序章
更新頻度低めです!(月1回できたらいいなぁ。2回できたら褒めてください!)
サイレント修正多めです。
反宗教主義者も登場しますが、私は思想を持っていないことをここに記します。
現実の世界を舞台としていますが、あくまでもファンタジーとしてお楽しみください。
気に入ったらばぜびブックマークのほどよろしくお願いします。
満月の晩、ある廃病院で男は死んでいた。月光の差す窓辺で、その体は横たわっていた。男の頭は激しく陥没しており、辺りには血が飛散し、倒れた男の頭部の周りにはドロドロとした赤黒い血だまりができていた。
男は自分の死体を長い時間眺めていた。男は泣いていた。心の中には様々な感情が浮かんでは消えていた。その晩、男は地元では有名な心霊スポットの廃墟に、数人の友達と来ていた。ここに来るまでは楽しかったはずなのに、今、男は自分の死体を見て泣く幽霊となっていた。
涙も落ち着いた頃、男は少し遠くからくぐもった低い呻き声を聞いた。痛みに耐えているような、恨めしいような、寂しさから誰かに縋るような声だ。沢山の人の声が混ざっているようにも聞こえた。
気味が悪かった。しかし、男は声の聞こえる方に足を進めていた。もしかすると友達も殺され、泣いているのではないか、そう思ったのだ。
結論から言うと、この選択は間違いだった。男が覗いた部屋は月光も差さない、ただ暗い部屋であった。そこは仮眠室で、ベッドが2台あるだけの狭い部屋だった。その片方にはホームレスが眠っていた。
男はもう片方のベッドの上の存在に気付いてしまった。そこには闇よりも暗い影があり、ホームレスを覗き込んでいるように見えた。その影はこちらに気づき、ゆっくり動き出した。大きな影が迫ってくる。男は動くことができなかった。恐怖と絶望が男の全てを支配していた。数秒の後に男は影にのまれてしまった。影がまたゆっくりと動く。月光に照らされたその影からは十数個の首が生え、その全てが苦しみの表情で呻き声を漏らしていた。
その影の正体は悪霊であった。この病院で苦しみ死んでいった者たちの怨念の結晶であった。生者はその瘴気に当てられることによって魔が差すのだ。男は、その瘴気に当てられたホームレスに襲われて死んだのだ。
ホームレスはやって来た若者のことをおやじ狩りと思い込み、自らの命を守ろうとした。しかし、殺してしまった。男をコンクリートブロックで殴ったとき、男の友人たちは逃げ出していた。その後で、気絶している男を何度も殴ったのだ。
どこから魔が差していたのかは判らないが、コンクリートブロックを掴んだ時点で結末は見えていた。
そのホームレスの後ろには影がいた。影はホームレスと共にそこから去っていった。
数時間後、4人組の幽霊が現れ、男の死体を見つけた。
羽「あちゃ、1人死んでるよ」
山「まじかぁ、おそかったかぁ」
甲「起きてしまったことは仕方ない。おそらくまだ近くにいる。気を付けて進もう」
羽「あいよ」
出「待って。あの部屋に居るみたいです」
羽「さすが、いい耳してる」
山「俺が見てくる」
甲「仮眠室か、狭いな。よし、できればこっちに引き付けてきてくれ」
山「了解」
出「けっこう喰ってるみたいです。気を付けてください」
山「任せとけ。逃げの山下とは俺の事よ」
羽「うるせぇよ、早く行け」
山「ユーモア大事にしてこうよ。じゃ、待ってて」
山下は奥まった所にある仮眠室まで静かに進んだ。そして扉を通り抜けた。影は山下に気づき、動きだした。影から生えたいくつもの首のうち、3つの首が山下を見つめている。影から生えた首は全方向に付いているため、死角は無いようであった。
いくつかの首が山下を見るためにゆっくり移動している。山下は切りかかろうとしたが、その脚は床から離れず、動けなかった。
山「ちっ、厄介だな。やっべ」
甲「創刀!」
羽・出「「 応! 」」
3人は広い所で待機していたが、出葉が異変に気付き、班長の甲斐はすぐに対応した。出葉は山下の体を持ち上げ、その場から一時退避した。甲斐と羽鳥は狭い部屋で影と対峙し、長い刀を影に向けている。
影から生える首のうち5つが甲斐を見つめる。
甲「どうやら見つめられると動けなくようだ」
羽「こっちは動ける。止められるのは1人までか?班長を抑えるのに5個いるってことか?」
甲「一人でやれるか?」
羽「余裕」
甲「よし、任せるぞ」
山「残念、3人だ。1つの首につき、体の1か所を固定されるイメージだ」
羽「なるほど。やるぞ」
出「いったん広いところに出るのはどうでしょう」
甲「さすがいい案を出す。羽鳥、俺を頼む」
羽「了解」
4人は男の死体が転がるエレベーターホールまで撤退した。影はゆっくり移動し、ついてくる。影は肉体を持たないものを喰う。飢えた獣のように見つけた獲物を追いかける。
しかし、向かってくるものへの対処は機械的である。
甲「また俺が止められた。どうやら実力を測る力もあるみたいだな」
羽「舐められてるみたいでムカつくな」
甲「よし、祓え」
羽・山・出「「「 応! 」」」
3人は縦に並び走り始める。それぞれの手には日本刀が握られている。
1番前を走っていた羽鳥が止められた。同時に、後ろの2人は左右に分かれる。が、右に飛び出た山下が止められる。順番に、出葉も止められた。一度止められると、順番に視線を送られ、全身を止められ近づけない。3人の「停止攻撃」に対する抵抗力は弱い。
羽「ちっ、そんなこともできんのかよ、だったら最初からやれよ」
山「消耗激しいんじゃない?やばいときの緊急処置かも」
そのとき、羽鳥の後ろで死角となっている所から甲斐が飛び出した。が、切りかかるまであと数歩の所で止められてしまった。しかし、甲斐の目的は、切りかかることではなく、素早いジグザグ移動により視線に捕まらないことであった。影が甲斐を捕まえるのに必死になっている間、3人は自由に動くことができた。
次の瞬間には、3振の刀によって影は4つに切り分けられていた。多くの首が床に転がり、溶けるように消えていった。そして影は力を失った。
甲「ナイスコンビネーションだ」
羽「まぁ今のは気持ちよかったな」
山「途中けっこう焦ったけどね」
出「あれは反省だね」
甲「初めて経験する能力だったが、うまく対応できた。及第点だろう。じゃぁ、さっさと祓って帰るか。」
羽「そうだな」
残る影は刻まれ、全てが闇に溶け、消えていった。
月光に照らされながら風のように去って行く4人の肩にはある文字が刻まれていた。
褫魄・・・たましいをうばうこと
「褫」は奪う、崩れ落ちる。「魄」はたましいの意味を持つ。
死後の世界で人々の魄がどのように過ごし、消えてゆくのか。
己の正義・信条を死してなお貫く者たちの物語。