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面倒臭い女と都合の良い男  作者: 白縫つくし
7/10

普通

 なんで俺が放課後に特別教室Bへ行くのか。それを考えたとき、答えはひとつだった。



 普通を演じていた園田さんにひとつも興味は湧かなかった。園田さんも他人に自ら話しかけるタイプじゃなかったから、あの日までの3ヶ月ほど、一切関わりもあらず。



 けれど、あの日出会ったネガティブで面倒臭い園田さんは珍妙で変な存在だった。

 飛行機はなぜ飛ぶのか、ゲームのコントローラーはどうやってセンスしているのか。それらの構造を分解して理解したいと思うように、俺は園田さんを暴きたいのだと思う。普通じゃないもの。なんでそうなってしまったんだろうか、と。




「秋山くんの好きなタイプは?」



 ふと思い立ったというように突然振られた話題に、俺は本から顔を上げた。誰のことも興味ない瞳をしてる女が聞いてくる質問に思えず、どういう意図の質問か勘繰ってしまう。

 今も園田さんは俺のことを見ているようで見ていない。見上げてくる園田さんと瞳が合っているはずなのに、どこか次元が違うような遠くにいる錯覚が生まれる。



「俺?」 

「そうだけど……えっ、聞いちゃダメだった?」

「いや……興味あるの?」

「んーなんとなく」



 園田さんは右手に持ったペンを何度もくるくると回している。開いた数式の羅列にはもう興味ないらしい。

 好きなタイプ。



「……そういえば聞かれてたもんね、前」



 ふと、いつだか教室で話していた姿を思い出した。

 園田さんが来なかった日。俺がここに来て、園田さんがいなかったのは唯一あの日だけだった。


 俺の言葉に園田さんは不思議そうに首を傾げた。



「前?」

「佐山さんとかと格好いい人だとか、引っ張ってってくれる人が良いだとか言ってたよね」

「あー……ああ、そうそう。外見とか性質ばかりじゃない?」

「それが普通だと思うけど」

「えぇー、そうなんだ」



 心ここにあらず。

 相槌を打ちながらも、それは空返事で園田さんの意識は別の場所にあるように感じた。



「園田さんは優しい人って答えてたね」

「そういえばそうだっけ……」

「そうだよ。優しい人、とか絶対思ってもないでしょ。園田さんの本当の好きなタイプは?」

「えぇ? うーん。本当の、か」

「優しい人とかいう冗談はやめてね」

「秋山くん、私に対して結構辛辣だよね」

「それは気のせいだよ」



 園田さんは「ええー」と言った後、考えるように逡巡した。ややあっておずおずと小さく口を開く。



「ええっと、私のことを最後まで一番好きでいてくれる人……」

「えっ」



 園田さんは手で唇に触れながら眉を下げて見上げてきた。照れているように歪に口角が上がっている。



「えっ?」

「え、いやごめん。想像以上に純粋な答えで吃驚した」

「あ、うん」

「あー、でもそこで「好きになった人がタイプです」って可愛らしく言わないところが園田さんだよね」



 大抵、良く聞くのは「優しい人」とかの性格・外見に関するものか、「好きになった人がタイプ」という直感に近しいものだ。というか、普通は自分が好きになる前提だからそういう答えになるだろう。

 園田さんのそれは、とても相手本意なのに自分勝手だ。


 園田さんは眉をひそめ、嫌そうな表情をした。



「えー、それだけはない。だって好きにならないもん」

「ひねくれてる……そして「私のことを最後まで一番好きでいてくれる人」ってところが最上級に傲慢で流石面倒臭い園田さんだね」

「もしかしてめっちゃ悪口言われてる? いやむしろ誉められてる?」



 唇を尖らせる園田さんを横目に、窓から外を眺めた。

 見下ろした木々は紅葉に染まり、落ちた葉も多い。もうすぐ、最終下校時間も早まる時期だ。今は少し肌寒いぐらいだが、すぐに冬が訪れるだろう。



「あれだね、ハードル低いようでめちゃくちゃ高いね」

「やっぱり?」

「だってそれって、同じシャンプーを一途に飲み続ける人ってことでしょ?」



 これには園田さんも数秒考え込み、黙りこんだ。そして重苦しく口を開く。



「そ、そうともいう……」

「飲シャンする人あり得ないって思ってるのに?」

「飲シャン絶拒です……」

「無理じゃん」

「うへぇ」



 机に潰れて変な呻き声を出している。


 こう考えてみると、園田さんは普通を演じているけれど、中身は普通とは遠くかけ離れているように感じた。

 そもそも普通とは何なのか。園田さんの目指す普通とは何だったのか。



「……園田さんは普通っていうよりかは没個性だよね、表面上」

「ぼつこせい……」

「園田さんの物事への考え方、普通じゃないし園田さんワールド広がってるよ」

「どういうこと!?」

「まあそれは置いといて」

「置いとかれた」

「園田さんってさ」

「はい」

「本当に面倒臭いよね」

「うう……」



 一つ、気付いたことがある。

 それは彼女に恋愛をさせるには、その意識を変えさせなければならない、ということだ。



「……ちょっとずつ変えていこうよ」

「え?」

「今園田さんは"むちゃくちゃ面倒臭い女"だから、それを"まあ面倒臭い女"にするぐらいにしようよ。面倒臭くない女にはならなくていい。だってそれじゃつまんないし」

「ええええ、つまんないって……それめっちゃ秋山くんの主観」

 ってか結局、秋山くんの好きなタイプ聞けてないじゃん!



 今更な園田さんの言葉を、笑って流した。

 園田さんはまだ知らなくて良いことだ。




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