指導
「そういや咲希ちゃん昨日もゲームやってたの?」
「え?ああ、いや流石にソロだし、やってないけど」
「あれ、そうなの?てっきり毎日やってんのかと」
「いやまあ大体毎日やってるけどさ」
次の日。
もう一度2人部屋を訪れた咲希が雅彦と悠太と会話していた。
昨日の会話で慣れたのか、悠太が平常運転になりつつある。
「あー話してたらやりたくなってきたなぁ」
「ん、咲希さん2階行きですか?」
「えーっと、んー。2人とも来ます?」
「え?」
「いや、どうせ来てんだし、私の部屋くらいなら入れてもいいかなと。画面見せたいし。友達上げる分には問題ないでしょ」
「え?いいの?」
「私がいいと言えばそれでいいのだ。それで、来ます?」
「俺は行く。雅彦は?」
「え、えっと、咲希さんがいいなら…」
「おっけ決まり。じゃあ部屋このまんまでいいから、ついて来てください」
というわけで2階へと移動する3人。
途中で悠太がポロリと漏らす。
「へー2階こんな感じなんだ」
「こんな感じですが。まあ2階は生活スペースだから一般客お断りだけど」
「…なんというか普通だな」
「何期待して上がって来たわけ?」
「いや、だってさ、咲希ちゃん渚ちゃんと2人暮らしなんでしょ?」
「そうだけど」
「だったら男の家とは何か違うかもって思うじゃんか」
「いや…変わらんだろ。生活するために必要なもの同じだし基本的に」
「そう言う雅彦こそ来るの初じゃねえのかよ!」
「いや、俺は上がったことあるけど」
「え゛」
「まあ最初はあれ事故みたいなもんだけど…」
「美船が上がってきた時でしたっけあれ」
「そうそれです。勢いあまって俺まで上に」
「あーですよね。まあ結局美船勝手に出入りしてますけど」
「いやほんとすいません。言ってるんですけど聞かなくて…」
「いやもうそこまで気にしてないんで。大丈夫です。連絡欲しいけど相変わらずだし」
「…」
「まあでもあの後もブログの設定とかでなんどか来てるし…あれ、悠太どうした。顔が怖いぞ」
「うるせえ!仲いいかよ!」
「え?まあ多分普通に仲良いけど…」
「うがあああ!」
「まあ仲良くもないのに一緒にゲームやらないですよね」
「ですよね」
「くそっ…なんで雅彦お前は仕事先でこんな人発見しちゃうんだよおい…」
「いやまあ…偶然だったけど…」
「だから腹立つんだろうがぁ!」
「はいそこ叫ばない。うるさい」
「はい」
そうこうしながらリビング横切って咲希の部屋に連れ去られる2名。
「はい、どうぞ。お入りください」
「え、咲希ちゃんの部屋?」
「そりゃま、私のPCあるのこっちだし」
「よっしゃ、お邪魔ー!」
そう言って部屋に入った悠太が部屋を見渡す。
「…え?咲希ちゃん部屋こんななの?」
「おいこらなんだよ文句あっか」
「え、渚ちゃんの部屋ではない?」
「違うわ。絶対ベッドの上見て判断してるよねそれ」
「え、だってだって、めっちゃぬいぐるみ…」
「いいでしょ!好きなんだから!あっ、もみくちゃにするなよ綿寄るからっ!」
「ってか咲希ちゃんパソコンでかくね?」
「え、そう?普通では?あ、ノートだっけか」
「いや、デスクトップもあるっちゃあるけどこんな大層な感じのじゃない…え、パソコンガチ?」
「え、でも渚も似たようなもんだけど」
「2人揃ってなんてもん持ってんだ…女子ってなんだ…」
「いや持ってる人は性別関係なく持ってるでしょそりゃ」
「イメージ…」
「知らんわい。まあいいから画面見てほら。見せたいもんあったんだし」
そんな感じでしばらく咲希のゲームプレイを見たり、変わってやったりといった時間が続いた。
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しばらくして咲希の部屋がノックされる。
お風呂上がりの渚であった。
「咲希姉ー入ってもいいー?」
「んーいいよ」
ガチャリと扉を開けて咲希を呼ぼうとしたところで止まった。
「お風呂…ってうわみんないるし」
「いや、下で喋ってるだけだと暇だったもんで上げちゃった」
「上げちゃったって、せっかくオフ会みたいになってるのに、結局ゲームをするのね」
「オフ会でもゲームしたいからね。話してたらやりたくなるじゃんね」
「流石咲希姉だね。ぶれないね」
会話する咲希と渚をスルーして画面に熱中する男2名。
ガンシューティングをやっていた。
「あっ、悠太右右右」
「えっ、右?え、どこ」
「いやさっきのとこほらいるっ」
「あっ」
「ほら見ろ」
そんな声に引き寄せられていく渚。
丁度そこで横を振り向いた悠太が渚を見て体を大きくのけぞらせた。
「ちょ、雅彦お前変わってってうわっ!?渚ちゃん!?」
「あ、こんばんは。さっきぶりですね」
「どどどうも。え、いつの間に」
「さっきの間ですかねー。あれ、いつもやってるゲームじゃないんですね」
「あ、えーっと、さっき咲希ちゃんに…」
「いやさ、オンゲ見てるだけだとつまらんじゃん。だからこっちやらせてみたらおもしろいかなーって」
「咲希姉せっかく友達連れて来たのに、結局ゲーム一人でやってるの?それはダメだよ」
「まあPC1台しかねえからなここ。だからローテでやってる今」
「確かに?でもこのゲーム勧めるなんてなかなか酷なことしてるね」
「正直やるものがあんまりなかった」
「成程?ちなみに調子はどうですか」
「全く駄目なんだけど…あのさ、渚ちゃんこれやってるってほんと?」
「最近は忙しいのであまりやれてないですけどやりますね。慣れると楽しいですよ」
「これ、これ、慣れる?え?」
「一個一個の動作はそんなに難しくないので、覚えていけば必要なことは簡単な作業くらいの感覚にしかならないです」
「え?…え?」
「渚ちゃん、これ相当やってるね」
「2年くらいですかね」
「2年!?これを!?え、何の修行?」
「修行とか言わないでください!私的にはこっちの方が楽しいんですよ!」
「マジか…あっ、また死んだ」
「とりあえず慣れてない内は味方のいないところに入らない方がいいですよ」
「はい」
その姿を見て咲希が一言。
「お、指導が始まった」
「えっと、これをこうして、こうして、こうして…で、待つ」
渚が悠太の手の上に手を置いて操作を行う。
悠太の目が画面ではなくそちらの方に向く。
「はっはい」
「そしたらクリック!」
「あ、え?」
「右上見てください!敵死にましたよ!」
「え、あ、ほんとだ!すげえ!」
「ていう感じで覚えれば簡単にできるので、武器集めとか武器強化するよりよっぽど楽です」
そういう渚を見て雅彦が一言漏らす。
「自分にはとてもそうは見えない…」
「家事と一緒です家事と。覚えれば簡単です」
その言葉に咲希が頭で思いついた言葉を吐いた。
「ふっ戦場と家事が同レベルの女…」
「戦場ってこれゲームだし。そこまで複雑じゃないでしょ」
「いやまあそうだけどさ。響きが…ふふっ」
「もうまた変なところでツボって…とりあえず戸川さん。ゆっくりやってきましょう」
「はいっ!教官オナシャス!」
「きょ、教官?よ、よろしくお願いします?」
「悠太、物凄い困惑されてるぞ」
そんな感じでしばらく教官をやった渚。
「後ろです後ろ、えっとこう、こっち!」
「えっ、あ…」
渚の手が悠太の手に乗る度に目線がそっちに飛んでいく悠太。
「画面見てください、前ですよ前!」
「あ」
「そこでFキーを押す!」
「え、あ、はい」
半分言われるままに動く悠太。
画面には勝利の文字が表示された。
「やったぁ!勝ちましたよ戸川さん!」
「え?あ、え?」
「ほら、はい、ハイタッチ」
「は、ハイタッチ…」
物凄くぎこちない様子でハイタッチする悠太。
「やればできるじゃないですか」
「いやでも渚ちゃんいないと操作すらおぼつかない…」
「初心者なんだから当たり前ですよそれくらい。私だって知らないゲームできないですもん」
「そ、そう?」
「そういうことです…ふぅー叫んでたらちょっと熱くなってきたかも。咲希姉暖房強すぎ」
「乱入者の想定はしてないでーす」
「まあ、上着脱ぐからいいけどさ」
そうして着ていた上着を脱ぐ渚。
その下はネグリジェ。
いつもの格好である。
「えっ、あっ」
そして雅彦が見てはいけないものを見たかのように目を背けた。
が、渚本人はそれに気づいた様子はない。
「さあ、戸川さん次行きますよ!」
「お、おう!…」
横に一瞬目をやった悠太が華麗に二度見を行う。
ネグリジェ姿に体が固まった。
「どうかしました?」
「えっ、あ、い、いや…その…」
「もしかして顔に何かついてますか?あっ、もしかして服に埃ついてるかも?」
「いやっ、そ、そうじゃ、ない、けど、いやあの、そ、その」
「その?」
そこで悠太の挙動不審に気づいたのか咲希が一言。
「渚ー。めっちゃ寝間着晒してるけどええんか?」
「あーー。成程、忘れてたや。でもお風呂入っちゃったし普通の服着るのは違うよね。うーん…」
その渚の言葉を聞いた雅彦があまり渚を視界に入れないようにしながら咲希に問う。
「渚ちゃんいつもあの格好なんです…?」
「あーまあ大体。多分この部屋入る予定無かったんでしょうねあれ」
「えーどうしよう咲希姉。どうしたらいいと思う?」
「いや聞くなよ。上着着たら?」
「熱いから脱いだのに?」
「じゃあお前の部屋行くか」
「その理屈はよく分からない」
「いやそっちの部屋今暖房入ってないじゃんね。上着込みで丁度いいんじゃね?」
「成程。ならいいよ」
上着を再び着る渚。
「え、で、私の部屋どうすればいいの?パソコン付けるけど、そのゲーム付ければいい?」
「あー…もういっそ2台付ける?」
「全然いいよ」
「さっきから雅彦さん見てばっかだし」
「それは確かにつまんないよね。大月さん戸川さんどっちが来ますか?」
「教官が選んだら?」
「えぇ?私?じゃぁどちらにしようかな…」
天の神様の言う通りとやり始めたあたりで雅彦が声を上げた。
「じゃあ俺!俺行きます!」
悠太と渚を2人きりにしたら悠太がどう暴走するか分からないということからの名乗りである。
「あ、大月さん来ますか?」
「ちょ、なんでお前が行くんだよ」
「お前部屋にいれるよかマシだろ!」
「ああまあ確かに。雅彦さんならまだ安心だわ」
「えぇ!?俺安心されてない!?」
「そりゃまああんだけ挙動不審な姿見せてたしねえ?」
「私はどっちでもいいですよ」
「渚ちゃん…あなたが神か」
「私は人ですが」
「渚ちゃん以外敵しかいないもんこの空間!」
「確かにー戸川さんと2人きりだったら警戒しますけど、大月さんもそれは変わらないですし。隣に咲希姉いるので別に気にしないですよ」
「うっ、救われたのか追撃されたのかよく分からない…!」
「まあいいや。なんか私が渚の部屋に入れたくないからランポこっちね」
結局咲希による理屈も糞もない一言で全て決まった。
一応咲希も渚が心配なだけである。
他意はない。
「えええーー!?」
「じゃあ大月さん行きますよー」
「あ、うん」
そうして部屋を出ていく雅彦と渚。
その姿を見て悠太が叫ぶ。
「あんまりだぁ!」
「うるさい!」
「はい」
押し黙らされる悠太であった。
なおこの後ゲームは無茶苦茶やった。




