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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
82/177

不審

「はぁー…なんでこんな役回り引き受けたんだろうか…」


映画館のロビーから出てきた明人がスマホの画面を見ながらつぶやく。


『明人!昼飯の場所探してくれ!』


『はいはい。了解』


「…いやさぁ、やるとは言ったけどさ。こういうこと普通用意しとくもんじゃないのか?」


クリスマスの次の日。

啓介から稜子にデートに誘われたという話を聞かされた明人に、啓介が手助けを要求してきたのである。

明人的には断りたかったが、もともとの原因に突っ込まれるとNOとは言えなかったようである。


「…そんないい感じの昼食場所とかあるのかこの辺?俺もそんなに詳しくないぞ?」


仕方ないのでスマホをポチポチやって周辺の検索をかける。

まあ引き受けたからにはやらないといけないよね精神である。


「んー…とりあえず、ランキング一番上のやつ行ってみるか…」


というわけで適当に目星をつけた場所まで行ってみる明人。

一応現地偵察である。


「んー…まあ人はいるよな休みだし」


時刻的には十分昼飯時なので、まあ混んではいる。


「啓介出てくるときには空いてるかな…あんまり待たせるとまたメッセージがやばいことになりそうだから避けたいんだが…」


今日だけで隙を見て送られてきたメッセージの量は100件越えである。

大半が駅での待ち時間に送られてきたものである。

多分、待たせる時間が長いとやばい。


「どうしよ、中入ってみるか…?ん…?あれ?」


店に接近してみると、何やら店のメニュー表の前で仁王立ちの少女が一人。

物凄い見覚えがある見た目をしている。

というかついさっき数分前に会った。


「え、渚?あれ、映画館いたはずじゃ…?あ、でも見る気無いって言ってたっけ?」


そこにいたのは渚であった。

先ほど映画館のロビーで出会ったばかりである。

どうやら結局映画を見ることなく、出てきていたようである。


「えーと、ランチが、税込みで…1800円。んー…高校生的には高いのかな。中は…割と混んでる…回転率は…どうなんだろー…」


「…んー渚も昼食なのかな?」


少し離れたところで渚の呟きを耳にした明人がそう呟く。


「映画館からは…大体徒歩10分くらいだから…遠くもない、かな…」


「…え、何測ってるんだ渚…?今度誰かと来る予定でもあるのか…?」


「えーでもどうなんだろう…最初に来るところとしては狙い過ぎかなぁ…もうちょっとマイルドな方がいいんだろうか…?」


「…マイルド…?何の話だ…?」


「んー…まあいっかぁ。違うとこ行ってみよ」


「え、入らないの?…いや、いいんだけど別に。なんか渚にも予定あるんだろうん」


立ち去る渚をそのまま見送る明人。

なんか盗み聞きしたみたいになったので話しかけづらかったようである。


「んー…でも、映画終わったあとでここかぁ…どうなんだろ。…とりあえずもう何件か見てからでいいか。まだ時間もあるしな」


というわけで再びスマホを取り出して検索かける明人。


「えー…ほかになんか…とりあえず次なんか…まあここ行ってみるか」


というわけでまたどこかに狙いを定めた明人が、動き始める。

そのまま歩いていると、明人の足が止まった。


「…あれ、渚?え…うーん、よく見かけるな今日は。特になんか予定立ててたわけでもないんだけどな…」


今度は何やら長蛇の列ができている店の列の後ろ側の方で立ち止まっている渚がいた。

また何やら悩んでいるようである。

周囲をしきりにキョロキョロしては、列の前の方を何度も確認している。


「…なんであんなに周り見渡してんだ…?え、さっき見てたことばれたか?」


その光景を見ていると、渚の後ろにカップルと思われる2人が並ぶ。

渚が何やら考えるようなしぐさの後に、カップルに列を譲っていた。


「えぇ?あ、入るわけじゃ無いのか?え、なにしてんの渚」


列から離れたと思ったら、今度は取り出したスマホをしきりに見ている渚。

首をかしげてそのままどこぞかへと歩き出した。


「何やってんだ…?お昼…じゃないのかなあれ」


とりあえず渚のことは一旦置いておいて、次の目的地に向かう明人。


「…うーん、まあこんな感じか。ああ、でもちょっと流石に遠いかここは?…デートはまともにしたこと無いから分からないなこれ…」


少なくとも中学校以降にそういう経験はない明人である。


「…まあ、次探してみるか。よさそうなの無かったら一番最初のとこ紹介しとこう」


というわけでまたスマホで検索かけた上で、次の目的地へと向かう明人。

そしてその途中。


「…え、あれ?…同じとこぐるぐるしてるわけじゃ無いよな俺…なんで渚またいるんだ?」


目的地へと向かう途中、またもや渚を発見する明人。

何やら渚はメニュー表らしきものをぺらぺら捲っているようである。


「…気になる。昼の場所探してる感じでもないよなあれ…」


スマホを取り出しメニュー表を見るのを継続する渚。

しばらくすると、メニュー表から離れてまたスマホをいじる渚。


「…今度は何してるんだ…?さっきからやたらとスマホ見てるけど、そんなにスマホ触るタイプじゃないよな渚…」


と、どこで近づくかタイミングを逃しながら渚を見ていると、男2名が店の前に現れて、店の方ではなく渚の方によっていく。


「…ん、知り合い?」


声をかけられた渚が、顔をあげて男たちを見る。

そのまましばらく話をしている体勢になる。


「あー…待ち合わせとか?そういうのか?」


□□□□□□


「うんうん、ここだったら映画館からも近いし、値段もお手ごろだし、いいかな。じゃあ次は…食べ終わった後に行く場所探そっかなぁ…」


「ねえねえ、君君?今一人?」


「一人ならさぁ?俺らと遊びに行かね?」


「え、あ、私ですか?」


「そうそう君だよ君!見た感じ一人じゃないの?暇?」


「えっとぉー1人…ですけどぉ…暇、じゃない、ですね」


「またまたそんなこと言っちゃってぇ、スマホいじってられるんだし暇なんでしょ?」


「近いとこにいい場所あるんだよ。一緒に行こうぜー?」


「あーえっと、なんていうかー…そのー…場所を探してて…遊んでる時間は無いんですよね…」


「お、何、どっか行く場所探し中?だったら手伝うよー」


「そうそう、俺らこの辺詳しいからさ?そっちのが早く見つかると思うぜぇ?」


「えーあー…ちなみに服とかこの辺だとどこで買うんですか?」


「服ぅ?ああ何そういうとこ探してる系?だったら案内したげるよ?」


「そうそう、行ってみた方が分かりやすいっしょ?」


「ちょっと行く時間は無いというか…なんとなーくの場所だけでいいので…教えていただけると、助かります」


「なんとなーくだとあそこのビル!とかになっちゃうんだよ。いや俺ら説明下手だからなあ」


「え、あ!あのビルですね!ありがとうございます。全然それくらいで大丈夫です。ありがとうございます。後で行ってみますね」


「釣れねえなあ嬢ちゃん。そんな警戒しなくてもとって食ったりしねえよ?」


「えー警戒してないですよ?」


「あーそうだ、だったら嬢ちゃんについってっていい?いや俺らは逆に今暇なんだよね?それなら邪魔はしないっしょ?」


「んー…いやー邪魔…ではないんですけどぉ…あのー…多分つまんないと思うので…」


「大丈夫大丈夫!一緒にいられや楽しいもんな!なぁ?」


「そうそう!じゃあそれで決まりで!」


「え。あの、それは、どうなのかなって、思うんですけど…」


□□□□□□


「…知り合いって感じじゃないなあれ。…ナンパか?」


顔が引きつっていく渚を遠目で確認した明人がそう確信する。


「…逃げれるか?渚…いや、無理かあれ?」


少しずつ男たちから距離をとる渚と、その分だけ距離を詰める男たちを見ながら無理だと思う明人。

そのまま渚のもとへと向かった。


「あ、じゃあ、そろそろ次の場所行かないといけないので…失礼しますね。教えてくれてありがとうございました」


「お、行くのか?じゃあ俺らも行かないとな」


「え、あの、なんで…」


「渚ー!」


渚のもとへと明人が駆け寄る。


「ごめん、待たせた。あ、知り合い?」


「え…あ!ううん。さっき会ったばかりの人だよ」


「あ、そうなんだ。すいません、今から俺と予定あるんで、それじゃ。行こうぜ渚」


「すみませんそういうことなので失礼します」


「ちっ。行こうぜ」


「ああ」


男たちが去って行った。


「…渚、大丈夫だった?…いや、大丈夫じゃないか?」


渚の顔は結構青ざめている。

強引すぎたので怖かったようである。


「あ、ありがとう。本当に、なんか、ありがとう」


「ごめん、あそこまで強引な展開になってると思ってなくて。もうちょっと早くこればよかった」


「ううん、全然大丈夫だけど。はぁー…」


「本当に大丈夫か?」


「なんかね、最初は大丈夫かなって思ってたんだけど、全然どこにも行ってくれないし。ついてこようとするし、なんていうか、怖いんだね」


「そりゃ怖いだろう…渚もスマホこういうとこで一人でいじってない方がいいぞ。よくああいうの来るのってそういうタイミングだし」


「そうだねぇ…この間の夏祭りの時も確かにああいう時だった気がする。はぁあ…ほんと、怖いね」


「…ちょっとどこかで休憩するか?」


「そうしよっかな…」


というわけで場所を変えて、適当な店に入る2名。

そこで一息である。


「なんかもう、ほんと、ありがとう、神谷君」


「いや、いいって。たまたま見かけたら男に話しかけられてたからなんだろうと思ってみてたらああなっただけだから」


「なんか、あれなんだよね。話しかけられると反応しちゃうんだよね。もはや条件反射?」


「あぁー…ああいうの反応返ってくる相手だと調子づくからなぁ…」


「ほんとは反応しないつもりなんだけど、気抜いてる時にきちゃうからなぁ…はぁ…」


「渚なまじ目立つからなぁ…」


「別にこの見た目になりたくてなったわけじゃ無いけどね。まあこれは神谷君も一緒か」


「そりゃそうだ。まあでも俺と違ってああいうのは困るよな」


「うーん…まさかね…こうもナンパされるなんて思ってなかったよ。いっつも、買い物行くときはされないんだけどな…」


「やっぱ立ち止まってるせいじゃないかなそれ」


「やっぱりそうかな」


「多分そう。話しかけやすそうに見られるからなぁ」


「びっくりするよね。夏の蚊よりしつこかったよ」


「諦め悪いタイプっぽかったからな。災難だったな渚」


「ほんと、神谷君様様です」


「いやいいってホント。そういえば渚、ここで時間使ってて大丈夫か?実を言うと何度か見かけてるんだけど、何かやってたんだろ?」


その言葉をかけられて明らかに言葉が詰まる渚。


「え!?な、何かやってるって何?」


「え?いや分からないからそう言ったんだけど…店に入るのかなと思ったらそうじゃなさそうだし」


「えっと…あの…予行演習…的な?」


「なんでハテナ?え、また来るときに…みたいな感じか?」


「うんうん!そう!そんな感じ!そうそう!」


「ああ、そういう感じなのか。てっきり決められなくてうろうろしてるのかと」


「まあそれもあるんだけど。それも含めて下見に来たというか…そういう感じだよね」


「そうなのか…いやあのさ、実を言うと俺もそんな感じなんだけど、まだ見て回る気とかある?」


「うん、あるよ!え、神谷君彼女でもできたの?」


「いや?そういうわけじゃないけど近いうちに来るからその時のためかな」


「ふーん?ほんとかなぁ?え、女の子でしょ?」


「いや男だが」


啓介が行く予定の店探しなので嘘は言っていない。


「なーんだ。つまんないの」


「俺を何だと思ってるんだ…」


「女版蟻地獄」


「蟻地獄!?その呼び方は初めてだな…」


「だから面白い話でも聞けるかなって思ったんだよね」


「そんな面白話製造機じゃ無いからな俺」


「天然たらしでイケメンなのに、経験値0なの?童貞?」


「そうだよ!悪かったな!…というかそういうこと言うタイプだっけ渚?」


突っ込んだ後に疑問をぶつける明人。

明らかにうろたえる渚。


「え、あ。え、なんか言ったっけ?」


「いや無茶あるだろ。へー渚そういう感じなのかへー」


「ねぇ、何その眼やめてよ。私はそんなんじゃないよ。ちょっと口が滑っただけなんだよ!ちょっと!」


「ほー…まあそういうことにしとくか」


「なんてこった。映画館でも醜態を見られるし…こんなとこでもヘマしたのばれちゃったし…ナンパもされるし…散々だなぁー」


「今のヘマに関しちゃ自爆じゃ…」


「うるさいなぁ!自爆だけどさ!そのさぁ!恥じらいってやつがあるわけですよ私にだって!それをみすみす…油断したぁ…」


「そう言うってことはやっぱり普段からそういう感じ…」


「ないない、ないない。咲希姉と話すときに偶に口調が崩れるだけだよ」


「まあちょっと面白かったからいいけどな」


「その感想はどうかなって思うんだよね私は。ってことで私下ネタNGなんで、お願いしまーす」


「今のでか!?…はいはいそういうことにしときますよ」


「じゃあ聞かなかったことで」


「はーい。それでさ、この後外回る気があるならさっきみたいなナンパ防止用に一緒に行かないか?」


「え、ほんと!?それはすごい助かる!でもいいの?回りたいとことかあるんじゃない?」


「よさそうなところっていうすごいアバウトな条件で探してるから大丈夫だ」


「なんだぁ。私と一緒じゃん。いいよいいよ、じゃあ一緒にいい場所探そ。あ、でも、さっきの人たちが好きそうな場所には連れてかないでね」


「連れてかないよ!」


というわけで自分でない誰かのデートのために、お店探しにいそしむ2人であった。



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― 新着の感想 ―
[一言] あの二人、互いにそれぞれ補佐役を付けていたのに補佐同士がくっつきそう(笑)
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