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第二話「パノプティコン」

異世界の王国に転生した私は、王都の治安のために牢獄を考案する。

 私の転生したヴィクティマ王国は交易で栄えている国だ。王都には多くの国から色んな種族が集まってくる。しかし人の集まるところでは自然と犯罪も増える。ある日王様は王都の犯罪者と牢獄について、私に相談してきた。

「我が国の王都は大いに栄えておる。それ自体は良いことなんじゃが、犯罪が増えてきておる。見回りをする騎士団のおかげで人殺しなどは少ないが、泥棒や詐欺師などの軽い罪の囚人がここ数年目立つのじゃ。縛り首にするほどの罪ではないし、かといってならず者を全員牢獄に放り込むと看守の数が足りずに脱走が起きるかもしれん。転生者どの、何か案はあるかのう?」

私は正直、なんだ、そんな問題かと思った。要するに少ない看守で大勢の囚人を抑え込めれば良いのだ。すぐに名案が浮かんだ。私は王様に言った。

「明暗が浮かびました、王様。数人の看守で数百人の囚人をおとなしくさせることができます。」

「なんと!それはどんな方法じゃ?」私は王様に語る。

「まず広い土地を用意してください、それから…」


1ヶ月後、私の発案した「牢獄」が完成した。


「これは奇妙な外観じゃ。牢獄というよりも砦や闘技場のようじゃ。」

 私が異世界人に命じて作ったのは石作りで3階建ての、巨大な円形の建物だ。外観は元の世界で言うならコロッセオや球技場に近い。

「王様、中をご覧ください。」そういうと私は中に王様を招いた。

「牢獄」の壁ぞいにはずらりと独房が並んでいる。その数、なんと600室。各独房には窓がなく、通路を見ることができない。「牢獄」の真ん中には大きな吹き抜けがあってその中央には一つの塔が立っている。


「中に塔があるのか、本当に砦のようじゃ。」王様が不思議そうな顔で呟く。

「転生者どの、この牢獄について説明してくれ。」王様が尋ね、私は説明を始めた。

「えー、この牢獄は極めて画期的です。まず看守は独房の前の通路を歩く必要はありません。看守は牢獄全体を俯瞰できる中央の塔から牢獄全体を監視します。この仕組みのおかげで600人の囚人に対して看守ははせいぜい5人、いえ、3人で十分でしょう。万が一脱走者が出た場合は看守は鐘を鳴らして外の騎士団に連絡できます。」

「なるほど…一度に大勢を監視できると言うわけか。だが転生者どの、看守の足音がなければ囚人は脱走しやすくなるかもしれん。それに複数人が脱走したら、騎士団が到着するまで3人の看守では立ち向かうことはできん。」王様は怪訝な顔をして私に尋ねる。

 私は笑って返す。「王様、そんなことを企む者は出てきません。この構造を見て何か思いませんか?看守はいつでもどの独房でも監視できる、脱走した囚人からは塔は見えても中の看守がこっちを見ているかは判らない。いつ見られているか判らないから、囚人は脱走する気を起こしません。それに壁は分厚く、囚人同士の交流は絶たれているため共謀なんてできませんよ。」

「なるほど…」王様が頷き、私は続ける。

「おっと、失礼しました、王様。私は先ほど看守は3人だと説明しましたが、正確には603人です。いつ見られているか判らない不安感が、囚人の中の「看守」として生まれ、彼ら一人一人が自分自身を見張るようになるんです。囚人たちは自然に、極端な話、中央の塔の人数が0人でも従順になりますよ。」


 こうして私は異世界の人々のため、悪人を安全に閉じ込めるシステムを確立したのだった。

王様は絶句した後に、「恐ろしいが素晴らしい…なんと人というものを理解した牢獄だ」と呟き、満足げだった。

その様子を見て私はあることを思いつき、王様個人のためにアドバイスをした。


「王様、見つかるのを恐れるのは、泥棒だけじゃないですよ。例えば…王宮内で不穏なことを企む輩とか…」


To be continued...


パノプティコンはベンサムによって考案された円型監獄のことです。

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