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第14話 再三の蟠り


 牧邨さんは僕の相槌も気にせずに喋る。

 しかしそれは苦痛ではない。むしろ心地良い。

 ぼーっと話を聞いているうちに頭もスッキリしてきた。

 入隊式まであと2時間もう少し訓練を重ねたい。

 牧邨さんが昔飼っていたらしい犬の話が終った。

吉「あー、だいぶ頭もマシになってきました。練習できそうです」

牧「いや、もうちょっと休もうよ」

吉「もう少しで何か掴めそうな気がするんですが」

牧「え~、うーん。仕方ない。練習しよう」

吉「とても嫌そうですね」

牧「嫌って訳じゃないよ。真剣に練習してるのはイジれないしさ。暇なんだよね。早く喋りながらできるようになってよね」

吉「それは師匠次第ですよ」

牧「こざかしいね」


 全身を同時に創ってみよう。

 服を隊服から青白ボーダーのロンTに着替え、刀を体に吸収する。

 弓を引くような恰好をし、刀の枠をイメージする。長さがはっきりと分かることでここまでもスムーズにできるようになった。

 全身が意識でき、頭もボーっとしない。目も耳も良く働いている。

 変身の輪は足元から上げて来よう。刀の枠のイメージは壊さないように。

 輪がお腹に達する前には創刀を終わらせておきたい。

 

 足元から変身しながら刀の枠に魄を流し込む。硬さはこの際どうでもいい。 

 ベルトを創り終えたときに、創刀が終了した。が、そこでホッとしてしまい、ベルトのすぐ上のボーダーが少し残ってしまった。

 視界の端で牧邨マキムラさんがニヤついている。立場が反対なら僕もそうなるだろう。が、少しムッとしてしまい、また集中が乱れてしまう。

 そこで輪が頭上に到達し、着替え終わる。

牧「ちょっと外からの刺激に弱すぎるね。これじゃお話しながらは遠い未来だね」

吉「まぁ。そういうことですね。」

牧「うーん。外の情報を処理するための脳領域はもう少し大きく確保した方が良いね」

吉「そんな余裕も無いですが、頑張ってみます」

牧「うん。どんどん練習して慣れて行こう」


 さっきよりも頭の回りがいい気がする。休むってやっぱり大切だ。

 研究所で梶本さんが言っていた、「体は疲れないけど精神的に疲れる」と言っていたのはこの事だったのだ。梶本さんはこの疲れの原因の仮説を持っているのかもしれない。

 まだまだ時間はある。あと1時間半だけ練習をして30分休もう。


 入隊式について牧邨さんに聞くと、配属される隊と地域が知らされるらしい。

 式自体は短くこじんまりとしており、10分で終わるらしいが何やら儀式っぽいものがあるようだ。 

 そう言えば褫魄隊は神道系だと言っていたが何か関係があるのだろうか。



 1時間ほど何度も何度も練習を繰り返しているうちに感覚ができてきた気がする。

 脳全体が活性化しているのを感じる。

 同時に考える、とう言うより考えなくても創刀できるようになっている。

 隊員たちと比べるとまだまだ遅いが、枠を想像してから魂を充填し終わるまで5秒もかからない。最初は5分以上かかっていた。たった2日で成長したなぁ。

吉「結構早くなったと思いませんか?」

牧「え?何が?」

吉「え?またぼーっとしてました?」

牧「うーん。よく飽きないね」

吉「もっと弟子に興味持ってくださいよ」

牧「君には興味津々だよ。でもさ、変化ないの辛くない?」

吉「辛いけど頑張ってるから、創刀が相当早くなったんですよ」

牧「ニヤついてるけど面白くないよ」

吉「え、創刀が早くなったことがですか?」

牧「ダジャレが。」

吉「ユーモアを欠かさない姿勢を評価してくださいよ」

牧「ユーモアにも良いユーモアと悪いユーモアがあるからね」

吉「これは良いユーモアでしょ」

牧「そう思うなら相当センスがない」

吉「え?創刀センスが無い!?」

牧「うざっ」

吉「ウッ!心にグサッと来ました」

牧「ウザオジっぽいのはホントにやめて」

吉「はい...すみません」


牧「いいよ。で、同時に考えられてる?」

吉「いや、創刀は考えなくても出来るようになって来た、って感じですかね」

牧「あー、良い感じだね」

吉「サッと作るのって結構大変なんですかね」

牧「それはね...。」


吉「長考しますね」

牧「うーん。まぁ戦闘訓練とか繰り返している内に出来るようになるかな」

吉「今のうちはこれで十分てことですか?」

牧「そゆこと」

吉「はえ~」


 あまり納得がいかないが師匠がそう言うならそうなのだろう。

吉「ちなみに戦闘訓練て何時イツから始めるんですか?」

牧「ん-。この速さだと明日の夜にはできるかな?」

吉「おお、早いですね」

牧「うん、だいぶ速いね」



 そこからはまた雑談になった。思っていたよりも習得が速く、暇つぶしをしても問題にならないみたいだ。牧邨さんが暇なだけではないかと邪推するが、信頼関係が大切だ。修行の進行に関しては師匠を信頼しよう。

牧「服の揺れも全然無いね」

吉「そうですね。もう1人の僕が考え続けてくれてるみたいな、そんな感じですかね」

牧「いいね、その感じ大事だよ。これだけ話しても余裕だし、維持はもう大丈夫かな」

吉「ずっと牧邨さんが話してますけど」

牧「え?そうだっけ?」


牧「じゃあ吉末君の話も聞かせてよ」

吉「話す事ないですよ」

牧「そんな寂しいこと言わないでさ、家族の事とか初恋の事とかあるでしょ?」

吉「家族ですか。そうですね...僕は独りっ子です。親が裕福じゃないので兄弟は産めなかったみたいです。塾は週に1回だけ通わせてくれました」

牧「え、すご!週1の塾で優秀な大学に進めたんだね。やっぱり私とは違うなぁ」

吉「まぁ勉強は嫌いじゃなかったので」

牧「賢い人ってそれ言うよね」

吉「賢いと勉強ができるかは違いますから。僕は勉強ができるだけですよ」

牧「それも言うわー」

吉「でー、欲しい本は買ってもらえました」

牧「あー。私の家は服だったなぁ。オシャレしなさいって。お金は愛だよね」

吉「まぁそうですね。愛の形の1つではありますね。愛はお金じゃ買えないですが」


吉「僕は2度の流産?の後でやっと無事に産まれて来たらしいので、かなり過保護でした」

牧「おお。それは、なんて言ったらいいのか」

吉「ま、そんな僕も社会に出る前に死んじゃったんですが」

牧「とんだ親不孝だね」

吉「その言葉は心の傷に沁みます」

牧「あぁ、ごめん」


牧「お葬式では、親御さんの様子はどうだった?」

吉「気丈に振舞っていましたよ。大きなショックには慣れてるんですかね」

牧「そうじゃないでしょ。たぶん。感じてたんだと思うよ。君の存在を」

吉「スピリチュアルに走ってないと良いですが」

牧「ほんとにロマンがないね」

吉「自分ではロマン派だと思ってるんですが」

牧「え、どうしてその性格で?ロマン派?」

吉「夕日とか星空を綺麗だなって思いますし...」

牧「ロマンは言葉からだよ」

吉「言葉から?」

牧「そ、今の吉末君は自然を楽しんでるだけだよ。ロマンのある人は、夢とか情熱とかのフィルターを通して世界を見ているの。で、それを人に伝えて初めてロマンなんだよ」

吉「それは人生楽しそうですね」

牧「そ。人生楽しめるよ」

吉「ロマンチストじゃなかったかもしれないですけど、人生楽しかったですよ」

牧「もっと楽しくできたかもしれないってコト!」


牧「と、言うか人生はまだ続いてるし!」

吉「そこは認識の差がありますよね」

牧「だめ!そんなんじゃすぐに散っちゃうよ」

吉「そこは“死んじゃう”じゃないんですね」

牧「人は2度も死なないの!とにかく、この世界に残ることを強く考えてて」

吉「アツいですね」

牧「私はもう残れないんだから。吉末君がしっかり残ってくれないと」

吉「想いを託されるんですね...」

牧「そうだよー、君は重~い想いを背負って生きるんだよ」

吉「生きるんですか」

牧「そ、生きるの。私も君の中でずっと生かしておいてね」

吉「ずっとですか」

牧「え、嫌なの?そんな...」

吉「演技力は皆無ですね」

牧「うるさいですね」



牧「他にないの?」

吉「他?ああ、お話ですか」

牧「初恋はいつ?」

吉「初恋ですか。こういうの話すのって恥ずかしいですね」

牧「いいじゃん、私も話したんだし話してくれないと不公平だよ」

吉「えー、牧邨さんが勝手に喋っただけじゃないですか」

牧「お互いの理解も師弟関係には必要なの」

吉「えー、なんだか納得できないなぁ」

牧「悩み相談でも何でも出来るように、こうやって心の距離を近付けるんだよ」

吉「えー、なんだか牧邨さんの言い訳にしては理がありますね」

牧「何その遠回しな悪口。まぁ確かに、私の考えた事じゃないけど」

吉「誰の言葉ですか?」

牧「私の師匠だよ。雰囲気が君に似てるからかな、たまにダブっちゃう瞬間があるんだよね。だからちょっかいを出したくなるのかな」

吉「師匠とダブるからちょっかいを出したくなる?」

牧「そうなの。困ったもんだよ」

吉「誰にでもそうじゃないですか?」

牧「うるさいですね」



吉「僕の初恋は、たぶん、中学の頃です。その人は新人の先生でした」

牧「へー。年上好きなんだ」

吉「そうですね、精神年齢が上じゃないと恋愛とかは考えられないですね」

牧「エピソードとかは?」

吉「先生とは何も無いですよ。あー、その人が国語の先生だったので、図書委員になってみたりしましたね。何も起こらなかったですが」

牧「まぁそうかぁ。どれだけ背伸びしても子どもだしね」

吉「子供の大人への憧れなんてそんなものですね」


牧「恋愛経験は?」

吉「ありますけど」

牧「いつ?どんな人だった?」

吉「出会ったのは高校1年生の頃に同じクラスだったんですが、たまたま同じ大学でまた出会って」

牧「ホントにたまたまだったのかなぁ」

吉「どういうことですか?」

牧「彼女がわざわざ同じ大学に来た、とかは?」

吉「そんなこと考えたこと無かったです...。でも、それはないと思いますよ」

牧「なんで?」

吉「高校の頃に関わりがなかったですから。思い出せる範囲だと、運動会でフォークダンス踊ったくらいですし」

牧「そんなのよく覚えてるね」

吉「かわいかったので...」

牧「なるほどねー。吉末君の方が狙ってた訳か」

吉「いや、かわいいなって思ってただけですよ」

牧「思って、同じ大学に行ったのね。なかなか気持ち悪いじゃん」

吉「そういうトコですよ」

牧「もうちょっと続けて」


吉「大学も学部学科も同じだったんです。それで同じ授業を受けていた時にたまたま見つけて、知り合いも少ないから話しかけたんです。そしたら、なんていうか、良い感じになって、付き合い始めたって感じですね」

牧「何カ月くらい付き合ったの?」

吉「5カ月くらいですね」

牧「え、5か月付き合って最後まで行かなかったんだね」

吉「最後?...ああ、貞操観念がしっかりしているので」

牧「1カ月でしちゃう人は貞操観念ない人ってこと?」

吉「いや、そういうことじゃないですよ。5か月はまだ早いかなって」

牧「もしかして、インポ?」

吉「ンなっ!違いますよ!ただ、彼女が下ネタとか嫌いな人だったし、1年は待とうかなって」

牧「いかにも自分の意気地イクジなさを優しさと勘違いしてる童貞だなぁ」

吉「僕の自尊心を折って楽しいですか?」

牧「違うよ、ただ思ったことが口から出ちゃうだけでさ、ごめん」


牧「それで、なにか思い出とかあるの?」

吉「初詣とか、温泉旅行とかですかね」

牧「ふーん。ちゃんとデートもしてたんだ。なんで別れたの?」

吉「それが分からないんです。ただ、別れて欲しいって急に言われて」

牧「手を出さなかったからじゃない?」

吉「それだけで別れるなんてありますか?」

牧「まぁ自分には魅力が無いって思っちゃう人も居るかもね」

吉「それなりに仲良かったと思うんですが」

牧「そう思ってたのは君だけだったんだね」


吉「あー、なんだかもう消えたくなってきちゃいました」

牧「待って待って、わからないから!何か事情があったのかもよ。ほら、親が借金したとか」

吉「「まだ好きだった」ってお葬式のときに言われたんですよね」

牧「ほらー、彼女が死ぬまで残って聞いてみようよ」

吉「いや、また今度時間を見つけて調べに行きます」

牧「君は魄量が多いんだよね?急がなくてもいいんじゃない?」

吉「いや、いつ死ぬか分からないので」

牧「人は2回も死なないよ」

吉「じゃあ、いつ散るか分からないので」

牧「でも心残りはあったほうがいいよ?」

吉「モヤモヤするのは嫌いなんです」

牧「私の考えだけど、魄の量って、そのモヤモヤ?心残りの量なんじゃないかなって思ってるから」

吉「そんなことは無いですよ。僕なんて死んだときに心残りが無さ過ぎて、なのになかなか成仏できないから、このまま地縛霊になったらどうしようって思ってましたし」

牧「それはたぶん外側の意識だよ。もっと内側のさ、やり残したこととか思い出せない後悔とかがさ、実は多いんじゃない?この人生何も為せなかったとかさ」

吉「まぁ、何も為せなかったですね」

牧「ほらあるじゃん。あと、友達とかね」

吉「まあ、心残りではありますよね。でもみんな持ってることでしょ」

牧「人によって感じ方は違うから、クオリア的な何かがあるのかも」

吉「クオリアなんて知ってるんですね」

牧「馬鹿にしてる?」

吉「いや、そういう訳じゃないですよ。ただ、難しい話を知っているんだなぁって思っただけです」

牧「ま、馬鹿にされるのは慣れてるけど」

吉「違いますって!もう!」


 2人の間に少しだけ静寂が訪れる。

 そこにクラクションが飛び込んで来て、直後、ガシャン!と車が何かに突っ込むような聞こえた。

牧「事故だね」

吉「ですね」

 

 立ち上がり、窓に寄って下を見てみる。

 白のセダンが歩道のガードレールに突っ込んでいる。

 幸い巻き込まれた歩行者は居ないようだ。

 運転手も首をさすりながら車から降りてくる。

 誰も死んでいないみたいだ。

吉「誰も死んでないですね」

牧「それは良かった」

吉「人ってなかなか死なないですね」

牧「それでも死ぬときは簡単に死ぬんだよね」


 数分見ていると救急車が来た。

 そして、救急車が去って行くと同時に副本部長(蓮沼さん)が来た。

蓮「準備は出来ていますか?」

牧「はい、大丈夫だと思います」

吉「あ、大丈夫です」

蓮「では、これから式に移ろう。付いてきてくれ」


 副本部長は結界に向かって歩き出す。

 事前の説明が無いという事は立っているだけで良いという事かな。

 僕はテクテク歩き出すが、牧邨さんは付いてこない。

 振り返ると、「いってらっしゃい」という感じで手を振っている。なんだか寂しい。

 


 結界の中に入ると、おヤシロホコラ?ができていた。ついでに鳥居も。

 魄で創ったのだろうか。お社は僕の身長くらいだ。

 ちゃんと石階段も再現されており、そこにはタカムラ本部長が座っている。

 鳥居もちょうどクグれるくらい大きさで、お社より少し大きい。

 鳥居とお社の間には石畳のようなものがあり、その脇には楽器を構えた人が3人ずつ向かい合って座っている。

タカムラ「おう、来たな」

 本部長は神主の恰好をしている。狩衣カリギヌっていうんだっけ、古典の教科書にあったやつだ。手にはシャクを持ち、頭にもそれっぽい帽子を被っている。

蓮「それでは始めてください」

吉「あ、僕は何をすればいいですか?」

蓮「ここに立っていて下さい」


 無造作に鳥居の手前に案内される。なんだか蓮沼さんの対応が冷たい気がする。本部長が身内に甘い代わりに副本部長が厳しくすることでバランスを取っているのだろうか。いい関係だが、別にそんなに不愛想にしなくてもいいんじゃないかな。

篁「じゃあ、始めるぞ」


 本部長がお社に向かって深くお辞儀をすると雅楽の演奏が始まった。魄の世界では楽器も鳴らせるのか。高層マンションのフロアとは思えない雰囲気が出て来た。

 本部長が僕の目の前で舞を始める。中年のおじさんとは思えないほどに優雅な舞だ。

 本当に舞っている。回っている。跳ねている。


 しかしこれまでの殺伐とした対宗教的な雰囲気とは異なっており、大きな違和感が僕を支配しはじめる。この組織は本当に神を信じているのか?どういうことだ?舞は神に奉納するようなものだったと記憶している。キリスト教やイスラム教を排斥しているだけの組織なのか?

 だとしたら非常に問題のある差別組織だ。だが第二大隊の大隊長は宗教全体を主語にして否定していたはずだ。だとしたらなぜだろう。確かに天皇を中心とした組織として、中央の偉大さや正当性の表明には結束力を高める意義があるかもしれない。だが、こんなに直接的で強烈な信仰アピールされてはなんだか好ましくないものがある。


 本部長がお社に頭を下げた。雅楽が鳴りやむ。舞が終了したのだ。10分ほど続いていただろうか。

篁「いやぁ、何度やっても緊張するな」

蓮「気を抜かないでください」

篁「分かってるって。吉末、こっちに来い」


 呼ばれるままに鳥居を潜り石畳みの上に立つ。

篁「吉末、お前の配属は第三大隊だ。基本的に土地勘のある地元で頑張ってもらう。所属する班は1か月後にならないと分からない。以上だ。あっさり散らないように1カ月間修行に励んでくれ」

蓮「吉末さん、隊服に所属の文字を刻んでおいて下さい。第三大隊への所属が決まりましたが、この1カ月の間の上司は牧邨マキムラさんです。その間は牧邨さんの指示で動いてください」

吉「分かりました」


吉「え、これで終わりですか?」

蓮「はい。終わりです。」

吉「あ、分かりました」



 僕は結界を出て牧邨さんの元に戻ろうとお社に背を向ける。

 いったい僕は何を見せられたんだ。聞いていた感じとだいぶ違う。

 下を向いて考え事をしながら歩いていると頭を結界にぶつけた。そのとき空間が動いたような形容しがたい感覚がした。振り返ると、お社も鳥居も消えていた。

 まぁ本部長ならそのくらい余裕か。

 消すタイミングと僕の出ようとするタイミングが重なって出られなかったのだ。

 あれだけ大きいものを一瞬で吸収するんだ、そりゃそうなる。

 ...え、デカすぎないか?そう言えば代々魄を受け継ぐとか言ってたか。

 受け継ぐ前の消えかけって、魄は少ないんじゃないのか?

 うーむ。ダメもとで牧邨さんに聞いてみるか。

 手を伸ばすと結界から手が出た。

篁「タイミングが悪かったな。すまない」

 うおおっ、と情けなく驚いてしまう。

吉「あ、大丈夫です」

 わざわざ謝りに来てくれるなんてイイ人だ。でも実は宗教家か。困ったものだ。


 結界から出ると牧邨さんが手を振った。少しだけ笑顔だ。なんだか嬉しい。

牧「どこになった?」

吉「第三に決まりました」

牧「おー。それはいいね」

吉「いいんですか?」

牧「いや、知らないけど」

吉「まあいいです。すっごく仰々しいというか、物々しいというか、神聖っぽい式を執り行われたんですが、あれ意味あるんですか?」

牧「さあー。でもまあ雰囲気って大事じゃん」

吉「え、あんなにやって意味ないんですか!」

牧「いや、一応あるよ、一応ね。聞いた話だけど、褫魄隊は自然に消え行くことを大事にしているんだよね。まぁ自然信仰みたいな、山に還るみたいな、そんな感じ。それで、何か絶対的な自然に対して、吉末君はこれから逆らうことになるから、一応祈っておくみたい」

吉「神様に、ですか?」

牧「自然に、って聞いたね。神様みたいな特定の何かじゃなくて、世界の法則とかそういうものに対してだと思う」

吉「よくわかんないですね」

牧「でも割と感じるよ。超自然的な何かって」

吉「超自然だと自然じゃないじゃないですか」

牧「いや、その自然を操るような運命みたいな何かだよ」

吉「憎まれっ子世にハバカるみたいな法則ですか?」

牧「何それ」

吉「嫌われる人が偉くなるっていう意味です」

牧「それは感じたことないけど、例えば昔の友達の事を考えてたらその日のうちにその友達が死んで会うことになったりさ」

吉「たまたまじゃないんですか?」

牧「そりゃたまたまって言っちゃえば、それまでだけど。そうじゃないかもしれないよね」

吉「まぁそうですね。」


 納得はできた。確かに成仏せずに残り続けるのだ。誰かに先に断りを入れていないと死神がやって来そうで不安になるかもしれない。

 だが、納得できない。そういうことは先に言っておいて欲しい。暇なら牧邨さんの個人的な話ばかりじゃなく、組織についての話をもっとして欲しい。

 この際だからもう1つの疑問もぶつけてみよう。

吉「そういえば、大きめのお社があったんですが、あれも全部本部長が創ってるんですか?」

牧「そうみたい。凄いよね」

吉「あんなに大量の魄をどこに収めてるんですかね」

牧「体はほぼ限界だろね。でっかい結界の壁から、かな」

吉「じゃあ式の最中は結界が一番弱くなるんですか?」

牧「そゆこと。だから第二がそこらをぴゅんぴゅんと走り回ってたよ」

吉「そうだったんですか、全く気付かなかったです」

牧「周りを感じ取る力はこれから付けて行こうか。かなり重要だからね」

吉「わかりました。今からは何をするんですか?」

牧「そうだね、とりあえず走りながら着替えてみようか」




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