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第7話 悪魔の試験

 たぶん想像力の試験に合格した。でも、「合格だ!」とは言われてないから、ちょっと不安だ。でも根性を試すとか言っていたし、普通ならもう少し時間が掛かるのだろう。


竹「じゃあ、次は運動神経を見て行こうか。ここで確かめるのは戦えるかどうか、だ」

吉「何をするんですか?」

竹「んー、何しよっか」

吉「決まってないんですか」

竹「じゃあ」

 と言った竹中さんはスッと刀を創る。

竹「これは葬送刀ソウソウトウとか魄切刀ハクセツトウとか言われてる。でもだいたいは褫魄刀チハクトウって呼ぶかな」

吉「かっこいいですね」

竹「じゃあ、ツクってみて」

吉「はい」


 僕は漫画でしか見たことがないが、刀を想像する。いろいろな漫画を読んできたが、どんな風が良いだろう。すごく反った刀とかカッコイイかな。

竹「おーい。悩み過ぎだぞー」

吉「すみません。こういうのコダワりポイントじゃないですか?」

竹「どんな武器を使うかは、あとで細かく考えるから、とりあえず俺のと似たやつを創ってくれ」

吉「あ、今はテスト中でしたね」

竹「そうだぞ。本題を忘れがちなのは減点だなぁ」

吉「減点とかあるんですね…。加点されるにはどうすればいいですか」

竹「僕らの大半は刀状を使うけど、魄は半分液体みたいなものだからね。戦闘自体はもっと、なんていうか、自由?なんだ。だから、刀を扱うセンスはそんなに大事じゃない。自由な想像力があるかどうかで加点かな」

吉「自由な戦い、ですか。てことは、刀じゃない人もいるんですね」

竹「まあ、そうだな、槍、トンファ、メリケンサック、銃、すぐ浮かぶのでこれくらいかな」

吉「銃もあるんですか」

竹「魄を消費しちゃうからあんまりいないけど、中にはそういう変わり者もいる」

吉「はえー」

竹「もういいか?早く創刀してくれ」

吉「あ、はい」

 

 目の前にある刀を見る。自分の手に想像する。どのあたりが体と繋がっているのだろう。竹中さんに見せてもらうと手の平だけが引っ付いているようだった。でも握ると指とも引っ付くらしい。持ち手を想像し、握る。魄を注ぎ込む。

 刀のツカが完成した。ここに刃を生やす。確か、ツカの中にも刃の一部があったはずだ。ツカの中から刃を伸ばす想像をし、魂を注ぎ込む。

 まだ完成じゃない。たぶんまだ柔らかい。硬くするために魄を注ぎ込む。左手で刃を触ると金属のように硬い。どうせなら色をつけよう。と、思ったところで竹中さんの静止が掛かる。

竹「よーし、できたな」

吉「はい…」

竹「ん?まだか?」

吉「いえ」

竹「じゃあ、今から打ち込むから、刀で受けてみて」

吉「わかりました。頑張ります」

竹「いくぞ」


 竹中さんはそう言った途端、僕の脳天にめがけて、なかなかの速度で打ち込んできた。

 僕は頭を守るように刀を出す。

 しかし、僕の刀はスッと切られる。

 ヤバい。死ぬ。そう感じたとき、僕の体は横に飛びのいていた。

竹「おー、避けた。すごいね」

 見ると僕の頭があった位置の少し上くらいで竹中さんの刀は止まっている。

吉「え?なんで」

竹「うーん。意思とは別の物があるんだ。例えば、転びそうになった時に、もう片方の足がとっさに出る、みたいな。魄体だとそれが生きてた頃よりも速く働くんだけど、吉末くんは異常に速いね」

吉「褒められてますよね?」

竹「うん、褒めてるよ」

吉「やった」

竹「でも、刀が柔らかすぎるな」

吉「それは…、そうですね。硬くイメージしたんですが」

竹「そうか、魄をたくさん込めた?」

吉「はい、密度を上げるように頑張りました」

竹「んー、違うな。硬さと密度は関係ないんだ」

吉「どういうイメージが良いんですか?」

竹「とりあえず、これを吸収して刀を直してくれ」

 落ちた僕の刀の半分を手渡す。

吉「痛くないんですか?それに、消えないですね」

竹「まあ、俺くらいになるとな」

吉「え?」

 折れた刃を預かり、吸収し、刀を直す。

竹「ああ」

吉「他の人の魄に触ると痛いし、魄の量を測るときは3人で保つんですよね?」

竹「ああ」

吉「え?」

竹「俺を誰だと思ってるんだ?天下の第五だぞ?あ、これ言ってなかったな、すまない」

吉「第五ってすごいんですか?」

竹「わからないのかよ」

吉「はい、すみません」

竹「そうだな、第五の仕事は国境警備だ」

吉「はえー」

竹「凄さわかってるか?」

吉「いや、わからないですね」

竹「海外から飛行機とかで敵が乗り込んでくることがあるんだが、それを殲滅するんだ」

吉「はえー、1日にどのくらい来るんですか?」

竹「そうだな、1日でだいたい5つくらいの国から10~20人の精鋭が来るかな。日本は宗教に染まらないから敵も多いんだ」

吉「そういえば外国人を見かけないですね」

竹「まあ、そうだね。仲間にもほとんどいないな。彼らとは分かり合えないから仕方ない。彼らに侍の美学はわからないんだ」

吉「そんなこともないと思いますけど」

竹「何度も外国人の入隊者を試したけど、彼らのほとんどに集団を大切にする心は無かった。日本以外のアジア人に協調性はないし、西洋人には家族以外への愛や執着は無い。自己犠牲や誓字チカイノジの意味がわからないらしい」

吉「うーん。そうですかねぇ。映画とか見てると『ここは俺が食い止める!』みたいなシーンをよく見ますけど」

竹「まぁ、そりゃ、中にはそうじゃない人もいる。たまーに白人の褫魄隊員もいるぞ。だが、どうしても国民性ってものがあって、褫魄隊に入れる人は少ない」

吉「はえー、そうなんですか。ところで第五は何人くらいいるんですか?」

竹「いやぁ、知らないなぁ。俺がいる羽田は5人だけど」

吉「少ないですね」

竹「そうなんだよ、毎日超大変よ。中国なんて飛行機にパンパンで送ってくるし」

吉「羽田ってめっちゃデカいですよね。5人で大丈夫なんですか?」

竹「まぁ、そうだな、俺たちは全員が大隊長クラスだから心配はいらない。自分で言うのもなんだが、日本の褫魄隊はたぶん世界最強だ」

吉「中国とか強そうですけど」

竹「あの国はそうだなぁ、数の暴力というか、、、」

吉「やっぱり日本以外は宗教組織が優勢なんですか?」

竹「よし、じゃあ、魄の世界の情勢について話しておこう」

 

 そう言って竹中さんは少し早口になりながら沢山喋った。たぶん政治とか歴史とか、そういうのが好きなんだろう。でも、どうやって世界の情報を集めるのだろう。拷問で聞き出す、という方法が頭に浮かび、確信する。おそらく自分の命惜しさに情報を売る人が多いから、外国人に対する認識があまり良くないのだ。

 一通り話した後、竹中さんは我に返る。

竹「そういえば、刀を硬くするコツを教えようとしていたんだ」

吉「そう言えばそうでした」

竹「必要なのは、相手の刀を止めるイメージかな。相手は切るイメージを持っているから、それに対抗するイメージが必要だ」

吉「そこもイメージなんですか」

竹「そりゃそうだ。切れると思えば何でも切れる。切られないと思えば何にも切られない」

吉「え?その2つがぶつかると?」

竹「イメージが正確で強固な方が勝つ。刀の本来の硬さは最後の最後、想像力が競り合うときにはじめて効いてくる、かな」

吉「そうなんですか」

竹「まあ、硬さのイメージと切られないイメージの違いが俺にはわからないんだが」

吉「竹中さんはどっちのイメージですか?」

竹「俺は、切られない、と言うか刃が通らないイメージだ」

吉「なんでもいいんですね」

竹「ああ、なんでもいい」

吉「魄の世界って曖昧過ぎませんか」

竹「これだから理系ってやつは」

吉「気に入りませんねぇ」

竹「そうかぁ。でも、そろそろやろっか」


 話がすぐに脇に逸れてしまい、なんだか集中力も削がれる。でもヒントはたくさんもらった。切ろうとするイメージが通じるってことは、相手の魄にも作用できるってことだ。

 バフ、デバフを同時にできればかなり強くなれそうだ。同時に考えるなんて本当にできるのだろうか。本部長は全員の話を聞いていたけど、そのレベルに到達するには時間が掛かりそうだ。まずは一つ一つを考えずにやれるようになろう。

 刃が通らないイメージ、刃を止めるイメージ。竹中さんの刀を振る速さに目はついていけないから当たる瞬間に、なんて言っていられない。ずっと当たった瞬間をイメージして、待ち構えればいい。

 刃に刃が当たったときに、こっちの刃は硬く、絶対に切られない。炭化チタンよりも硬いこの刃は何にも切られない。大丈夫。

竹「よし、いくぞ」

吉「はい」

 

 竹中さんは軽く速く刀を振り下ろす。さっきの刃が切られるシーンが浮かびそうになるが押さえつける。硬く、止める。カンッ!と木刀同士が当たったような高い音が鳴る。

竹「いいね。飲み込みが早い。でも、」

竹中さんがグッと押し込むと、僕の刃はスッと切れた。

竹「まだまだだから、戦えるなんて思わないでくれ」

吉「えー、どうしたらもっと硬くなりますか?」

竹「いい向上心だね、でも、イメージを正確に、強固に。あとは、複数のイメージを重ねられるようになればいい。心配しなくてもいいよ。今はそれで十分だ」

吉「一瞬、さっきの刃が切られるシーンが頭に浮かびそうになったんです」

竹「ああ、それを押し殺すのがイメージの強固さだ」

吉「めっちゃ難しいですね」

竹「そりゃそうだろう。歴戦のベテランでも失敗のイメージが湧いてヤられることがある。どう対処するかだが、根拠のない自信をつける、これが一番だ」

吉「なるほど、自信ですか。褫魄隊に堂々としている人が多いのはそういうことですか」

竹「そういうことだ。よし、続きをやるぞ。全方向から打ち込むから止めてみて」


 折れた刃を戻し。もう一度気を構える。殺されはしないだろう。たぶん。

竹「いくぞ」

吉「はい」

 

 右上から打ち込んでくる。構えていた手が右上に動き、竹中さんの刃を止める。

 左下から打ち込んでくる。手首を返し、刃を受ける。

 上から打ち込んでくる。刀を横に倒して頭を守る構えを取ると、竹中さんの刀は僕の手に向かって斜めに動き出す。慌てて手首を引き、刃を受ける。

竹「避けてもいいんだぞ」

 なんて言いながらどんどん打ち込んでくる。

 なんだか早くなっている気がする。気のせい?いや、確かにさっきより早い。

 どんどん早くなる。でも何故か対処できている。

 カンッ!カンッ!と響く音がうるさい。みんながこちらを見ている気がする。

 まだまだ早くなる。マジかよ。

 

竹「10...9...8...」

 竹中さんがカウントダウンを始める。

 もう扇風機の弱くらいのスピードに感じる。

 脳があると感じるほど、頭がフル回転するのがわかる。

 

竹「4...3...2...」

 もう終わる。

竹「0...」

 と言うと同時に、突きを繰り出してくる。

 

 足は踏ん張っており、すぐには反応できない。だが、体は向かってくる刃を避けようと懸命だ。下から手首が動いて来る。シノギと呼ばれる、ツバに近い部分が、向かってくる刃を上向きにらす。そして僕の体も大きく反れる。

 足はそのままで体が床と平行になり、目の前の切っ先を見つめている。

竹「よーし。文句なしの合格だ」

吉「途中殺気出てなかったですか?」

竹「プレッシャーをかけていただけだよ」

吉「あんなに速くて寸止めできるんですか?」

竹「どうして俺が止める必要があるんだ。吉末は受けるし避けるじゃないか」

吉「はい?」

竹「散ったら散ったで、そこまでのタマシイだからね」

吉「はい?」

竹「ん?何か道理が通ってないところがあるか?」

 

 最初はゆっくりと言葉を選んで喋っていたのに、今や流暢リュウチョウに恐ろしいことを言ってのける。本当に悪魔のような人もいるのだ、これからは注意しないと。

タカムラ「随分無茶なことをしていたな」

竹「本部長、こいつの反射は凄い才能ですよ」

篁「第五の死神が褒めるとは、すごいじゃないか」

吉「え?聞いてましたよね?この人僕を殺そうとしましたよ」

篁「そんなの冗談に決まっているじゃないか」

竹「さ、次の試験に移りましょう」

 あ、話を逸らした。

吉「まあ、イイですけど」

篁「俺が直々に測ってやろう」

竹「いいんですか。ありがとうございます。俺友達がいなくて誰にしてもらおうかと思ってたところだったんです」

篁「いいんだよ。第五じゃ仕方ない」


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