第9話 抜き打ち持ち物検査だよ。 +日本政府の誤解
二回目のワクチン接種を8月25日に済ませたのですが、昨日の夜、37度2分くらいまで熱が上がったんですよ。これって副反応なのか、それとも風邪なのか、体調の悪化による発熱なのか、それとも新型コロナなのか。
解熱鎮痛剤を飲んで一晩寝たら体温も平熱に戻っていましたけど、今の時期、体調がちょっと悪化すると心配になりますね。
それはそうと、第9話、お楽しみください。今回はあんまりエッチじゃないけど、有袋人類ならではのネタが入ってます。
ここ御有辺井高校では定期的に持ち物検査がされるのであるが、今日は例の神様の力によって日本人の肉体が有袋人類へと変化させられてから、最初の持ち物検査の日であった。しかも抜き打ち検査であった。
ただ、その抜き打ち検査も真に抜き打ち検査となったのは早めに登校した生徒に限られた。他の大多数の生徒たちは、早めに登校して抜き打ち検査を食らった生徒たちからのグループ連絡網を受けて、本日は抜き打ちの持ち物検査があると把握していたからだ。
というわけでまだ駅にいた生徒たちは共同でコインロッカーを使って、学校に持ち込んではいけないものを預けてから登校するものも居たりした。
もはや学校まで直前の場所で情報を受け取った者は、学校生活に不要とされる物をタオルや体操服などで包んでクッションとして、更に手持ちの袋に入れてからそのまま学校の塀を越えて中に放り込んで後から回収しようとする生徒たちもいた。
しかしまあそういった企みは、校門で持ち物検査をする先生たちとは別に、学校の塀の内側を巡回する先生たちによって発見されて、一時的に没収される運命となることが多かった。
もちろん、中には企みが成功してまんまと御禁制のブツを校内に持ち込むことに成功する生徒も中にはいるが、それは少数派である。
そしてお菓子など食べ物を持ち込もうとしていた生徒たちの対応は2パターンに分かれた。ひとつは没収される前に食べてしまおうというグループと、もうひとつは様々な手段でお菓子などを何とか隠して持ち込もうというグループであった。
とは言っても、なかなか隠しきれるものではない。もともと弁当を持ってきている生徒たちは、弁当を包むきんちゃく袋の中にいれたり弁当包みの中に一緒に包んだりして、『これは昼食の一部である』と言い張ることでお菓子を校内に持ち込もうとする生徒も居たのだが、そういう詭弁は受け入れられない。ルールは非情なのである。
しかし今回ばかりはとある方法により、校内に持ち込んではいけない物が大量に持ち込まれてしまったのであったのだ。
しかしてその方法とは……。
「あ、坂東先輩、ポテチどうぞ。ちょっと割れているかもしれませんが」
と言ってポテチの小袋を坂東先輩に差し出すのは尾歩都である。というか、今、どこからポテチの小袋を出したのであろうか?
「おお、すまないな。何、少しばかり割れていても味には問題ない。それよりもお礼だ。我輩からはコーラグミをあげよう。ああ、そのほかにも甘いものが食べたいならラムネ菓子もあるぞ」
やはり坂東先輩もどこからともなくお菓子を取り出して尾歩都に手渡した。
「ありがとうございます。佐夢はどっちも大好物ですよ。特にこの体になってからは甘いものに目が無くなってしまって」
ニコニコととても良い笑顔で答える尾歩都。TS研究会のメンバーが【部活動】と称してスーパー銭湯に入り浸っているのは以前にも紹介したが、そういう【部活動】の内容により、三年で前会長の坂東空徒とまだ一年生の尾歩都佐夢の仲は急速に縮まっていた。というか既に恋人同士の関係である。人前でチューするのも間近かもしれない。
なお、最近ではスーパー銭湯には警備員が常駐するようになり、以前にあったような事件はほぼなくなっている。
さて、というわけで板東先輩と尾歩都がお菓子の交換をしつつイチャイチャラブラブとお互いの体に触れあったりするのはもういつものことであった。さらにふざけてお互いのおっぱいを触りあったりもしている。
「坂東先輩のおっぱいって、ポテチでできてるんでしょうか? 佐夢のおっぱいも早く大きくなって欲しいです。同い年の御厨君のおっぱいはあんなに大きいのに、佐夢のはこんなに小さいなんて、どこか病気なんでしょうか?」
ちょっともじもじした【演技をしながら】坂東先輩の手を取り、尾歩都は自分のまだ小さな育ちかけの胸へと導いた。もちろん導かれたほうの坂東先輩の手は、尾歩都の声に出されていない願いをかなえるべく、その小さなおっぱいを優しく触る。夏の制服であるブラウスの上から触り、やがてブラウスの中に手を入れようとして、さすがにそこは自制したのかそこは手を止める。
坂東先輩、さすがにまだ理性は失っていない。しかし尾歩都はどこか不満そうだ。顔を赤く上気させている。羞恥心はちょっとお出かけして留守になっているらしい。
「触ってみるに尾歩都の胸は、まだ固い。乳腺が今まさに発達している証拠だ。同じ小さくても神賀会長のように小さく育ち切ってしまった貧乳とはわけが違う。何度も言うが尾歩都の胸は将来のあるちっぱいだ」
うんうんとうなづきながらそう励ます坂東先輩。『えー、本当ですかぁ』などと言いつつ尾歩都は両手を可愛らしいく握って胸の前で合わせてポーズをつける。そもそも尾歩都は自分の胸の小ささをそれほど気にしていない。坂東先輩に言われていることが真実であると分かっているからだ。つまり自分の胸にはまだ将来がある。これから大きくなる未来がある。神賀会長とは違うのだ。
「尾歩都君、今、チラリとこっちを見ませんでしたか?」
貧乳という言葉に対して最近敏感になっているTS研究会の現会長の神賀留宇太は、ジロリと尾歩都をにらむ。しかし笑顔は忘れない。そのほうが迫力があると思っているのだ。まあ、美人さんの顔になっているので、確かにその認識は正しいかもしれない。
「いえいえ、たまたま佐夢の視線の先に神賀先輩がいらっしゃっただけです。他意はありませんよぉ」
「ははは、なるほどそうですか。佐夢君、同じくおっぱいが小さいもの同士、仲良くしたいものですね」
「そうですね。僕も頑張っておっぱいを大きく育てていきますから、神賀先輩も頑張ってくださいね。ほほほほ」
「ありがとうございます。佐夢君。一緒に頑張りましょうね」
そう言ってニコリと笑う神賀会長の笑顔はピクピクと痙攣していた。そして神賀にしてみたら、尾歩都の笑顔はどこか勝ち誇ったように見えてしまうのは、考えすぎだろうか? まだおっぱいが胸に出来てから一ヶ月少々しか経っていないのに、すっかり以前の女子のような感性になっている男子たちであった。
「おい、神賀。ほれ、おっぱい大きくしたいならとりあえず飲んでおけよ。俺が持ってきた豆乳あげるから」
そして神賀と同じく二年の有恩抜人も、やはりどこからか取り出した豆乳の200mlパックを神賀に差し出した。いわゆる豆乳の中に含まれるイソフラボンは、女性ホルモンと極めて似た構造をしており、育乳に良いとされる成分である。もちろん有袋人類の男性たちにも良く効くはずだ。
「う、あ、ありがとう。いただきます」
その豆乳を受け取ること、イコール自分が貧乳であることを認めるような気がして、一瞬、とまどいを見せた神賀であったが、認めようが認めまいが自分が貧乳である事実は変わらないという現実に気が付いて、力なく豆乳を受け取るのだった。もちろんお礼は欠かさない。
「お返しに何かあげましょうか? イカのくんさきとかしかありませんが」
「渋いなあ。お前、そういうのが趣味だったの?」
「いや、けっこうおいしいですよ」
「何も不味いとは言ってないけど、美人さんの外見で食べるにはちょっと似合わないかなと俺は思うぞ」
有恩がそう言うと、神賀はちょっと考え込んだ。
「……なるほど。確かにちょっと似合わないかもですね。ポテチやグミにラムネ菓子、そして豆乳。それらは今の姿になった僕たち男子には似合うでしょうが、イカのくんさきは似合わないと。うーん、味覚のみを気にして、見た目に配慮しなかったのが不味かったですね」
「神賀よ、我輩としても、これからは外見に合わせるという点にも気を配るのが良いと思うぞ。TS研究会の名が廃る」
「ですね。ですね。佐夢も今の外見に似合う物が無いかなって考えて買い物をしていますよ。もちろんお菓子もですが、色々な小物とかも以前とは違って可愛いものを買いそろえているんですよ」
イチャイチャラブラブしていたはずなのに、ちゃっかりと会話に混ざってきて、神賀に対してマウントを取っていく先輩の坂東と、後輩の尾歩都。会長のはずなのになぜか立場というか、存在が軽く見られているような気がしてならない神賀であった。
「ま、それはそれとして、なんだか急にイカのくんさきを食べる気が無くなりました。どうしましょうね。これ」
と言いつつ、神賀は手でイカのくんさきのパッケージを弄びだした。
そしてそれら一連の出来事を驚きの目で見ていた者がいた。文芸部のうち、部長の庵手絹子と絹子と同じ二年生の小荒阿良子である。
「ちょ、ちょっと待ってッ! 男子たち、今、そのお菓子たちをどこから出したの? というか朝の抜き打ち持ち物検査で没収されなかったの?」
「そういえば、昼休みの時もお菓子を食べていた男子たちがけっこういたけど……」
文芸部のふたりの二年生は訳が分からなくてオロオロしだした。というかそこまで気を取り乱さなくても良いのに、まこと、作者思いの見上げた登場人物たちですね。ありがたいことです。
「庵手部長、それならここからですよ」
と、声をかけたのは文芸部には所属しているがTS研究会には入っていない唯一の男子である御厨修武であった。彼はブラウスのボタンを外すのではなく、その裾の下から手を入れて何やら取り出したのである。マシュマロであった。
「はい、美須美ちゃん。どうぞ」
「ん、ありがと」
御厨は、取り出したマシュマロを、自分を後ろから抱きしめている寒がりで自分と同じ一年生の文芸部部員である武宇羅美須美に手渡した。
「も、もしかして御厨君、そのマシュマロって御厨君のお腹の……」
あわあわとしつつ、真実にたどり着いた感のある庵手部長が御厨に問いかける。
「ええ、僕のお腹の袋、育児嚢の中にしまっておいたお菓子です」
ドやあという顔で答えを言う御厨。そしてそれに対して『うんうん』とうなづくその他の男子、すなわちTS研究会のメンバーであった。
「なあ、もしかして、けっこうな男子たちが抜き打ちの持ち物検査をすり抜けてお菓子を持ち込んだのって、腹の育児嚢の中に入れていたからなのか? なるほどなぁ。ねえ、良かったら私にもマシュマロをくれないかな? さっきから糖分不足で頭がいつものように回らないんだよ」
「小荒先輩、じゃあこれをどうぞ」
「ありがとう。でも育児嚢をマジでポケット代わりに使えるなんて、なんだかうらやましいなあ。私も袋が欲しくなっちゃった」
真実を知って、『考えてみればそれしか方法ないよなあ。なんで気が付かなかったんだろう』と比較的冷静に事態を理解した阿良子は、ちゃっかりと御厨からマシュマロをゲットした。
ところが庵手部長の反応はちょっと違っていた。彼女は事態を理解すると神賀会長に向き直り、あわあわと緊張したまましゃべりだしたのだった。
「か、神賀君。なるほど。分かったわ。OK、OK。そのイカのくんさきは神賀君のお腹の袋の中に入っていたのよね。うん、納得だわ。で、今は食べる気が無くなったと。なるほどね。で、だったらボクが食べても良いんだけど、ちょっといただけないかしら。もちろん後でお返しはするから。ね、どうかな?」
恐ろしくキョドったような、それでいて結構な早口でしゃべるその口調はとても怪しいと神賀には思えたのだったが、特に断る理由も思いつかなかったので、手に持ったイカのくんさきを庵手部長にあげることにした。
「はい、どうぞ。先生には見つからないようにパッケージのゴミは持ち帰って下さいね」
「も、もちろんよ。神賀君の育児嚢の中に入っていたイカのくんさき。ああ、ちょっと乳臭いような汗臭いようなそんなにおいがブレンドされた、これが神賀君のにおい……」
神賀からイカのくんさきを受け取った庵手部長は、すぐにパッケージを開けて食べ出すかと思いきや、パッケージに顔を押し当ててクンクンとにおいを嗅ぎだしたのだ。
それを見た神賀は、一瞬、背中がぞわりとしたのだが、無理やりその気持ちを押し込んだのだった。『そうか、これがキモオタにすり寄られた以前の女性の気持ちか。確かに気持ち悪いな。まあ、僕のことを好きでいてくれるのはありがたいけど、やっぱり気持ち悪いなあ。いや、むしろ完全に付き合いだしたらこういうキモさって無くなるのかな。いっそのこと正式につきあっちゃうほうが良いのかな……』と、そこまで考えたところで、神賀の顔からボッと火が出るような感じで顔が赤くなった。
神賀琉宇児、まだ肉体が変化する以前から、今まで何度も何度も、数えきれないほど庵手部長からアタックされていたのをいなしてきたのだが、ここに至り、とうとう神賀は自分も庵手部長のことを実は好きになっていたということに気が付いたのであった。
「え、もしかして僕って庵手部長のことが好き!?」
神賀琉宇児、夏なのに春であった。
さて、例によって日本政府の某所では、いかに例の神様の意に沿って『産めよ増やせよ』と、いかに人口を増加させるかという討議がなされていたのであったが、実は日本政府は例の神様の意思というか指示をちょっと誤解していたのであった。
それは何かと言うと、神様としては、【別に生まれてくるすべての赤ちゃんを無事に育てる必要は無く、亡くなっていく人々よりも生まれて育っていく子供たちのほうが多くなって結果的に人口が増えていけば良い】と考えていたのだが、日本政府は、【生まれてくる赤ちゃんのすべてを無事に大人にまで育てなければいけない。なおかつ産児制限もしてはいけない】と考えていたのだ。
これはどういうことかと言うと、並行世界である異世界の地球で進化した本来の有袋人類たちは、けっこう生まれてきた子供たちを間引いて育てていたり、そもそも産まないようにしたりしていたのだ。
通常、1年で12人もの赤ちゃんを産むことが出来る有袋人類の女性であるが、栄養状態が悪くなると、母体を守る為に受精卵の成長がストップしてしまうという他の有袋類にも共通する特徴があった。というわけで文明レベルが低くてすべての人々に食料がいきわたらない状態では出生数がセーブされることになる。
また、既に生まれてきた赤ちゃんがいたとしても、その有袋人類の群れなり村なりで食料が足りなくなると、まだ未熟児状態の赤ちゃんを哺乳して育てないという選択肢を選ぶということもあったのだ。つまりは有胎盤人類に当てはめれば中絶という手段を取るのと同じことをごく自然に行うことが出来たのだ。
まあ、考えてみれば食料状況に応じてそういうことをしなければ、有袋人類の社会はあっという間に食料の生産量以上に人口が増えて崩壊してしまう。特に文明レベルが低い状況ならなおさらだ。
しかし日本政府は、先にも言ったように、【生まれてくる赤ちゃんのすべてを無事に大人にまで育てなければいけない。なおかつ産児制限もしてはいけない】と誤解して考えていたのだ。
これでは将来的な人口の急激な大増加が起こるのは必至であり、食料を第一としてすべての資源が足りなくなるのは間違いない。
実は日本政府、自らの誤認識から危機を自ら引き寄せていたのだった。
「人口増加率を試算すると、住宅も食料も資源もエネルギーも、何もかもが足りなくなる。いったいどうすればいいんだ」
「国が産児制限をするのは良くないが、結果的に出生率が落ちるように誘導するというのはどうだ?」
「ふむ、具体的にはどうする?」
「まあ例えば、男女それぞれに自慰用の道具を年齢制限なしで販売可能にするとか、LGBT絡みにして同性婚を法的に認めるとか、色々あるだろう」
「……それもまたやむなしか」
「同性婚はまあ良いとして、自慰用の道具の年齢制限なしでの販売はさすがに神様の意思に反するのではないのか?」
「将来の性交の為の練習、トレーニング用品として販売すれば良いかと」
「詭弁だ。しかしそれしかないか」
「しかし有袋人類の種族的特徴なのか、特に若者たちの性欲がかなり強くなっているとの報告もあります。自慰用の道具程度で、強くなった性欲を押さえきれるものでしょうか?」
「各メーカーの努力に期待する」
「それから、どうも世界各地で奇妙な病気が同時多発しているとの未確認情報が……」
「例のパンデミックを起こしている新型ウィルスの話ではないのか?」
「ええ、それとはまったく別で、難産による死産や母体共々命を無くすケースが世界各地で見られているそうなのですが、その場合、共通して胎児の頭が通常よりも目に見えて大きかったという話が出ているということで……」
「おいッ! それはもしかして例のッ!!」
「ああ、脳肥大化ウィルスだ。間違いない」
「まさかこんなにも早く影響がッ!」
日本政府の某所は、今日も混乱に満ちていた。
自慰用の道具の件は、そのうち、かなり先になりますが、真夜中のほうで語れるといいですね。
それより前に、美須美ちゃんと御厨君の日常を書きたいなと。




