ファッション
クリスマスから2日後。
色々と激しかったクリスマスの日から始まった出来事も終わりをつげ、ようやく日常に帰ってきた日の夕飯時。
渚が夕飯を食べながら、咲希に話を投げかけた。
「あーそういえばさ、25日の夜だっけ。あれぇ?いつだっけ?美船ちゃんからさ、画像貰ったんだけど、咲希姉あれ何だったの?」
「何とは」
「だからあの格好。普段だったら絶対しないじゃん」
「ああ、あれ。美船に押し付けられたの」
「あぁー成程、美船ちゃんらしいね。それでさぁ、その後の写真も貰ってるんだけど、ずっと着てたってことは買ったの?」
「買わされましたね。ええ。買う気無かったのに、上下に上着まで」
結構試着した時に乗り気だったのは内緒である。
「髪型も美船ちゃん?」
「ん、あれは俺」
「え」
渚がちょっと固まる。
「えって何さ」
「意外過ぎてびっくりしてるだけ」
「あの格好にポニテは合わんと思ってね」
「確かにそうだとは思うけど、え。咲希姉にそういうセンスあったんだね」
「ひどくね?いやセンスは知らねえけど好みはあるよ好みは」
実際普段ポニーテールにしてるのは完全に咲希が勝手にやってることである。
まあ長い髪をそのままにしておくと邪魔というのもあるのだが。
「じゃあ普段からもうちょっと頑張ればいいのに」
「めんどいじゃんね」
「慣れればそんな変わらないと思うよ」
「でもめんどいの」
「えぇー?じゃあもうあれ着ないの?」
その言葉にちょっと考える咲希。
めんどいという言葉とは裏腹に、格好自体はそこそこ気に入っていたためである。
「んー…まあ着る用事無いなら着ないよなあ」
が、やっぱり普段着で着るかと言われれば答えはノーらしい。
「えぇー勿体ない。せっかく顔も体も一流なのに、性格が粗悪品すぎる」
「急造女に言われてもねえ」
「それを言ったらおしまいだよ。えぇーでも勿体ないな」
「…なんだよやけに勿体ない連呼するやん」
「だって可愛かったんだもん」
「うん、まあ…それは自分で見て思ったけど」
正直鏡見てそこに関してはいっぱい思ってた咲希である。
あれなんか意外といけてねとかいう感じである。
「でしょ!勿体ないと思わない!?普段からもっと頑張った方がいいって思うでしょ!?」
「いやそこまでは…自分で遊んでる分にはいいけど」
「じゃあ自分でもっと遊びなよ」
「遊ぶにしてはそこまで興味ないっすね」
「えぇーじゃあさぁ、私が興味あるからさあ、ご飯食べ終わったらあの服着てよ」
「えー?もっかい着るのあれ」
「そうそう、着てよ」
「んー…まあいいけど」
「じゃあそういうことで」
「あーいあい」
□□□□□□
ということで夕飯後、渚に頼まれてクリスマス当日に着ていた格好にしてくる咲希。
「渚ー着てきたけど」
あの時は外で不特定多数に見られてたのもあって、多少なりともかしこまった感じになっていた咲希であったが、今は家の中なので普段通りである。
「おお!咲希姉は美人だから、そういう体の線が出る感じの服が似合うね」
「そう?でもこれいろんな意味で恥ずかしいんだよな。肩出てるし、足スース―するし」
「お洒落だから仕方ないよ」
「いやマジで、世の女子は毎回こんなんやってんのかと思うとすげえなと」
「咲希姉はもう女子だよ。傍から見れば」
「自意識は男のまんまなんだよなぁ…」
「まあそれは置いとくとして。んー…咲希姉髪とかいじってみない?」
咲希の格好を見ていた渚がそんな提案を投げる。
それを聞いた咲希がよく分かって無さそうな顔でそれに答える。
「髪ぃ?え、なんかするの」
「いや別にアイロンするだけだけど」
「え、アイロン?俺はやり方知らんべよ」
まあやったことはもとより、調べたことすらないので知るわけもない。
「私がやったげるよ」
「ん、なら別にやってもいいけど」
「じゃあ準備するからちょっと待ってて」
「ん」
というわけで渚によってアイロンされることになった咲希。
当然自分でやったことなんざあるわけないので、人生初である。
「じゃあやってこっか」
「やるって何をどうするん?」
「とりあえず咲希姉は、目が釣りぎみだから、あんまり上の方までふんわりさせちゃうと似合わないんだよね。だから、毛先の下あたりをちょっとふんわりさせるくらいかな。ってことで、このアイロンで咲希姉の髪をふんわりさせていきます」
「なんか3分クッキングみたいになってんぞ」
「説明を求められたので説明したまでですが」
「ふふ、じゃあまあ頼むわ。よく分からんし俺」
「はーいじゃあやってきまーす」
そのまま咲希にアイロンをしていく渚。
しばらく髪をいじいじし続ける。
「はい、ということで、完成。鏡はこちらです」
というわけでやり終えたらしい渚が、鏡を咲希の前に持ってくる。
「ふーん…ああ成程こういうやつ」
咲希の下ろした髪の先端周辺がふんわりした感じになっていた。
せいぜいポニテか、下ろしてるかの二択だった咲希にとっては十分新しい髪型である。
「そうそうこういうやつ。普通に下ろしててもいいと思うんだけど、どうせだったらこういう風にした方がちょっと高級感出るでしょ」
「高級感って…でもまあ確かにこっちのが似合ってる気はするなうん」
髪の毛を軽く触りながらそんなことを言う咲希。
お気に召したご様子である。
「そうそう。こんな手間なんてそんな時間かからないんだから、覚えておいても損無いと思うんだよね」
「自分でやるかと言われたらやらねえと答えるけどなこれ。やっぱめんどい」
「えぇーなんで。やろうよ」
「お前見たいだけちゃうんかそれ」
「それもあるけど、でもちょっとは咲希姉にもこういう努力の傾向が見られないかなと」
「多少興味は出たけどそこ止まりですね今のところ」
「えぇえー?とりあえず覚えてこうよ。そしたら、本当にやりたいときにすぐできるよ」
「その時はまた調べるべ」
「それじゃあもっと時間も手間もかかっちゃうのに」
「今の時間を割きたくねえだけやしな」
「ゲームやって食って寝てるだけじゃん」
渚がぶっちゃける。
実際仕事ない日とかそう言われても仕方ない生活パターンではある。
「いやもうそれでいいんよ。それでいいのだ」
「この自堕落め」
「今更でしょうに。というかお前はお前でこういう技術増えすぎじゃねえ?」
「だってネットで調べるでしょ?稜子ちゃんに教えてもらってるし、美船ちゃんにも教えてもらってるもん。増えてくよね」
「よくやるねマジ。未だに自分の体にある種慣れんのにこちとら。自分で自分がまともに見られんかったりするのに」
今の格好はそういう意味でも直視しづらい咲希である。
「いやぁ私だって慣れたわけじゃ無いけどさぁ。もうどうしようもないじゃんね。だから、とりあえず努力だけしとこうかなって」
そういう渚は、格好も髪も化粧もがっつり手をかけている。
自然体通り越してそのまんまな咲希とはえらい違いである。
「努力ってレベルじゃないんだよなぁ…そこんじょそこらの女子とそう大差ないじゃんねもう」
「流石にそんなことは無いけど。頑張ってるね」
「女子適正高すぎでは?」
「女子適正って何?」
「潜在的に女子に溶け込めるか的な」
「私はただ自分にある知識を注ぎ込んでるだけなんだけどなぁ」
「そこまでやれんって普通」
「ほらだって、私女の子じゃん?女の子なのに女の子っぽくなかったらさ、怪しいじゃんなんか、社会的に」
「え、でも男っぽい女子なんざいくらでもいることねえ?」
「男っぽい女子と中身が男の女子じゃ、まるで別物だよ、多分」
「そんなもんかぁ?」
「そんなもんだと思うよ」
「大差ないと思うんだけどな」
「ううんよく分かんないや」
「で、髪までやってもらって悪いんだけど、これそろそろ着替えていいか。風呂掃除するのに」
「え、ちょっと待って写真撮るから」
「またぁ?」
「とりあえず黙ってそこに立ってくれればいいから」
「あいあい」
仕方ない感じで写真を撮られる咲希。
撮った写真を見て渚が呟く。
「うんうん、やっぱり黙ってれば美人なんだよね」
「残念系?」
「ギャップ激しい系かな」
「成程そっちか」
「だってこの写真見てよ。足はちょっと蟹股ってるけど、上だけ見たらさ、優しいお姉さん系に見えるでしょ?」
「自分の写真見せられながらそれ言われても反応に困るんですけど」
「でも会ったらさあ、男勝りの姉御系なんだよ。ギャップとかいうレベルじゃないよね」
「それは確かに」
何かに納得した咲希。
まじまじと自分の写真を見たことなんて無かったので、猶更である。
「てことで、このギャップの激しさを理解してもらうために、美船ちゃんにライン送りまーす」
「え何、もうそういうの当然のように送られるわけ?」
「どうせ私と美船ちゃんしか見ないから大丈夫だよ」
「見られたら困るわ」
「大丈夫、この間よりちょっと進化しただけだから」
「そういう問題じゃない」
「あ、あと、足蟹股じゃなくって、そろえて立った方が多分綺麗に見えるよ」
「だろうね。今やる気無いけど」
「そういうとこだよ、そういうとこ」
「そういう意味でもこういう格好苦手だわ。なんか脚閉じなきゃいけない気分になるもん。リラックスしてられねえぜ」
「今後に期待ってことで。じゃ、今日はここまでにしよっか」
「着替えてきまーす」
なお渚から写真を送られた美船からは、渚ちゃんナイス!もっとやっちゃえ!とメッセージが来たとかどうとか。




