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第16話 剣技の実見

 遂に戦闘訓練に入る。夜と聞いていたが、予定より速く進んでいるみたいだ。

 牧邨マキムラさんの方針は、戦闘訓練を通じて基礎を強化していくというものだ。

 まだ基本に過ぎないが、やはり刀を使うとなると心が躍る。

 牧邨さんはニヤついており、僕をわからせる気満々だ。

牧「じゃあ、構えてみてよ」

吉「分かりました」


 僕は適当に構えてみる。どっちの足が前なんだろう。

 とりあえずバットを振るときは左足が前だから左足を出してみる。

牧「いや右足が前でしょ」

 恥ずかしい。先制攻撃を受けてしまったか。苦い顔になってしまうがそのまま構えを正す。

牧「ホントにそれでいいの?始めるよ?」

吉「竹中さんの剣も受けたんでダイジョブですよ」

牧「え!?竹中さんの全力を?」

吉「それは分かんないですけど、見えないくらい速かったです」

牧「同時に何発も打たれた?」

吉「それは...なかったかなぁ」

牧「あの人が本気になれば1秒足らずで木っ端だよ」

吉「コッパですか...」

牧「私も2秒あれば木っ端にできるかなぁ」

吉「ホントにされそうで怖いです」

牧「やってみようか?」

吉「え...」

牧「防げるんでしょ?」

吉「…」

牧「うそだよ」


 牧邨さんは笑いを含んだ声で言うが顔は笑っていない。僕のことを本気で試そうとしている、いや、イジめて楽しもうとしている顔だ。嗜虐心が顔にまで出る人はなかなか見かけたことが無い。こんな一面もあったのか。

牧「なんでもいいや、とりあえず打ち込むよ」


 そう言って無造作に打ち込んでくる。びっくりしたが何とか反応する。「へぇ~」と楽しそうだ。そこから続けて数回打ち込んでくるが全て受けて見せた。

牧「だんだんスピード上げてくね」

 そう言われてから僕が吹き飛ぶまでは早かった。

 だんだんではなく、どんどんスピードが上がり、打ち込んでくる力も強くなる。

 そして踏ん張りが効かなくなる。

 速いし重い。最悪だ。

 そして「おわり!」と聞こえた直後に左脇腹に痛みを感じ、僕は宙を舞っていた。

牧「安心して!吹っ飛ばしただけだから!」

吉「ンなんで~」


 理解が追いつかないけど伝えたい巨大な思いが「ンなんで~」と出てしまった。またこれでいじられるのだろう。

 急にムカついて来る。脇腹はジンジンと痛いし、やった本人はケタケタ笑っている。叩き切ってやりたいがそれは無理な話だろう。この世界じゃ寝首を掻くこともできない。

 完全に泣き寝入りだ。悔しい。

牧「どうだった?最後の見えてた?」

吉「...見えなかったですけど。悪いですか?」

牧「あれ?もしかして怒ってる?」

吉「暴力振るわれて怒らない人いないでしょ」

牧「いやいや、急に暴力を振るわれたら心が折れちゃうものなんだよ。だから普通の人はおやじ狩りとかに合っても反撃できないの」

吉「いきなりってほどじゃないですけど」

牧「それでもだよ。闘争心が消えないのは戦闘に向いてる証拠だよ」

吉「急に褒めだして、罪の意識でも芽生えたんですか?」

牧「違うよ!ホントにそう思ってるの!」

吉「人をぶっ飛ばしてって罪の意識がないなんて、社会人には向いてないですね」

牧「そんなこと言わないでよ...、しょうがないじゃん...」


 あんなに楽しそうに僕を吹っ飛ばしたのに、僕が悪いみたいになっている。地雷を踏んだか?普通はあんなことされたら怒るでしょ。僕は悪くない。

 だが、これから色々な事を教わる身。ここは大人にならないといけない。


 深呼吸をする。6秒で怒りは静まると言うがまだまだ煮えたぎって消えない。

 とりあえず謝るところから入る。これが続けたい人間関係を続けるためのコツだ。

吉「気にしてたんですね。なんか...すみません」

牧「いいんだよ。自覚してるのにまったく反省しない私が悪いの、ごめんね」

吉「その...暴力が楽しいのってずっとですか?いじめっ子だった、みたいな」

牧「そんなことないよ、たぶん。嫌なんだよ、人間性を失くして獣に近づいてるみたいな。そうはならないぞって思ってたのに...」

吉「そんな理性を失くしてるとかじゃないですよ、きっと。仲間の魄散への悲しみとか、僕を育てようって気持ちとか、とても人間ぽいじゃないですか」

牧「でも、それを否定できるくらいに暴れるのがだんだんと楽しくなっていくの。昔は躊躇タメラいさえあったのに、慣れだすとこの衝動がだんだんと膨らんでいって私を支配していくんだよ?そんな優しさなんて小さすぎるよ」

吉「でも僕を切らなかった」

牧「それは...」

吉「本当は暴力が嫌だけど躊躇ってたら殺されるから、その気持ちを心の奥に押し込めた、みたいな心理じゃないですか?」

牧「んーそうかなぁ。でも、ありそうな感じだね。あれ?心理学専攻だっけ?」

吉「いやぁガチガチの理系ですけど、心理なんてパターンなのでたぶん合ってますよ」

牧「パターンねぇ...それが分かって、対処方はあるの?」

吉「いや、対処法は知らないです」

牧「なにそれ意味ないじゃん」

吉「こういうのは自分の心の状態を知っておくことが大事なんですよ」

牧「なるほど、戦いと一緒だね」

 牧邨さんはなぜか納得したふうに頷いた。

牧「ありがと。なんか励まされちゃったね。私の方がお姉さんなのに」

吉「だいぶお姉さんですけど関係ないですよ。元気は分かち合うものです」

牧「だいぶ?聞き間違いかな?ぶっ飛ばすよ?」

吉「あ...、聞き間違いです」

牧「今後は吹っ飛ばしても謝らないから!」

吉「えええ~」


 元気になった牧邨さんは「どうしようか」と呟きながら胡坐アグラをかいた。

 そうして5分くらい僕を放置したあと、笑顔で僕を見て最初の修行を告げた。

 笑顔になった牧邨さんはかわいい。

 許す空気になってしまったので許してしまおう。ここで許せない方がストレスだ。

牧「だいたいの力量は分かったから、そうだね、最初は受け方からかな」

吉「剣の振り方とかじゃないんですか?」

牧「生き延びることを第一に考えたらさ、防御上手いしそれを生かして防御に徹してスキを突くような戦闘スタイルが良いと思ってね」

吉「ええ~カッコイイ感じのは...向いてないですかね...」

牧「それは分からないけど、攻めるのもタイミングとリズムが大事だからね。私か打ち込むのもしっかり観察してね。それも狙いだから」

吉「なんだか退屈そうです」

牧「退屈する暇ないと思うよ」



 そして早速修行が始まる。

 さっきと同じような体勢を取らされて、同じように打ち込まれる。

 さっきと違うのはアドバイスがあることだ。 そのアドアイスは、「肘が開いてる!」だったり「腰が高い!」だったりするが、毎回その部分を叩かれる。

 そして嫌らしいことに、その攻撃に対する防ぎ方だけは教えてくれない。

牧「いいねぇ、良くなって来たよ」

吉「痛いです!」

牧「こういうことは体で覚えないとね」

吉「恐怖を覚えそうです!」

牧「いいね、恐怖と防御はセットだからね。怖いから防ぐ、痛いから防ぐ、ってとっても大事だからね」

吉「僕に恐怖を植え付ける段階ってことですか」

牧「そゆことー」

吉「 他にやりようはないんですか?」

牧「確実だし早いからね!んで、この指摘するときの攻撃にも対応できるようになれば最高だね」

吉「時代にあってないですよ~」

牧「最近の子は不満を言えば通ると思ってるの?」

吉「正しいと思うから言うんです!」

牧「経験もないし天才でもないのに、なんでそんなに自信たっぷりなの?」

吉「論理的に考えて、ですよ」

牧「その論理が正しいかどうか分かんないじゃん」

吉「いや、正しいを積み重ねてるのが論理なんですよ!」

牧「正しいと思い込んでるの?危険すぎない?」

吉「...そういうもんなんですよ!」

牧「この組織はまともな人しか居ないから従うだけでいいのに」

吉「いやぁ、さすがにそんなことは無いでしょう」

牧「いや、ヤバい人はれないから」

吉「いや、普通の倫理感は持ってないのに普通に生きてる人もいますよね」

牧「んー、ホントにたま~にいるね。審査を潜り抜けるくらいヤバい奴。でもそういう人は追放されるんだよ。集団行動に向いてないから神仏会も避けるくらい。そういう人たちがどっかで集まってるって噂もあるけど」

吉「え、もったいなくないですか?」

牧「もったいないって?」

吉「魄ですよ。世界に少しでも返さないといけないんじゃ...」

牧「んー、一緒に戦った仲だからね。簡単に「じゃあさよなら、ズバッ!」って風にはできないよね。1人でやりたいように仕事してねって感じ」

吉「えー。思ったより甘いですね」

牧「追放ってていだからかな?一応仲間みたいな暗黙の了解だよ」

吉「ホントに1人行動って感じなんですね」

牧「あ、これあんまり言わない方がいいやつかも、忘れたていでよろしく」

吉「それでいいんですか?」

牧「みんな知ってることだからね」


 何やら不穏な話だ。組織から追放された人が自由に活動している。数は少ないだろうけれど、本当に関係は良好なのだろうか。予備戦力のようなものだろうか。


 不安が1つ生まれたところでまた修行が始まる。さっきより笑顔でビシバシを暴力をふるってくる。何も言わなきゃよかった。

 それからは時間を忘れるくらいに集中していた。しばらくして牧邨さんが「そろそろ休もうか」と言ってくれた。だだっ広い床に無造作に置かれた置き時計を見ると2時を回っている。もう1時間半以上も剣を受けていたのだ。気づくと急に疲れが湧いてくる。


 だが「休む前に走ろうか」と言われ、広いフロアを全力で3周した。体は疲れないから走ることも辛くない。はずなのだが、さっきより足が出ない。体が言う事を聞かないとはこのことだ。これが逃げているときだと思うと怖い。

 遅いと罵られながらも走り終え、雑談タイムに入った。特にどうという事もないが、昔通ってた定食屋が潰れただとか、美容室が潰れただとか、好きだった芸能人がオジサンになったとかアイドルがママになったとか。時の流れを感じる話題だ。

牧「なんか、自分だけ時間に取り残されて消えて行くって、寂しいね」

吉「そうですか?止まってるように見えるだけですよ」

牧「ん-。姿が変わらないってすごく大きなことだよ」

吉「そうなんですか?でも、生きてた頃よりも生き生きとしてるんじゃないですか?」

牧「それはそうかも」

吉「だったらむしろ良いじゃないですか」

牧「そうかなぁ」

吉「死んでるみたいに生きてるより、生き生きと死んでた方が良いでしょう」

牧「さっきからなんで新人に励まされてるの!ちょっと黙って!」

吉「えええ…」

牧「励まされなくても元気だからいいの!」

吉「そうですか?考えると人生って悲しいことだらけですよね」

牧「うーるーさーいー!暗い話題出そうとしないで!」


 元気な人の隣にいるのは楽しい。その逆もまた然り。

 楽しく生きねば。もとい、楽しく死んでいなければ。

牧「じゃあ、また始めようか」

 いつの間にか立ち、いつの間にか創った刀をぶんぶん振りながら言う。

吉「この修行ってゴールとかあるんですか?」

牧「私の全力について来れるようになるまで、かな」

吉「道は長いですね」

牧「万里の道はローマに通ずる、だよ」

吉「千里の道も一歩から、ですか?」

牧「そんな感じ!さて、やるよ」



 それから4日間は同じことの繰り返しだった。

 3時間1セットで1日8回、生きてる頃なら頭がおかしくなりそうだが、何故か普通に過ごすことが出来た。これが時間が止まっているという事なのだろうか。

 これに違和感を覚えて嫌気が差すのは少しだけわかる気がする。

 

 この4日の結果を言うと、あまり成長は見られなかった。

 でも牧邨マキムラさんによると、主に持続力的な面で少しだけ成長しているらしい。師匠に「成長してるね」と言われると嬉しい。

 

 そうしてダルダルと日向ぼっこをしていると、蓮沼さん(副本部長)がやって来て牧邨さんとコソコソと話し合い、そそくさと出て行った。

牧「今日ね、新人来るみたいよ」

吉「えええ...、マジですか」

牧「マジもマジよ」

吉「こんなスパンで来るんですか」

牧「ん-。そだね、消えて行く人と同じくらい来るね」

吉「人数を調整してるって感じですか」

牧「うーん、そうだね、よほど優秀なら入れるけどね」

吉「僕はどっちの枠ですか?」

牧「そんなの知らないよ。私の代わりじゃない?」

吉「それは...、嬉しいことですね」

牧「なにその言い方!不満?」

吉「違いますよ!そういう事じゃないです!」

牧「じゃあなんなのよ!」

吉「代わりって言い方に引っかかっただけですよ」

牧「ふ~ん」

吉「ふーんてなんですか!」

牧「なんでもないよ」


吉「新人が来るって、僕のときみたいになるんですか?」

牧「僕のときみたいにって...、あー、神仏会に襲われるみたいな?」

吉「そうです、戦争みたいになるのかなぁって」

牧「どうだろね、気付かれてないならダイジョブなんじゃない?」

吉「そんなことあるんですか?」

牧「ん-、まずないかな。あとは、新人の魄量が少ないなら本部まで来ることは無いと思うよ」

吉「分からないってことですね」

牧「夜9時過ぎに着くみたいだから、それまでに連絡があるはず。なかったり、外が騒がしくなったりしたら結界に入ろう」

吉「わかりました」



 そんな話をしていたにも関わらず、剣戟を盛大に食らった後ふと時計をみると針は9時半を指していた。

 外は普段の新宿の賑わいと思われた。が、明らかに建物内の音が多い気がする。

牧「あちゃ、忘れてたわ。てかそのくらい報告しに来てよほんと」

吉「これやっぱりヤバい感じですか?」

牧「そうだね、吉末君を逃したから必死かも。もし戦うことになっても逃げに徹してね」

吉「そりゃもう全力で逃げますよ」

牧「外に出て走り回るのもいい訓練になるかもね」

吉「...本気ですか?」

牧「冗談だよ、当たり前でしょ」

吉「いや、本気で言いそうで怖いです」

牧「そんなに信用ないかぁ」


 牧邨さんは残念そうなフリをしながら結界の方に振り返る。

牧「一応実践的な訓練をしよう」

吉「ええ~今すぐ結界に行きましょうよ」

牧「もちろん結界まで移動するよ。私が前を歩くから、吉末君は後ろを向いて背中が付くか付かないかの距離を保って付いてきて。後ろも頑張って見るけど前の警戒で手一杯になるから、吉末君が見逃したら終わりだからね」

吉「いきなり荷が重いですね」

牧「みんなが下で止めてくれてるからほぼ心配無いよ。でも、気は抜かないでね」

吉「ここで文句を言っても仕方ないですね」

牧「そうそう、さっさと始めよう」

吉「はーい」



 今回は「伸ばさない!」と注意してくれなかった。たぶん牧邨さんも緊張している。

 ドキドキする心臓もないのに鼓動が速くなっている。

 チラチラと牧邨さんとの距離を測りながら、すり足で後ろ歩きをする。

 すり足は牧邨さんの指示だ。地面から足を上げるのは良くないらしい。

 さらに、水平方向の180度を警戒していたら「上下全部!」と強く言われた。

 強めの口調で指摘されたのは初めてかもしれない。でも、ショックを受けている暇はない。

 緊張の糸が張り詰めている。

 

 ズリズリと後ろ歩きする。当たらないようにチラチラと牧邨さんを見るのもストレスだ。

 遅い。ワザと遅くしているのか?テクテクと行った方が安全な気がするが。

 ダメだ、余計な事を考えるな。壁だって抜けられるのに気を抜いている暇はない。

 深く呼吸をする。真似をする。なんとなく落ち着く。


 そして敵は現れた。

 それは急な事だった。

 それは僕がちらりと牧邨さんを見た瞬間だった。

 床から刃が現れ、どう対応するか迷い、体が硬直してしまった。


 だが、牧邨さんは反応していた。

 牧邨さんは振り返りざまに刀を創り、その刀の切っ先が敵の刃を止めた。

 同時に僕は牧邨さんに後ろの方に押し飛ばされ、いや、ぶっ飛ばされ、5mほど転がった。結界まであと1mだ。「入ってろ」という意味だろう。

 僕はハイハイをして結界に入り込み、牧邨さんの戦いの行方を見守る。


 床から人がヌルっと出てくる。たぶん男性だ。細長い奇怪キカイな体型をしている。本当に人なのだろうか。

 長い刀を高速で振り回して戦うスタイルみたいだ。牧邨さんはその射程からぴょんぴょんと離れて手を出せないでいる。話では確か槍を使っていたはずだ。槍があればあの距離感でも戦えるのでは?なぜ使わないんだ?


 痩身男の攻撃は絶え間なく、深い踏み込みで刀を振り回している。舞というには攻撃的すぎるが、どこか美しいと感じる。

 それをいなす牧邨さんには余裕が見える。慣れている感じだ。あまり刀は使わずに体の動きだけでカワしている。その姿もまた美しく感じた。

 戦いってこんなに優雅なものだったかな。


 その戦いの幕引きはあっけないものだった。

 牧邨さんの持っている刀が瞬きもしていないのに知らぬ間に槍に変わり、痩身男の手首をねたのだ。痩身男は後ずさり、切り落とされた手首に一瞬視線を向け、一歩踏み出し、目を閉じて下に消えて行った。

 牧邨さんの勝ちだ。


 牧邨さんは警戒しながら後退してる。おそらくこのまま結界の中に入るだろう。

 一応僕も周りを警戒する。何か見つけたときに声を出せば聞こえるだろう。

 切り落とされた手首に目をやると、だんだんと薄くなってから消え去った。時間で言うと3分くらいだろうか。外側からではなく、密度が失われるように消えるのか。面白い。

 と思っていると、スーツ姿の女性が階段のある方から走って来た。

 あの感じは...新人だ。


 新人らしい彼女は走って結界に近付き、止まる。

 牧邨さんが「そのまま入れ!」と叫ぶと、新人は結界に手を伸ばし、入れることを確認する。

 新人が結界に入ると、僕のときと同じように本部長が声を掛け、三代さんが奥に連れて行く。

 牧邨さんは階段の方を確認しに行ってから結界に入ってくる。だれも追って来ていなかったのだろう。

牧「ふい~なんとかなったぁ」

吉「あの、ありがとうございます」

牧「これが今の私の仕事だからね」

吉「体が動かなくて...」

牧「最初はそんなもんだよ。まだ1日目も終わってないからね」

吉「頭が止まってしまうあれは何とかなるんですか?」

牧「うん、多分ね」

吉「え、多分ですか」

牧「吉末君ならきっとできるよ」


牧「大事なのは、切り替えがうまくできるか、かな。辺りを警戒して緊張するのは仕方ないんだけど、そこから体を動かすっていう、外側から内側に意識を動かす?切り替え?がうまくならないと難しいね」

吉「なるほどぉ、そういうことですか。」

牧「これも受け売りだけどね」


牧「で、どうしたらいいかって話だけど、常にこう来たらこうするって考えることが大事だね」

吉「それも受け売りですか?」

牧「そうですけど、問題ある?」

吉「いえいえ、全く無いですよ。牧邨さんの剣術の正当な後継者ですから」

牧「まったく、上手いこと言うね」

吉「牧邨さんの弟子ですから」

牧「それは...悪口?」

吉「さぁ、どうでしょうか」


牧「あ、そうだ。私の戦いを見てたと思うけど、あんな感じに戦えるようになって欲しいかな」

吉「すごく優雅でしたね」

牧「そう?それは...褒めてる?」

吉「褒めてますよ!」

牧「よーし。お手本を見せれたならいいや」

吉「槍を最初から使わなかったのは、戦い方を僕に見せるためですか?」

牧「そう!よく気づいてるね!」

吉「間合いを自由に変えられるって強いですね...」

牧「自由にって言っても、間合い程大切なモノもないから大中小くらいになるだろうね」

吉「防御に徹するので間合いマスターになりますよ」

牧「うむ、その意気だ!」


 戦いを間近で見たのは初めてではないが、最初から最後まで見たのは初めてだ。感想としては、こんな風に終わるんだなぁって感じだ。まさか片方が諦めて逃げて終わりとは。

 得たものは他にあるだろうか。武器を変えるタイミングはすごく難しそうだ。あとは距離の取り方が重要な気がする。後ろに下がっても壁に追い詰められないような立ち回りはすぐに身に着くものではないだろう。経験で僕もできるようになるんだろうか。いや、経験を積む前に死んでしまいそうだ。そうなったら悲しいな。


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