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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
92/177

絡まれ

「ふぅ、さっぱりした。やっぱいい湯だよなここの風呂」


そんなことを言いながら脱衣所から顔を出す明人。

いつもの如く渚のお手伝いに呼ばれたのだが、夕飯の支度が完了したのでお風呂を借りていた。


「さて、帰れる準備だけしとかないとな。あと夕飯だけ食べて終わりだし…」


そう言いながら1階の長い廊下を歩いていると横の扉から誰かが出てくるのを発見した。


「あぁー…?やっべ、ちょっと飲み過ぎたかも」


「足ふっらふらじゃん?ちょっとぉ大丈夫ぅ?」


「そういうあんたもふらふらしてない?」


「えぇー?してないけろぉ?」


「…お客さんだよな。あれ」


微妙に千鳥が入った足取りで廊下を横切っていくのは、おそらく今やってきている女子大生くらいの客であろうことが分かる。

2人とも相当酒を入れたようで、お互いに相手を支えあうような体制でなんとか歩いているようである。


「ん、おお!イケメン君じゃん!」


「え?お、俺?」


そんな中酒に飲まれた片割れが目ざとく廊下を歩いていた明人を発見したようである。


「あぁー!イケメン君!ねぇねぇ!ちょっとお部屋でお話しようよー!」


「え?あ、でも俺、そんなに時間が…」


実際時刻的には夕飯食べたら帰らないと結構遅くなる時間ではある。

が、酔っ払いには通じない。


「らいじょうぶっ!そんなに時間は取らせないっからっ!」


「だからお願いー!万年彼氏いない勢の私たちに付き合ってー!」


叫ぶ2名を前に少し考える明人。


「んー…まあ、いいですよ。少しなら」


まあ宿の中である以上、危険はないだろうということで、付き合うことにしたらしい明人。


「やったぁー!じゃあイケメン君こっちこっち!」


「うわっ、ちょっ引っ張らっ!?」


「うひーぃ!イケメンげっとぉ!」


「うおい!そのイケメンは私のだぞ!」


「へへーん。あげないもーん!」


「ちょ、俺、別にどっちのでもっ、うわっ!?」


2人の酔っ払いに丁度挟まれる形で、そのまま部屋の中へと飲み込まれていく明人であった。


□□□□□□


「えぇー!?じゃあ兄妹じゃないのぉ!?」


「違いますよ…俺はただのバイトですから」


そのまま部屋に連れ込まれた明人は、2人から浴びせられる質問に答え続けていた。

女子大生組はというと、片方は布団の上で寝転び時折転がりながら、もう片方は非常にリラックスした体勢で座って明人に質問を投げている。

明人はというと、そんな部屋のどこにいればいいのか困った挙句、出入り口付近で体育座りしていた。


「美男美女のファミリーだと思ってたぁ!この家超絶顔整ってる系かなってさぁー!」


「ねー!イケメン君と美少女ちゃんとかも双子かなーって!」


「双子にしちゃ顔も性別も違うことないー?」


「2卵生なんでしょー?だったら違っても普通じゃないー?やっぱ双子なのー?」


「いやだからそもそもバイトなんですって。血のつながり無いですから」


「えぇー?あ、そうかぁ。バイト君なんだったー」


話がループしながらなんとか進んでいく。

明人は既にだいぶ頭が痛くなっている。

酒の匂いのせいか、それとも話のせいか。


「えーじゃあ何々、イケメン君はどっち狙ってるのー?」


「え、狙う…?え、狙ってませんよ!何言いだしてるんですか!」


突然そんなことを聞かれて思わず声が変な方にひっくり返る明人。

そういう気は全く無かったので猶更である。


「またまたー。そんなこと言ってどっちか好きでここに働きに来てるんじゃないのー?」


「やっぱ大人のお姉さん!?それとも同い年くらいの女の子か!?」


「私的には若い方がいいんじゃないかなって思うけどー?あの子めっちゃ可愛いじゃんね!私たちも嫉妬しちゃうくらいには!」


「いーやでも大人の魅力ってのも捨てがたくない?ほらほらもう一人の人もスタイル最高じゃん!どうなったらあんななるんかなー」


「ねね、どっちよどっちよ!」


「違いますって!そういうこと考えて働きに来てるわけじゃ無いです!」


叫ぶ明人。

若干顔が赤い。

こういう会話慣れてない。


「むむむ、むっつり君なのかな?」


「案外ストライクゾーンが狭いのかもよー?じゃあじゃあ!間をとって私たちとかどう!?どう!?」


「あ、それいいね!丁度両方彼氏いないし!」


ずずずっと明人に迫る2名。

明人が座ったまま後方に移動しながら叫ぶ。


「よくないですってば!」


ちょっとしたら退散する予定だったが、逃げられ無さそうでどうしようか考え始める明人であった。


□□□□□□


一方渚はというと自分たちの夕飯の準備が終わったところであった。


「そろそろ神谷君も出てくるころかなぁ。とりあえず咲希姉呼んでくるかぁ」


というわけでとりあえず2階の咲希を呼んでくる渚。


「咲希姉ー!ご飯できたよー!」


「わあったすぐ行くー!」


「ああ、あと神谷君いるー?神谷君もいたら呼んで来てー」


「いねぇー!」


「了解ー!じゃあとりあえずご飯だから降りてきてー」


「あーい」


そこまでで2階と会話を終えた渚が、明人を探しに風呂場の方へと向かった。


「おーい!ご飯できたけどー!もう出ますかぁー!」


しかし返答はない。

風呂場の中は静かなもんである。


「あれー?おかしいなぁ。いつもならこっちにいれば反応返ってくるんだけどなぁ」


渚は少し考えて、何かを思い出した。


「そういえばさっきお姉さんが出て行ったときに、イケメン発見とか言ってた気がするけど…もしかして?」


ということで今お客が泊まっている2号室に向かう渚。

中から、女子大生2名の声と、明らかな男性の声。


「女の人2人組だったよね。これは…絡まれてるな?」


放置しようかどうか一瞬悩む渚。

ただ、ご飯を作ってしまった以上、呼ばない選択肢はない。

というわけでノックをした。


「すみませーん。ちょっといいですかー」


「あいてますよぉー!」


「開けても大丈夫ですか?」


「らいじょうぶでーす!」


どう考えてもめんどくさいやつだと思いながら、扉を開ける渚。


「失礼しまーす」


「え、あ!渚っ!」


「あ、やっぱりいた」


「あ、あの!呼びが来ちゃったんで!俺はこの辺で!」


「えー?もうちょっとくらいいいじゃん!ねえ!」


「流石にこれ以上は時間やばいんで!それじゃ!お話楽しかったです!」


渚が何か言う前に明人が大慌てで部屋の外へと飛び出してきた。


「あぁー!逃した!ちゃんと捕まえとかないから!」


「拘束外したのそっちじゃーん!」


この酔っ払いどうしようかと内心思わずにはいられない渚。


「ご歓談中のところ失礼いたしましたーごゆっくりどうぞ、失礼しました」


そう言って渚もまた扉を閉めた。

中からまだ声とドタドタした音が聞こえたがもう聞こえないことにした。

そのままロビーに行ってみると、顔を下に向けて座っている明人がいた。


「お疲れ様。災難だったね」


「いや…渚、ありがとう。助かった」


「ご飯だから呼んだだけだよ。正直放置しようかなって思った」


「あれで放置されたら俺萎びて死ぬ」


生気の抜けた顔でそう話す明人。

だいぶ精神的にやられたようだ。


「いったい何があったの」


「凄まじい質問攻めされた…しかも何回答えても話がループするんだ…」


「酔っ払いだからね。仕方ないねー」


「しかも俺がこの家の人間に見えるだの、違うって言ったら、じゃあ誰が狙いでバイトしてるだの…はぁ…」


「それは、ほんとに、なんか、ご愁傷様」


「部屋の中も目のやり場に割と困ったし…」


「そうだよね、女の人2人の部屋だもんね。そりゃぁ、神谷君だと刺激が強いのかもね」


「勘弁してくれ…そういう方向は全く慣れてないんだ俺は…」


相変わらずそういうのには弱い明人である。


「そのことについて私の前で言うのもどうかと思うけどね。お疲れ様」


「ああ…あ、夕飯だっけ」


「そうそう、夕飯だよ」


「分かった。すぐ行く。…あぁ、風呂出たのが遠い昔に感じる…」


「元気出して、私がおごりでジュースあげるよ」


「ありがと。いやでもマジ助かった。ありがとな」


「いえいえ、こちらこそ前に助けていただきましたので。持ちつ持たれつっていうか、そんな感じ?」


「ははっ、借り一個返されたかなこれで」


「それは神谷君次第じゃないかな。私は夕飯だから呼びに来ただけだし」


「んー…ま、でも助けられたしこれでチャラってことで」


「じゃ、そういうことで。ちなみに咲希姉のこと好きだったりする?」


突然そんなことを聞く渚。


「ばっ!?何聞くんだいきなり!?」


滅茶苦茶過剰反応する明人。


「えっ?冗談のつもりだったんだけど」


「…いや、いきなりで驚いただけだよ。人としては好きだけどそれまでだって」


「成程成程ぉ。ふーん」


「何の含みだよそれは。何にも無いぞ」


「べっつにぃー?まぁ慌ててて、面白いなぁって思っただけ」


「くっそ…いきなり聞くから驚いたじゃないか」


「偶にはこういう話もしてみたかったし、私こう見えて恋愛話すごい好きなんだよね」


「ああ、まあ、そうだよな」


「え?なんで納得するの?そこは意外とかじゃないんですか!?」


「なんかこの前稜子たちに付き合った時に察したよ」


「えぇー?なんだぁ、ばれてたかぁ。じゃあこれから神谷君のタイプとかいっぱい聞いてこー」


「なら俺も渚の聞いてこー」


「え、それはちょっとやだ」


「なんでだよ!そこはオッケーだろ普通!」


思わず突っ込む明人。


「私は聞くのが好きなだけで話すのは好きじゃないんだよね」


「ひっどい理不尽だ」


「てことで、言質頂いたので、私は聞いてくからね。ちなみに他意はないので勘違いしなくていいよ」


「猶更悪質だよなぁ…」


「ほら、性癖とかの話すると楽しいでしょ。そういうこと」


そこまで話を聞いた明人がぽそっと一言。


「やっぱ渚そう言うの好きなんだな」


「あ。おっと、えっと、何のことかな?」


「前回以上に無茶だよそれは」


「はぁ、じゃあもういいやぁ。好き好き。てことで聞いてくからよろしく」


「ぶれないなぁ…」


その後ようやく夕飯にありつくことができた明人であった。



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