イルミ街道
「ふーなんだか暗くなってきたねー」
「暗くなってきたねーじゃねえよ。公園出てからどんだけ買い物してんだよ」
「咲希さん咲希さん。いっつもです」
あの後しばらく公園にて美船に連れまわされたあと、そのままの足で、またも買い物へと向かっていた3名。
途中夕食を挟んだりもしたものの、こっからは本当にノンストップで数時間買い物であった。
当然買い物嫌いの咲希は死んでいる。
「それにさー!なんか私まで余分なもの買わされてるんですけど!普段着ないんですけど!コートとかさぁ!」
「えだってさー。せっかく格好整えたのに、外に出たらダウンジャケット着ちゃうんじゃ意味ないじゃんね?」
現在咲希の格好は足元の靴こそ変わっていないものの、着ていたダウンジャケットはいつの間にかロングコートへと変えられている。
数件前に入った店で美船に押し付けられた。
「別に意味なくていいよっ!見せたいわけちゃうわ!」
「でもでもでも、咲希も案外乗り気じゃん?さっき試着した時結構ノリノリだったじゃん?」
「…いやあれは、思いのほか、似合ってんなと」
「ひゅーナルシー!」
「うるせー!流されたのは間違いないけど普段着ないもん買ってどうすんだよ!」
「今度から着ればいいじゃん?」
「嫌じゃ!楽な格好がいい!」
「もー!またそういうこと言う!いいもん!渚ちゃんと一緒にコーデしてやるもんね!」
「おいこら渚さりげなく混ぜてんじゃねえ!」
歩きながら言い合いに余念のない2人。
咲希も格好に対する恥ずかしさとかそういうのがそろそろ消滅して来たのか、割とノリがいつも通りに戻りつつある。
「あの、咲希さん、美船。一旦車戻りません?時間的にも、荷物的にも」
「ああ、あーそうですね。荷物増えましたし戻りますか一回」
そういう雅彦は左右の腕に結構な量の荷物を抱えている。
大体全部美船の買ったものである。
というか大体じゃなくて全部そうである。
「あ、兄貴さっき買ったこれもよろしくー!」
「自分で持ってくれよ!どれだけ持たせる気だ!?」
「え、兄貴はこんなか弱い妹に荷物を持たせると申すのか!?」
「どう見てもか弱くはねえだろお前は」
そういう美船の荷物は最初から持っていたもののみ。
買ったものは全部雅彦に行っている。
「雅彦さん、さっきから言ってますけどいくつか持ちましょうか?」
「いや、大丈夫ですよほんと。慣れっこなんで」
「そうそう、兄貴だから大丈夫大丈夫」
「お前は少しは持つ意思を見せろや!」
そうこうして車まで着く。
荷物を置いて一息である。
「ふぅー」
「ご苦労様です」
「お勤めごくろー!」
「美船、毎年のことだけど恨むぞ」
「恨みながらもやってくれる兄貴ってあたし信じてるから」
「…いいように使われ過ぎでは?弱みでも握られてます?」
「兄貴はあたしが大好きだからしょーがないよ。しょーがない」
「甘いのは分かってるんですけどね…手を焼きたくなっちゃいますね」
「仲いいですね…」
「はは、よく言われます」
半分呆れ顔の咲希である。
「それで、まだ行くところあるんですか?また買い物?」
「咲希、買い物に過剰に反応しすぎじゃない?」
「うっるせ、誰のせいだ誰の!」
「ああ、えっと咲希さん。一応予定では買い物はこれで終わりです。最後は…あーまあせっかくなんで実際に見てもらえれば分かるかと」
「とりあえず買い物じゃないなら何でもいいです」
「お、今何でもやるって言った!?」
「言ってねえよ!どういう耳してるんだよ!何でもいいって言ったんだよ!」
「とりあえず、歩いていける距離なので行きましょうか?割とここからなら近いので」
「あれ、そうなんですか?え、どこです?」
「あっちの方。まあまあ、行けば分かるよ」
「そう?まあとりあえずついてくけど」
「じゃあ行きますか?荷物忘れだけ気を付けてくださいね」
「はーい」
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「ということでこちらでーす!ねね、すごいっしょ!」
「イルミネーションかぁ。時期だもんなぁ」
咲希が連れてこられたのは大規模イルミネーションが開催されているエリア。
先ほど買い物していた場所のすぐ近くである。
「ああ、さっきからちらちら目に入ってたところかこれ」
「そうそう、やっぱね、なんかこれ見ないと来た気しないんだよねー!」
「まあうん。確かにこれはすごいわ。めっちゃアーチやばいんですけど。語彙力低下するわ」
咲希の目の前に広がるのは相当奥の方までつながっているように見える、イルミネーションアーチ。
今までの人生的にも、ここまで手の込んだのは見ていない。
「というわけで行こ行こ!これそもそもすっごい長いけど、まだ奥もあるんだよ!」
「え、マジ、まだ奥あるんだこれ。ふぇー」
「じゃあ逸れないように行きましょうか。人多いですし」
「じゃあもっかい手、繋いどく?そうすりゃ離れないでしょ?」
「え、また?まあいいけど。雅彦さん?」
中央の雅彦に手を差し出す咲希。
躊躇はなくなってきた。
「え、あ、じゃあ、はい」
咲希の差し出してきた手を戸惑った感じでつなぐ雅彦。
「じゃああたしもー。へっへー兄貴両手に花じゃん、ひゅーひゅー」
「美船、おちょくるのやめてくれ」
内心片方造花じゃないか…とか思ってる咲希であった。
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「いやー今年は今年ですごいねー!光のドームどーんってさ!去年こんなの無かったでしょ?」
「え、何ここ毎年変わってんの?」
「そうそう!なんか毎年テーマがあるんだってさ!えーっと今年なんだっけ…?兄貴ー」
「俺は何でも屋じゃないんだけど…ちょっと待ってて、調べるからさ。あ」
今両手は繋がれている関係で塞がれている。
「あ、じゃああたしが向こう見てる間に調べといてよ!」
「あ、おい美船!もういないし…」
「相変わらず行動早いですね」
「考えるより先に行動してるタイプだと思います」
「ですね。というか別に私が調べれば済んだ話だったのでは」
「別に一時的に放せれば十分だったんですけどね…」
「ですよねぇ。…あ、放します?」
「あ、えっと、片手あれば十分なんで、大丈夫、です」
「え、あ、そうですか?」
なんか意識したらちょっと気になったらしい咲希がそんなことを言う。
が、大丈夫と言われたので放せなくなった。
自爆した。
「あ、出たでた。テーマは希望の光みたいですよ」
「へえ希望の光。なんかすっごい神々しいですねなんか」
「こんだけ盛大にやってるから案外間違いでもないかも?」
「確かに?こんだけがっつりやってるイルミネーション初めて見ましたよ?」
「咲希さんはここには来たことは無かったんですよね?」
「ええ。まあ、私、知っての通り暇ありゃゲームやってますからね。外出ないですもん。それこそ誰かに連れてこられないと」
実際家に引きこもってゲームやってるか仕事してるか食べてるか寝てるかの大体どれかである。
外に出るのは用がある時だけである。
「あはは、まあ確かに。俺がパソコンつけるとだいたいオンラインってなってるもんなー」
「まあ流石に四六時中やってるわけじゃあないですけどね?」
「大丈夫です知ってます。それでもあんだけ強くなってるってことは相当やってましたでしょ?今までも」
「ま、まあやってる時間はね?ま、そんな感じなんで今回美船に無理やり連れてこられましたけど、むしろそうでもしないと絶対来なかったでしょうし、まあ良かったのかなって思ってます」
格好無理矢理変えられるのは聞いてませんけどと続ける咲希。
まあ実際美船の存在が咲希にとって新しい風になっている感じはある。
「そういう意味では美船に感謝ですかね。俺もまた咲希さんと出かけられると思ってなかったので」
「散々ネットでは会ってるって言うのに。しかも大して遠いとこに住んでるわけでもないのにね」
「あはは…流石に俺は美船みたいに家に突撃する勇気は無いです」
「もう一人あれが増えるのは勘弁してください死んでしまいます」
「そりゃそうですかね?あはは」
「ふふ、そうですよただでさえ一人ですら手を焼いているというのに」
そこまで話しているとそこに割り込んでくる美船の声。
どうやら戻ってきていたらしい。
「ちょっとそこそこ、どう考えてもあたしの悪口じゃねー!?」
「いや事実」
「まあ…事実だよな?」
「ちょっとぉ!味方いないしぃ!」
叫ぶ美船であった。
「あ、テーマは希望の光だって」
「ほへー。そんな大層な名前付いてるんだね!まあイルミネもでかいから別にいいか!」
何やら一人で納得する美船。
とそこで咲希に電話がかかってくる。
「あ…ちょっと失礼」
雅彦との手を離してスマホを引っ張り出す。
「え、誰々彼氏?」
「んなわけねえだろ!というかいるならクリスマスそっちと一緒に出掛けてるわ!渚だよ渚!」
「ああ渚ちゃんかぁ。あ、時間。え、帰り電話とか?」
「あー帰り時間…いやいいやちょっととりあえず出るから」
「えーもっと遊ぼー?」
絡みついてくる美船一旦を無視して電話に出る咲希。
「もしもし」
「あ、咲希姉」
「渚、どうした?」
「あのさ、今家でクリスマス会してるでしょ。それで、もし咲希姉がいいなら、明日お客さんも来ないし、みんなを泊めたいと思ってるんだけど、いいかな?」
「んー…お客いないならまあ。家事周りはなんとかするっしょ?」
「大丈夫、できるから」
「じゃあ、いいよ別に」
「そういえば、咲希姉って何時くらいに帰るの?」
「えーあー…10時前には帰るつもりだったんだけど…」
美船がその言葉を聞いて大きな声で叫ぶ。
「えーまだ遊ぶー!」
「って感じなんだよね」
「ふんふんふん、成程ね。お風呂のお湯とかどうする?入れとく?」
「あー…何時になるか分からないし、いいよ。最悪シャワーで済ます」
「ん、分かった。気を付けて帰ってきてね」
「そっちもな。じゃあまた帰る時一応メッセージで連絡は入れるわ」
「あい、了解」
というところで電話を切る。
「ちょっと、電話に参加してくるのやめーや」
「えだって帰るって電話でしょ?言うだけ言っとけば帰らないかもしれないと思って」
「あのなー…いやまあとりあえず、今すぐ帰るつもりは無くなったから。大丈夫だから」
「もういっそ一晩遊んでこうよーせっかく来たんだしー」
「え?でもどうするの、まさかオール?」
「ノンノン。もうどっか泊まって明日帰ればいいんだよ」
「え、マジ?」
「ねー兄貴いいっしょ?一晩こっちで過ごすって」
「んー…まあ俺はいいけど。咲希さんが大丈夫なら」
「…まあ、いいですよ?渚に連絡だけは入れますけど」
「やったー!じゃあここ見終わったらホテルねホテル!」
「はいはい。分かったから騒ぐな騒ぐな」
「じゃあちょっと泊まる場所探しときますね」
「スイマセンお願いします」
一晩泊まることが確定した咲希であった。




