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第1話 日本人。神様に肉体変化を強いられる。

今までのジャンル分けからすると、この作品がどのジャンルに収まるか分かりません。おそらくすごくニッチなジャンルかと思いますので、ほぼ、自分の趣味です。自分に読ませる為に書くという感覚ですが、もしもこんな作品がお好きならどうぞお読みください。

「うーん、僕たちの今の状況ってTSしているってことになるんですかねえ?」


 御有辺井ごうべい高校という名の男女共学の普通科高校。その文芸部に兼部して所属するような形で存在するTS研究同好会の男子会員たちは、三日前からの肉体状況の変化に対して、いまだに戸惑いの色から抜け出せないでいた。




 その三日前の正午、日本人全員の耳に軽やかな鈴の音が響いた。そして、厳かな声が聞こえてきたのだ。


『我は日本の国生みをした神なるぞ。最近の日本人の体たらくに居ても立っても居られなくなり、現世に干渉することにした』


 日本の国生み神話に出てくる神様と聞き、知っている人はまさかあの有名な! と思い、知らない人は何だ何だと騒ぎ出す。しかし声の主の威圧感により、誰もがこの声が神の声であることを疑うことが出来ないでいた。


『神代の昔、ともに日本の国生みをした我が妻が火の神を産んで亡くなったので、我は死者が住まう黄泉の国に出向いた。そこでまあ色々とあり、妻神めがみがこの国の民を日に千人殺してやると言うので、我は日に千五百人の子を産ませようと宣言したのだが、最近のお前たちの状況はどうだ。少子高齢化と言われて久しく、子供はなかなか産まれない。総人口も減りつつあるというではないか。まったくもう情けなくなってくるぞ』


 そういえばそんな神話があったなと、知ってる人は思い出す。知らない人の中にはスマホをポチポチシュッシュッとして検索し始める人も出てきたりする。


『そこでだ。我はこの状況を打開すべく、日本人がもっと子供を産んで育てていくにはどうしたら良いのか考えに考え、日本人すべての肉体を新たな種族へと変化させることにした。最近はやりの別な言い方をするなら進化させると表現しても良い』


 そこで一部の教育された人々の中には、『キターこれで勝つる』などとバカ言っている人達も出てくるのであるが、詳細については割愛したい。


『少子高齢化の原因として、出会いの少なさによる晩婚化という一因もあるが、妊娠出産が母体に負担をかけすぎるという点と男性が育児に係らなすぎるという一因もあると見た』


 最初の意見に若い適齢期の男女の大多数がうなづき、二つ目の意見にほとんどの女性と一部の男性が深くうなづいた。


『我は異世界の、つまりは並行世界の地球における異種族として進化した人間の遺伝子情報を参考にして、日本人の肉体を究極的に子育てに向いた肉体へと作り変えることにした』


『なお、肉体の変化は一瞬ではあるが驚いて事故を起こすといけないので、乗り物を運転していたり機械を操作したりしている者は運転や作業をいったん停止してもらいたい』


 ここでしばし声は途切れるのだが、数分の後に神様の声がまた聞こえてきた。もちろん人々は威圧感ある神様の言葉に逆らう気持ちがまったく起きてこないので、神様の指示は的確に実行されたのだった。


『……さて、準備はよろしいか。今からお前たち日本人の体は有袋類から進化した有袋人類へと変化する。こころせい! はッ!!』


 国生みの男神おがみの声なき声を聞いた日本人の大多数は、「え、有袋類!? カンガルー?」などと思ったのだが、その思考が口から出て言葉になる前、まさに一瞬のうちに肉体変化は完了した。


 そして……。


「「「「「なんじゃこりゃーーっ!!」」」」」


 日本国内の日本人はもちろん、そして海外在住や海外旅行中の日本人も含めて世界中の日本国籍を持つ日本人という日本人のすべてが、なんと今まで男だった者はまるで女のような外見に、そして今まで女だった者はまるで男のような外見へと変化していたのだった。


 しかし男女がそれぞれ逆の性別へとTSさせられたのかと言えばそうではなく、事実はもっとややこしいことになっていたのであった。


『さて、色々と聞きたいことはあるだろうが、すべてをこの場で説明しても受け止めるだけの知識が無ければ理解できないであろう。よって我が子孫の家の長たる者の元にすべての事情を記した書物を授けておくので、後でゆっくりと現状を理解しておくが良い。では、よき子孫繁栄を願っておるぞ』


 そして唐突に始まった神様の言葉は大いなる変化を日本人全員の肉体を変化させ、始まった時と同じく唐突に終了したのであった。




 というわけでその三日後に戻る。


「……TSしたというより、男の娘じゃね?」


「でも女装とは違って肉体変化もあるわけだし、部分的TSじゃないのかな?」


 冒頭の発言をしたTS研究会会長で二年生の神賀留宇太かんが るうたに対して、同じくTS研究会会員で二年生の有恩抜人うおん ばっとと一年生の尾歩都佐夢おぽつ さむが答える。


「有恩君は男の娘と言いましたけど、僕は男の娘とはまた違うと思います。男の娘は肉体的には完全に男なのに女装すると女の子にしか見えない存在と理解していますが、現状はそれとは違いますよね。例えば今、僕は妹から借りた女子の制服とブラジャーをしていますが、これって女装ですか?」


 そういいつつ留宇太はブレザーとブラウスの前ボタンを開けると、そっと身に着けたブラジャーを有恩と尾歩都の二人に見せるのだった。ブラジャーに収まった胸のふくらみは三日前までにはなかったもので、その存在感を二人に見せつけていた。


「見せなくていいいから!」


「しまって、しまって!」


 今では自分の胸にも同じふくらみが付いているというのに、有恩と尾歩都の二人は席を立ち、神賀の前に立つ。そして同じ教室を部室として使っている文芸部の部員の視線を、特に部長の庵手絹子あんて きぬこからの視線から遮るのだった。


「……もしかして見えちゃった?」


 服装を整え終わった神賀は、特に気にする様子もなく庵手部長に声をかけた。


「見えちゃったけど、ふ、不可抗力だからね!」


 ちょっと焦る庵手部長。顔が赤い。ぶんぶんと手を振っているのが感情の乱れを表している。


「あ、いいよいいよ。庵手部長にもちょっと前まではついていたものだし、特に珍しくもないよね」


「そ、そうよね。確かにボクにも前まではついていたから珍しくはないけど、留宇太君の胸についてるっていうところがムニャムニャ……」


「ふうん、なんだかよく分からないけど焦らせちゃってごめんね」


 言い訳が告白になっていることにお互い気が付くことなく神賀と庵手部長の会話は終わる。


 ちなみにそれを聞くTS研究会のメンバーである有恩に尾歩都だけではなく、文芸部の他のメンバーである小荒阿良子こあら あらこ武宇羅美須美ぶうら みすみ、そしてTS研究会には所属していない文芸部員男子の御厨修武みず おさむにはバレバレだ。


「まあ、話を戻すと、確かに神賀は女子の制服を着ているしブラジャーもつけているけど、女装って感じじゃないわな。普通に服を着ているだけというか、肉体にマッチした服を着ているというか、そういうことじゃね?」


「むしろ男子の制服をそのまま着ている有恩君や佐夢のほうが男装している感じっぽいよね」


 神賀の指摘に納得する有恩と、尾歩都。なお尾歩都は自分のことを佐夢と言う子である。


「というわけで僕たちの状況は男の娘じゃないし、肉体変化はあるけどTSそのものはしていないからTSではないし胸は膨らんでいるけど部分的TSというわけでもないと思うわけですよ」


「まあ、胸はふくらんでおっぱいはあるわ。お尻は大きくなって腰にくびれはあるし、手足も小さくなって筋肉も少なくなって背も縮んで髪も伸びて、外見上は三日前までの普通だった女の子にしか見えないけど……」


 そういいつつ男子制服の上から膨らんだ自分の胸を持ち上げる有恩。もともとぽっちゃり系だっただけあって、今の胸のふくらみも大変にボリューミーである。なおブラジャーはまだつけていない。


「でも股の間には今までとはちょっと形が違うけど、ついているものがついてるから、佐夢たちってやっぱり男子ってことで、結局はTSしていないってことでいいのかな」


「しかしなあ、俺たちがまだ男子のままだというのはいいとして、マジかよ。神様の話からすると俺たちは有袋類になってるってんだろ。自分の体の変化を知ったうえでもまだ信じられねえぞ。俺は」


「だけど有恩君、僕たちのお腹にいわゆる袋、つまりは育児嚢が付いているのは紛れもない事実ですよ」


「だからそれだよ。なんで男の腹に袋がついてるんだよ。普通の有袋類ってメスのお腹に袋が付いてるんじゃねーのか?」


「……オスのお腹に子供を育てる袋があるって、なんとなくタツノオトシゴみたい」


 と、会話がそこまで進んだところで、そういえば三日前の神様の声は、『妊娠出産が母体に負担をかけすぎる』、『男性が育児に係らなすぎる』という発言をしていて、だから日本人の体を有袋類から進化した有袋人類に変化させると言っていたなということを三人は思い出す。


 たしかに有袋類になれば、女性の妊娠出産にかける負担は大幅に小さくなる。なにせホモサピエンス系人類の妊娠期間は十月十日というが、実際には39週から40週で、約9ヶ月である。対して有袋類の代表ともいえるオーストラリアのカンガルーの妊娠期間は約一ヶ月でしかない。


 そして男の腹に育児嚢、つまり子供を育てる袋と乳が付いているなら、ほぼ強制的に男性が育児に関らざるを得なくなる。


「肉体的には一応は男性のままだけど、今後の社会的な役割は何となく男女で逆転しそうな感じですね」


 神賀は握った右手のこぶしを軽くあごにあてて、「うーん」とうなった後で思ったことを口にした。


「じゃあ、俺たちの今の状況って、TSっていうよりも、『あべこべ』ってやつじゃね?』


「でも、いわゆるあべこべ系の作品って、基本的には肉体の変化って無いですよ。少なくても佐夢が知っているあべこべ作品では肉体変化はなかったと思います」


 ついでに尾歩都はスマホをいじりだして、小説サイトで『あべこべ』という言葉を入れて検索し始めた。神賀も有恩もそれにならってスマホをいじりだす。


「……確かに、『あべこべ』でもなさそうですね」


 しばらくスマホをいじって色々と作品を斜め読みしてみた神賀はそうつぶやく。そして有恩も尾歩都もうなづいて同意した。


「ところで神賀会長、今後のTS研究会はどういう活動を中心にしていくんだ。ここまで男女の状態が変化しちまったら、いままで通りのTS作品を書いたり、読んで萌えたりできる自信がねえぞ」


「たしかにね。『うおー! 俺の胸におっぱいが!!』なんてシチュエーション、もう今更って感じだし、佐夢としても書きかけのTS小説をそのまま書く気が起きなくなっちゃった」


「やっぱりそういう結論になりましたか。僕としてもこうなってしまったらTS研究会を解散して、正式に文芸部に吸収合併してもらうということも考えていたんですよ」


「まあ、それもしかたねーんじゃねえの」


「うん、佐夢もそう思う」


 三人が今後のTS研究会の未来なき未来に思いをはせ、しょんぼりしていると、部室として使っている教室のドアがガラリと開き、ぶかぶかの男子制服姿の男子生徒が入ってきた。


「諸君! 話は我輩も聞かせてもらった!! TS研究会は滅亡する!!」


「「「坂東先輩!」」」


 突然乱入してきた人物、それはTS研究会の前会長、三年生の坂東空徒ばんどう くうとであった。

とりあえず例の雰囲気のシーンで切ってみました。ストックはありませんので、次話はしばらく先になります。


でもなあ、有袋人類になった日本人の男達に袋と乳が付いているって設定、考えると萌えてくるんだけど同志はいらっしゃるのでしょうか。この先、しばらくは温かい目でお待ちください。

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