公園
「やっぱここも来ないとね!」
「毎年来てるけどな」
「へー毎年来てるんですね」
昼を済ませた3名が次に向かった場所はある公園であった。
港に面したそこそこ大型の公園である。
なお咲希は寒いという理由によりダウンジャケットを再び装備中である。
「ええ。もうなんかルート大体一緒ですよ?多分もう一回買い物あります」
「もー兄貴ばらさないでよ!咲希が逃げるじゃん!」
「いや、逃げないけど。ここまで来てむしろどこに逃げると」
「え、でもなんかさっきから微妙にあたしと距離開いてない?」
「だってめっちゃ引っ張られるんだもん!普通に怖えよあれ!もう諦めてついてくから引っ張らないでもらえます!?」
「お、言質とった。じゃあ次のお店には一緒にいこーねー」
「げ」
あからさまにうろたえる咲希。
にやにや顔の美船。
「まあ咲希さん。どうせ何言ったところで多分引き込まれるので無駄だと思いますよ」
「く、雅彦さんも助けてはくれないらしい」
「くくく、兄貴はあたしに弱すぎるから無駄だぞー咲希ー?諦めてお買い物、一緒にしようね?」
「うー敵しかいねえ!」
死んだような目でつぶやく咲希。
ここまで来るまでに既にだいぶ精神持ってかれてる。
「まあそれはともかく、今はとりあえずここで写真撮ろ!ほら咲希こっちこっち」
「というか連れてこられたけどここは何なの?公園って聞いたけど」
「そうそう、公園だよ?」
「なんで公園?」
「ここねー写真映えするんですよー。咲希と撮りたいなーって」
「なんかよく分からないモニュメントみたいなのが色々あるんで毎年必ずそこで写真撮らされるんですよ
」
「へー。ああ俗に言う映えスポット」
「そうそう映え映え。でも普段兄貴一緒に撮ってくれないんだよねー?ひどいよねー?」
「前来た時に一緒に撮っただろ…そんなに兄妹の写真増やしてどうするんだよ。毎年一緒なのに」
「もーその年に来て撮ったってことに意味があるのに、全くー。というわけで兄貴がこんななので咲希と撮ろうというわけですよ」
「え、この格好写真に残されるんです?」
「もう渚ちゃんに送ってるから一緒一緒。さあさあこっちこっち」
「あのだから引っ張らないでって言わなかったっけ!?」
「あ、咲希さんこけないようにだけ気を付けてくださいね」
「注意を促すんじゃなくて助けてそこは!」
というわけで半ば引きずられ気味に美船に連れていかれる咲希。
流石に地面に引きずられているわけでは無いが、普段の咲希の徒歩ペースよりも明らかに速いので、引きずられていると言っても過言ではない。
「とりあえずまあここだよね撮るなら」
「なんか結構人いるな…」
「そりゃまあ有名な撮影スポットですし?」
「なんでそこ若干ドヤ顔何だよ」
2人がたどり着いた場所は既に軽い人だかりというか列ができていた。
どうやら写真撮影する待機列のようである。
美船の言葉通り撮影スポットなのは間違いではないらしい。
そこまで長蛇の列ではないが。
「えーっと?」
「ああここに並ぶんだよ」
「へーこれ撮影列なんだ」
「そーそー。いっつも来るときはそれなりに人がいるからねー」
「というか並んじゃっていいのか。雅彦さんまだだいぶ後ろの方いるけど」
「いいのいいの。撮影の人だから」
「いいのかよ」
と言いながら、列に並ぶ2人。
「しかし…あれ、なんなんだ?」
「なんだって何が?」
「いやなんであれ文字なのかなーって」
「さあ?でも面白くない?」
「公園の一角にでかい文字があるって意味では違和感がすごいけど」
今咲希たちが並んでいるスポットはでっかい文字モニュメントである。
書いてあることの意味はよく分からない。
置いてある意味も咲希にはよく分かっていない。
でもなんか面白いと言えば面白い。
「2人とも早いよ」
「早いんじゃなくて連れ去られてたんですけど。見てたでしょ?」
「お、兄貴、丁度いいところに。撮影お願い!」
「丁度いいところっていうか、毎年やってるっていうか、さっき言ってたっていうか」
「まあまあ、撮ってくれるよね?」
「分かったよ。えーっと…?咲希さん結局撮っちゃって大丈夫ですか?」
「いやまあせっかくここまで来てるんだし撮っていいですよ。流石にこれで美船だけ写ってるのもなんか変でしょ」
若干抵抗あると言えばあるが、流石にこれで意図的に写されないのはなんかそれはそれで腹立つので。
「お、私たちの番来たよ私たちの番。行こ行こ」
「あいあい」
そのまま撮影場所まで歩いていく2名。
雅彦はちょっと離れた位置に待機中である。
「えっとじゃあここで普通に並んでー」
「あ、それでいいの?」
「うんうん、やっぱ並んで撮りたいしねー…あ、でもどうせだし咲希格好よく分かるように撮りたいなー…駄目?」
「えー上脱ぐの?マジ?」
「えーせっかくだからせっかくだから」
「…はいはい」
「やったー!兄貴、咲希の上着ちょっと持ってて」
「え、咲希さん寒くないんですか?」
「いやものすごい寒いですけど。見えるように撮りたいらしいんで」
「お前なぁ…」
「咲希もいいって言ったもん!了承はとってるから!」
「じゃあ、預かっときますね」
「お願いします」
ということで再びモニュメントの前で2人で並ぶ咲希と美船。
と、そこで咲希に美船が思いっきり抱き着く。
「ちょ、美船」
「兄貴ーよろしくー」
「近い近い近い」
「いいじゃんいいじゃん。私たちの仲なんだしーそれにこれなら温かいっしょー?」
「いや、そうだけど、そうでもないんだけど」
体温的には暖かいが、まあ、風はもろ受けするのであんまり意味はあったりなかったり。
おそらく美船がやりたいだけである。
「はーい笑って笑ってー」
咲希に絡みついたまま笑顔でピースを送る美船と、若干恥ずかしそうにしながらぎこちない笑顔とピースサインを送る咲希。
女子慣れしてないのでこういうの突然されると困る。
「はい撮れたぞ」
「ありがとー」
「え、えーっと、じゃあとりあえず上着なおす…」
「え?まだ撮るよ?」
「え」
「そりゃ一枚で終わるわけないじゃんね!大丈夫人も私たちの後ろ今いないから問題ないって!それにこんな立ちポーズだけじゃ面白くないじゃん!」
「え、えぇ?寒いんですが?」
「というわけでほら次はこのモニュメントに沿う感じでですねぇ…」
「聞けよ。え、こう?」
「ポーズかたーい!もっと映える感じ意識して?」
「えぇぇ…?」
「ほらこういう感じこういう感じ」
何やら美船に指導されている咲希。
「咲希さん…ご愁傷様です」
離れたところでカメラを待機させる雅彦がつぶやいた。
□□□□□□
「…いや、疲れた。なんか今のめっちゃ疲れた。映えるポーズってなんやねん」
「お疲れー!咲希ー!いやー色々撮れたね!」
「無茶ぶりだよ!映えるポーズなんて分かるかい!てか寒いよ!いや来た時よりは多少厚着かもしれないけどさあ!」
「ははは…咲希さんお疲れ様です。はい上着です」
「くぅ…ありがとうございます。ぅー…まじ、体が、主に手先がかじかむぅ…!」
手先を自分の息ではぁーはぁーやる咲希。
相当寒かったらしい。
「咲希手寒いの?手袋してこればよかったのに」
「さみぃよ!外で手を出すつもり無かったよ!誰のせいだよ!あーっくっそ、ポッケ入れてもあったまらないし」
「じゃあ手ぇつなご?そうすれば温かいでしょ?」
「ああもうこの際なんでもいいわ」
というわけで美船と手をつなぐ咲希。
が、歩きながらなので当然片手だけである。
「あー…繋いでる方はいいけどもう片方が寒いですね…」
「ん?じゃあ兄貴と繋げば?」
「え」
「え、俺?」
「いいじゃん、咲希寒がってるし繋いであげてよ」
「えーっと…その、咲希さんがいいならいいですけど」
「あーえーじゃあ、いいですか。いや、割とほんとに寒さが洒落になってなくて。というか感覚無くて」
「じゃ、じゃあ失礼」
というわけで左右の手を大月兄妹に繋がれる咲希。
本人的には寒いので構図に関してはもはや気にしていない。
「じゃー次はあっちで撮ろー!」
「次は絶対上脱がずに撮るからな!」
「…」
そのまましばらく公園内を散策した3人であった。




