんな寝言だと思っていたが……)
そう思いつつ、イーサンはスイセンの顔を見て、
「おい!お前がスイセンだろ?何しにここに来たんだ?」
とスイセンに尋ねた。
一方で、スイセンは急いでここに来た為か息を切らしており、
「はぁ……はぁ……、光栄な聖科学会の皆様がいらっしゃったと耳にし、急いでお迎えに来ました」
と息を整えながらスイセンはそう言った。
そしてスイセンはイーサンの背後、魔道武器を装備している兵士達の方を見て、
「して、何故にその様な兵士を連れているのですか?」
と今度はスイセンがイーサンに尋ねる。
そしてそんなスイセンの言葉に、イーサンは「何を不思議がっているんだ」と前置きをし、
「吸血鬼の身柄を確保する為に決まっているじゃねえか」
と不気味な笑みを浮かべてそう答えた。