第5話 スーパー銭湯に行ってみよう。あ、もちろん男湯ね。
銭湯に行ってきゃっきゃうふふする話を書こうと思ったら、全然そのシーンまでいかなかったですが、読み返してみるとこれはこれで興味ある話にはなったのかな。
「さて、新生TS研究会の諸君、いよいよ出陣である。皆、準備はよろしいか?」
そう言うのはTS研究会前会長の坂東先輩である。今日は坂東先輩の発案で、スーパー銭湯へ行くことになったのであった。現在地は集合地点である御有辺井高校の最寄り駅である。
目的地は電車で四駅ほど先にある郊外の商業施設に併設されたスーパー銭湯である。有袋人類へと肉体が変化した今、新たな萌えポイントを検討するという名目での活動なのだ。
TSしてお風呂、なかでも他の人の裸を見ることができる銭湯等に入るというシチュエーションは定番であろう。
しかし今の現状はTSとは言ってもTSではなく、有胎盤人類から有袋人類への種族転換、TSであるので、はたして定番のシチュエーションであるのか、ちょっとそこのところは疑問が残るところだ。
まあ、男性のままであったとしても、おっぱいは有るし有袋人類として男のほうに有袋類特有の育児嚢が付いてたりするしで、皆でスーパー銭湯に行くというのも、なかなかに面白そうではある。
ところで、既に日本人全員の肉体が有袋人類に変化してからそれなりの日数が経っているので、各人の服装は現在の姿に似合うような服装へとほぼ替わっていた。というわけで今の男性たちは以前の女性服を、今の女性たちは以前の男性服を着用している。
それぞれがクリーニングに出した服を交換しあったり、古着屋とかネットとかで売り買いしたり、当然だが新品の服を買いそろえたりしていた。
全国の中学、高校の生徒たちは、卒業した先輩たちがまだ保有していた制服を提供してもらったりという状況もあったりする。まあ、大規模なリサイクルが行われたわけなのだが、さすがに下着は新しく自分で購入することが主となる。
パンツは交換されることなく、皆、新品を買いそろえていくのだが、なぜかブラジャーだけは家族間や恋人同士で女性から男性へと手渡されることもあったりするらしい。いったいどういう理屈でそういうことが成り立つのか、当事者の女性でなければ分からない。
何かこう、ブラジャーを贈るというのは、女性にとって親愛の情を示すというものであるのだろうか? などと、ブラジャーを渡された側の男性はしばし理解に苦しむことになったりしていたりするケースが全国で多発していたそうだ。
さて、そういうことはさておき、話を戻すとしよう。
「はい、坂東先輩。もちろん僕は準備万端です。入浴後の着替えも持ってきてますよ。有恩や尾歩都もそうですよね」
夏という季節でもあり、神賀は涼し気な服装である。比較的薄手の生地で風通しがよさそうなスカートをはいているが、色が濃いグリーンなので、パンツが透けて見えたりするということは無い。
ちなみにパンツは以前の女性ものを穿いているということはなく、ゆったりとしたトランクスだったりする。なぜなのか?
実は例の神様からの情報が書かれた本には、『有袋人類は体温調整機能が有胎盤人類よりも若干落ちるので、男性は睾丸を冷やす為にゆったりとした下着を着て、出来る限りズボン系の服ではなくスカートを穿くのが好ましい。それが丈夫な子種を多く生み出すことになる』とあったのだ。
少子高齢化を憂いて日本人の体を有袋人類の体へと作り変えてしまう力を持った神様のメッセージを無視するということは、次にどのようなリアクションが返ってくるか分からない。無視した場合、更に別な、それこそ人間からかけ離れた生物の肉体に変化させられてしまう危険性をおかしたくない。
という判断を政府は下し、国民すべてにそういった情報に従って欲しいというお願いをした結果、有袋人類と変化した今の男性たちの多くが、神様の意思に従い、風通しの良いスカートをはいていたりするという状況になっている。
ちなみに風通しが良いとは、生地の薄さ厚さの問題もあるが、短さという点も無視できない。つまり本当の意味で推奨されるのは基本、ミニスカートである。しかしミニスカートを穿くとなると座った時に足を閉じないといけないのだが、足を閉じるとタマタマを冷やすという効果が低下する。
というわけで大抵の男性はミニスカートではなく、膝丈程度のふんわりゆったりしたスカートを穿いているのだが、さすがにTS研究会のメンバーたちは『スカートがミニでなくてなんのスカートか』という意識が強いのか、メンバー全員がミニスカートである。攻めているのである。
そしてスカートのすそからチラリチラリと見え隠れするトランクスは、さすがに今までのような華の無い色柄ではなく、新しい時代の男性に合わせて可愛らしくちょっと派手な色使いをした柄や、中にはアニメのキャラクターがプリントされたトランクスもあったりする。
詳しく説明すると、坂東先輩は赤い花柄のトランクス。有恩は水色によって海を表現する模様が描かれたトランクス。そして一年生の尾歩都は某アニメに出てくる有袋類の擬人化キャラがプリントされたトランクスであった。
そしてなぜか神賀は真っ白の無地のトランクスにワンポイントで小さな赤いリボンが付いていたものであった。やはり下着は純白というこだわりでもあるのだろうか?
と、そうこうするうちに四人が乗った電車は郊外の商業ゾーンに隣接する駅へと到着した。
「それにしても坂東先輩。こうして商業活動や外出に外食がまた気楽にできるようになって良かったですね」
周りのにぎやかな様子を見て、神賀はそう言った。
「まったくだな。我輩も例の新型ウィルスによるパンデミックが、日本人の肉体が有袋人類になったことにより無効化されるとは思わなかったぞ」
「ああ、それは言える。世界中でまだまだパンデミックが続いているのに、日本だけは完全に一抜けしちゃったものな」
「でもよかったです。佐夢の親戚に飲食店を経営してるおじさんがいるんですけど、これでなんとか首の皮一枚で助かったとか言ってましたし」
そうなのである。有袋人類は有胎盤人類とは大きく遺伝子構造が違うので、例の新型ウィルスに感染しないのだ。なにせ有袋類と有胎盤類が進化史の上で分岐したのは、なんと1億6千万年前なのだから。
パッと見の外見だけなら今までの有胎盤人類も有袋人類もほとんど同じような見た目をしているのだが、当然だが遺伝子まで見ると両人類は全く違う種なのだ。共通して感染するような病気はほとんど無いと言って良かったりする。
なお、共通して感染する病気、ウィルスとして神様情報にあった中でまだ政府により秘匿されている脳肥大化ウィルスがあるのだが、その存在について一般人はまだ誰も知らない。
「まあ、それは良いことなんですが、なんだか外国人の姿もちらほら見えますね」
神賀が指さす方向には、欧州系にアフリカ系、そしてどうやら東南アジア系らしき外国人が少数ながら存在していた。
「ああ、まあ世界中がパンデミックだろうと、日本人にはもう無関係だからな。もともと国内にいた外国人かもしれないが、我輩が思うに、もしかすると再開された外国人旅行客かもしれないな」
「外国人同士でウィルスをうつしあって発症しても、日本人には感染しないんだから無関係なんだろうけど、『医療崩壊していない日本の病院』で治療を受けようとするツアーだったりしたら嫌だな。なるべくそういうことでは無いと俺は信じたいけどな」
「あ、佐夢、知っています。有恩先輩が心配するようなツアーも計画されたらしいんですけど、神様情報からそういうのはダメになったそうですよ」
「そういえば僕もニュースで聞いたような記憶があります。なんでも『医療も新たな日本人がどんどんと増えていくように最大限の努力をすべし』とか書かれていたらしいですね」
「ま、何にしろ、ちょっと前までは日本人と外国人のカップルとか珍しくもなかったが、今後はどうなっていくんだろうなあ。我輩、今更、外国人とカップルになるという未来がまったく想像出来んな」
「あ、それは僕もです。一応こういうなりをしていても僕は男ですから、外国人と結婚するならやはり女性ということになるんでしょうけど、なんだかまったくそういう想像ができないというか、実感がわかないですね」
「……神賀は、あれだ。ちょっと平均よりも小さな棒を持っているからなあ。昔ながらの女性とはちょっとなあ」
「有恩君、ちょっとなんですか? 怒りますよ」
「うむ、俺が平均よりも大きな棒を持っていてごめんな♪」
そこでプチンと切れた神賀は、有恩が穿いているミニスカートをめくって、中のトランクスを衆人の目にさらすのだった。中には外国人の一団のうち男性たちが『おおっ!』と喜びかけたのだが、見えたのがいわゆる女性下着ではなく、かわいいというか美しい柄ながらも男性用のトランクスであったので、その声も『おーう……』と残念なものを見たというような声に変わる。ざまあみろである。
「ちょ、こら、神賀ッ! やめろよなお前」
真っ赤な顔をしてスカートを押さえる有恩。見た目だけならとても思春期の男とは思えない状況だ。まあ、今後はこういった男子が標準となるのであろうが。
「ははは、さすがの有恩も中身がトランクスとはいえパンツを見られるのは恥ずかしかったか。ま、神賀もそこまでにしとけよ。これ以上だとシャレにならないからな」
「それは有恩君次第ですね」
などとふざけあったりじゃれあったり、時には真面目な会話をしつつ駅から歩いてきたTS研究会の面々は、商業施設に併設されたスーパー銭湯、【 湯ったりこん 】へと到着したのだった。
「しかし何ですね。『湯ったりこん』というのも変ななまえですね。単純に「湯ったり」とかじゃダメなんでしょうか?」
「……今、スマホで検索して調べてみたら、もともとは男女混浴のスーパー銭湯を作ろうとして、行政からダメ出しをくらって、今の名前に落ち着いたそうですよ。ほら、今なら男女の姿がお互いにほぼ入れ替わってますから、混浴の銭湯を作っても大丈夫だろうっていう安易な考えだったらしいですよ」
「ああ、そういう理由。じゃあ、『湯ったりこん』の『こん』って、もしかして混浴の『混』の字がもともとの字で、『湯ったり混』っていうのが当初の命名だったてのか? 安易すぎるだろ」
「今の女性に男性のお腹についた育児嚢の入口を見せたりするのは厳禁ですからね。行政も許可なんか出すわけないでしょうに」
尾歩都の解説にあきれる有恩と、不許可の理由を推測する神賀。『大丈夫か? このスーパー銭湯』とか思ってお互いに顔を見合わせたりする。
「ま、とにかく近所で駅近くのスーパー銭湯と言ったらここしかないんだから、さっさと行くぞ。さあ、みんな、我輩についてこい」
と、言いつつ、さっさと歩き出す坂東先輩。そして入口から中に入るとそこには銭湯にあるような番台ではなく、ホテルのフロントのような受付が待っていた。
四人はそれぞれ受付し、無料のタオルやシャンプーにリンス、そしてボディーソープなどを手に取ると、赤と青の暖簾で仕切られたうち、迷うことなく青いほうの暖簾をくぐって脱衣所へと入っていった。
もちろん男湯である。ミニスカートを穿いた若い子の一団がそろって男湯に入っていく。そんなちょっと前からの常識からはあり得ない状況だが、それが今の日本の真実の姿なのだ。
「……おばさんみたいな姿のおじさんばかりですね」
遠慮の無い感想を言う尾歩都。本当に若いってすばらしい。
「尾歩都君、もう少し遠慮してものを言いましょうね。ほかのお客さんとトラブルになっても僕は知りませんよ」
「おじさん以外だと、お爺さんか。もしかして若いのって俺たち以外には居ないんじゃね?」
「でも有恩先輩、おじさんに連れられた小さな子供たちならいますよ」
「小さな子供ッ! もしかして女の子も居るのかッ!」
「先輩、追い出されたくなかったらセクハラ発言は止めましょう」
「……神賀よ。おそらく有恩はセクハラを言ったのでは無い。事実を確認しただけだぞ。な、有恩、そうだろ」
「坂東先輩の言う通り。俺は事実を確認しただけですよ」
ふふんと鼻を鳴らす有恩。
「しょうがないですねえ。まあとにかく服を脱いでいきましょうか」
というわけで四人は脱衣所でそれぞれのロッカーを決め、服を脱ぎだすのであった。シュルシュルと。
今日はここまで。
というわけで、次回は銭湯回入浴編というわけですよ。サービス回。……になるのかなあ。