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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
89/177

距離

「ねえ神谷君。2人との距離、空いてるよ」


「…そうだな。…いや、詰める必要あるか?」


「でも4人で来たのにこれだと2人2人みたいになってるよ」


「いやまあそうなんだけどさ…あの2人の間に今入れる気がしないんだけど」


「だよねぇ…やっぱ入れないよねぇ…」


神社への道を歩く4名の間には気が付けば溝ができ、知らないうちにそれなりの距離が離れていた。

前に稜子と啓介。

後ろに明人と渚である。


「いやさぁ…この前のあれが功を奏したのか知らないけどさ。もうなんか自然に手も恋人繋ぎしちゃってるしさぁ。なんかあれに入るのも無粋かなって…」


「アレ付き合ってないんだよねぇ…ほんとに付き合ってないんだよねぇ…」


「一応この前確認した時は違うと一言告げられたぞ」


「はぁああ…あれだとどうやって触っていいか分からないよ。絡みづらいよ」


「周り見えてないからなぁどう見てもあれ…俺たちのこととか眼中に無さそう」


「いやぁ、幸せなのはいいと思うんですけど、なまじあの2人の様子を前見てたからなぁ…いじることもできないし、かといって祝福もできないんだよね」


「まだ正式に付き合ってないなら喜ぶとこまで行ってないしなぁ…いやでもあそこに話しかけに行くのは俺無理だ」


「私も無理だよ。だから神谷君の隣にずっといるんだし」


空気的に話せる感じはしない。

ので諦めた。


「完全にはじき出されてるな俺ら」


「だよねぇ。はじき出されてるよねえ。これはダブルデートみたいなもんだよね。私たちは付き合ってないけれど」


「前の2人も付き合って無いからいいんじゃないかな別に」


「いやぁそういう意味では無いのだけれど。まあ神谷君だしいっか」


「どういうことだよそれ」


「いやぁ神谷君は空気が読めない鈍感野郎なんだなぁって」


「鈍感で悪かったな。おかげさまで女性問題抱えまくりだけど」


「神谷君ってあれだよね。大事なとこで逃しそうだよね。こう、意中の女性にだけ振り向いてもらえないとか」


「だったらものすごく悲しい。いや、それ何の拷問なの俺の人生は」


「大丈夫、きっと変われるよ。言葉の意味をちゃんとくみ取ってくことが大事だよね」


「そうですか…で、まあさっきよりも距離が空いてるんだけど」


喋って速度が落ちたのか、それとも前の2人がさらに加速したのか分からないが、実際距離は空いている。


「もうちょっと早歩きした方がいいかな流石に。一応4人で来てることになってるし」


「このまま行くと見えなくなりそうだな。早歩きするか。というか2人であんないじらしい空気出してる割に足早いな2人とも」


「ああ、あれだよ。緊張しすぎて、目の前の目的だけ集中してるからきっと早いんだよ」


「成程。今は参拝だからってか?」


「そうそう、そんな感じ。あ、待って、手、洗うところ過ぎそう」


そう言って前に走る渚。

流石に止めた方がいいかなと思ったからである。


「2人とも手洗ってないよー!」


「え?あ、あ、そうだ。稜子、手」


「あ、え、あ、ああ、そ、そうね。ありがと渚」


「うん、別にいいよ」


そう言って再び後ろの明人の元へと戻る渚。


「ただいま。行ってきたよ」


「完全にスルーしかかってたなあれ…大丈夫そう?」


「あれは大丈夫じゃないね。でも失敗することもないでしょ。こと恋愛に関しては。それ以外は知らない」


「まあ…恋愛に関しては失敗すら全部飲み込むの前回見てるしな…今日は他に失敗してなんか問題あるわけでもないし…」


「まあそうだね」


そう言って手水舎に向かう2名。

渚が一人で手水しようとするのを見て明人が少し驚いた反応をした。


「あれ、渚一人でやるのか」


「え?これ?え?一人でやるんじゃないの?」


「いや、俺ずっと2人でやってた」


「え、そんな私リア充じゃないから…」


「いや、家族とか、目の前の2人とかだから」


「神谷君言い方なんとかした方がいいと思うんだけど。そういうところで誤解を生むんだよ」


「えぇ…?そんなに勘違いするか今の?」


「する人はするんじゃないかなぁ…ちなみに私は今したけどね」


「…するんだ。気を付けよう」


「で、ちなみに私は一人でやるけど、二人でやる時はどうやるの?」


「手洗い部分だけ相手に流してもらってるかな」


「成程。それは知らなかった」


そう言いながら一人でさささっと手水を進めていく渚。


「俺も一人のやり方あるの初めて知った」


「テレビとかで見たよ。こうやって左手、右手、やるでしょ。で、私はしないけど、これでうがいをして、残った水で柄の部分を洗い流して終わる。いつもこうやってたよ」


「へーじゃあそれ正式なやり方なんだ。マネするか」


「どうぞどうぞ」


そう言いながら対岸をチラ見する明人。

稜子と啓介がお互いに手水をしていた。


「…向こうは、うん。まあお互いにやってるね。知ってたけどさ」


「カップル的にはあっちの方がいいのかもね。あと、はいこれハンカチ使う?」


「え?いいのか?」


「うん、裏だったら多分濡れてないからいいと思うよ」


「ん、じゃあありがたく」


「どうぞどうぞ」


そう言って渚からハンカチを受け取って手を拭く明人。


「すまん、ありがと」


「気にしないで。ついでだから」


そうして境内を進んでいくうちに、気が付くと前方2名が見えなくなっていた。


「…あれ、2人どこだ?」


「あー…歩いてる間に、間に人が入っちゃったね」


「…さっそく4人じゃなくなったなこれ」


「ほんとだねぇ。帰り置いてかれないか心配だよ」


「ああ、その点は大丈夫だ」


絶対の自信がある顔でそう告げる明人。


「え?どうして?」


「電車が無いから」


「うわぁ!なんてこった!それはすごいね!」


「こんな理由じゃないと嬉しいんだけどな!まあ、だから置いて行かれることは大丈夫だと思う」


「流石田舎だね。でも逆に言うと駅まで逸れるってことだよね?」


「探さなきゃそうなるなこれ。…連絡通じる気がしないし」


「そういえば、もうこれお参りしたら、すぐ帰るの?ご飯とか食べたりしないの?」


「んー…流石に元日だからいっつもお参り済ませたら帰ってるな」


「成程。了解了解。じゃあ帰りにご飯買ってかないとなぁー」


「渚やっぱりお正月料理とか作るのか?」


「おせち?作らないよ嫌いだから」


物凄いいい笑顔でそう答える渚。


「え、ああ、嫌いなの?」


「私は洋食で生きていくの。例外はあるかもしれないけど」


「…ああ、だから洋食多いのか」


「そういうことです」


「いや、『しろすな』の雰囲気的に和食なのかなって最初思ってたからギャップあったんだ」


「分かる。分かるよその気持ち。でもね、私は死ぬほど和食が好みじゃない。特に、野菜いっぱいの精進料理とか特に無理」


「それどや顔で言うことじゃないと思うが…」


「それに煮物も嫌!お吸い物も嫌!」


「嫌なものばっかりじゃないか!」


「とんかつとかカレーライスとかは大好きだけどね!」


「舌子供かよ!」


「おこちゃまだよ!いいでしょおこちゃまだって!好きなんだもん!」


「いや好みにとやかく言う気は無いけどさぁ…そこまでとは。あの日本家屋みたいな宿の経営陣とは思えない」


「なんなら私は海で泳ぐのも苦手です。泳いだこと1回くらいしかないけど」


「なんという名前詐欺だ…」


「だから私はなりたくてなったわけじゃないんだってば」


「え、渚カナヅチなの?」


「一応泳げるよ。ゴーグル無いと泳げないけど」


「海の前に家あるのに…」


「だから別になりたくてなったわけじゃないんだってば!」


そこまで言ったところで、明人がぼそりと呟く。


「昔好きだったイメージあったんだけどな」


その言葉に渚が盛大に慌て始める。

まさか昔の自分が好きだったとは思わなかった。


「え、あ!ほら、えっと、時代が進めば!人は変わるでしょ!そ、そういう感じだから!」


「え、何焦ってるの?」


「焦ってないしっ!」


「いや、焦ってるじゃん。何だよ、海嫌いになった原因そんなに話せないようなことなのか?」


「べ、べ、別にさぁ、よくない?理由聞いて何かするの?」


「いや別に?ただ、あんまり動揺するから何かあるのかなってさ」


「神谷君そういうところがデリカシー無いんだよ」


「いや、渚なら大丈夫かなってさ」


「いいけど!いいけどぉ!でも、今回は教えて上げません」


「えーなんでだよー気になるじゃんか」


「そのうち、そのうちね!話す気になったら話してあげるよ」


「はは、じゃあその時に期待しとく」


「ああ、うん。それなりに期待しといて」


そんなことを言いながら気が付けばもう賽銭箱の前であった。


「渚、次」


「あ、うんうん」


「お参り。何のために来たのか分からなくなりそうだしちゃんとしてかないと」


「そうだね…何にしよっかな」


「え、願い事考えてないのか?」


「んー…何を願っていいか分からないからねー」


「なんかやりたいこととか願っとけばいいんじゃないか?」


「やりたいこと、かぁ…何がやりたいんだろうね」


「流石に渚のやりたいことは分からないけど…俺はテニスもっとやりたいかな」


「ああいいね。そういう感じの願い事かー。なら私もあるかもしれない」


「え、逆に渚はどういう願い事考えてたんだ?」


「何も考えれなかったって感じかな。願ったところで無駄だなって思ったし」


「現実主義だな」


「そうかな。これでも夢見てる方だと思うけどな」


「まあ、無駄でも祈っとけば叶うかもしれないし、願うのはタダだしな!なんか適当に祈っとけばいいのさこういうのは」


「そっかぁ、願うのはタダだったね。よーしじゃあ私も無茶苦茶な願い事聞いてもらお」


「そうそう願いなんてそんなでいいと思うぞ」


「じゃあさっそくお参りしよっかな」


「そうだな」


そう言ってお参りした2人。

渚の願いは『梛じゃなくて、渚として生まれ直せたらいいな』であった。


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