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第3話 吸血鬼救出作戦(2)

 「…………それでスミレ、アイツ(・・・)が聖王国と通じてる証拠は掴めたか」


 「申し訳ございません……。未だに何も掴めておりません」


 「そうか…………」


 ツバキの部屋を後にしたザクロとスミレは、城の中を歩きながら周囲に聞かれないよう情報共有をしあっていた。


 「基本的に研究所にいる為か、あの男は情報を何も見せません。…………やはり忍び込みますか?」


 「それはやめておけ。もし見つかったらどうなるかはお前も分かっているだろう」


 ザクロの言葉にスミレは「クッ」と下唇を噛み、悔しさを抑えようとする。


 ザクロとスミレはある一人の男を、聖王国へ情報を流している裏切り者として密かにマークしていた。しかしその男は研究者として、この国では最早禁足地として定められている研究所に入り浸っている為、聖王国と内通している証拠を未だに掴めないでいる。


 そしてアスカの革新的な医療技術向上の手柄によって、その男はこの国でかなりの発言力を持ち、ついこの前もうっかり研究所に入ってしまった子供を、その子の一族諸共処刑するという悲劇も起きてしまった。


 "研究所には立ち入るな、研究内容を詮索するな"


 それは今やこの国で皇族すら許されない暗黙の決まりとなっていた。


 その為、何とかして情報が欲しいザクロは身近で唯一研究所に出入りしている妹のツバキから、研究の事を聞き出したいと思っているのだが、それは叶わずにいる。


 (そもそも本当にアイツは聖王国と内通しているのか?聖王国にツバキの存在がバレれば奴の研究も終わりなんだぞ?)


 ザクロ達がその男を疑い始めたのは、約一ヶ月前、莫大な研究費用と人体実験の被検体として10人程の子供を要求し、それをザクロが断った途端、聖王国がこの国に疑いの目を向けるようになったからである。


 研究にしか興味がない男なので、最初は聖王国の豊潤な研究環境に惹かれたと考えていたのだが、やはり

ツバキを手放す選択をするとは思えなかった。


 そんな事を考えていると、前方の曲がり角から、


 「おや、これは皇子様でありませんか」


 「…………スイセンか」


 今しがたザクロとスミレが話していた研究者、スイセンがこちらに向かって歩いてきた。


 「普段研究所に籠っているお前が城に来るなんて珍しいな」


 「そうですね……。最近外が騒がしいようなので、心配がてらツバキ様のお迎えに来たんですよ。この国の大事なお姫様が他国に奪われてはと不安で不安で」


 ザクロの少し皮肉を混ぜた言葉に、スイセンはさも自分は愛国者だと言わんばかりの態度で返す。


 そのスイセンの様子に「…………どの口が!」とスミレが小さく呟きながら拳を震わせるが、ザクロがそれとなくスミレの前に立って、スイセンの目に付かないようにする。


 「…………それで?こんな状況の訳だが、研究の方はどうなんだ?」


 「そうですねぇ……、ザクロ皇子のご質問でも研究の詳細は話せませんが、ツバキ様が献身的な態度で協力してくださるので順調です…………とだけ言わせて頂きます」


 「…………聖王国に攻められるかもしれないが、教えられないと」


 「ええ……、残念ながら」


 心の内でザクロは舌打ちをし、「では、失礼致します」と言ってツバキの部屋へ向かうスイレンの後ろ姿を見送る。


 そしてスイセンの姿が見えなくなると、


 「スミレ、引き続き何人か連れて研究所周辺の監視を頼む。研究所に近づく怪しい奴を全員洗い出せ」


 「はっ!」


 ザクロがそう命令するとスミレは唸づいて、足早にザクロの元から去って行く。


 「…………よし、俺も行くか」


 そう独りでに呟き、ザクロはまず現皇帝である父の元へと向かった。


▽▽▽

 (うーん……、やはりザクロ皇子には怪しまれてますね)


 ザクロ達と別れ、ツバキの部屋に向かって歩きながらスイレンは内心焦っていた。


 実際ザクロ達の見立ては正しく、スイレンは聖王国と繋がっている。


 以前ザクロ皇子ら国の上層部に用意を断られた被検体は、ツバキの不死の身体を利用して何とか代用出来ていたが、資金の方がこの小国の予算では全く足りず、自分が望む研究をこのままでは続けられないと考えたスイレンは、聖王国の科学技術チーム、通称聖科学会にコンタクトを取って、聖科学会への加入とツバキを被検体とする研究の存続を条件に、吸血鬼であるツバキの情報を渡したのだ。


 (……とはいえ、間もなく聖科学会の連中が聖王国の兵士を連れてここに来るはず。そうすれば私の身柄は聖王国に保護され、聖科学会のもと、私の研究の凄さが世界に知れ渡るのだ!!)


 先程の不安など吹き飛び、ニヤニヤした顔を隠すことなく、スイセンはツバキの部屋へと向かうのであった。


 


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