裏方
最近予約投稿忘れ気味で申し訳ないです…
「ふぅー今日は疲れたなぁ。楽しかったけど」
持っていた荷物を置いて、椅子に座って一息つく雅彦。
結局イルミネーションを見終わった後、ホテルに向かって今晩はここで過ごすことになった次第である。
咲希と美船が同室で、雅彦は一人別室である。
「…咲希さん、美船と同室で大丈夫かな?余計疲れさせそうだけど」
実際美船の方の部屋では、相変わらずテンションの高いままの美船に咲希が振り回されていた。
「…まあでも男と一緒よりは気を使わないよね多分。まぁ俺も疲れたししばらく一人でゆっくり…ん?」
ふとスマホを取り出して見てみると、ものすごい量の通知。
いつもゲームするときに使っている通話アプリのメッセージ欄である。
何やらいつものゲーム仲間のランポからお怒りのメッセージがたくさん飛んできている模様。
『狩りいこうぜ?どうせ暇だろ?』
『おーい』
『おいなんか応答しろや』
等々、10件ほどメッセージが飛んで来ていた。
時間帯にしてみれば丁度イルミネーションを見おわるかくらいの話。
スマホを持ってはいたものの、いちいち通知とか確認していなかった雅彦が知っているわけがなかった。
「うわ、すごいメッセージ来てるし…」
とりあえずスマホのヘッドホンを耳に付けた上でランポに通話を飛ばしてみると、実際暇していたのかランポがすぐに応答した。
「おい!雅彦ぉ!お前何してたんだよ!一人で延々と狩りするのだりーんだって!早く来いよ!」
「あー…悠太。今無理。そもそもパソコンが付けられない」
ちなみに悠太はランポの本名である。
フルネーム戸川悠太である。
普段遊んでいる時は咲希がいるから本名呼びしていないが、二人の時は本名で呼び合う仲ではある。
「なんでじゃ!」
「いや…外にいるんだよ。通話も携帯マークになってるだろ?」
「えぇ…?今日経験値美味いのになんで外いるんだよ?はぁーこんなじゃ咲希ちゃんに追いつけねえぞ俺ら?」
「いや、咲希さんにそうそう追いつける気しないんだけど」
「だから咲希ちゃんがオフラインの間に経験値稼ぐんだろぉん!?でぇいつ帰るんだよ。帰ったらやるぞおい。今日は朝まで徹夜でレベリングじゃあ!」
「あー…今日はその、多分、いや絶対帰らないから、そもそも無理かな」
そもそももうホテルにいるので今から帰るという選択肢はさすがに無い。
「は?」
「いやは?って言われても…」
「お前クリスマスにどこいるんだよ!?」
切れる悠太。
雅彦がクリスマスに外にいることが信じられないといった感じである。
「えーっと、買い物に付き合わされてさ…家からだいぶ離れたところまで来てる」
「は?誰とだよ?付き合わされるってことは一人じゃねえだろ?」
「妹の」
その言葉を聞いた瞬間に悠太の声がひっくり返った。
「はぁーん!?妹だと!?この俺が一人寂しく家でゲームやってる間にお前は外で妹ちゃんときゃっきゃうふふかよ!?はぇー!お兄ちゃんっ子な可愛い妹いていいよなぁ!全くよぉ!?俺には女の欠片もねえのによぉ!」
「いやこの買い物自体は毎年恒例なんだって!今年から始まったことでもないから!それにほとんど一日中延々と荷物持ちだぞ!?」
実際毎年来ている雅彦からすると、確実に荷物持ちになるため素直に楽しいとだけは言えない。
まあそれでも結局やってしまうのが雅彦なのだが。
「んなこたどうでもいいんだよ!ぱっと見彼女デートに見えるのが問題なんだよ!どうせ買い物以外もしてるだろ!?それにお前のとこの妹普通に可愛いじゃんかよ!?ふぁー!」
「そんなこと言われてもなぁ…」
よく分からない奇声をあげる悠太に対してどうするべきか分からない雅彦。
「でも普段は帰ってきてんのにどうしたんだよ。俺が通話かける時だいたい俺もお前もクリぼっち感バリバリじゃん。なんでリア充みたいなお泊まりしてんのお前」
「いや、妹とだけだったら多分普段通りだったと思うんだけど、今年は咲希さんもいるから…」
その言葉を雅彦が発した瞬間、ドンッ!と何かをぶったたく音が聞こえた。
どうやら悠太が台パンしたようである。
「はあ!?咲希ちゃんがいるだと!?はぁ!?ふざけるなぁあ゛あ゛あ゛!!!」
その上で過去最高レベルに巨大なダミ声がヘッドホンを突き抜けて聞こえてきた。
確実に周りにも漏れている。
「ちょ、うるさいうるさい」
一応静止をかける雅彦。
明らかに近所迷惑になると思ってのことだが、悠太は止まらない。
「はあああぁぁぁ!?お前ら恋人でもなんでもねえって言ってたよなぁ!?いつの間にそこまで行っちゃってんの!?はぁ!?いつ!?いつからだよ!?」
「いやだからそういうんじゃ…」
「はぁー!?男女2人でホテルまで来る仲になっといて何にも無いわけねえだろぉ!?あ?どうせクリスマスプレゼントは私とかやられてんだろ!?はーこんの裏切り者が!お前はまぎれもなくこっち側だと思ってたのによぉ!?」
「そういうことやるタイプじゃないでしょ咲希さんって!?というか妹もいるからね!?2人じゃ無いからね!?」
「妹まで巻き込んで盛ってんのか!?やばいだろそれは!どんだけ性欲過多なんだ!」
とんでもない勘違いまで始める悠太。
明らかに頭の回転が違う方向に駆け巡っている。
「意味が違うから!何にも無いから!」
「何にも無いわけないだろ!隣居るんだろ!?はー!何戦やった!?何戦やってんだよ!」
「落ち着け!?そもそも同じ部屋じゃ無いから!起こりようが無いから!」
「は?」
急速にクールダウンする悠太。
微妙な沈黙の時間が流れた。
「えーっとじゃあ何つまり?クリスマスにわざわざ妹と咲希ちゃんと出かけてホテルまで来ておいて今お前別室ソロ待機組なの?」
「いやだからそうだって。それに今日ホテルに泊まることになったのも、美船がまだ帰りたくないって言ったからだし…」
「ぷ…くくく、そうかそうか!あはは!まあそうだよな!いやー心配して損したぜ!」
「だから最初っからそうだって言ってるだろ…はぁ」
「いつの間にお前そんなに積極的になったのかと思ってな!奥手なお前がそんなとこまですぐ持ってけるわけねえわな!よっ彼女いない歴イコール年齢!」
「それ思いっきり悠太にもブーメラン」
「ぐふっ!」
完全に自分の発言でダメージを食らう悠太。
「…あ、というか今日咲希ちゃんが珍しくオフラインなのはそういうことなのかよ」
「そりゃ咲希さんもパソコン抱えて外出したりはしないでしょ…それに今日は最初は日帰りのつもりだったし」
実際イルミネーションを見ている途中に唐突に来る羽目になったので、当初の予定では無かったことである。
「そうなのか。あーでもやっぱむかつくなぁおい!」
熱が冷めたかと思えば再びヒートアップしだす悠太。
やっぱり何かが癪に障るらしい。
「いやなんでだよ!何にも起こって無いって言っただろ!?」
「そうじゃねえ!俺が一人寂しく飲んだくれながらゲームやってる中、お前は女の子2人に囲まれてお出かけだったってわけだろ!?やっぱり腹立つぜ!かぁあああ!俺も女の子とクリスマスに出かけてぇ!」
「…悠太、酔ってるのか?」
「あたりめえだろ!一人寂しくメリークルシミマスだぞ!?酒でも入れなきゃやってられねえぜ!」
「どおりで絡み方が激しいと思った…」
結局その後も悠太の奇声と文句を延々と聞く羽目になる雅彦であった。




