第3話 吸血鬼救出作戦(5)
「失礼します!ザクロ皇子はいらっしゃいますか?」
リンドウら文官達が今後の対策を話し合ってると、ノックと共に一人の役人が入ってくる。
「何を勝手に入ってきておるのだ!ザクロ皇子はここにはいない!」
一人の文官がそう役人に怒鳴りつける。
先程まで話し合っていたのは、一応はこの国の命運がかかった内容である。それを聞かれてはマズイと思ってか、怒鳴りつけた文官は直ぐにその役人に出て行くよう促す。
そしてその様子を見ていたリンドウは、
(確かスミレの所の部下だったよな……。とするとスイセンに何か動きがあったのか?)
そう予想したリンドウは席から立ち上がり、
「私が彼をザクロ皇子の所へ案内しましょう。そろそろザクロ皇子のお迎えにも伺おうと思ってましたので」
「……そうだな。宜しく頼むぞ」
「はい、では失礼致します」
この中では一番若いリンドウが、この様な遣いを請け負うのは自然の流れであった為、特に怪しまれることも無く報告に来たスミレの部下と共に抜け出す事に成功する。
二人で部屋を出て少し歩いた後、
「…………それで?スイセンに何か動きがあったのか?」
周りに聞こえぬよう小声でリンドウは尋ねる。
「はい、研究所内で何か発生したようで、スイセン氏は研究所の裏口から一人で町の外の方へと向かって行きました」
スミレの部下もリンドウとは面識あり、またザクロ、リンドウ、スミレの幼なじみ三人がスイセンを疑っている事を知っていたので、リンドウに先程起きた事の報告をし始める。
「…………あのスイセンが研究中に抜け出す?」
報告を聞いたリンドウは、直ぐに研究所で起きた様々な可能性を思い浮かべる。
(研究中のトラブルか……?いや、それは無いか。それだとスイセンが研究所から出る理由がない。それにヤツに限ってツバキ様の身に危険が及ぶ事はしない筈だ)
リンドウはスイセンの事をよく思っていないが、こと研究に対する意欲に関してだけは信用出来ると考えている。そんなスイセンに限り、恐らく研究で一番の鍵となるツバキを無下に扱う筈がない、というのがリンドウの考えだ。
(…………となると、残る可能性で一番高いのは……)
「スイセンが研究所から出る前、何か研究所周辺で異変はなかったか?どんな些細な事でもいい」
「あっ、研究所内でバタバタし始めたのは、数人の研究員らしき者達が慌てて研究所内に入ってからです」
リンドウの質問に思い出したかのようにスミレの部下はそう報告する。
「やはりか……」
スミレの部下のその言葉に、納得のいったリンドウは頷く。
その様子に「あの……、リンドウ様?」とスミレの部下が不安そうに声を掛けてきた。
「あぁ、すまない。……恐らく聖王国の連中がまたこの国に来たんだろう」
とリンドウは自分の考えを話す。そして続けざまに、
「悪いが城の兵士に警戒態勢を強めるよう伝えてくれるか?ザクロ皇子には私から伝えておく」
「は、はい!かしこまりました!」
聖王国が来たというリンドウの言葉に慌てて、スミレの部下はそう言って駆け足で城の兵士の元へと駆けて行く。
(まずは相手の規模と出方を知る必要があるな……。とするとザクロに報告して俺が様子見に行くべきか。…………あの文官らはもう放置でいいだろう)
そう決めたリンドウは急ぎ足でザクロが居るであろう場所へと歩き始めた。
▽▽▽
「それではツバキ様、申し訳ございませんが、騒ぎが落ち着くまでコチラでお待ちください」
「…………分かった」
ツバキを研究所地下の隠し部屋に連れて来たスイセンの部下達は、ツバキにそう告げると部屋の鍵を閉めて慌ただしくどこかへと走って行った。
一人になったツバキは連れてこられた部屋をぐるっと見渡し、部屋の隅にあったベットに腰をかけた。
「…………大丈夫かな?」
ボソッとツバキはそう呟く。スイセン達が言っていた聖王国の使者達の狙いが自分である事は、ツバキも何となく理解していた。
しかしツバキが案じているのは自身の事ではなく、
「…………大丈夫かな、お兄ちゃん」
ツバキは常に自分よりも大好きな兄を気にかけている。聖王国との応対に、父であるヒナゲシが倒れている今、事実上この国のトップとなっているザクロが多くの問題にぶつかっているのはツバキも察していたし、そしてその根本的要因が自分にあると知ってるからこそ、研究にも積極的に協力して、少しでも兄の助けになればとツバキは思っていた。
「…………他に私に出来る事は何?」
ツバキは考えるが、これといった案は思い浮かばなかった。
自分は常に受動的に行動している。兄の助けになる事をしたいと考えていても、それはスイセンの働きで達せられてるだけで、ツバキ自ら進んでのことでは無い。
そもそも吸血鬼としての力が現れてからツバキには自主的に何かをする事はほとんどない。たまに人のいない海の方に散歩に行くくらいだ。
そんなツバキが能動的に動こうとしても、何をすれば良いのかツバキは分からない。
「…………どうしたらいいんだろ」
そんな自分が嫌になり、俯いていると
コンコン
ツバキのいる部屋の外からノックが聞こえ、ツバキが返事をする前に、鍵が開かれ扉が開いた。