第11話 疑似赤ちゃんなミルク飲み人形。 +神様達からの贈り物
このシリーズの久々の執筆と投稿なので、雰囲気が変わっているかもしれません。
放課後の部活動の時間。文芸部に属するTS研究会の面々は、今日も今日とてTS的(?)な話題で盛り上がっていた。
「なるほど。育児嚢の中の乳首を吸われ続けると、胸のほうの乳房が近い将来の授乳に備えて大きくなると。言われてみれば当たり前の話だな。それが神賀の胸のおっぱいがなんとなく大きくなってきていた理由か。なるほど、なるほど」
前で組んだ腕の上にその巨乳をたぷんと載せながら、うんうんとうなづく坂東空徒TS研究会前会長。
「佐夢が検索して調べてみたところに依ると、確かに神賀会長の言っている内容と同じことを言っている書き込みとかが結構出てきていますね」
そう言うのは、ぽちぽちしゅっしゅとスマホを操作していた一年生の尾歩都佐夢である。彼もまた貧乳であるからか、バストアップの情報を検索するその目は真剣であった。
「へえ、じゃあ俺もお腹の袋の中に赤ちゃんを入れて授乳したら、もっと胸が大きくなるのかな」
ふむふむと尾歩都が持つスマホの画面を後ろからのぞき込むのは有恩抜人である。
「……先輩、……当たってるんですけど」
「いやあねえ。当たってるんじゃなくて当ててんのよ♪」
嫌そうな声の尾歩都の声とは対照的に明るくそれでいてからかっているような有恩の声。まあ確かにふざけているのだが何はともあれ楽しそうではある。
「有恩先輩の胸の大きさならもうバストアップは必要ないんじゃないですか?」
「確かに俺の胸はどっちかと言えば大きいほうだが、坂東先輩に比べたらまだまだ小さいからな。まあ尾歩都のちっぱいよりは圧倒的に大きいのは確かだけど」
そこで有恩は自分の胸を下からぽよんと持ち上げる。もちろんその行為は尾歩都の神経を逆撫でするのだった。
「うふふっ、有恩先輩。暗い夜道には気をつけてくださいね♪ 最近では男がひとりで夜道を歩くのは危ないですから」
暗い怨念がこもったような、それでいて明るく高い声。それは妙に怖かった。
「お、おう。気をつけることにするよ」
「ええ、【いろいろと】気をつけてくださいね」
急に背中がぞくっとした有恩は重要なことを思いだした。
(しまった。そう言えば尾歩都を敵に回しちゃいけないんだった。や、やばいな。どうしよう。こいつってば健康ランドでの件で分かったけど目的の為には手段を選ばないようなやつだったよ)
さて、有恩が内心でちょっと焦っていると、TS研究会の会長という立場からであろうか、神賀が尾歩都に話しかけ出した。
「まあまあ、尾歩都君、ここはひとつ僕の顔に免じて有恩のことを許してくれませんか。それよりも尾歩都君には見せたいものがあるんですよ」
そう言うと神賀は自分の鞄から何やら人形のようなものを取り出した。
「じゃじゃーん、疑似赤ちゃんなミルク飲み人形~~!!」
独特なイントネーションとリズムでしゃべる神賀が取り出したのは握りこぶし程度の大きさの赤ちゃん人形であった。
「神賀会長、何ですか。それ」
「ふふふ、よく聞いてくれました。これは最近発売されたハイテク人形で、お腹の中の乳首をこの人形の口に咥えさせると、内臓されたモーターとポンプで少しづつ父乳を吸い取ってくれるというものです」
「はあ、なるほど……。はっ! もしかしてそれを使っていると!?」
「そうです。お腹の中の乳首から父乳を吸われると、その後の授乳に備えて胸のほうのおっぱいが大きくなってくるという理屈です。実際に僕も使っていますから、ほら、この通り」
と言いつつ神賀はほんの少し大きくなった自分の胸を見せびらかすように制服のブレザーを開けて、ブラウスを盛り上げているおっぱいを尾歩都の目の前に突き出した。
「胸が前よりも大きくなってるでしょ?」
「言われてみると確かに少し大きくなっているような……」
目に見えて大きくなっている訳ではないが、以前の貧乳から比べると小さめの普通の胸と言えなくもない。尾歩都は明言を避ける表現で感想を述べる。尾歩都はこれでも意外と気配りができる男なのだ。
「ほう、どれどれ」
神賀と尾歩都のふたりが話していたのを横で聞いていた有恩が、すすすっと神賀の後ろにまわると背中側から手を伸ばして神賀の胸をむんずとつかむのだった。
「ひゃいっ!」
「うーん、確かに前に触った時よりも大きくなっているな。手のひらに返ってくる圧力が2割増し程度のような……。しかし前に触ったのはスーパー銭湯で裸の時だったからな。正確に比較するには少なくとも上半身裸になってもらわないことにはなあ」
そう言いつつ、有恩は神賀の胸をもみ続けていた。むにむにと。
「う、有恩君、やめてください。そ、そんなに胸をもまれたら、で、出ちゃいますからッ!」
「ん、何が出るって?」
「何がって、父乳ですッ!」
「え!?」
思わぬ答えを聞いて、一瞬だが有恩の手が止まる。その隙を逃さず神賀は有恩の魔手から逃れることができた。
「もしかして胸がわずかに大きくなった原因はおっぱいの中に父乳がたまっているからなのか?」
なるほどなあとうなずきながら、坂東先輩は神賀にそう聞いた。
「ええそうみたいです。今じゃ毎晩搾ってやらないとおっぱいが痛くなるんですよね」
などと、今やおっぱいが存在する男子たちはおっぱい談義で盛り上がっていた。しかしここは放課後の文芸部の部室である。当然、そこには文芸部の女子たちプラス一名の文芸部員たちがいたのだった。
「ねえ、阿良子」
「何ですか、庵手部長」
それまで耳をダンボのように広げて男子たちの会話を聞いていた文芸部部長の庵手絹子は、同じく文芸部部員の二年生の小荒阿良子に話しかけた。
「私、日本人が有袋人類化する前までは、男ってなんでエロ本とかエロビデオとかを必死に見ちゃうんだろうとか思ってたのよ。それにまあそういった小説とか漫画とかね」
「はあ、そうですか」
「でね、そういったものの中には母乳プレイとかいうものがあったりするわけよ」
「まあ、そういうのがあるというのは聞いたことはありますけど」
「そんなもので発情するなんて、男ってバカだなあ、気色悪いなあと思ってたのね」
「まあ、確かにバカで気色悪いかもしれませんね」
「……でもね。バカなのはボクのほうだったわ」
「え、もしかして部長……」
小荒阿良子は、今の会話がどこへと向かっているのかを悟って戦慄してしまった。
「まず男子たちが自分たちのおっぱいについて話し合いじゃれあっている。いい、ものすごく興奮しない? ねえ阿良子ッ!」
キラキラとした目で小荒阿良子を見つめる庵手絹子部長。鼻息も荒く、顔も紅潮している。そんな顔を向けられた阿良子は、なんと返事をしていいのかフリーズしてしまった。
「そして父乳なのよ、父乳ッ! 今の神賀君のおっぱいを搾ったら父乳が出てくるのよ。これが興奮せずにいられましょうかッ!!」
「部長……」
小荒阿良子はそれこそ頭痛で頭が痛いというわけのわからない状態になってしまった。まあ、本当に頭痛がするわけでは無いのだが、いやむしろ本物の頭痛だったほうがまだマシだったかもしれない。
「母乳プレイを好んでいた男をバカで気色悪いと言っていた過去のボクを殴り倒したい。ああ、そして母乳ならぬ父乳プレイのすばらしさを教えてあげたい」
その言葉を聞いた小荒阿良子は、『庵手部長、あなたバカですか。気色悪いですよ』と言いたい気持ちをグッと抑え込み、喉から出かかった言葉を無理やり飲み込んだ。明日は胃腸の調子が悪くなるかもしれない。
「というわけでボクは行って来るわよ。止めないでよ、阿良子」
「いえ、止めはしませんが、神賀君にセクハラはしないでくださいね」
「大丈夫。セクハラは愛の無い関係のところに発生するのよ。私の神賀君への愛の大きさならセクハラが発生する余地は1ミリだってあり得ないし」
そういうと庵手部長は男子たちのもとへと突撃するのであった。残された阿良子は、『一方的な愛はそれ自体がセクハラですよ』と、言いたい気持ちがあったのだが、言っても無駄だろうなという思いが勝り、結局は何も言えないままだった。
なお、一年生部員の武宇羅美須美と御厨修武はその時どうしていたのかというと、目立たないようにいちゃつきながら、文化祭で発表する用の小説を書いていたのであった。まあ、庵手部長の話に乗ったらまずいということを察したのであろう。
さて、男子たちのもとに突撃してきた庵手部長であるが、有袋人類となった女性である彼女には、おっぱいと呼べるような胸のふくらみは全くない。ただ単に大胸筋と小さな乳首があるだけである。
ともあれ、人は自分には無いものに対して憧れ、欲しがるものだからして、彼女が思いを寄せる相手である神賀留宇太に対して言う言葉は決まっていた。
「神賀君、お願い。おっぱい飲ませてッ!」
もちろん男子たちはもちろん、同じ教室にいた他の文芸部員たちもまたドン引きしたのは言うまでもない。
「なによぉ~~。父乳を飲ませる赤ちゃんがいないんだから、ボクが飲んでも問題ないでしょ」
我関せずという態度の武宇羅美須美と御厨修武を除いたTS研究会を含めた文芸部員の大半から、『気持ち悪いですよ』、『変態ですか』、『ちょっと、こっちに来ないでもらえますか』などと散々な言われ方をした庵手絹子部長であったのだが、神賀留宇太の父乳を飲みたいという情熱は少しも衰えることがなかった。
まことに変態さんの鏡である。尊敬はしないけど、そこにしびれてしまう。……ような人も世の中には1人か2人ぐらいは居るかもしれない。
さてそれはそれとして無理を承知でじたばたする庵手部長を見て、神賀留宇太は庵手部長にしっかりとダメ出しをしようと思い、話しかけるのだった。
「庵手部長、さすがに僕のおっぱいから直接父乳を飲みたいというのは絶対にダメです」
「えー、ダメなの? あ、そうだ。先っぽだけちょっと咥えさせてもらうだけで良いから。先っぽだけでいいから」
「ば、バカ言わないでください。だいたいなんですか。先っぽだけって、いったいどこの先っぽを咥えるって言うんですか!?」
「え、神賀君の乳首だけど」
「庵手部長、もしも僕たちの体がまだ有袋人類に変化する前に、僕が庵手部長にそんなことを言ったら、部長はどう思いましたか?」
「もちろんOKしたわよ。あ、でもその場合まだ母乳は出ないから、まずは母乳を出すための行為をしなくちゃいけないのかしら。うん、大丈夫。そっちもきっとOKしてたと思うから」
神賀は頭を抱えたくなってきた。
しかし、今ここで庵手部長の希望を完全否定するのは簡単だが、感情をこじらせた彼女が、例えば人気の無い夜の暗闇を一人歩きしている自分を狙って力づくで襲ってくるかもしれないと思うと、ほんのちょっとだけなら妥協したほうが良いのかもとも思えてくる。
なにしろ今の有袋人類な日本人においては、女のほうが圧倒的に体格も良くて力も強いのだ。神賀のような男性は小柄で力も弱く、今となっては襲われる側なのだから。
以前、セクハラを受ける女性の気持ちというものを完全には理解していなかった神賀だが、今となってはセクハラを受ける側はこんな気持ちになるのかと、嫌~~な気持ちになってきた。
なんとかとりあえずの歯止めは必要だ。あるいは直接おっぱいを飲ませない為に、ちょっとした飴が必要なのかもしれないと神賀はあらためて思った。
「部長、僕のおっぱいから父乳を直接飲むのは絶対にダメです。でもまあ、これに溜まっている父乳なら飲んでもらってもいいですよ。まあ、嫌ならまたお腹の袋の中にしまいますけど」
そう言いながら、神賀は制服とブラウスの隙間から手を入れてお腹の育児嚢の中にあった疑似赤ちゃんなミルク飲み人形を取り出した。
「この疑似赤ちゃんなミルク飲み人形の中に入っている父乳でがまんしてもらえませんか?」
ここが今の神賀留宇太が妥協できる限界だと見た庵手部長は、しぶしぶといった表情を作りながら、それでいて心の裏ではとびっきりの笑顔でうなづくのだった。
「いいわよ。で、その人形のどこから父乳を取り出すの?」
「お尻の部分から筒状のアクリル容器の底が見えますか? それをつまんでくるくる回すと容器が取れるんです」
と、神賀が説明するが早いか、庵手部長はくるくるっと回して容器を取り外すと、ごくごくとその中身を飲み干すのだった。
「生暖かくて脂肪分が多い感じだけど、神賀君が出した父乳だと思うと美味しいわぁ」
これ以上は無い笑顔でそう言い切った庵手部長の顔を見ながら、『やっぱり飲ませなきゃ良かったかも』と、そんな感想しか出てこない神賀でしたとさ。
さて、そんなこんなで御有辺井高校文芸部の面々が何とも平和なやり取りをしているのに対して、日本政府の某所では、神様方の降臨を迎えていたのであった。
そして顕現した三本の光の柱のうち、金色の光の柱から慈愛に満ちた女性の声が響いてきた。
『まずは我が父神様が、そなたらを異世界の有袋人類の体に変化させたことを謝罪したいと思います』
続いて銀色の光の柱からは理知的そうな男性の声が響いてきた。
『父神様は既に亡くなった母神様を生き返らそうと黄泉の国まで出向き、見るなと言われたのに朽ちた母神様の肉体を見て怯えて逃げ出すような考えなしの方でもありますからね。今回の件も、感情に任せた短慮の結果としか言いようがありません。まことにもって日本人の皆さまにはお詫びを申し上げたい』
最後に青い光の柱からは何とも豪快そうな男性の声が大音量で響いてきた。
『わっはっはっ! 短慮という点ではこの俺も負けていないのだが、とにかく詫びを入れたい。その為にお前たちには良いものを用意したぞ』
それを聞いて日本政府の中枢にいる面々は、ハッとした。例の気象庁から報告のあった日本全国各地の地下に確認された空洞構造は、この三柱の神様の御業であったのかと気がついたのだ。
『わらわの権能により地下にいくつもの空間を作りました。そしてエネルギー元としての核融合炉も併設しました。何、天岩戸を作る権能と太陽を司る権能を使えば造作もないことです』
『俺の権能である水と風を司る能力で、空気の循環と地下水流による冷却を可能にしておいた』
『智の神でもある私の権能で、我が姉と弟が作った施設や設備を管理運営できるシステムを組み込んでおきましたので利用してもらいたい』
「……あの、神々の皆さまに恐れ多くもお尋ねいたしますが、ご用意していただいた施設というのはもしや大規模なシェルターのようなものでしょうか?」
『それよりは快適な地下生活空間ですね。これからの人口増加を考えると、積層化した居住空間は今の数十倍の人口を収納することができます。まあ核の飽和攻撃にすら耐えることができるシェルターでもありますがね』
日本政府の中枢メンバーは、あまりのことに思考が停止しそうになるのであった。
月を司る銀色の光の神様は、暦を読む神ということから智を司る神ということにしましたが、この解釈は一般的ではないかもしれません。




