もどかしい
『渚、この後どうすればいいの?』
『そこから出て、しばらくしたところに最近できた大型商業施設があるから、そこでお買い物でもすれば?リンクはこれね』
『ありがと』
『頑張ってね』
渚がスマホで稜子に返信する。
「…今のは?」
「稜子ちゃんだよ」
「なんて言ってる?」
「この後どうすればいいって聞かれた」
それを聞いた明人が渋い顔になる。
「あいつら自分たちのデートなのになんも考えてないのかよ…こっちからも来たんだけど」
「さっき神谷君と行った場所あるでしょ。あそこに行ったらって言ってみたよ」
「あーあそこのね。オッケー。んー…どうしよそれとなく誘導させるか?」
「同じようなもの送って、意見があったねみたいにさせればいいんじゃない?」
「ああ、それいいね。そうしよう」
目の先の2人が同時に何かをいいかけてお互いに口をつぐむ。
結果として稜子の方が何かを言った後に、ぎこちない感じで啓介がそれに答えた。
その後2人が席を立って動き出した。
「ん、動いたな2人」
「じゃあ私たちも行こっか」
「そうだな。見失うと探せないだろうしこんな人混みじゃ」
「そういう意味では神谷君がいて良かったよ。私だと背が足りないから人混みだと追うのも大変なんだよね」
「あー…じゃあ見張り台やるからついてきてくれ」
「了解」
そのまま外に出た2人を追う2名。
外に出た稜子と啓介はお互いに近づく素振りを見せたと思いきや少し離れてを繰り返している。
「もどかしい。手繋げばいいのに」
「だよなぁ…送るか」
「送る?どう送るの?」
「とりあえずメッセ送っとく。見ればやるだろ」
「私もちょっと送っとこ」
「あ、丁度いい。信号赤だ」
前方の2名が同時にサッとスマホの画面を確認する。
そのまま微妙に長い空白時間の後、啓介の方が稜子に何かを話す。
稜子の目が少々見開かれ、頬が赤くなった。
信号が青になった時には、2人の手は繋がれていた。
ただし普通に。
恋人繋ぎは難易度高かったようだ。
「ちょ、渚。いた…くはないけど、何、何」
「もうさあ!いらないよ!何見てんだろ!?」
「うん…確かに、何見せられてるんだろう…もうあれ勝手に進むだろ…」
「ここまで来るとむしろ無茶ぶりさせていじめたくなってくる」
「例えば?」
「例えばぁ…稜子ちゃんを啓介君に抱き着かせてみるとか?」
「あー…でもさ、なんかさっきまでの2人見てると変なこと送るとやりそうだよな」
「そうなんだよね。もうほんとなんなんだろうねあの2人」
「両想いってかなんていうか…あれでお互い気づいてないんだろう?ある意味凄いよな」
「当事者って分かんなくなるもんだってことは知ってるけど、傍から見ると滑稽だなほんと」
「渚、恋愛経験あるんだな」
「え、あ、え、男の人とは無いよ」
「あ、そうなのか。…え、男と無いの?」
スルーしかけてスルー出来なかった明人。
「あ、違う!ちょっと待って!違うの!そうじゃないの!」
「い、いや世の中いろんな人いるから大丈夫だぞ渚」
「ち、違うの神谷君、あのねあのね。私は別にレズもゲイも悪いとは思わないけど!私は至ってノーマルなの!勘違いしないで!」
「え、でも男と無いってことは女とはあるってことじゃないのか?」
「いや、ほんとに無くって無くって、私じゃ無くって咲希姉が!そうだったなって!あ、でも咲希姉もレズじゃないよ」
「え、あ、咲希さん?え?」
「あーもういいから!2人見失いそうだよ!」
「ああ、ほんとだやばいやばい」
無理矢理話を切り上げる渚であった。
□□□□□□
「なあ渚、どこ行けばいいか来たんだけど」
「えーもうどこにでも行けばいいんじゃないかな?」
「同意。どこでも行ってろっての。なんとかなるだろ」
「とりあえずさ、面白いグッズ置いてある雑貨屋とか入れとけばいいと思うんだ」
「どこでも行けって送っといた。一応後付けでそれも送っとく」
「2人はどういう行動するんだろう」
「さあ…やっぱそういうとこ行くんだろうか」
何か唐突に稜子に話しかける不自然さMAXなムーブをかます啓介。
しかし稜子は明らかな違和感に気付くことなく啓介についていく。
「もうあれ不自然とかいうレベルじゃないよね」
「啓介お前大根役者かよ…」
「それに比べて神谷君はいつも本気だよね。なんだっけあれ、恵美は俺のものだ…あれよかったよね」
「勘弁してくれ。いつまでそれ覚えてんの渚」
「忘れるまでかなー」
「早く忘れてお願いだから。いやあれ本当に恥ずかしかったんだぞ?」
「ほら、こういうこと言わないと神谷君っていっつもすまし顔じゃん?」
「いや無理矢理顔を壊そうとしないで渚」
「だってほら、さっきから体こわばってるよ神谷君。私も大概だけど神谷君も相当挙動不審だよね」
「…そりゃ流石にこんなことしたことないしな…」
「だからリラックスして自然に溶け込めるようにしないと」
「…一理あるな。だからと言ってそれ持ち出さないで」
「え、だって楽しいじゃん」
「黒歴史だよ!俺にとっては真っ黒だよ!」
「あーほら、2人行っちゃうよ。いくよー」
「ちょ、聞こえてないふりはずるいぞ渚」
そうしてとある店にやってきた2名もとい4名。
「…挙動不審が過ぎないか2人とも。首の動きがやばいぞ」
「ねえ見てみて神谷君これ面白いよ」
変な顔がついた筆箱を持ってきて明人に見せる渚。
「あのさ渚。何やってんの?」
「なんか、2人ずっと見てるの飽きたなって」
「うわ酷い」
「だってさぁ、もうさぁ、うまくいってるじゃん!いうこともないじゃん!だからさぁ、せめてさぁ、暇つぶしくらい楽しんでもいいと思うんだ」
「もはやついて来てる意味がなくなる発言だな」
「聞かれたら答えればいい。何を言ってもきっと大丈夫」
「まあ…確かに」
「それにしてもあの2人は、ほんと意識したとたんにポンコツになってるね」
「2人とも初心者だからな…」
「神谷君も初心者だし私も初心者だよ?」
「え?確かに俺はそうだが渚はさっき…」
「ねえそれさぁ!もう思い出すのやめてくれないかなぁ!誤解なんだってば!」
「ん、あれ本当に相手いなかったってことなの?」
「難しいんだよ説明が色々。でもねでもね、私は処女だから!あ、やっぱ今の無し!」
「ちょ、渚何言ってんの!?」
「だから!忘れてってばぁ!もういい!終わり!はい終わり!」
そんな風にしている渚と明人を、周辺の人が何か微笑ましいものを見る目で見ていたことを、2人が気づくことは無かった。
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そのまましばらく2人を追いながら、色々な場所を巡った渚と明人。
最終的に夕焼けの綺麗な場所にたどり着いた。
当然、渚と明人の差し金である。
「…なんだろう。上手くいきすぎだよな」
「不気味なくらい上手くいってるよね。経験則的にああいうカップルはすぐ別れたりするんだよ」
「やっぱ経験あるんだな」
「だから無いってば。さっきから何度このやりとりしてるんだろう」
「いや結局正体不明だから気になって」
「じゃあまたいずれ話せそうになったらね」
「じゃあいずれ。…んー雰囲気的にはなんか流れで行けそうだけど」
「今日で終わってくれるのかな。終わってくれるといいなぁ」
「2度目は勘弁願うぞ…」
そこに稜子から連絡が飛んでくる。
『渚!どうしよ!』
『稜子ちゃん。そこは流石に自分で決めよ?』
流石にそこまで決めたら意味ないだろということでそう返す渚。
「…んーここまで聞くなよぉ…全く」
「神谷君はどうかした?告白させるの?」
「するべきかどうか来た。もう自分で決めろって返しといた」
「やっぱそれがいいよね。だって、ここで言っちゃったら2人のデートじゃなくなっちゃうもんね」
「ほんとな。最後くらい決めてくれマジで」
□□□□□□
「…」
「…」
「「あ、あの…あっ」」
稜子と啓介が同時に何かを言おうとして口をつぐむ。
「え、な、何、啓介」
「り、稜子こそ、な、なんだ?」
「い、いや、その、ね。け、啓介から、言ってよ」
「え、あ、えーっと…」
「…な、何よ?」
目が泳ぎまくる啓介。
明後日の方向に目が泳いだまんま口を開いた。
「…き、今日楽しかったよなー!」
「そ、そうね。楽しかったわね!」
「それ、言いたくて!」
「何よもったいぶって!てっきり…その…」
稜子の語尾がとてつもなく小さくなる。
「え…」
「な、何でもないわよ!」
「そ、そうか」
微妙な沈黙が流れる。
沈黙に耐えかねたのか啓介が続けた。
「稜子は、何言おうと、したんだ?」
それを言われた稜子も目が左右に振れまくる。
「え、あの…えーっと、た、楽しかったしまたどこか一緒に行かないかな!?って…」
一応啓介を見てはいたものの、声のトーンがひっくり返っていた。
「あ、い、いいぞ!またどっか行こう!そうしよう!」
「じゃあまた予定立てましょ!ね!いいわよね!」
「お、おう!」
「じゃ、じゃあ、今日は、帰りましょうか!」
「そ、そうだな。そうしよう」
お互いに顔が赤くなって、相手のことが見えてなかった。
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「これは…2回目がありそうだね…」
「いけよ!何で行かないんだよ今!行けただろ!いや今のはいけたよね渚!」
珍しく分かりやすく切れる明人。
「うん、あれはいけたよ。もうなんだかなぁって感じだよ」
「あぁあああぁあぁ…これ次回以降とか完全に俺らいらないじゃんか…呼ばれそうだけど」
「呼ばれてまた同じ事させられるんだ。分かってるよ私は」
「…渚、その時はまたよろしく。俺1人じゃもう無理だ」
「私も1人じゃ行きたくないよ」
「2人で最後まで見届けるか…」
「むしろその権利があると思うんだよね」
「あぁー…この後も知らないふりして啓介に会うのかこれ…」
「私もこの後この事実を知らないふりをして稜子ちゃんに会わないといけないのか…」
「「はぁ…」」
ため息のタイミングぴったりであった。




