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第3話 吸血鬼救出作戦(1)

 いつもと変わらない朝が来る。部屋の外からノックが聞こえ、ツバキは眠たい眼を擦りながら起きた。


 「ツバキ様、起きてますか?」


 「…………起きてる」


 外からの声に返事を返すとスミレが部屋の中に入って来た。


 「おはようございますツバキ様……。とりあえず髪を梳かしましょうか」


 「…………うん。お願いスミレ」


 欠伸をしながら布団から身体を起こし、ツバキはスミレに背を向ける。寝癖が酷いツバキはこうして毎朝スミレに髪を梳かしてもらうのが日課になっていた。


 「やっぱりまだ眠いですか?」


 「…………うん。でも朝は好きだから頑張って起きる」


 吸血鬼の特異性なのかツバキは夜に魔力が活性化するので、あまり夜に寝付く事は出来ない。それでも一人ぼっち隔離される夜よりこうして人と触れ合える朝が好きなので、ツバキは頑張って朝早くには起きるようにしていた。


 「…………ふわぁぁぁ」


 とはいってもやはり睡眠時間が短いせいかどうしても眠気は抜けきれない。そしてスミレに髪を梳かしもらうのも心地よく、気を抜いたらすぐにでもまた眠りについてしまいそうだった。


 「それにしてもいつもの事ながらツバキ様の寝癖は凄まじいですね……。いっその事切りますか?」


 ツバキの腰まで伸びている銀髪を丁寧に梳かしながらスミレがツバキに尋ねた。


 「…………それはいや。私、自分の髪好きだもん」


 ぷくーと頬を膨らませてツバキはそう答える。ほとんどの国民が黒髪のアスカにおいて、ツバキの銀髪は異様としかいえない。しかし、それでもツバキは自分のこの銀髪を気に入っていた。ツバキの嫌いな夜も、この銀髪は明るく照らしてくれるし、そして何よりも………、


 「そうだぞ、ツバキの綺麗な髪を切るなんて勿体無いじゃないか」


 「あっ!ザクロ皇子!おはようございます」


 「…………!お、お兄ひゃん!」


 突然現れた兄にスミレは梳かしいる手を止め、ツバキは驚きのあまり変な声を出してしまった。


 「…………ど、どうしてお兄ちゃんがここに?」


 「ん?ちょっとツバキの顔が見たくなってな」


 キョドった声で尋ねるツバキに兄であるザクロは笑いながらそう言った。


 そうツバキが自分の銀髪が好きな理由、それは大好きな兄がこの銀髪を綺麗と言ってくれるからだ。


 しかしそんな兄から褒められる銀髪も今は寝癖だらけになっている。それに気付いたツバキは恥ずかしくなり、顔を赤らめてしまう。


 「…………ザクロ皇子、恐縮ながら申し上げますが、女性が部屋で身だしなみを整えている時はあまり入るべきでありませんよ」


 ツバキの様子を察しスミレがそのようにザクロに伝える。


 「それもそうだな。すまなかったツバキ、出直すとするよ」


 スミレの忠告に納得したザクロはそう言って部屋を出て行こうするが、


 「…………待って!わ、私は大丈夫たがら、もう少しここにいて……」


 そんな兄を引き止める為にツバキは弱々しい声を出す。普段国の為に働いているザクロはその多忙が故に、あまりツバキと会う時間がとれない。ツバキは恥ずかしさを我慢し、兄との時間を過ごす事を望んだ。


 「そうか、ならもう少しここにいようかな」


 ザクロもそんなツバキの気持ちを理解してか、優しい笑みを浮かべ、再び髪を梳かされているツバキの背面に立った。


 「最近調子はどうなんだ?」


 「…………うん。私も私に出来ることを頑張っているよ」


 ザクロの問にツバキはそう答えた。ここで言ったツバキの"私に出来る事"とは当然あの日課である。


 「…………そうか。辛くないのか?」


 「…………………………うん、大丈夫だよ」


 ツバキは兄の顔を見て「本当は辛い」と言いたくなったが、それを必死に押しとどめる。


 実の所ザクロはツバキの日課は"医療技術発展の為の検査"とだけ聞かせれており、実際にそこで何が行われているのか知らない。父の命により選ばれた研究者以外詳細を知ることを禁じられているのだ。


 「…………そうか」


 ザクロはそう言うしかない。ツバキが大丈夫と言うならそれを信じるしかないのだ。ツバキのおかけでこの国の医療がかなり発展しているのは事実。それを妹が心配だからという理由で検査を中止させるなど、この国の行く末を担う皇子としてザクロには出来なかった。


 「…………そういえば、昨日海で面白いお姉ちゃん達に会ったよ」


 ザクロに背を向けているため心配しているザクロの様子に気付くことなく、ツバキは昨日のことを思い出した。


 「面白いお姉ちゃん?」


 「…………うん。なんか海の魔獣に襲われてたから助けたんだ」


 きっと魔王国からの客人達のことであろうとザクロは予想する。


 普段城と研究所の人々としか接する事のないツバキにとって、外の世界の彼女たちは眩しく見えたのだろう。


 「………………そうか」


 ザクロがそう言ったと同時に、スミレによるツバキの髪の手入れも終わったようで、ツバキは振り返ってザクロの方を向き、


 「………………どう?」


 と恥ずかしそうに聞いてきたので、


 「…………あぁ。可愛くて綺麗だよ、ツバキ」


 とザクロはそう言った。そして、


 「じゃあ俺はやる事があるからこれで失礼するよ」


 と言って部屋を後にしようとする。


 「………………うん。お仕事頑張ってね」


 ツバキもまだたくさんお話したかったが、その気持ちを我慢してザクロを見送る。


 「ではツバキ様、私も一旦失礼致します」


 そう言って朝の役目を終えたスミレもザクロと一緒に部屋を出ていく。


 残された部屋には笑顔で、でも寂しい表情を浮かべてツバキが二人を見送っていた。

 


 


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