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第17話 水着を買おう +日本の獣、有袋類へと変化する

バンバン更新できる作者さんはいったいどういう頭をしてるんでしょうね。尊敬します。

「とりあえず、今日はここで水着を買うわよ。女子はまあ適当でいいけど、男子たちはちゃんと可愛い水着を買わないとボクが承知しないわよ」


 商業施設の中の水着売り場の前で気炎を上げているのは文芸部部長の庵手絹子である。御覧の通りのボクッ娘であるのだが、有袋人類化しているのでかつてのイケメン男子にしか見えない。


 まあ、そういうのにも完全に慣れてきたのが日本人たちである。


「庵手部長、さすがに女子もデザインとか重視してくださいね。適当に選んだ結果、一緒にいるのが恥ずかしいっていうのを買ってくるのだけはやめてくださいよ。例えばアレとか……」


 釘を刺したのは文芸部に兼部する形で存在するTS研究会の会長、神賀留宇太である。その視線の先には水着売り場の中でマネキンが着ている女性用水着があった。


 なんとその水着は全体的には象さんに見える。抽象的な表現を使わずに具体的な表現をするなら、女性器である出産管を収める筒状の袋が水着の前面にくっついているというものだ。


 その筒状の袋の中に出産管を入れて収めることにより、有袋人類化する前のかつての男性が感じていたチンポジによる違和感を覚えないようにしているらしい。


 今の女性は筋肉組織で出来ている出産管を意識的に自由自在に動かすことが出来るので、筒状の袋の中に入れた状態でもそれを自由に動かすことが出来るだろうというのは快適に感じるのだろう。しかしそれにしてもデザインを考えて製品化したのは誰だと文句を言いたい神賀であった。


「え、そうかなあ。良いじゃない。ものすごく機能的というか、開放的そうで」


「庵手部長、どう考えてもアレはネタ水着です。絶対に買わないでくださいね。もしもあんなのを買って海に着て来たら、僕はもう庵手部長とはもう一切しゃべらなくなりますからね」


「う、分かったわよ」


「分かってくれてうれしいです」


 にこりと笑う神賀だったが、なんとなくその笑顔の裏に対抗できない迫力を感じる庵手部長であった。


「ところでさあ、今まで通りの人間の男としては、あのデザインどう思う?」


 終わった話を蒸し返したのは有恩であった。話している相手は留学生の男子であるジェイコブオーロックだ。


「オモシロイ デザイン デスネ クール デス」


「おっ、じゃあ買っちゃう?」


「ザンネンデス ボク ノ ハ アノ ナガサ デハ トテモ ハイラナイ ト オモイマス」


 ジェイコブの何でもない返事を聞いて、笑顔だった有恩の表情がスッと消えてしまった。


「外人様はこれだから……」


「ははは、有恩よ。そもそも有袋人類の男のアレはみんな小さいんだから気にするな」


 落ち込む有恩を坂東先輩が励ました(?)。まあ確かに有袋人類の男性器の長さはホモサピエンスの男性器よりもかなり短いのは事実だ。


「俺のは一応有袋人類の中では平均よりも大きいです」


「有恩先輩はおっぱいが大きいんだからいいじゃないですか。佐夢なんてちんちんもおっぱいも小さいんですよ」


 以前のホモサピエンスの女の子みたいな可愛い顔した尾歩都が『ちんちん』なんて言うと、『妙に萌えるな』なんてことを思いながらも、有恩はその通りだなと思って精神を復活させる。


「そうだよな。今の体だったら、目立たせるのは股間じゃなくて胸だよな。よし、神賀、さっそく俺のナイスバディが強調されるような水着を買いに行こうぜ!」


「まあ、店先でいつまでもごちゃごちゃ言ってるのもお店に迷惑ですね。あ、エレノアさんも僕たちと一緒に男性用水着コーナーに行きましょう。さすがに有袋人類の女性用水着には上がありませんからね」


「リョウカイ デース」


「じゃあ、ボクたち文芸部も女子用の水着コーナーに行きましょう。あ、でも御厨くんは男子用の水着を買わなくちゃだから、TS研究会のメンバーに付いて行ってね」


「庵手部長、部長は、あたしたちの仲を裂くつもりですか。ひどい」


 いつも御厨修武と一緒、ラブラブちゅっちゅな武宇羅美須美は、抗議の声を上げた。


「仲を裂くだなんて人聞きの悪い。単に男女で選ぶ水着が違うだけだから、それぞれのコーナーに行かないとダメでしょ」


「美須美ちゃん、僕も美須美ちゃんと離れたくないけど、さすがに水着は男女別々だし、ここは部長の言うことを聞いておこうよ」


 御厨修武は恋人の武宇羅美須美と違って常識人のようだ。


「うーん、じゃあ、あたしが速攻で自分の水着を決めるから、そのあとは御厨くんを連れて男性用の水着コーナーに行ってくる」


 どうあっても美須美は御厨とは離れたくないようだ。


「庵手部長、ここはもうふたりの好きにさせましょう。説得するだけ無駄です」


 小荒阿良子は、面倒なことは嫌いとばかりに、なりゆきまかせというか早々にさじを投げていた。


「しょうがないわね。じゃあボクたちも行くわよ。ジェイコブくん、一緒に行きましょう。女性水着コーナーへ♪ ふふ、嬉しいでしょ?」


「チットモ ウレシク ナイ デス」


 有袋人類の女性水着コーナーは、以前のホモサピエンスの男性用水着売り場とそっくりなので、確かにホモサピエンスの男性であるジェイコブにしてみたら全く嬉しくもなんともないだろう。


 ま、そういうわけで男女の両グループはそれぞれの水着コーナーへと向かったのだった。一組の例外を除いて。





 さて、女性水着コーナーである。


「分かってはいたけど、以前の女性水着コーナーと比べたら華が無いわね。ま、おとなしめのデザインが好みのボクからしたら問題ないんだけど」


 そこにディスプレイされて並んでいたり、ハンガーにかけられている女性用水着を見て、庵手部長はそう言った。


「あたし、じゃあこれにします」


 御厨修武を体の前に立たせて後ろから抱き着いたままの武宇羅美須美が、ちゃんと選ぶことなくただ手が届く範囲にあったからという理由でひとつの水着を取ると、そのまま御厨と連れ立って今度は男性用水着コーナーへと向かいだした。


「美須美ちゃん、もう少し選んだら? 御厨くんからも美須美ちゃんにそう言ってあげて。せっかくここまで来たんだからちゃんとしたのを選ばないということは無いわよ」


「阿良子先輩、あたしはサイズさえあってればそれでいいです。それよりも御厨くんの水着を選ぶ時間を大切にしたいので」


「美須美ちゃん……」


 きっぱりと断る美須美と、ほほを染めて嬉しそうにしている御厨を見て、阿良子は『説得は無理だな』と思ってしまった。アツアツカップルに触れてやけどをしてはいけない。あのふたりは不可触領域に属する存在であるのだ。


「しょうがないわね。じゃあ阿良子にジェイコブ君、ボクたちだけで水着を選びましょう。それでいいわよね?」


「しょうがないですね。美須美ちゃんと御厨くんのことはTS研究会の男子たちに任せましょう」


「ボク ハ ドッチデモ イイデスヨ」


 こうして残された3人は、女性水着コーナーで自分に似合うような水着を探し出すのだった。まあ、ジェイコブは男性なのだが……。





「うーん、前までの男性水着コーナーとは違って華やかすぎるな。吾輩もなんかこう恥ずかしくなってきたぞ」


「ですねえ。まあ今の自分にはおっぱいが付いていますから、こういう水着じゃないとダメだというのは僕も分かっていますが……」


「こらこら神賀。おっぱいが付いていると主張していいのは俺ぐらいの巨乳にならないといけないぞ」


「有恩、お前、昔は『乳に貴賎なし。大きくても小さくてもおっぱいはおっぱいだ』なんて言ってなかったか?」


「自分の胸におっぱいが付いてみるとさ、前の俺の考えは未熟だったと痛感してるんだな。これが」


「有恩先輩。佐夢と神賀先輩にケンカ売ってます?」


 花が咲くような笑顔でにこりと笑いつつ尾歩都が有恩に話しかけたとたん、有恩は自分の失言にきがついた。『神賀はともかく尾歩都を怒らせてはいけない』と。


「こらこらじゃれあっていないでさっさと水着を選ぶぞ。来週に海に行くんだろ。だったら今日中に選んでおかないと間に合わないじゃないか。我輩も受験勉強が忙しいのにつきあってやってるんだからな」


 いつもTS研究会に顔を出している坂東先輩が本当に受験勉強で忙しいのかどうか不明だが、そう言われては真面目にならざるを得ない。


 ちなみに海に行くのは来週の日曜日ということになっていて、今日は今週の日曜日である。つまり海に行くのは1週間後で、文芸部+TS研究会のメンバー+留学生の全員で水着を買いに来れるのは今日がラストチャンスということになっている。


「それにしても見渡す限り、ワンピースタイプの水着ばかりだな」


「有恩先輩、ちゃんとセパレートタイプの水着もありますよ。ただ、上が下に重なるほど長いだけです」


「ウーン そうかあ。せっかく俺のナイスバディをビキニに包んで女たちの目をくぎ付けにしてやりたかったんだがなあ」


「有恩。さすがにビキニは無いだろ。お腹の袋を隠さないといけないからビキニは無理に決まってるし」


「カンガサン オナカ ノ フクロ ハ ゼッタイニ カクサナイト ダメ デスカ?」


「エレノアさん。前にも言ったけど、有袋人類の男性のお腹の袋は、第二の性器みたいなもので、有袋人類の女性からしたら、男性のお腹の袋の入り口を見たら性的興奮を覚えちゃうというものなんだよ」


「そうそう、神賀が言う通り。もっと簡単に言えば、お腹の袋をむき出しにするっていうことは、エレノアさんのようなホモサピエンスの女性が、下を穿かずに表に出るようなものなんだよ」


「オー ソレハ ダメ デスネ」


「だがな、我輩が思うに、エレノアさんなら別にビキニタイプの水着を着ても問題ないんじゃないだろうか」


「でも坂東先輩、店内にビキニタイプの水着なんて売ってませんよ」


「佐夢、思うんですけど、佐夢たち有袋人類の男には股間にアレが付いてますけど、エレノアさんには付いてませんよね。だったら上のほうはともかく下のほうは有袋人類用の水着じゃなくて、ホモサピエンス用の女性水着じゃないとダメなんじゃないでしょうか」


「おお、有恩よ、いいところに気が付いたな。確かにそうだ。よし、我輩が店員にちょっと聞いてこよう。もしかしたら倉庫のほうにまだホモサピエンスの女性用の水着が売れ残っているかもしれん」


「バンドウ センパイ アリガトウ デース」


 そんなことを話しているうちに、その場に武宇羅美須美と御厨修武のカップルも到着した。


 さてさて、皆はいったいどういう水着を選ぶことになるのであろうか。





 ところ変わってここは日本政府中枢部の某所である。そこには政府要人や官僚の他に、一柱の神様が顕現していた。黒い闇の柱として顕現している黄泉の国とも地下世界とも言われる場所を治める女神様である。


『さて、いよいよ今宵が新月の晩であるな。(わらわ)の権能で日本国内に棲むすべての獣を有袋類へと変化させるのじゃが、民草たちの準備は整っておるかえ?』


「はい、女神様の仰せの通り、国民への周知徹底はなされています。特に畜産業者のもとへは生物学者からの助言をまとめた冊子も配りまして、不測の事態が起きた場合の対処の準備もなされています」


「ただ、家庭内のペットについては、飼い主の理解やスキルに差がありすぎて万全とは言い難いのですが、これについては状況を見て適切に対処するしかないかと」


『ほほほ、「高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処する」というやつじゃな』


「よくご存じで。つまりは行き当たりばったりということなのですが」


『よいよい、妾とてこのような場合、何が起きるかは完全には把握できないのじゃから、人間の知恵でどうにかなるものではないからのう。行き当たりばったりも止む無しじゃ』


「ご理解していただき、ありがとうございます」


「ところで青い光の柱の神様の状況はいかがなのでしょうか? 前回の話では世界中の風と海流の流れをいじらねばならないとのことでしたが、そのめどは立ったのでしょうか?」


『うむ、それなのじゃが結構難儀しておるようじゃ』


「もしや、無理ということなのですか?」


『いやいやそうは言うておらん。ただのう、いわゆる神の奇跡を起こさねばならないとは言っておった』


「神の奇跡ですか……」


『あやつのことじゃ、おそらくド派手な奇跡を起こすつもりであろうよ』


「そこまでのことをしないといけないのですか」


『それを言うなら妾が今宵行うことも、そこまでのことじゃぞ。日本中の獣を有袋類へと変化させるのはまさに神の奇跡じゃ。これを行ったら妾もしばらくの間はこの世に顕現することは出来ないであろうな。ほれ、最初にお前たち人間を有袋人類へと変化させるという神の奇跡を行った妾の夫神と同じじゃ。神力を使い果たしたというわけじゃ』


「なんと、最初に奇跡を行われた男神様がふたたび現れないのはそういった理由でしたか」


『ちなみに地下居住空間を作った金色の光の柱の女神も今は神力を使い果たして休んでおるわ。そして青い光の神も次に起こす奇跡で力を使い果たすじゃろう。あとは銀色の光の柱の神だけじゃが、あ奴はあまりにも表に出るのが苦手な性格じゃからのう。神力は残ってはいても独りだけではそうそう顕現することは無いじゃろうのう』


「そうでしたか。神様方にはご迷惑をおかけしてしまいました」


『なに、もともとは妾の夫神がしでかしたことの後始末じゃ。気にせんで良い』


「ははーーッ、ありがとうございます」


『それはそうとそろそろ日が落ちる頃じゃな』


「はい、既に日本国土の半分以上の地域で日が落ちています。西方や離島ではまだ日が落ちていないところもありますが、すべての地域で日が落ちるまでもう一時間も無いはずです」


『そうそう、そう言えばひとつ注意することがあったのじゃ。妾の権能で日本国内に棲むすべての獣を有袋類へと変化させると言うたが、正確には【すべての地上に棲む獣は】と訂正しておこう』


「と、言われますと、イルカやクジラなどの海棲哺乳類は従来通りの有胎盤哺乳類のままということでしょうか?」


『まさにその通りじゃ。この世界の過去に絶滅した有袋類の中にも、並行世界の有袋類の中にも、イルカやクジラ、そのほかアシカやオットセイなどのように海に適応した有袋類は1種類もいないのじゃ。まあカワウソのように普段は地上で暮らしていて、時々水の中にも潜っているというような有袋類はいるのじゃがのう』


「それが何か問題なのでしょうか?」


『いや、特に問題はない。イルカやクジラが有胎盤哺乳類のままでも、仮に有袋類に変化できたとしても、青い光の柱の神がウィルスを隔離する方法に変わりはないからのう』


「はあ、よくわかりませんが、神様方が行うことであれば、そのようにしてください』


『ほほ、素直じゃのう。さて、そろそろ頃合いじゃろう。東のほうから順々に地上に棲むすべての獣たちを有袋類へと変化させて来るのじゃ。西の端まで変化させ終わったら、妾も神力を使い果たして眠りにつくので、あとのことはよろしく頼むぞえ』





 そして、その日の日没後、女神様の力により日本国内の地上に棲むすべての獣が有袋類へと変化したのであった。

さすがにフィクションでも海棲哺乳類の有袋類版は考えづらかったです。

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