帰宅
「おい、荷物持ったか?」
「おう、多分大丈夫だ」
そんなこと言いながら部屋から荷物持って出てくる雅彦と悠太。
今日で泊まりも終わりである。
「あーすいません。お待たせしました。悠太がなかなか動かないもんで…」
「うるせえ!昨日遅くまで起きてたせいで眠いんだよ!」
「寝た時間同じのはずなんだが…。あ、これ鍵です」
「あ、はい。ありがとうございます。休め…てはいないかこれは?」
「勝手に起きてて自爆してるだけなんで置いといてもらって大丈夫です」
「まあ、いいか。じゃあお会計こっちでやりますねー」
そう言ってレジの方に向かう雅彦と咲希。
悠太は既にお金を雅彦に預けてあるので、手持無沙汰である。
そこに渚が話しかけにかかった。
「戸川さんはこの後どうやって帰るんですか?」
「ああ、えっと、雅彦が送ってくれるって話になってるはず」
「そうだったんですね。家近いんですか?」
「ちか…近くはない…と思う。車で一時間くらい?」
「一時間だと県内か県外か微妙なところですけど、また遊びに来てくださいね」
「絶対来ます!」
「あ、無理はしなくても大丈夫ですよ。偶に余裕があればまた来てください」
「いや大丈夫。全然無理じゃない。足が無くても最悪電車で来られるし。また来れそうな時に絶対来るから」
「じゃあ、またその時までにお肉料理新しいの考えときますね」
「オナシャス!」
「もぉー戸川さん、私よりも年上なのにそんな改まらなくても大丈夫ですってば。もっとラフで大丈夫ですよ」
「え、あー…いや、咲希ちゃんはよく喋ってるけど渚ちゃんそうじゃないから大丈夫なのかなってさ…」
「あ、そう言うことだったんですね。戸川さんって意外とちゃんとした大人なんですね。私感心しました」
「え?それ褒めてる?ねえそれ褒めてるの?」
「褒めてます。褒めてますよ!だって戸川さんにも素敵なところがあるって知れたので!」
「…そんな風に言ってくれる人初めて会ったわ。ありがとね」
「いえいえ、普通に思っただけなので。後私にはラフに喋ってもらって全然大丈夫ですよ」
「そう?じゃあ遠慮なく…また来るわ。いや普通に飯美味かったし」
「ご飯のこと褒めてもらえるとすごく作った甲斐があります。ありがとうございます」
「いや、渚ちゃん一人で作ってるっての聞いて驚いたんだよな。大変じゃないの?」
「戸川さんと大月さんの分と私たちの分だけなら普段作り慣れてるのでそんなにきつくないですね」
「へへっ。強。いやでもほんと居心地よかったから。また暇見てくるわ。咲希ちゃんにもそう言っといて」
「分かりました。そう言っときますね。もしよかったら周りの人にも勧めてくださいね」
「おうよ。めちゃめちゃ宣伝しとく」
「ほんとですかぁ?期待しときまーす」
そう言っているうちに会計が終わったらしい雅彦が玄関に向かう。
悠太もそれに続いた。
「じゃあまた来ます…というか仕事でまた来ますけど」
「ああ。まあそうですよね。1週間後くらい?」
「それくらいですね」
「お前いいよなそれ出来るんだから」
「仕事だってば。それじゃあ、咲希さん、渚ちゃん。また」
「また来るぞー2人とも。じゃあ」
そう言って玄関口から出ていく2人。
咲希と渚でそれを見送った。
「大月さん、戸川さんまたねー」
「また来てよー。じゃあねー」
そうやって玄関口が閉じられた。
「戸川さんってすごい叫ぶ人だったんだね」
「ん、ああ、そう。毎回ヘッドセット壊れるんじゃないかと思ってやってる」
「でも咲希姉が楽しそうでよかったよ」
「まあ楽しかったしね。うるさいけど」
「そういえばまた来てくれるって言ってたよ」
「お、マジ。よっしゃ定期客ゲット。金入る」
「ついでに宣伝もしたからお客さん来るといいね」
「死ぬほど予約入ったりして」
「そんなことがあればいいね」
「お、フラグか?」
「フラグかって言った時は大体来ないよ」
「むしろそんなに来られると死んでしまいます」
「確かに。ほどほどでいいよね」
「ほんそれ」
□□□□□□
「大丈夫か。忘れたもの無いか?今ならまだ戻れるぞ」
「おう問題ないぜ」
「じゃあ出発するぞ」
「おうよ」
そう言って雅彦が車のエンジンをかける。
今から片道1時間の旅である。
「いやー最高の休暇だったぜ」
「悠太、お前今毎日が夏休みじゃないのか」
「いいんだよ休職中だから!それにさー普通に休んでるよりも遥かに効果的な休息だったと思うんだよな俺は」
「何故…は聞くまでも無いか」
「いやー咲希ちゃんと渚ちゃんの存在がでかいね間違いない」
咲希と渚のことを思い出しているのか顔がにやけている悠太。
「いやマジでさ。普通に宿として寝る分にも全然問題なかったけどさ。ぶっちゃけこの辺何にもないじゃんか。流石に今海に入るわけにもいかねえし」
「入りたいなら入ってもだれも止めないと思うけど」
「嫌に決まってんだろ死ぬわ。今何月だと思ってやがる」
現在は一月である。
しかもここら辺の海はこの時期になると少々荒れ気味であるため、こんな時期に海なんかに入ろうもんなら行方不明待ったなしである。
「でさでさ、正直寝泊まりするだけだったらこんなに元気にはならないわけよ。むしろ暇だしな」
「まあ…俺と悠太の2人じゃやれることたかが知れてるけど確かに」
「だろ?で、ここで咲希ちゃんと渚ちゃんですよ。いやもう何、あんな美人と可愛いこと同じ軒下にいるってだけでテンションバリ上がるよな」
「それは割と病気では」
「うるせえ!お前は普段から咲希ちゃんとか渚ちゃんに会ってるからあの有難みが分からねえんだよ!普段女と関わり0な奴からしてみればそれだけで十分テンションハイなんだよ!」
「いやまあそれ隣で見てるだけでも十分すぎるくらい伝わってきたけど」
実際壊れてるんじゃないかと思うくらいには定期的にテンションがおかしくなっていた悠太である。
「いやもうマジさ。咲希ちゃんとか普通に部屋まで来るし、喋って来るし。もうね、俺人生であんなに女に接近したことないよマジ。小学生以来だよ」
「流石に…それは無いだろ?いや、仲いいかはともかくとして会話くらいはすることあっただろ?」
「ほぼ無い!俺は中学以降女と喋った記憶はほとんどない!」
「えぇそれマジか?」
「マジだよ!いや話すような話題も、必要も無かったので…」
「そんなだから最初咲希さんに会った時なんかおかしかったのか悠太」
「それもある」
「他があるのか?」
「それ以上に咲希ちゃんがあんなに色々整ってると思ってなかったせいで壊れた」
「壊れたって。確かに咲希さん美人だけどさ」
「いやね。確かに言っただろ?予想はしてたんだって。咲希ちゃんの実物どんな人かなってさ。でまあ、最初は正直良くて普通くらいかなとか思ってたわけよ。ぶっちゃけオンゲで会ったし、見た目的な意味で期待はしてなかったわけねこれが」
「とんでもなく失礼極まりないな悠太お前」
「まあまあ、思ってるだけなら自由じゃん?でさあ、後からお前に聞いてみたら美人って言うじゃない?でまあお前の言う美人だしどんなもんだろうと思ったわけよ」
「どういう意味だそれは」
「いや別にお前の目がおかしいとか思ってるわけじゃねえよ?ただ、もともと俺と似たような感じでそこまで女子とかと付き合い無かったお前の言う美人だからな。整ってはいるんだろうけどまあ良いくらいなんだろうなとか思うじゃん。そしたらさ、なんか一番上が来るわけよ。おかしくもなるだろ?想像といい意味で違いすぎる!ってなるじゃん。最高かよ」
「それで部屋に入って騒いで怒られたら世話ないだろう」
「まああれはあれで咲希ちゃんの怒り顔見れたからまぁ…」
「いや確かあの時も言ったけど、素直に反省しろよそこは。何見てるんだ」
「美人の怒り顔は貴重!」
謎の確信をもって力強くそう言い切る悠太。
「でさぁ、それだけでもお腹いっぱいどころかもう天国なのに、渚ちゃんまでいるじゃんか。もうやっぱあそこ極楽じゃないのか?」
「相変わらず表現が無駄に大げさだな悠太は」
「それくらいヤバかったってことだよ!渚ちゃんも渚ちゃんでこの俺に笑顔で話しかけてくれるんだぞ!しかもあの子に至ってはゲームしながら手まで触れた!いやマジでめっちゃ触ってたもん!女の子の手に触れたのとか最後何時だよ。小学生…いやもっと前かもしれん」
「さらに前なのか。女子との付き合いの無さ際限ないな」
「うるせえ。お前も流石に手を合わせたりしたことないだろ?」
「…まあ、流石に」
「だろ?それをあの子はいとも容易く!いややっぱやべえよやべえ」
「いや、挙動不審になるにも限度があるだろあれ」
「女の子が超近いんだぞ!?密着に近かったぞあれ!しかも格好格好だしさぁ!?挙動不審にもなるだろそりゃよ!」
「だからってテンションがおかしすぎるだろ。咲希さんあれ引いてたぞ多分」
「耐性無いんだよっ許してぇ!咲希ちゃーん!」
「うるさっ。叫ぶのやめろって車内狭いんだから」
「いやでもどうしよ。俺次ネトゲで会った時に今まで見たいに接せるのかな」
「いや、大丈夫だろそこは。本人前にしても最終的に結局いつものテンションだったし」
「いやでも画面の向こうが超美人とかどうしよ。ある意味もうこれステータスでは?俺のネッ友超絶美女ー!ひゅー!俺にも春が来たぜー!」
「春なのかそれは…」
「決めたっ。俺はまたいつかあの宿に行く。そして咲希ちゃんと渚ちゃんともう一回喋りに行くぜ。また来てくれって言われたしさ!」
「勝手にしてくれ。ただ次は自分で来いよ。送迎はこれが最後な」
「えぇー?お願いしますよぉ」
「嫌だよ。なんで片道1時間往復しないといけないんだ」
「電車とかだと3時間くらいかかるんですぅ。お願いしますぅ」
「ちょ、しなだれるな気持ち悪い!あと運転中!やめろ!」
そんな風に叫び声を響かせながら車は悠太の家へと向かって行った。




