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未知の世界でも生きて見せます  作者: 雪の子
第1章 幼年期
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第二話「出会い」


「おはようございます。アベル」


その言葉が聞こえると同時に女性特有の良い香りがふわっと鼻に入ってきた

女性の優しい声と日の眩しさで目を覚ます

徐々に目を開け、何回か瞬きをし、ぱっちりと目を開けると

そこには緑髪をした優しい女性

フィール・アーレントが僕のベッドを覗き込んでこちらを見ていた


「おはようございます。フィールさん」


僕はフィールを見て朝の挨拶をいつものようにする

するとフィールは「はい。おはようございます」と笑顔で再び“おはよう”と返してくれる

アベルとの挨拶が終わるとフィールは部屋を出る。食卓に作った料理を並べるからだ

ちなみにこの挨拶をしてもらう理由はアベルがなかなか朝早くに起きれないからである

フィールが部屋から出ると僕は体を起こし、ベッドから出て柔軟体操をする

服を着替え、食卓に向かい、ラルフとフィールと一緒に朝食を食べる

これがここ一か月の僕のモーニングルーティーンになっている


こうなってしまったのにも、とある理由があった

それは 一か月前、僕がラルフたちと初めて出会う頃に(さかのぼ)る……



場所はイアスの中心に位置する『とある病院』

ラルフたちの質問が終わり

部屋から立ち去ろうとしていた僕は驚愕していた…ラルフの()()発言に……


「一緒に住むってどういうことですか!?」


僕は驚きと動揺を隠せなかった

ラルフの発言の意味をすぐに聞き返す

するとラルフは”何を言っているんだこの子は?”と言わんばかりの顔でこう答えた


「え?いやだからそのままの意味だよ」


ラルフよ……その発言に驚きが大きすぎて、理解できないことがわからないのか

額を右手で押さえながら下を向き、呆れた顔で深いため息をついた

額を抑えていた手を下ろして顔を上げ、ラルフにこう言った


「ご厚意はうれしいですけど、ご迷惑をお掛けするわけにはいかないので大丈夫ですよ」


そう…助けてもらった上に住まわせてもらうなんて言語道断

これ以上迷惑をかけるわけにはいかないのだ

二人には恩義を感じているからな……ここは引いておこう

しかし優しい心を持つラルフにとってその言葉は逆効果だったようで


「子供が遠慮なんかよくないぞ?こういう時は甘えておきなさい」


と当たり前かのように言ってきた

僕の遠慮には少しも耳を傾けなかったのである

正直その気持ちはありがたい

とても嬉しい言葉だ

しかし同時にラルフ達に申し訳ないという気持ちにもなる言葉だった

僕は葛藤した

まるで心の中の天使と悪魔が僕に囁いているかのように

だが、やはり遠慮の気持ちがやはり勝ってしまい、ラルフの優しさを再び断る


「治療してもらった上に住ませてもらうなんて……僕にはできません」


「じゃあ…今後一人でどうするつもりなんだ?例えばそうだなー……お金とか」


ラルフの会心の一撃(クリティカルヒット)が炸裂した

お金がないという痛いところを突かれてしまったからだ

確かにお金などまったく持っていない…というかお金の種類すらわからない

要するに僕は金銭感覚が全くないのだ!

当たり前だ。記憶がなく目覚めて一時間の彼に金銭感覚がある方が

病気といえるのではないだろうか

いや、そこまで行くと天才の領域か


……これは困った、どうしよう

僕は思考することしかできなかった

何か良い方法はないかと……

ラルフたちに迷惑をかけずに生きていく良い方法……何かないのか?

そして最終的に僕はとある答えにたどり着いた


……()()という比較的簡単な答えに


今の僕にできて、今の僕が求めている条件に合う方法は()()ゼロに等しかった

しかし一応、条件に合う方法もないことはない


その方法とは…強盗や窃盗、殺人などの犯罪である

この知らない世界を生き抜くために犠牲は付き物だ、しょうがないだろう……

しかし()()()()()()()()も…()()さえない今の僕(アベル)にとって

それは死を選択しているという事実以外の何ものでもなかった

一体どうするのが最適解なんだろうか

右手の拳を手が真っ赤になるほど強く握りしめて苦悩する


そんな僕の姿を見たフィールは彼に近づいて

肩に手を優しくポンッと置き、優しい笑みでこのように言った

「ラルフさんのご厚意に甘えておくべきだと私は思うわ!」

その時の彼女の顔は何かを思いついたかのような笑みを浮かべ目を宝石のように光らせていた

そしてその分かりやすい表情はフィールと会って間もない僕でもそれは流石にわかった


ーこれは何か企んでる顔だ!


「大丈夫!何も心配することはないと思うわ!」


この人は一体何を考えてるんだ?なんか喋り方この一時間ですごく丸くなってるし

その喋り方と表情は一周回って恐怖すら覚えた

そしてもちろんこれも考えるまでもないだろう……やっぱり何も全く分からない!


本当にこの二人の考えていることがわからない……特にフィール

はぁ~お手上げだ……ここは彼らに提案に乗っておくとしよう

僕は考えるのを()()()()諦めて、二人の厚意に甘えることにした


「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます……」


僕はそう言って深くお辞儀をする

それに対してラルフは「それでいいんだよ」と

そう言って僕の頭を優しく撫でてくれた


その瞬間思った


この人の手は優しい人の手だと


なぜそう思ったのかは正直わからない

だけどそう感じ取れることが出来たのは事実だ

彼はたぶん自分のできることなら少しでもやろうとする男だと思う

そう思えるほど、彼からは優しさのオーラが目に見えずとも感じることができた


撫でられるのと反射的に僕は目を瞑る

数回撫で終わった後、僕の頭から手を放す

その瞬間、ふと目を開けて上を見ると、そこにはラルフの手があった


その手はとても大きく、とても優しそうな手だった


「これからもよろしくな!アベルくん!」


()()()()()()()()()

その言葉は僕にとってとても嬉しい言葉だった

まさか本当に一緒に住めることになるなんて思ってもいなかったからだ


ラルフはそういって僕に手を出す

僕はラルフと同じように手を出して握手をしてこう言った


「アベルで良いですよ!ラルフさん、フィールさん」


これから一緒に同じ家で住むのだ

家の中だけならまだしも外までアベル()と呼ばれるのは流石に恥ずかしい

そこは変えてもらわないと個人的に困る


「わかった、よろしくアベル!」


なんとか承諾してもらえたようだ

まあ承諾してもらわないと困るのだが

 

「アベル、よろしくね!」


ラルフの後ろでフィールが僕にお辞儀をした

フィールの長い緑髪が垂れる


「はい!よろしくお願いします!」


僕は元気よく答えて、二人に向かってお辞儀をした


これが彼らとの出会いだった

それから僕は必至に努力した

少しでも彼らの役に立つために

一度言われたことはしっかりと覚えて実践し

二人の足を引っ張らないようにした

と言ってもしたことは洗濯や掃除などの家事だが


※※※※※※※※※※※※※※※※


『アベル視点』


そんな生活が何日か続いてたある日、こんなことがあった


「なあアベル、何か欲しいものないか?

 お前は家事だいぶ頑張ってるんだし」


とラルフが言ってきたのだ

何かの気遣いだろうか?とてもラルフらしい


「んー……」


欲しいもの……欲しいもの……ないな

聞かれたからすぐに考えてみたが別に欲しいものは特になかった

今の生活に不便を感じなかったからである

あとは自分で言うのもなんだがそんなに物欲がない

寡欲というものなんだろうか

前読んだ本に書いてあったけど


「今は特にないですかね、お気遣い感謝します」


「そうか分かった。だけど欲しいものができたら言えよ」


「はい、わかりました」


そう言って僕は軽くうなずく

そうしてラルフはその場から立ち去った

ラルフは一体何がしたかったのだろうか?

やはりあの二人が何を考えているかよくわからない


※※※※※※※※※※※※※※※※


『ラルフ視点』


アベルが当たり前にしている行動は俺達に衝撃を与えた

記憶がない少年がたった一回しか教えてないことを一回で()()にこなしているからだ

確かに『呑み込みが早いだけ』という意見もあるかもしれない


俺達も最初は同じ意見だった

しかしそれにしては少し不自然だ

なぜなら教えていないことまでも自分で考えて、行動する

しかも完璧に……


そしてその家事が終わると『これであってましたか?』と俺やフィールに聞いてくる

普通は何かをする前に確認をするもんじゃないか?

これは果たして本当に呑み込みが早いといえるのか?


そして彼は見返りなど求めなかった

前に一回、俺がアベルに何かを買おうとしたことがあった


「なあアベル、何か欲しいものないか?

 お前は家事だいぶ頑張ってるんだし」


聞いた理由は特にない

ただ欲しいものがあるのかなと思って聞いたまでだ


「んー……」


分かりやすく考えだすアベル

アベルも一応男の子だし

なにか欲しいものの一個や二個くらいあるだろう

そう思ってた矢先、思わぬ答えが返っていた


「今は特にないですかね、お気遣い感謝します」


俺は疑問に思った

普通これくらいの男の子ならご褒美を求めてもおかしくないのではないかと

ただ単に寡欲なだけなのかもしれないとも思ったがアベルの事だ

きっと遠慮しているのだろう……また聞いてやろう

俺はそう思ってその場から立ち去った


※※※※※※※※※※※※※※※※


『アベル視点』

 

そんな()()との生活が一か月続き、現在に戻る

僕はラルフ達と食卓を囲んでいた


「ご馳走様でした!」


僕はフィールが作った朝食を食べ終え、食器をキッチンへ持っていく

キッチンシンクに食器を置き、自分の部屋へ向かう

ドアを開けて部屋に入り、朝の習慣となっている読書をする


最近よく読んでいる本は『魔術に触れる』と呼ばれる魔法の本だ

作者は『テオ・フィーメル』という人らしい

魔法とは一体何なのか、どうやったら使えるようになるのか

魔法の種類や威力の大きさ等の事細かいことが厚い本にぎっしりと書かれている


最初家の中からこの本を見つけたときは

本のタイトルと明らかに怪しい表紙がとても胡散臭かった

しかし中身を読んでみると意外にもまともなことが書かれていたので

それ以来、興味深く勉強になるので勝手に拝借して愛読している

読んでいくとこんなことが書いてあった



魔術は聖戦と呼ばれる大戦以前に()()()()によって創られたモノで


・攻撃魔法:相手を攻撃する 物理攻撃と精神攻撃の二種類がある

・防御魔法:相手を守る   物理防御と精神防御の二種類がある

・回復魔法:相手を癒す   状態異常回復や物理回復、バフなども含まれる 

・召喚魔法:相手を呼び出す 悪魔や天使、精霊などを呼び出す

・精霊魔法:精霊や微精霊を使う魔法 エルフのみが使用できる


この五つが主な魔法らしい

見た感じ書いていることはわかる

現在は上記の魔法の一部は失われてしまった様で

そこから派生して聖戦中に空間魔法や神聖魔法なども開発されたが、同じく失われてしまったらしい

このように失われた魔法は一般的に()()()()という名前で広く有名だそうだ

魔術の階級は上から順に神級、帝級、王級、聖級、上級、中級、初級の七段階で

その階級ごとに神級魔術師や帝級魔術師……と呼ばれるらしい


ちなみに現在、最も使われている魔法は『生活魔法』

聖戦後に創られた上記五つの魔法より比較的新しい魔法らしい

今までの戦争向きな軍事用魔術とは異なり

民の生活を少しでも楽にするために開発された魔術だそうだ

詳しい開発者は現在でも不明になっているが

()()()()という国が開発したのは確かになっており

それからベネキアは魔術の国と呼ばれるほど有名な国になったそうだ


魔術の使い方についても書いてあった

魔法はまず、魔力と呼ばれる、魔法を使うための燃料と

魔法を使うための魔法適正つまり素質が必要で

どちらか一つでも欠けていると魔法は使えないらしい

そして魔力には魔力の貯蔵量

通称『魔力量』が生まれながらに決まっており、

それ以上貯蔵量を増やしたりすることは不可能に近いそうだ


要するに()()()というバケツに()()という水が入っていて

バケツ自体は大きくも小さくもならないが、水は魔法の使用により増えたり減ったりする

というイメージで良いのだろうか?

少し想像して説明するのが難しい


魔法を使うには二つの手段がある

詠唱を唱えるか魔法陣を作って発動するかのどちらかである

現在は基本的に詠唱が主流となっているが聖戦時は魔法陣も使われてたそうだ

詠唱は個人が即座に発動するのに対し、

魔法陣は描くのに時間が掛かるが複数人で発動する分、それに比例して威力は高い

無詠唱で魔法を操るものもいるそうだが極まれでそうそういないらしい


ー僕にも魔力とか素質とかあるのかな?


記憶のない好奇心旺盛な少年はふとそんなことを思う

この本を読んで、魔法を使ってみたいと思ったからだ

無詠唱で魔法が使えたら……なんて妄想もこの本を読んでからするようになった

しかしなぜこんな本が家にあるのだろうか

ラルフは確かに本好きだから、こういう本も持ってそうだが

今度聞いてみるとしよう


こうはここまでにするか……

よし!じゃあ今日も家事頑張ろうかな!


僕は本を閉じて、本棚へ戻した


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