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第3話 吸血鬼救出作戦(3)

 「おい!あんな小娘達で本当に吸血鬼を倒せるのか!?」


 「いや、聖王国の連中の前で殺した振りだけすれば良いのではないか?」


 「何を言う!聖王国の連中にそんな小細工効く筈がないだろう!」


 「そもそも、どこから我が国の最機密事項である、吸血鬼の情報が漏れたんだ!」


 城のとある一室では、アスカの国の政務に携わる文官達が声を荒げて話し合っていた。


 内容はもちろん、聖王国とこの国の姫であり吸血鬼であるツバキについてだ。


 度重なる聖王国の使者の来訪と、いざ来た魔王国からの助けが、ルナという少女を中心としたグループだった事に、文官達はかつてないほど慌てふためいていた。  


 「いっその事、吸血鬼の身柄を聖王国に渡してみてはどうだ?」


 「しかしそれは……、我が国が伝説の魔族である吸血鬼を国内で保有していたと認めることになるのでは無いか?」


 「聖王国は一切の"魔の存在"を認めないと聞く……。下手したら聖王国から敵扱いされる危険があるぞ」


 「世界一の強国である聖王国に、敵として認識された時点で我々のような小国はあっという間に滅ぼされてしまうぞ!」


 「やはり当初の計画通り、聖王国に吸血鬼の存在が確実に知れ渡る前に殺して、存在そのものが無かった事にするしかないのだ!」


 文官達は先程から、色々と案を出しては否定して"吸血鬼であるツバキを殺す"という結論に戻る、という会議を繰り返し続けていた。


 しかしそんな文官達の中に一人、静かにその様子を眺めている者がいた。


 (チッ、どいつもこいつも、口では国の為だとか建前を言ってるが、本心は自分達の保身を優先してるじゃねぇか)


 他の文官達より一回りも若い青年は、そんな会議を見てうんざりしていた。


 アスカはかなり前から鎖国をして外界との交易を最低限にし、独自の文化で発展してきた。


 しかし、その考えは少し前から変わりつつあり、十年ほど前、正式に鎖国を解禁し、他の国々との交易を図ろうと方針が定まった。


 だがその時であった、アスカにおいて皇女であり、伝説である吸血鬼の始祖の先祖返りとして、その力を受け継いだツバキがこの国に産まれたのは。


 もちろん産まれて直ぐの頃は、ツバキが吸血鬼の力を内に秘めている事は分からなかった。


 ツバキの持つ吸血鬼の能力が発覚したのは、ツバキが五歳の頃、町を散歩していたツバキが暴漢に襲われ、刀で胸を貫かれるという事件が起きた時だ。


 ツバキは急ぎ城に運ばれて、城直属の医者に診てもらったが、刀はツバキの心臓を貫いており、誰の目から見ても即死の状態であった。


 しかしツバキは目を開けた。身体から強い光が溢れ出したかと思えば、次の瞬間には傷は完璧に塞がり、何事も無かったかのようにツバキは起き上がった。そしてそれがきっかけで吸血鬼の能力が開花したのか、綺麗な黒だった髪は銀色に、瞳は赤へと変化した。


 その姿はこの国で古くから伝わる吸血鬼の始祖の特徴と全く同じだった為、ツバキが吸血鬼の先祖返りだということは直ぐに分かった。


 そしてアスカの上層部は動き出す。進めていた開国の計画は全て取り止め、ツバキは死んだと国中に報せ、吸血鬼の存在は上層部のみが知る最重要機密として扱うようになった。


 文官達の自己保守にしか見えない態度に苛立っている青年も、ツバキが実は吸血鬼として生きていると知ったのはつい最近だ。


 (ザクロ……、コイツらは駄目だ。もうツバキを殺す事しか考えてない)


 文官の青年、ザクロの幼なじみであり親友、最年少でこの国の上位文官に就いたリンドウは、ザクロのツバキを何とかして生かそうとする計画を知る一人である。


 リンドウは文官達を上手く誘導し、魔王国と協力してツバキの偽装死をするよう話をまとめようとしていたが、この状況じゃそれは無理そうである。


 そしてもう一つのザクロからの頼みである内通者の捜索であるが、ここに居る文官達は今はまだ白だとリンドウは考えていた。


 (この様子じゃあ、全員自分が助かることしか考えてない……。まぁ、今聖王国から甘い囁きがあったら簡単に裏切る奴が殆どだろうがな)


 そうリンドウは考える。


 次の聖王国の使者が来訪するまでに、このを解決しなければ、より多くの内通者を生み出す事になる。そうなれば、この国が聖王国の支配下に置かれるのは時間の問題だ。


 (ザクロ……、早く来てくれ)


 若き秀才と噂されているリンドウでも、他の文官達を説得するのは難しい。今は皇子であるザクロの到着を待つしか無かった。


▽▽▽

 「皇帝陛下は中に居られるか?」


 「ザクロ皇子!皇帝陛下は中でお休みになられてます」


 ザクロの問に、一際大きい部屋の前に立っていた兵士はビシッと敬礼をしつつ答える。


 ザクロが来たのは、父である皇帝ヒナゲシの部屋である。


 ザクロは「そうか……」とだけ見張りの兵士に言うと、扉を数回ノックし、部屋の中へと入る。


 「…………父上」


 「……………………………………」


 息子であるザクロの言葉に、父であるヒナゲシは反応せず、静かに今も(・・)眠っている。


 皇帝ヒナゲシは数年前、突然倒れてから今日に至るまで起きることなく、ひたすら眠りについていた。


 スイセンらの開発した秘薬により、生きてこそいるが、目覚める気配は一向にない。往年、皇帝であるヒナゲシが主導となりこの国を動かしてきた為、ヒナゲシが実質不在の今、この国の上層部は混乱しきっている。


 (父上が目覚めれば、研究所の調査も裏切り者の摘発も聖王国への対処もどうにかなるんだけどな……、やはり俺が父上の分まで頑張らなくては)


 ザクロは寝ている父の顔を見ながらそう決意を固め、


 「また来るよ」


 そう言って父の部屋から出て行った。

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