違和感
「いやーいいなここ!夕飯上手いし!風呂は広いし!そんでもってそんなに高くねえ!最高じゃんか!」
「値段に関しては咲希さんの温情というか結構抑えてくれたからね…」
風呂入って夕食後、部屋に戻った雅彦と悠太が会話していた。
今回は咲希の友達ということで、咲希が値段に関しては少しまけた。
基本的に宿泊料に関しては咲希の融通でどうどでもなるのである。
どうせなんだかんだ管理主は咲希なので。
「しかも美女!美少女!やっぱ天国だぜぇここはよぉ!」
「調子いいな…さっきまで俺に恨み言吐きまくってたのに」
「いやーなんつーか実際にあんな子たちの近くで生活できるだけで心洗われるっていうか?よく考えたらお前と同じ境遇を享受できてるって考えたらどうでもよくなったというか?いやほんと俺なんかにあんな可愛い子が笑顔で話してくれるのすっげえよ。感動だぜもはや」
「それ咲希さんじゃなくて渚ちゃんか?」
「そうそう渚ちゃん!いやあの子マジで可愛いよな!なんか女子っぽいっていうか女の子なんだよなぁ見た目がよぉ」
「そりゃ実際渚ちゃんは女子だろ」
「分かってねえ。分かってねえなあお前はよ。可愛くてな?スタイル良くてな?そんでもって格好が女子っぽい女子ってのは貴重だと思うね俺は。ありゃ奇跡の産物だぜ?」
「奇跡とは大きく出るな。確かに渚ちゃんは可愛いけど…」
可愛いとは思うが雅彦はなんか来るたびにいじられるイメージがかなり強いので、たぶん可愛いは可愛いでも、悠太の言ってる可愛いとは方向性が少し違うと思われる。
「そんな子に甲斐甲斐しく世話焼いてもらえる!ご飯作ってもらえる!もーやっぱ最高だよ!」
「いやそれ多分業務だからやってるんだと思うけど」
「言うなよ!夢無いな!少しくらい可愛い子が世話してくれてる幻想に浸らせろ!」
そんなことをごちゃごちゃと言い合いしていると、部屋の扉がノックされる。
「もーし、入っていいですかね?」
「あ、咲希さん?どうぞー」
かちゃりと扉が開いて咲希が部屋に入ってくる。
手には缶ジュースが3本。
「失礼?さっき言ってた通り来たとこですが」
「あ、喋りに来たって感じですかね?」
「そうそう、そういう感じです。あ、これ好きなの一本どーぞ?」
そう言って缶ジュースを机の上に置いて座り込む咲希。
盛大に胡坐である。
ある意味気の知れた中なので遠慮は無い。
「あ、わざわざありがとうございます。じゃあ自分これで」
「はいはーい。ランポさんどれがいい?」
「え?あ、じゃ、じゃあこれで」
「はーい。…ちょっとそんなにビビんなくても取って食いはしないから安心してって。さっきはキレてたけど、別に何とも思っちゃいないから」
明らかに挙動不審な悠太を見て思わずそう言う咲希。
先ほどキレたのが影響してると思ったようである。
「え?あ、はい?」
「ちょ、なんか調子狂うなぁ。私が部屋に入って来る前のうるさい感じはどこ行ってんだか」
「あ、やっぱ聞こえてます?」
「そりゃまあ、なんか渚についてテンション高く話してんなぁくらいには」
「いやもうなんか来てからこいつずっと興奮しっぱなしで、申し訳ないです」
「まあまあ、なんか喜んでくれる分には気にしないというか、むしろこっちとしても嬉しいんで。まあ音量考えてくれさえすれば何しとってもらっても構わないというか。まあそんなスタンスなんで」
「ありがとうございます。いやほんと、なんかこいつさっきから咲希さんと渚ちゃんの前でだけなんか畏まった猫みたいになってんですよね」
ぶちまける雅彦。
雅彦と悠太も付き合いが長いのもあって遠慮がない。
「し、仕方ねえだろ!咲希さんと渚ちゃんの前で普段のテンション出したらドン引きされそうなんだよ!」
「いや、それ私に隠してもしゃあないっしょ。普段散々喋ってるのに今更?みたいな?」
「咲希さんに怒られるのは問題ないけどゴミを見る目で見られたら立ち直れる自信が無い!多分精神的に粉々になる!」
「いや、そういう発言こそ引かれるんじゃないのか」
「あ、しまった」
「はいもう遅い。アウト。もろ聞こえてるつーの。というか怒られるのは問題ないんかい」
「ああぁ!」
「えーっと、ごみを見る目はやったこと無いんだけど、こういう感じ?」
何かリクエストされた気がしたので、咲希の思う全力で冷徹な視線をやってみる。
「うっ…」
声を出して悠太が後ろへと倒れ込んだ。
心臓部分に手を当てている。
「あ、死んだかこれは」
ケロッと顔が戻る咲希。
やってみただけなのでそれ以上の意味はない。
「いちいちオーバーリアクションだなお前は」
「いやー…氷より冷たい目線をリアルに感じることができるとは…美人怖い」
ぽろっと小さく漏らした言葉を咲希の耳が拾う。
にやっと咲希が笑いながらそれに反応した。
「あふーん。美人と言われるのはまあ悪い気はせんね?」
「え、あ、口滑ったぁ!」
「あははっ!いや、いいよ気にしないしそんなこと。いや初めて面と向かって言われたけどね人から」
「え、あれ、そうなんです?てっきり言われ慣れてるくらいには言われたことありそうな感じしてましたけど」
「え、そんな風に見られてたんですか?」
少し慌てて弁明を入れる雅彦。
「い、いや、あくまでも一般的な感想です」
「んー…まあ過去にあったような気もするけど、覚えてないので分かりませーん」
実際知らない時間軸の話なので仕方ない。
まあ内心多分こんだけ見た目いいなら言われてることくらいありそうだなとかは客観的に思ったりはしているが。
「というか、ランポさんから咲希さん言われるとすっごいむず痒いんですけど?普通にちゃん付けでいいですよ?」
「え、えぇ。いやでもなんか顔見てみたらちゃん付けできる雰囲気じゃない…」
「いや別に、多分年下ですし。気にしないで、ほんと」
「じゃ、じゃあ、咲希ちゃん…うわっ、普段はずっとこっちで呼んでるのに変な感じするっ!」
「私的にはそっちのが馴染み深いんですけどねっ!」
突っ込む咲希。
まあ普段呼ばれ慣れている呼ばれ方が急に変わったらそりゃむず痒くも感じるってもんである。
「そしてさっきから突っ込むか迷ってましたけどーランポさん目線が明後日いってますよーこっち見てー」
「え?な、なんのことかな?」
「声ひっくり返ってますけど」
そこで雅彦がさらにぶっちゃける。
「ああ…あのこう言っちゃなんですけど、こいつ女慣れしてなさすぎて…」
「ああ、成程。そういうことか」
合点がいったという感じの表情になる咲希。
そういや女だったわと思い出しているところである。
会話してる時はあんまり意識していないので、以前のままのように会話している節がある。
「言うなよおおぉ!俺のプライドズタズタなんですけどぉ!」
「まあまあそんなプライドあっても無いようなもんだから気にしない気にしない」
「咲希ちゃんもひどくねぇ!?」
思わず突っ込みながら咲希の方を見る悠太。
「よし、こっち見たな。おっけい」
「あ」
そして速攻で顔ごと違う方に向く悠太。
もはや隠す気もない。
「目線逸らさなくていいから。見てていいから。というか逸らし方が露骨すぎて違和感しかないですよ」
「首ごと回ってますもんね」
「う、うるさいやい!女の人のどこ見やいいか分からんのだもん!」
「いや顔見てよ顔」
「違うとこに目線が飛びそう!胸とか!」
直球な発言に雅彦の方が動揺する。
「正直かっ!少しは隠せよっ!」
「こりゃ重症ですね…てか私そんなに気にしないけど流石に女の前でその発言はやめといたほうがいいよ間違いなく」
「へい」
案外素直に言うことを聞く悠太。
美人得だなとか思う咲希であった。




