魔法と魔術
今回の件で桃太郎は本当に疲れた。
まさか同居人にツキの様な魔力を扱う奴が居るなんて想定外だ。
前世の地球では魔力を扱える奴はほんの一握りであったが、この桃太郎の世界は果たしてどの程度のものであろうか。
因みに、ツキは魔力を扱えるだけで魔術師という意味では無さそうだ。
おそらくは魔術ではなく、魔法に近い筈だ。
同じ魔力を使用することになるのだが、魔術と魔法は似ている様で違うものなのだ。
魔法はとても汎用的であり、扱いやすく強力だ。
火を操る魔法であるならば、火を使い球体の形にしたり、火柱にしたりなど自由自在に扱える。
魔術はとても専門的であり、扱いにくくはっきり言って弱い扱いをされる。
使用する魔力と、変換された魔力が釣り合わない。
また同じく火を扱う魔術で例えるなら、確かに球体の形にしたり、火柱にする程度は出来る。
しかし、使用したい座標を詳細に思い描きイメージを作らなくてはならない。
イメージの出来ないものは、具現化出来ない。
魔法はオートマチックで最新鋭であれば、魔術はマニュアルで古典かもしくは産廃。
魔法さえ使えれば、魔術なんて覚える必要もない。
魔法の方が覚える難易度も低い。
魔術のメリットであれば自由度が高いだけ。
自由度の差を前世の扇風機を例に出そう。
魔法なら『弱・中・強』である一般の物だが、魔術は『微弱・弱・中・強・微強』ぐらいの差でしかない。
魔法と魔術をわざわざ使い分ける奴で物好きな奴は存在しないであろう。
野球で例えるなら、右打ちと左打ちを使い分けること。
キーボード入力で例えるなら、カナ入力とローマ字入力を使い分けること。
例えの2つは存在する人は少ないながらも居るだろうが、扱う絶対数が多いからである。
普通の凡人はどちらかが満足に使いこなせれば、それで十分であろう。
――そして桃太郎は、魔法が扱えないポンコツの出来損ないな駄目人間。
自分が嫌いなのである。
「ねえ、桃太郎?」
「ん?」
先程、刃で刺された時と同じ様に背中にツキが駆け寄って来る。
「ありがとう……。ごめん……、死にたくなかった……」
桃太郎よりちょっと身長の高い女の子に抱き着かれる。
「……ああ」
ーー別に殺されることになんて慣れている。
ふと、俺が殺されておきながらも――愛した女の姿が思い浮かんだ。
今頃あいつは……、もう別の世界の話か。
「私……、桃太郎が好きだよ」
「ありがとう、俺はツキが嫌いだよ」
黄昏の夕焼けが、漆黒の闇夜へと染まっていくのであった。
家に帰ると、ブレード家の保護者2人にこってりしごかれるのであった……。