記憶の手帳 【月夜譚No.167】
大切な記憶にも、栞を挟められたら良いのに。
――そんな埒もないことを考えながら、少女は手帳に押し花の栞を挟み込んだ。開いた窓から外を眺めると、潮を含んだ風が彼女の長い髪を靡かせる。
一冊の革の手帳――それが、少女にとっての記憶だった。
数年前、少女は事故に遭った。学校帰りの横断歩道で、信号を無視したトラックに撥ねられたのだ。その時の怪我の後遺症で、彼女の記憶は三日しか保たなくなってしまった。
それからというもの、この手帳に自身に起きたことをメモするようになった。日常の些細なこと、他愛無い会話、駅前にできたカフェ……。
自分がこれを書いているはずなのに、少女にはそれ等が真新しい情報として目に映る。読んでいて楽しいが、心の裏側では悲しい思いで一杯だった。
過去の自分も、同じような気持ちだったのだろうか。思い出せないから確かめようもないが、きっとそうだろうと思う。
今日もまた、手帳にペンを走らせる。未来の自分へ向けて、記憶を届ける為に。