第2話 エルフの集落(5)
リーシャに俺の過去を話し終えた後は引き続き髪の手入れをしてもらっていた。そしてちょうどリーシャが俺の髪の手入れを終えたタイミングで、
トントン
とドアからノックが聞こえた。
「どうぞ」
リーシャが答えると一拍置いて、
「失礼致します」
とドアから執事服を着たカッコいい男性が入ってくる。
「お嬢様、お客様。お食事のご用意ができましので、食堂へお越しくださいませ」
「ありがとう、フォーリア」
リーシャがそう言うとフォーリアと呼ばれた人は深々とお辞儀をする。
「それじゃルナさん、行きましょう」
とリーシャは俺の手を引き、俺を部屋の外へと連れ出した。
▽▽▽
フォーリアさんを先頭に俺とリーシャは並んで食堂へ向かう。俺がフォーリアさんを見ていると、
「フォーリアは私のお世話役兼この家の執事なの。」
と簡単に紹介をする。リーシャの紹介に合わせてフォーリアさんもこちらに振り向き、
「自己紹介遅れました。私、フォーリア・アリストレインと申します。以後、お見知り置きを」
「あっ、ご親切にどうも。私はルナといいます」
フォーリアさんの挨拶に合わせ俺も自己紹介をする。フォーリアさんは長い黒髪を一本結びで纏め、顔立ちも美男子という表現がピッタリなほど整っている。身長も高く、スラッとした無駄の無い体つきだ。両手には白の手袋をはめ、腰元に細長い剣……いや、レイピアかな?を携え、正にザ執事って感じの風貌だ。
しかしちょっとした違和感をフォーリアさんに感じ、俺はフォーリアさんの顔をまじまじと見てしまう。
「どうかなさいましたか?」
俺の視線にフォーリアさんが反応する。
「あっ、いや。失礼な事かもしれませんが、フォーリアさんがここの集落で会った人たちと少し違う気がしたので」
と思わず言ってしまった。それに「あぁ……」と納得したようにフォーリアさんは頷き、
「それは私がエルフではなく、ただの人間だからでしょう」
と答えた。フォーリアの言葉にリーシャが続けて、
「フォーリアは昔森で倒れている所を私が見つけてね、保護をしたの。それ以降はこの家で執事として働いているわ。集落に着いた時も話したけどここには基本的にエルフしか住んでないの。他の種族といえば用事があって訪れた者くらいで、この集落で生活してるのはフォーリアだけよ」
と説明する。リーシャが話終わるとフォーリアは微笑を浮かべ
「私はとある国の貴族の子供でしてね。ある日聖王国に家族で向かう途中に賊に襲われたのです。家族や護衛の人達は皆殺しにされたのですが、運良く私は逃げ切る事が出来ましてね。それから10日ほど賊の追ってから逃げる生活が続いて、私はこの集落が管理する森に流れ着いたのです。そしてお嬢様に救われ、この集落の族長であるご主人様に保護され、私は約13年、このお屋敷にお仕えさせて頂くことになったのです」
とフォーリアさんは語ってくれた。途中聖王国という初めて聞く名前の国が出てきたが、その辺はまたおいおい聞けば良いだろう。
「すいません。変なことを聞いてしまって」
「いえ、お気になさらず。昔の事ですし、私は今お嬢様方に仕えているのを幸せに思っておりますので」
無神経な事を聞いてしまったと思い俺はフォーリアさんに謝るが、そんな俺にフォーリアさんは爽やかな笑顔を向け、これまた透き通る様な美声でそう言った。
|(ヤバい、フォーリアさんイケメンすぎるだろ!前の世界じゃテレビでもこんなイケメン見たことないぞ!)
と、もし俺が女……いや、今は女の子か。前世も女性であったらきっと一目惚れしてただろうなぁと思い、フォーリアさんの顔を見た。
「?まだ何か気になる事がございますか?」
「あぁ、いや。フォーリアさんって凄くカッコいいなぁーって」
ピタッ
俺の言葉にフォーリアさんが足を止める。
「カッコいい……ですか……」
フォーリアさんはそう呟き、「ハハハ……」と苦笑いを浮かべ、また歩き始める。そしてフォーリアさんから先程までの凛々しい雰囲気とは打って変わって、ズーンとした空気が流れる。
「あ、あれ?……私、変なこと言った?」
とリーシャの方を見る。するとリーシャは「あ〜」と言いながら頬をかき、
「ルナさん。フォーリアは女の子よ」
「……は?」
俺は一瞬ポカンとし、リーシャの目を見て、そのまま視線をフォーリアさんに移す。今は自分も体が縮んでいるのでハッキリとは分からないが、それでもフォーリアさんの身長は180センチを余裕で超えてるだろう。そして俺はフォーリアさんの胸元を見る。よく凝視すれば微かに膨らみがあるのが分かるが、それでも今の俺の胸|(推定Bカップ)より遥かに小さいぞ。
「ま、まぁ。男に間違われるのはよくある事なので気にしてませんよ……はい……」
と初対面の俺でも|(嘘ついてる)と分かるほど、フォーリアさんは落ち込んでしまった。
|(ヤバい!変な空気になってしまった!俺、どうすればいいんだ!?……ん?)
「フォーリアさんが女の子なら何で執事服来てるの?メイド服着れば良くない?」
ピタッ……ギギギ……
俺の言葉に再度フォーリアさんは足を止め、変な擬音が聞こえる様に満面の笑みを浮かべこちらを振り返る。でも何故だろう、フォーリアさんの目は全く笑っていない。リーシャも「あわわ」と言いながら目を泳がす。
「ルナ様」
「はい……」
フォーリアさんの声色が心無しか怖い。
「私にメイド服が似合うと思いますか?」
「………………すいませんでした」
メイド服を着たフォーリアさんを想像し、俺は素直に謝った。