僕はハーフなんだ。ーお母様は異世界人。
僕のお母様は、時々意味が解らない言葉を使う。今も。
「ハーフって?」
僕より先にお父様が聞く。
「ああ、違う国の人同士が結婚して生まれた子のこと。半分ずつって意味よ」
お母様が仰る。
「僕はハーフ、なの?」
お母様に聞けばお母様が「ええ、そうよ」 と笑った。なんでハーフという言葉が出て来たのか。それは……
僕は神仕官になるため、今はその勉強をしているのだけど。偶にお祖父様とお祖母様と叔母様と叔父様にお会いする。その方達はお父様のお父様やお母様達で、お母様のお父様やお母様を僕が知らないから。
でも、勉強をしていると、どんな人にも父と母が居て、そうして子が生まれる。とあった。それならお母様のお父様やお母様が居るはずなのに、僕は会った事が無い。だからお母様に聞いたんだ。
「お母様のお父様やお母様は?」 って。その時、お母様はちょっと泣きそうな顔で笑った。
「会えないのよ。ごめんね」 そう言って。それから少し考えていたお母様が次に仰ったのが。
「そうか。考えてみればガルドはハーフなのね」 だった。ハーフって何? そう思った僕より先に、お父様が尋ねて。そうしてお母様がそう答えてくれた。
僕はガルド。7歳。妹のトウカとお父様とお母様と4人で暮らしている。お母様の言葉通りだと、僕はどうやらこの国の人と他国の国の人が結婚して生まれた。トウカも同じ。
「僕は他国の人の血も入っているの?」
「というより、この国の生まれのお父様と、違う世界の国に生まれたお母さんの血」
「違う世界?」
「お母さんは異世界人なのよ」
……また、僕には理解出来ない事をお母様が言った。
「異世界人?」
「お母さんはこの世界には無い国からお父様に召喚されて来たのよ」
お父様を見れば、コクリと頷く。それから僕はお父様とお母様がどうやって結婚したのか、全部聞いた。まだ7歳の僕だけど。神様の声が聞こえるというお父様の息子だからなのか、嘘だとも思わず、難しいとも思わず、そうなのか……と納得した。
そういえば、お父様の妹であるジャネット叔母様とお父様の弟であるフィヨン叔父様は、やたらとお母様の故郷の話を聞きたがる。そしてお母様の故郷の話は、人に魔力が無いのが普通で魔術も無いのが当たり前の話だった。だからといって魔術が無い事は何にも不便じゃないみたい。
どちらかと言えば、この国よりも文明が発達している。
お母様が仰るには「カガクが発達していたの。皆、知恵を絞って便利な物が出来たのよ」 だ。何しろお母様の世界では、国々の情報が1日で手に入り、空を飛んで他国に行く手段が有ったというのだから。
「でも、世界を渡る事は出来ないけどね」
お母様は寂しそうに笑った。
故郷の話をする時のお母様は、いつもこんな寂しそうな顔をしていた。もう行きたいと思っても行けない所だから……と知った。お母様のお父様は亡くなっていて。でもお母様のお母様と妹は多分、元気だと思うってお母様が教えてくれた。
お母様がこちらに来た時に持っていた向こうの世界の鞄から、小さな板が出て来た。お父様はそれが何か知っていて、でも他人には見せない方がいい、と普段は出さないのだとお母様。そしてその板が何やら輝いたと思ったら、お母様が何か操作をしたように指を動かして。
現れたのは、板の中にお母様。
えっ⁉︎ と驚く僕にお母様が説明してくれる。
「これはスマホって道具。そして今、ガルドが見ているのは写真といって、道具で絵よりも正確に相手を写し取った物だと思って。この私は、お父様と出会う前にお母さんの友人が写し取ってくれたの。それで」
お母様が指をスッと動かすと知らない女性が2人出て来た。
「こっちがお母さんのお母さん。こっちがお母さんの妹よ」
お母様のお母様はあまりお母様には似ていないけど、お母様の妹はお母様と似ているから家族なんだって分かった。お母様のお母様と妹は良く似てるから、不思議。
「この写真は、お母さんがお父様に呼ばれて、ガルドを産んだ後、一度だけ日本に帰れた時に撮った物。この写真を撮ったらこっちに戻って来たのよ。本当なら、お母さんは戻って来られなかったはずだった。でも女神様が、フィオッタ……あなたのお父様とガルドに会いたいって願うなら、もう一度世界を渡れるって教えてくれて。でも、この一度だけだから。魔力も無いお母さんには、世界を渡る力は無いの。この時だけは、女神様が力を貸してくれただけ」
「もう、無理なんですか」
「お母さんが考えるに、多分、神様の力が有っても本当は世界を渡る事は良くない事なんじゃないかしら」
「良くない事?」
「良い事なら、もっとこの世界に私みたいな異世界人が沢山居ると思うし、あちらの世界にも沢山異世界人が居ると思うの。本来、やってはいけない事だから、異世界人が居ないんじゃないかな。ただ、お母さんはお父様が望んでくれたから、女神様が連れて来てくれただけ。そうなのかなってお母さんは思うのよ」
お母様の考えは、お父様も驚いたみたいでなんだか考え込んでいる。
「確かにやって良い事なら異世界から人はもっと来ているし、あの魔術が神様の許可を貰わなくてはならないものじゃなくて頻繁に使われていてもおかしくない」
お父様がお母様の考えを肯定する。お父様は女神様に言われたからお母様を召喚する魔術を使用したけれど、勝手に使用は出来ないだろう、と仰る。魔力も沢山使うけど、失敗したらもしかしたら命に関わるかもしれない、そんな魔術だったみたい。それは怖い。
でも、それでお母様の考えが正しい事に思えてしまった。
「なんでお母様だったのでしょうね」
僕の疑問にお父様もお母様も首を傾げた。
「いえ、なんでお母様がお父様の召喚に応えたのかなって」
そんな僕の疑問にお母様が笑った。
「きっと運命だったのよ」 と。
お父様はお母様のその言葉に照れたように笑うけど、また僕は疑問が浮かぶ。
「お母様は運命を信じているのですか? 神様の声を聞いたことが無いのに。魔術も無いのでしょう?」
お母様を馬鹿にしているわけじゃなくて純粋な疑問。お母様は笑って教えてくれた。
「お母さんの国どころか世界に魔力は無いし、魔術も無いと思うわ。お母さんの知る限り、だけど。そしてお母さんは神様の声を聞いたことが無いし姿を見たことも無い。でもね、居ないと思っているわけじゃないのよ。お母さんの世界には、唯一神……神様は1柱だけと考える国も有れば、お母さんの国や他の国でも神様は沢山居るという多神の考えが有るの。
お母さんの国では、例えば、このお茶の葉っぱや茶器にも神様は居るという考えが昔から有ったのよ。だから見たことも聞いたこともなくても、居るって信じている人が沢山居て。新しい年を迎える前の日には家中をお掃除して綺麗な家で新しい年を迎える、という考えが有るの。そうすると新しい年に神様が訪れてくれて、幸せを運んでくれるって。
他にも住んでいる土地に神様が居るから、その土地の神様に新年になったから一年が良い年になりますようにってご挨拶をすることもあるのよ。神様にはお願いするというより、良い一年になるように頑張るからお見守り下さいね、とご挨拶をする感じかしら」
「お母様の国では、そんなに沢山の神様が居るんですか」
「だから物を大切にしましょう、とかそういう風に言われているわね」
「じゃあ声を聞いたことが無くても見たことが無くても、お母様は信じていらっしゃるんですね」
「ええ。それが当たり前の感覚に育ったわね。もちろん、そういう考えが無い人もいると思うわ。でも、神様が居るか居ないか、誰にも解らないから。信じたいなら信じる、で良いと思うのよ。お母さんの国では神様が居ると信じる事を自由だと法律で認めてくれているの。逆に信じていない事も自由なのよ」
お母様の国は、居るか居ないか解らないからこそ、信じても信じなくても個人の自由だという考えらしい。僕はお父様が神様の声を聞いた人だし、だからこそ、お母様が異世界から来て僕とトウカを産んでくれたわけだから、神様は居るものだ、と思ってる。それが当然だって。それはこの国の人なら皆がそう思っている。だけど、お母様の国では色んな考えの人が沢山居るとか。なんだか不思議だなって思う。
僕がそんな事を思っていたからだろうか。
僕はその夜、夢の中で女神様の声を聞いた。お父様と同じ、女神様の声を聞く人になったのだ。夢の中の女神様の声は、お母様が異世界から来た理由を教えてくれた。女神様が仰ったのは。
『元々、ガルドの母はこちらの世界の魂を持っていました。そして、わたしは愛の女神故に、魂同士で様々な人間の縁を結ぶのが仕事。ガルドの母はガルドの父と魂が似ていて、元々結ばれる2人でした。だから、わたしは2人の縁を結んだのですが……。
その後に、運命の神がガルドの母の魂を別の世界に連れて行ってしまいました。運命の神が言うには、それがガルドの母の運命だったから、ということ。
ガルドの父と母が結ばれるには、2人に試練を与えないと結ばれない、というのが運命の神の言葉。だから、ガルドの母は異世界人なのです』
どうやら、僕のお母様はこの世界のこの国に生まれるのではなく、異世界で生まれ育ってお父様に召喚されて出会うのが運命だったそうです。それくらいの試練が無いと、お父様とお母様は結ばれないし、ここまで仲良くなかったとか。そういうものなのか、と納得しながら僕はこの話をお父様とお母様にしたら、2人はどんな反応をするのかな……なんてワクワクした気持ちにもなりました。
翌朝、僕はまだ仕事に行く前のお父様とお母様に夢の話をしたら……
「そうか。じゃあやっぱりシュウナが妻になるのは運命だったんだな」
「そうね。きっと、日本に生まれてフィオッタに召喚される事も必要だったのよ。日本の価値観が私には必要だった。そうじゃなくては、フィオッタが私を好きになってくれなかったんだと思うわ」
「そうか、そうだね。シュウナの考え方に心惹かれたから。女性は嫌いだったし、怖いと思ってもいた。だから最初はシュウナの事も苦手だった。だけど、俺の子を育ててくれて命がけで産んでくれる女性を労わるつもりで接していたら、シュウナの考えが素敵で。いつの間にか好きになってた。シュウナがこちらに戻って来てくれるなんて、思わなかったから、シュウナがあちらに帰ると決めた時は、心の底から行かないで欲しい、と言いたくて……。
シュウナが帰った日の夜は、ガルドを抱きしめながら一晩中泣いてた。でもガルドを育てて行くうちにシュウナが居ない日々に慣れていって。でも俺はシュウナの名前をきちんと呼べなかったから、毎日、毎日、シュウナの名前を呼ぶ練習をして。ガルドを育ててシュウナの名前を呼ぶ事だけが、俺の出来る事だった。
だから。
シュウナが帰って来てくれた時、俺は絶対にシュウナを離さないって決めたんだ。
きっとその俺の気持ちさえも、運命の神様の思い通りだったのかもしれないな」
「そうね。そして愛の女神様の思い通りでも有るのかも。神様の思い通りで有っても無くても、私はフィオッタとガルドとトウカを愛しているし、死ぬまでずっと一緒にいるわ」
お父様とお母様は僕の話を聞いて、益々仲良くなった。……うん、さすが僕のお父様とお母様だ。いつもこの2人はこうして仲良し。でもその仲良しも、お母様が異世界に生まれて育って来たからこそ、なのかもしれない。
もし。
お母様がこの世界のこの国に生まれていたら、お父様と出会ってもこんなに仲良しじゃなかったかも……。そう思ったら、僕は僕のお母様が異世界人で良かったって思う。
「それにしても、ガルドも女神様の声を聞いたのだとすると……神仕官ではなく神官しか道がないな。こればかりは、ガルドに自由にさせてあげられない」
お父様がちょっと悲しそうな表情で僕に言う。そんな風に悲しそうな顔をしなくてもいいのに。
「僕はお父様と同じ仕事でも良いなって思ってます」
「そう言ってもらえると嬉しいが……。神官は本当に人が少ないから、結婚したい女性が大勢押し掛けて来るかもしれないぞ? お父様はお母様が居るのに、未だに女性から声を掛けられて本当に嫌で嫌で仕方ないし」
お父様はとっても嫌そうな顔をしている。こんな顔をするんだから、やっぱりお母様がこの世界のこの国に生まれていなくて良かったと思うんだよね。まだまだ僕には分からない事だろうけど。
「あら? フィオッタはモテるのね。なんだか嫌だわ。私のフィオッタなのに」
「焼きもち?」
「そうよ。嫉妬してるわ」
「シュウナだけだって知ってるでしょう」
「それでも、よ。嫌なものは嫌」
お母様はまるで子どもみたいに拗ねた。でもお父様はそんなお母様が嬉しいみたいで「シュウナが可愛い」 とかって顔が緩んでる。本当に仲良しで僕も嬉しい。
「まぁ、もしもフィオッタやガルドが嫌な思いをするなら、他国に逃げちゃいましょう」
「「えっ」」
お母様の提案にはお父様と僕で驚く。お母様、他国に逃げちゃうって……。
「あら? 神官になったら他国に行けないの?」
お母様が首を傾げて質問する。
「いや、そんな事は聞いた事ないから……」
「じゃあ聞いてみたら? 神官になったら国に尽くさないといけないのか。他国に行ったって、この世界だもの。神様の声は聞こえるんじゃないかしら? そうしたら別にこの国で暮らす必要も無いでしょ。お義父様とお義母様とジャネットとフィヨンも連れて他国に行っちゃえば良いじゃない?」
お母様の提案には本当にビックリだけど、言われてみれば、他国に行ったからって神様の声が聞こえないのかどうか知らない。お父様も知らないみたい。でも、この国の決まりを知らないお母様だから、そんな事が言えるのかもしれない。
お父様も僕も神官になってしまったら、この国で一生を過ごすんだって思ってた。でも他国に行くって事も有り得るのかな。お父様を見たら少し考えていたけれど。
「今までその発想が無かった。他国に行く事が問題無いのか、話し合う価値は有るかもしれない。もちろん、反対されるとは思うが。それこそ女神様が許可をしてくれれば、反対もされないだろうけどな」
笑いながらも、今まで考えてもみなかった事を考えてみようと思っているようだった。
「まぁ、本当に嫌で仕方ないなら、だけどね」
提案したお母様があっさりと引き下がるのもまたいつものこと。可能性が有るよ、と教えるだけでいつもお父様の意見を尊重する。お父様もそれを解っていて、僕はお父様とお母様の子どもで良かったと思った。
そんな日々が過ぎて行き、結局僕はお父様と同じ神官への道が決まって。その勉強に切り替わっていた。そんなある日の夢。
『ガルド、どうした?』
久しぶりに聞いた女神様の声。僕が考える日が多くなったから、心配になってくれたのかもしれない。
「お母様は、時々寂しそうに笑うから、どうしたら寂しくないのかなって」
『シュウナはおそらく日本を思い出しているのだろう』
そうなんだろうなって思う。だからそんな笑顔を浮かべるお母様を見ると、いつもお父様は何も言わずにお母様に寄り添っている。お母様もそんなお父様に気付いて、いつもお父様に抱きしめられている。でも僕は知っている。そんな時はお母様は泣いているんだって。
「お母様、やっぱり帰りたいのかな。お父様と僕とトウカの元に来た事を後悔しているのかな」
『帰りたい、とは思っているかもしれないが、後悔はしておらんだろう。どちらかしか選べなかった。そしてシュウナは家族よりも愛する者を選んだ。それだけだ。後悔の涙ではなく、惜別の涙だな』
「せきべつ?」
『別れを惜しむ涙だ。もう帰れないからこそ、時々押し寄せる故郷の記憶を懐かしむのと同時に……寂しくなるのだろうよ』
「そっか……。僕には解らない事だね」
『フィオッタにも解らない。だから、側に居るだけしか出来ない』
「僕もそれだけしか出来ないのかな……」
『ふむ……。そなたの魔力の強さは、異世界に生まれて育ったシュウナの魂が混ざっているもの。フィオッタとはまた違う魔力故に我ら神との相性も良い。あまり詳しくは話せないが、神との相性が良い魔力だと思うと良い』
女神様が急にそんな事を言い出して、どうしてなのか解らないけれど、黙って話を聞いていく。
『それ故に、そなたの魔力や魂が陰りを生むのはあまり好ましくない。どれ、ガルドの魔力に免じて、少々ガルドの願いを叶えてみるか』
「僕の、願い……?」
『あまりに純粋な願いだからな。聞き届けるのも悪くない。ガルドの願いは、シュウナの笑顔を曇らせたくない事だろう?』
「はい」
『ならば、シュウナに年に一度だけガルドと共に寝る事を伝えると良い』
「年に一度、僕と一緒に寝る?」
もう僕は7歳になったので、お母様とお父様と同じベッドで寝ることは無い。1人で寝ている。それなのに、お母様と寝る? 恥ずかしいなぁ……。
『そうだ。基本的に神といえども異世界と異世界を繋ぐのは良い事では無い。だが、ガルドの願いは叶えてやりたい、とも思うのでな。ガルドと寝ることでシュウナに夢の中だけだが、向こうの世界と繋げてやろう。年に一度くらいなら神として力を使える。夢の中でシュウナの家族と会わせてあげるくらいなら、わたしでも出来るぞ』
僕は女神様の話に目を丸くした。夢の中だけど会える、と知ったらお母様は喜んでくれるだろうか。僕は女神様に感謝して、起きるのが楽しみになった。
朝を迎えて、お父様とお母様に女神様の話をする。
「年に一度、夢の中だけど、お母さんや冬華に会える、の?」
お母様は驚いた顔をした後、女神様のお話が理解出来たと思ったら、ボロボロと涙を零した。とても嬉しいって事なんだろう。
「お母様、女神様にお願いして良いよね?」
「ええ、お願いして欲しいわ」
二度と会えないはずの人に会える事ってどれだけ嬉しい事なのか、僕には解らない。でもお母様が幸せそうに笑っているから。それで良いと思うんだ。女神様にお母様が嬉しいと喜んでいた話をしたら。女神様の声からはそうか、と。
それからお母様は年に一度、夢の中でだけどニホンの家族に会っている。僕の魔力が関係しているから、僕も一緒にお母様のお母様とお母様の妹に会えた。
お母様のお母様……お祖母様は凄く優しくてそしてなんだかちょっとのんびりとしている。僕のことを「あらあら、こんなに大きくなっているのねぇ」 ってゆったりとした口調でニコニコとしていた。
で。
お母様の妹である叔母様は、物凄く気が強そうだった。お母様に「急に居なくなったのに、何、夢の中で急に現れてるのよ!」 と最初から怒ってた。お母様は怒っている叔母様に対して「本当に会えた……」 って嬉しそうに笑うだけ。
そんなお母様に叔母様は「何を笑ってるのよ!」 ってまた怒ったのに……急に泣き出した。泣きながらお母様に「もう、本当に会えないと思ってた。勝手に居なくなって、勝手に現れて……。お姉ちゃんのバカっ。さ、寂しかったよぉ」 って文句を言ってた。多分、叔母様は素直になれない人だ。でも泣きながら文句を言ってるから、お母様も泣きながら受け入れていて。
そんな2人をお祖母様が包み込むように抱きしめて。なんだかお母様が子どもみたいに見えた。凄く泣いた後で、お母様が年に一度だけ、僕の力を元にして夢の中で会える事になったって話したら、叔母様は「魔力? 何その胡散臭いの。神様? 見たこと無いけど、本当に居るの?」 とか言いながら。
僕をしっかり見て。
「ガルド君だったよね。ありがとう。お姉ちゃんの子に生まれてくれて。お姉ちゃんと私達を会わせてくれて。これからもよろしくお願いします」
そんな風に言ってくれた。……やっぱり叔母様は素直じゃない人だ。だけど、お母様はとっても嬉しそう。だから僕は「よろしくお願いします」 って笑った。叔母様もお祖母様も僕のことを「良い子」 って頭を撫でてくれて。僕の成長も楽しみだって笑ってた。
翌朝、僕とお母様は、トウカと別の部屋で寝ていたお父様に夢の中の話をしたら。お父様がお母様の明るい笑顔に嬉しそうに笑って。
「俺もシュウナの家族に会いたかったな」
って零した。来年はトウカと4人で一緒に眠ったら、もしかしたら4人でお母様の家族に会えるかもしれないねってお母様が笑って答えた。確かにやってみる必要は有る。来年が楽しみになったね、とお母様に言ったら、本当に嬉しそうに頷いてくれた。そして。
「ガルド、本当にありがとう。こんな日が来るなんて思ってもみなかった。でもガルド、身体は辛くない? 魔術は解らないけれど、辛いなら来年からはいいのよ?」
お母様は真剣な顔でそんな事を言うから。僕は「大丈夫。辛かったらきちんと言うよ。でも本当に何ともないよ」 って元気に言った。お母様はホッとしたみたい。
「じゃあ来年もよろしくね」
お母様が心から願って言うから、僕もその約束を果たせるように強く頷いた。
「そういえば、叔母様ってああいう人なの?」
夢の中で会った時から気になっていた事をお母様に尋ねたら、お母様は柔らかく笑いながら頷いた。
「そうよ。冬華は昔から素直じゃないの。素直に言葉に出せないの。でも、そんな冬華を理解している人と結婚しているから、冬華がどれだけ素直じゃなくても、冬華の気持ちを理解している彼は凄いと思うわ」
やっぱり、叔母様は素直に伝えられない人みたい。でもお母様はそんな人だって解っているから、文句を言われても気にならないみたい。
確かに叔母様って、お母様に言った文句を思い出すと、寂しかった。会いたかった。元気で良かった。って感情を出していただけ。その感情を理解しているからこそ、お母様は叔母様に文句を言われてもニコニコしていたのだろうな。
そうか。叔母様がああいう人だから、お母様はお父様の妹であるジャネット叔母様の事も初めから接し方が解ったのかもしれない。何しろ、女性嫌いのお父様が結婚した事を知ったお父様の家族は、お母様がお父様を騙した悪女だと思って、お母様を追い出そうとしていたくらいだったから。
でも、お母様はそんなお父様の家族の気持ちに寄り添いながら、色々と話をして、あっという間にお母様はお父様の家族の心を掴んでしまった。特にお祖母様とジャネット叔母様を。ジャネット叔母様なんか、お母様に会えばお母様ベッタリで、お父様が凄く不機嫌になる程。僕とトウカの事はとても可愛がってくれるから、僕達は不満は無いんだけどね。でもお父様も結局は、お母様が家族と仲良しな事は嬉しいと思っているから、最終的にジャネット叔母様の我儘を仕方なさそうに受け入れている。
あっという間に皆に認められたお母様って魔力が無くても魔術が使えなくても、とても凄い人に思える。僕もお母様を見習う必要が有るよね。皆から好かれたいもん。
ーー僕のお母様は異世界人。だから僕は世界の違う両親のハーフ。半分ずつ2人の良いところを受け継ぎながら僕は僕らしく生きていく。
もう少ししたら、僕の妹であるトウカも、お母様が異世界人だって事で色々と考える事も有ると思う。そんな時が来たら、僕は兄としてトウカの気持ちに寄り添いながらも、「お兄様、凄い! トウカもお兄様みたいに凄い人になる!」 と言われるようなお兄様になるんだ! まぁ多分、お母様が凄い人! って思うだろうけど。
魔術は使えないけど、お母様はそんな事が気にならないくらい、凄い人です。もしかしたら……魔力が強くて、この国じゃあ結構偉い人のお父様よりも、お母様の方が凄いんじゃないかなって、思う。
ーーまぁお父様とお母様の子に生まれた僕は、世界で一番幸せな子どもだと思います。あ、僕とトウカは、です。
だって、2つの世界の良いところを知っているのだから。そんなの、この世の中で……世界を超えたって……僕とトウカしか居ないでしょう? だから、僕とトウカは世界で一番幸せなハーフなんです。
いつか、お母様の存在をこの国の人達に知られた時。もしかしたらお母様を異物だと思う人も居るかもしれないけど。そんな時に僕とトウカが胸を張ってお母様の子である事を幸せだと言ったなら。
お母様はこの国から……この世界から認められた人になる。そしたら、お母様はこの世界の、この国の人ではないかな、なんて。
先ずは僕達の存在を認められる事が第一歩です。
(了)