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第14話 留学生、誤解したままTS研究会に入る +日本政府驚愕する

そろそろ巻きに入って来たかもね。

「ちょっと神賀君、なんでパッキン美人の留学生が文芸部に来てるのよ。会話の具合からして彼女、日本語が流暢ってわけじゃないでしょ。むしろ不自由でしょ。文芸部に何の用があるって言うのかな?」


 放課後、文芸部が部室としている教室において、部長の庵手絹子はTS研究会の神賀会長に詰め寄っていた。


「エレノアさんは、文芸部というよりもTS研究会に興味があるそうなんだよ。TS研究会のTSが種族(トランス・)転換(スピーシーズ)の略だって教えたらものすごく興味を示してね、ぜひ見学したいって言うんだよ」


 うんうんとうなづきながら神賀はちょっとドヤ顔だ。対して庵手部長の顔はいかにも怪しげなことを聞いたとばかりに、あきれ顔になる。


「もともとTSは性転換(トランスセクシャル)の略だったよね? それを現状に合わせて種族(トランス・)転換(スピーシーズ)って言い換えてるだけじゃないの。いいの? エレノアさんだったけ、TS研究会の実態を知ったら彼女は失望しちゃうんじゃないのかな?」


「心配してくれてありがとう。でも、今の僕たちの本当の姿を教えようと思ったら、普通の人間と有袋人類との性的な差を教えるのが手っ取り早いし、大丈夫だと思うよ」


「そう、神賀君がそこまで言うならいいけど、不祥事だけは起こさないでよね」


「不祥事って?」


「それはまあセクハラとかセクハラとかセクハラよ」


 さすがに留学生相手にセクハラをしたとすると、国際問題になりかねない。と、庵手部長は危惧していた。まあ少々心配し過ぎという気がしなくもないが、現状、今の日本と海外諸国との関係は、庵手部長の想像以上にギスギスしていたので、実際のところは考えすぎということは全くなかったのだ。


 さすがに異文化の差よりも種族間の差のほうが大きい。なにせ異文化間の男女の間に子供は生まれるが、異種族間の男女の間には子供は生まれないのだ。子はかすがいとはよく言うが、そのかすがいたる子供がいないという条件は、種族間理解を得る上ではかなり厳しい要素となるはずだ。


「むしろ僕たちのほうがセクハラを受けそうな気がするんですけどね」


「そうそう俺なんかエレノアさんに目いっぱいおっぱいを揉まれちゃってさあ、大変だったんだから」


 エレノアの有袋人類に対する興味の強さを思って、神賀は素直な感想を口にする。そして庵手部長と神賀の会話を横で聞いていた有恩は、自分の大きなおっぱいを下から持ち上げるようにして『困っちゃう~~♪』と言っている。しかしその表情は笑顔で全然困っていなさそうに見える。

 

 ちなみにホームルームが終わった後もわずかな時間が出来るたびに、エレノアはぐいぐいと神賀と有恩のもとにやってきては有袋人類とホモサピエンスの違いについて聞いてきたのだった。しかしホモサピエンスと有袋人類の違いを話そうとするとどうしても性的な話にならざるを得ないので、神賀はもちろん有恩も本音の部分ではちょっと困っていたのは確かだ。


「ま、いいわ。とにかく頼んだからね。不祥事はダメだからね」


「「りょうか~い♪」」


「ふたりとも可愛らしく言ってもごまかされないわよ」


 神賀も有恩も含めて最近の男性たちは有袋人類へと種族転換してから自分達の可愛らしさを自覚したのか、以前と比べて言動がそこはかとなく可愛らしいものへと変化しつつある。


 そんな神賀の様子に庵手部長は内心で萌えつつも、口ではそれを認めずに神賀のもとを離れたのだった。


「ええと、エレノアさん。とりあえず文芸部とそこに所属するTS研究会のメンバーを紹介しますから、こっちに来てください」


 TS研究会は文芸部に所属している同好会なので、部室に入ってもらう前に文芸部部長の許可をもらわないといけないという理由で教室外で待っていてもらったエレノアに対して、神賀は教室のドアを開けて声をかける。


 するとエレノアは待っていましたとばかりの勢いで、教室に飛び込んできたのだった。


「ハジーメマシテ リュウガクセイ ノ エレノア・キャバロ デス。ヨロシク オネガイ シマース!!」


 元気いっぱいの金髪美人である。しかも口調がたどたどしいのでなんとなく天真爛漫な雰囲気が醸し出されている。だからだろうか。その場にいた文芸部員及びTS研究会のメンバーは皆が皆、すぐにエレノアのことを受け入れてしまったのだ。


 実は彼女はアメリカ政府からの回し者だということには気が付かずに。


「ようこそエレノアさん。ボクが文芸部の部長の庵手絹子よ。絹子って呼んでね。よろしくね」


 イケメン風の高身長な庵手部長が挨拶として右手を差し出し握手を求めると、エレノアは戸惑うことなく両手で庵手部長の右手を握りブンブンと上下にシェイクした。


「オー キヌコ サン スゴク ハンサム デース。イロイロ ト オシエテ クダサーイ」


「ハンサムって言われても、ボクは女子なんだけどね」


「ソウ デシタ。ニホンジン ノ セイベツ ハ ミタメ ト ギャク デシタ。デモ ヤッパリ ハンサム デス」


 にぱっとしたエレノアの笑顔に庵手部長もそれ以上言う気にはならず、なんとなくもやっとしたものを感じながら握手していた手を解いた。


「小荒阿良子です。今日は文芸部というよりはTS研究会のほうに用事があるそうだけど、私たちに答えられることがあればいくらでも答えてあげるから、遠慮しないでね」


 ひと段落したところで今度は小荒がエレノアの前に立ち、軽く会釈してからそう言った。庵手部長よりも身長はやや低めだが筋肉がついてがっしりとした体格なので、会釈をしていても威圧感がある。


「ウワーッ キンニク イッパイ ノ マッスルマン デス。タヨリ 二 ナリソウデース」


 しかしエレノアは全く威圧感を受けてる様子はない。考えてみればエレノアの母国はアメリカ合衆国である。小荒よりも体格が良くてもっと筋肉マシマシな野郎はいくらでもいる。この程度の筋肉と体格は慣れっこなのであろう。


 そういえばエレノアと一緒に留学してきたジェイコブ・オーロックもガタイの良い筋肉野郎だった。


「はは、ありがとう。前までだったら女子に言う誉め言葉じゃないけど、今となっては誉め言葉かな」


「オー ソーリー。マタ ヤッテ シマイマシタ。ゴメンナサイ。アラコ サン」


 連続して女子の心を逆なでしたかもしれないと思ったエレノアは、さすがに神妙な顔つきをする。


「ははは、いいって、いいって。マッスルマン。良い誉め言葉だと思うよ」


 文芸部員なのにどこか体育会系の雰囲気で小荒阿良子はそういった。


「さて、そしてそこにいて可愛い男の子を抱いている女の子が武宇羅美須美ちゃんよ。抱かれているのは御厨修武くんね。美須美ちゃんは寒がりでいつも御厨くんを抱いてるのよ。そしてふたりは幼馴染で恋人同士なのよね」


 美須美も御厨も、ふたりともエレノアのほうにやってこないので、代わりに庵手部長がふたりのことをエレノアに紹介する。


「武宇羅美須美です……」


「ええと、こんな格好ですみません。御厨修武です。よろしくお願いします」


 基本、御厨以外には愛想の悪い美須美と、対外的にも愛想が良い御厨であった。


「ヨロシク オネガイ シマース」


 恋人同士のふたりの間に入るのは危険と察知したのか、エレノアはごく簡単に挨拶を済ませると、今度は神賀達がいるTS研究会の面々のほうへと近づいた。


「ミナサン ガ ティーエス ケンキュウカイ ノ メンバー デスネ。エレノア・キャバロ デス。ヨロシク オネガイ シマース」


 本日何度目になるのかという『ヨロシク・オネガイ シマース』の声とともに、エレノアはTS研究会の輪に入って行ったのだった。






「というわけでな、エレノア君。我輩が知る限り、有袋人類というのは本来彼らが進化した並行世界でもかなり特殊な生態を持つ種族というものらしいのだよ」


 滔々(とうとう)と語っているのは坂東先輩だ。他人に知識をひけらかすのは大得意というか大好きである。しかもその話を聞いているのが有袋人類に関して興味津々なエレノアであるから非常に真剣にその話を聞いてくれる。というわけで坂東先輩の舌の動きは止まることがなかった。


「ナルホド デース。オトコ ノ ホウニ コドモ ヲ ソダテル フクロ ガ アル ノハ ユウタイジンルイ ダケ ナノデスネ」


「うむ、神様情報に依れば有袋人類の前の段階の有袋霊長類、つまりは猿とかゴリラやチンパンジーの仲間だな、そういった有袋霊長類は地球の有袋類と同じで雌のほうに赤ちゃんを育てる袋、育児嚢が付いていたそうだ」


 エレノアの日本語を理解する能力の関係上、実際にはスマホの翻訳機能とかを併用しつつの会話となっているのだが、けっこう込み入った難しい話でも、エレノアはしっかりと理解しているようだ。


「ソレニシテモ 二ホン ダケ カミサマ ガ デテクル ナンテ ナンダカ ズルイ デス」


 有袋人類に関する坂東先輩の話が一段落したとき、エレノアがふとそう漏らした。それは日本以外の諸外国で疑問に思われている点だった。


『なぜ日本の神だけ顕現したのか? なぜその他の宗教の神は顕現してくれないのか?』


 そんな疑問が特にキリスト教国やイスラム教国では強く思われていたのだ。


「ああ、それならなんとなく分かります」


「エ? カンガ サン ワカル ノ デスカ?」


「日本の神様は日本の少子高齢化で人口が減ってきているのを憂いて現世に介入してきたっていうことだから、世界的にみて人口が増えてきている宗教の神様は現世に介入しようと思わないってことだと思うよ」


 神賀がそう言うと、有恩も尾歩都もそれに同調し始めた。


「確かにキリスト教やイスラム教は宗教人口そのものは増加傾向って話だったかな。『産めよ増やせよ』ってやつがうまく行ってるならあえて神様が出てくる必要ないよな」


「佐夢も神賀会長の意見に賛成です。日本の場合は日本人が増えない限り日本の神様を信仰している人間は増えないですけど、世界的な宗教の場合は人口増加しなくても改宗とかで宗教人口が増えればそれで良しってキリスト教やイスラム教の神様も思ってそうですね」


「デモ、ワタシタチ モ ジッサイ 二 カミサマ ヲ カンジテ ミタイ デス」


 というわけでちょっとエレノアの本音が出たところでTS研究会の面々は、この話をするのを止めた。宗教の話は突っ込みすぎるとトラブルの元だと理解していたからだ。





「良し、ではそろそろ我輩はトイレ休憩を取るべきだと思うのだが、神賀はどう思う」


「そうですね。エレノアさんの希望もありますし、男子トイレなら女子たちが入ってくることもないでしょうから良いんじゃないでしょうか」


「確かに人目が少ないということなら男子トイレだな。もともとアレをエレノアさんに見せてあげるという話だったし、さすがに教室の中では女子の目もあるから無理だよな」


「なんだかおもしろそうな話ですね? 佐夢にも教えてください」


 実はエレノアのおっぱいを触らせてもらう代わりに自分たちのお腹の袋、育児嚢を見せてあげるという話は坂東先輩には伝えてあるが、尾歩都にはまだ話してなかったのだ。


 というわけで有恩が尾歩都の耳に口を寄せて簡単に説明するのだった。


「なるほど、今まで通りの普通の人間の女子の……ですか。確かに佐夢も触ってみたいですね。感触の違いとかあるんでしょうか?」


「いや、だからそれを確かめるためにだよ」


 有恩は自分の胸を持ち上げるよう揉み揉みしつつ尾歩都に答える。


 そんなきゃいきゃいとした雰囲気のままTS研究会の男子連中と留学生のエレノアは、最寄りの男子トイレへと向かうのだった。


「ほんとにもう、セクハラとか事案とか起こさないでよ」


 心配する庵手部長を残して。






「オー コレガ コドモ ヲ ソダテル オナカ ノ フクロ デスカ!?」


 男子トイレに入ったTS研究会のメンバー4人の男子と、女子留学生のエレノア。言葉だけを見るとなんだかあり得ない組み合わせに思えるが、両者とも着ている制服はブレザーにスカートという現在の男子の制服だ。実際の見た目を見ると全然おかしな組み合わせではない。


 しかも男子トイレとは言うが、その中身は以前の女子トイレそのもので、個室しか並んでいない。


 そんな個室の一室で、まずは有恩がエレノアにお腹の袋を見せていた。


「さあ、お腹の袋を見せてやったんだから、エレノアさんも俺におっぱいを触らせてくれよ」


 約束していたのだから当然の権利とばかりに、有恩はエレノアに要求する。しかしまあ性欲にまみれたようないやらしい顔をしているわけでは無く、純粋にホモサピエンス系人類の女の子のおっぱいは、自分たち有袋人類のおっぱいと違いがあるのか無いのかという知的好奇心にあふれる、わくわくとした顔つきだった。


 決して痴的好奇心というやつではない。と、思う。


「ワタシ ハ オッパイ ヲ サワラセル ノダカラ ウオン サン モ ワタシ 二 オナカ ノ フクロ ヲ サワラセテ クダサイ。ソウジャ ナイト フコウヘイ デス」


 有恩の要求に対してエレノアは約束とは違い、勝手に条件を吊り上げてきた。さすがに何でもビジネスで解決しようとするアメリカ合衆国の出身者である。


 実際のところは既にエレノアは教室で有恩のおっぱいを触っているので、『お腹の袋を触らせてくれ』というのは過剰な要求ということになるのだが、そのところふたりは、特に有恩は気づいているのだろうか?


「うーん、まあ確かにお腹の袋を見せただけで、おっぱいを触らせてくれというのもなんだし、じゃあ触ってもいいよ。でも、お腹の袋は有袋人類の男の体の中でも一番敏感なところだから優しくしてくれよな」


 そして有恩はどうやら気づいていなかったようだ。しかも流されやすい日本人でもあった。それに加えて体が変化して以降、日本の男性は以前の女性のような精神構造へと変化しつつあり、強く押されるとそれに抵抗するのは難しいという者が大半となっていたのだ。


 結果、エレノアは嬉々として有恩のお腹の袋、つまりは有袋人類の育児嚢を触り始めるのだった。






 さて、一方、日本国政府の中枢部某所では、神々しくも禍々しい雰囲気の黒い闇の柱が現れていた。神様のご降臨である。


 しかしその禍々しさは急速に消えていき、その黒い闇の柱も単なる闇ではなく、宇宙に星たちがきらめいているように、何やらキラキラと輝く宝石がちりばめられているようになってきた。


『まったく、我が夫が妙な事をしでかしてしまって申し訳ない』


「も、もしやあなた様は我々を有袋人類の体へと変化させた神様の妻神様であらせられるお方でしょうか?」


「死の世界とも、地下世界とも言われる黄泉の国を治める神様……」


「そして日に千人の人間を殺そうという誓いを立てられた神様ですね」


『まあ、そのとおりであるが、いささか事情が変わってのう。確かに(わらわ)は日に千人の人間を殺そうと誓ったのだが、言い方を変えれば、日に千人の人間を黄泉の国に招き入れる誓いを立てたということになる』


『そして黄泉の国とは地下世界と言い換えられるので、妾は今の日本の地下に作られた居住空間に人間を日に千人招き入れる誓いを立てた神と言い換えられると思うのじゃが、いかがかな?』


「あの、女神様。つまりはいったいどういうことなのでしょうか?」


『そなたら察しが悪いのう。つまりはじゃ、妾と夫との間にできた三人の子供の神たちが作った地下居住空間におぬしたちのすべてを招き入れれば、晴れて妾は、夫との勝負に勝つことができるというわけじゃ』


(勝負って、女神様が『日に千人の人間を殺してやろう』と言って、男神様が『ならば日に千五百人の人間を産ませてみせよう』と誓い合ったあれか?)


(あー、もしかして、日本人が有袋人類化したのって、神様同士の壮大な夫婦ゲンカ?)


「それで、話は戻りますが、何か女神様が手を貸してくださるというお話でしたが、具体的にはどういうことなのでしょうか?」


(とりあえず神様同士の夫婦ゲンカのことは触れないでおこう。なんだか怖いし)


『妾は死者の国、つまりは黄泉の国、ひいては地下世界を治める女神じゃ。つまり地下世界に関する権能を持つ神ということになる。お前たちが悩んでいる地下居住空間に建設する予定の各種設備や住居などを、一瞬のうちに建設することなどたやすいことということじゃ」


「一瞬のうちにですか?」


『やれやれ、疑い深いのう。……ほれ、調べてみい。もう出来たぞ』


 その後、現場担当者から地下居住空間に建設すべきすべての施設や住居などが一瞬のうちに出来上がったという報告が上がってきたのであった。

世界の他の国の神様のことも書かないといけないねえ。次回かな?

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[一言] 日本の神仏には仏教出身/インド出身や道教出身/中華世界出身の神々もいますからねえ。
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