みゆちゃんのクレヨン その4
チュンチュンチュン。朝がきた。ぼくは、いやぼくたちは緊張していた。一番早くキッチンにくるのはママ。テーブルの上には、2通の手紙が置かれている。
一つは、みゆちゃんから、そして、もう一つは……。
カチャッ。ママがキッチンに来た。テーブルに座る。ドキドキ。
「あら?」
ママは、気づいた。
「この絵はみゆ?この手紙は……りか?いったいなんなのかしら?。」
ママは、いぶかしげに画用紙を手に取って、まじまじとそれを見た。
「これ、私?」
みゆちゃんの画用紙には赤いクレヨンで、『ママだいすき』と書かれていた。
ママは目を大きく開けたまま、いそいでその横の封筒をあけた。
ママへ
私たちの大好きなママ。大丈夫だよ。ママならみゆちゃんの優しいママにもなれるよ。私もママをたくさん手伝うよ。もっともっといい子になる。がんばるから。だからママ、いつもわらっていて。
りか
ママは、何も言葉を発しなかった。一点を見つめて、しばらく考えごとをしていた。
カチャッ。また誰か入ってきた。
「あら、りえさん。朝ご飯の用意は?」
おばあちゃんだった。
「あっ、すみません。今すぐしたくします。」
ママは、目頭をおさえて、席を立った。
ママが画用紙をテーブルに置いたままだったから、当然おばあちゃんの目にも、みゆちゃんの画用紙は飛び込んできた。
「これはなんなの?りえさん、なにを見ていたの?」
おばあちゃんはすぐ手に取って、まじまじとそれを見た。そして、静かにつぶやいた。
「これ、みゆが描いたのかい?」
「えぇ。私、まったく言葉がでません。」
「ごめんね、りえさん。」
「えっ、どうしてですか、お義母さん。」
「私、考え違いをしていたみたい。画用紙を見て分かったわ。みゆがこんなにもあなたを慕っていたなんて。」
「違うんです、お義母さん。これは、みゆが本当にいい子だからなんです。」
「みゆをめんどうな子ではなくて、いい子と言ってくれるの。」
「もちろんです。みゆの真っ白な心にふれると、自分が恥ずかしくて。」
「りえさん、私、ずっと誤解していたよ。りえさんに変な心配をいだいていた。息子の健志も仕事が忙しくて、家のことは何もできない。そんな中で、みゆのことかわいがるどころか大変だとしか思わないんじゃないかと。だから、私が先回りしてあれこれ言わねばと思ってしまったの。」
「お義母さん……。」
「りえさん、ほんとうに今までごめんなさい。意地悪だとしか思えなかったこともたくさんあったと思う。もう、家の事もうるさく言わない。りえさんを信頼して、全てまかせるよ。みゆのこと、ううん、子供たちのことを、よろしくたのむね。」
それを聞いたぼくは、みゆちゃんを思い浮かべて、泣きそうになった。でも、涙をこらえて、もう一度ガッツポーズをした。