参拝
「しっかし元旦なのに人多いな。よく来るな当日にほんと」
「そりゃ初詣だからね!むしろあたしたちは遅い方じゃない?」
「正直一番大混雑してる時間とか勘弁願うからそれでいいけどな」
「ただ一番混むのは朝4時くらいまでらしいですけどね…」
「げ、混雑時間帯だった」
新年あけましていきなり襲来した美船にさらわれた咲希はそのまま遠方の神社にさらわれた。
そしてとてつもなく渋滞した道路でなんとか駐車場を見つけて現在に至る。
今は人混みの中を神社に向けて進行中である。
「いや、しかし、片道だけでこんなにかかるとはね…ふぁああ…眠気もちょっと来てるしな…」
「咲希ー起きてー参拝はこれからだよー」
「美船ぐっすりだったもんな途中!というかさっきも2度寝しかかってたし!」
「咲希も寝ればよかったのに」
「雅彦さん残して寝れねえよ」
「変なとこ律儀というかなんというかー。兄貴もそんなこと気にしないのに」
「いいの。自己満」
「でも、喋ってたおかげで運転中眠くならなかったので助かりましたよ。…ふぁああ、まあ、眠いんですけどね」
あくびをかましながらそういう雅彦。
まあ恐らく雅彦も寝ていないので仕方ない。
「ちょっとちょっとー帰り寝ないでよー?」
「誰のせいで眠たいと思ってるんだよ。…ふぁあああ、帰り出発前に少し寝た方がいいかもなこれ…」
「すいません。運転変われればいいんですけど、あいにく免許無いもので…」
一応咲希には車の免許を取った経験自体はある。
が、咲希が咲希になってからは取ってないので、今現在は持っていないことと、それを置いておいても、とてつもないペーパードライバーなので、運転できる気はしない。
「ああ、大丈夫です。気にしないで。…というかこの状況だとたとえ咲希さんに交代できても、咲希さんも眠いから一緒では?」
「あ、確かに。駄目じゃん」
「あはは、ですよね。この中で元気なの美船だけだからなぁ」
「安心して2人とも。あたしも眠い!」
「いや寝てたじゃんかよ」
「寝てても眠いんだもーん」
「もうなんか帰ったらそっからは寝正月になりそうですね。初日でもう体力使ってる感じがすごい」
「確かに。外出るにしても近所だなぁこれは」
そんなことを言いながら神社の正門へと向かっていく。
「しかしすごいですね。人多すぎて係員の誘導が始まってるし。初めて見た」
「咲希さんは普段どういうとこ初詣行ってるんです?あんまり大きいとこ行かないんですか?」
「んー近所以上はほとんど行かないですよねぇ…そこまで大きいとこ行ったこと無いです。それに、普段こんな新年明けてすぐに神社来ること無いですもん。だからなんか、人の波多すぎ」
「あはは、咲希さん人混み駄目でしたもんね」
「そうですよ。いやほんと、クリスマスの時も言った気がしますけど、買い物駄目だし人混みも駄目です。死にます。具体的には駅周辺を1時間あるけばその日は疲労で倒れます」
「…それクリスマスの日、ヤバかったですか?」
「ん、ああ、あの日ですか。美船を適当にあしらいながらベッド上で死んでましたよ」
「もう咲希酷いんだよ!あの日ホテル2人部屋だったから女子っぽくお喋りしようと思ってたのに、ほとんどまともに反応返ってこなくなるんだもん!」
「会話すらおっくうになるほど疲れてたんだよ!反応一応返してるだけマシと思って!」
実際あの日、寝るまでは相当早かった咲希である。
人混みの中にいた日はだいたいそうなる。
「しっかし、これ実際に本殿前までたどり着けるんいつになるんだろうか…一応進んではいるけどさぁ」
今現在は神社の正門から遥か前である。
なまじ人が多すぎて、そもそも中に入れていない。
「いや本当にもう少し調べてから来るべきでしたね…一番混雑時間帯に重なっちゃってますし…ちなみに最大待ち時間言った方がいいですかね…」
「…聞きたくないけど、聞いときます。どれだけです?」
「…えーっと、3時間だそうです」
「…アトラクション?ネズミの国に来たわけじゃ無いよね私?」
「ま、まあでもあくまで最大らしいんで!4時くらいになれば人引いてくみたいなんで、流石にそこまでかかんないと思います」
「うげぇ…というか3時間、3時間かぁ…それ終わってから帰ったらお昼ですよねぇ」
「そうなっちゃいますね」
「渚に一応連絡入れとこうかな…帰れる気がしなくなってきた」
そう言うとスマホを引っ張り出して渚にメッセージを送信する咲希。
まあ時間的に寝ているのは分かっているが、後で見ればわかるだろということで。
「ねえ咲希ー暇ー」
「こうなること分かってて来たんじゃねえのかよ」
「知らなかったもーん。来たかったから兄貴に頼んだけど」
「いやこんだけでかい神社なんだから待ち時間あるのは分かり切ってただろ」
「こんなに並んでると思ってなかったもーん」
「発案者無責任すぎない?」
「まあ、美船なんで…」
「確かに、仕方ないか」
「ねえなんか暇つぶし無いー?」
「暇つぶしって言われてもねぇ…」
そうしてそのまま列に並び続ける3名であった。
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「ようやっと賽銭箱が見えるくらいまで来たぞ…!」
「長かった…」
「いやもうほんとそろそろ単純疲労がやばいです。あと眠い」
「眠い分かります。もう車帰ったら仮眠しましょ仮眠」
「ですね」
「…んぁ」
「そして美船は半寝という。もうちょい耐えて。そろそろだから」
美船は現在咲希に体を半分預けている状態である。
列が半分越えたあたりから口数が減り、何度か首がかくんとしていたので多分半寝である。
「うにゃ…着いた?」
「だからもうそろそろだって。というかそんだけ半寝でよくここまで歩いてきたな」
「んんー!なんかね、もたれてるものが動いたら一緒に動いてたらここにいたー」
「それ私。私だから」
ようやく拝殿にたどり着いて、賽銭箱の前に立つ3名。
「えーっと、どうやってお参りするんだっけ?」
「いやそれは覚えとけよ。2礼2拍手1礼だ」
「へー咲希覚えてるんだ」
「まあね」
「あ、咲希さん、でもここ違うみたいですよ。拍手4回だそうです」
「え、そうなんです?」
「ええ、ここはそうみたいですよ」
「じゃあそれで…」
というわけで3人揃って2礼4拍手1礼。
作法通りに。
「咲希何お願いしたの?」
「ん、そりゃ客来て儲け出ますようにでしょ」
「うわー物凄い欲まみれ!」
「いいんだよお願い事なんだから。そういう美船はなんだよ?」
「咲希ともっと遊べるようにかなー?」
「お願いごとに巻き込まれたんですけど」
「というわけで今年はもっと押し掛けるからね!」
「頼むから連絡入れろよ!雅彦さんは?」
「え?」
「何お願いしたんです?」
「んー…恋人出来ますように、とか?」
「あれ、意外。意外と気にするタイプ?」
「いやー…一回も経験無いんで。神頼みでもしておこうかなと」
「あはは、叶うといいですね?」
「叶ってくれると嬉しいですね。できれば綺麗な人がいいなぁ」
「うわ、高望みっ」
「あはは、神様に頼むんですし高望みしときますよ。じゃないと叶った時勿体ないですからね!」
「確かに。私も5000兆円欲しいってお願いしとこうかな」
というわけで賽銭箱を後にする3名。
「それじゃこれで終わりだね!」
「ん、まだだろ。ほら向こう。誘導もされてるし」
「え、まだあるの?」
「そりゃこれ拝殿だし。向こう、本殿行かにゃ」
「また並ぶのー!?」
「お前が連れてきたんやろがい!ほら来たからには最後まで参ってくぞ」
「咲希さん割と乗り気ですね?」
「ん、ああ、神社割と好きなんで」
クリスマス日よりも生き生きとしている感じの咲希であった。




