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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
74/177

イメチェン

「ねぇーやっぱ戻るの?」


「そりゃそーでしょ。何のためにここまで走ったのか分からないじゃん!」


「うえぇ…」


キャミソール買いに走ってからしばらく後。

とりあえず目的の物を購入して再び先ほどまでいた店の方へと戻っている途中である。

咲希はというと、既に元気が擦り切れ始めている。

こうでもしないと動かないので仕方ないのだが。


「美船、今度はどこに向かってる?」


「え?さっきまでいた店に戻るのよ?」


「え?また戻るの?さっき買うの辞めたんじゃ無かったの?」


「そんなわけないじゃん?だって咲希のお洒落も見せてないっしょ?」


「え?じゃあなんで一回出たの?」


「それは…聞いちゃダメだよ兄貴」


「え?」


雅彦がちらっと顔を横にやれば、大きなため息を吐いた咲希と目が合った。


「ん…ああ、まあ、聞かないでもらえると、助かります」


「あ、ああ、そうですか。じゃあ深く考えるのはやめときます」


「まあ、大したことじゃないんですけどね、はぁ…」


「でもその割にはため息深いですけど、大丈夫ですか?」


「ん、ああえっと、これは単純に買い物に疲れてきてるだけなんでそんなに気にしないでください。はい」


実際キャミソールを買いに走ったこと自体はそれほど咲希にダメージは無い。

どちらかというと、買い物そのものに疲れ始めてるだけである。


「というか、まだお店そんなに見て回ってないじゃん?疲れるの早いって咲希ー」


「美船…お前は元気そうだな」


「そりゃあ?まだ普段見て回る時間の半分も回ってませんし?」


実際、まだ1時間も経っていない。

時間的に見れば本当に大したことは無かったりする。

が、咲希にはそれでも重かったようである。


「それにー今日は咲希がいるし?いやーちょっと楽しみじゃんね、咲希をお洒落させるの?」


「私にとっては割と拷問なんですけど?」


「気にしなーい。気にしなーい。無理矢理でもやらないと咲希絶対普段の格好から変わらないんだもーん」


「だって楽なんだもん」


「って言うから私がお洒落させたげるってわけよ」


「ダメだ話通じてる気がしないぞ」


「ふははー今更逃がさないからねー咲希ー」


「うえぇ」


肩が落ちる咲希。

頭の中では面倒くさいがループし続けている。


「雅彦さんは大丈夫なんです?さっきから結局なんか私のあれに付き合わせてうろうろさせてるだけになっちゃってますけど」


「ああ、普段から美船に連れてこられると荷物持ちなんで、まあ、なんとか」


「あはは…大変ですね」


「それに、今日は咲希さんいるんで普段よりは気が楽ですよ」


「え?私?なんかしましたっけ?」


「えーっと、なんでしょ、同族がいる、みたいな…」


「え、同族?」


「…買い物嫌い仲間?」


「…ぷ、ああ、そういうやつ?まあ、確かに似たような心持ちかもしれませんけどね」


「それに普段みたいに直接振り回されてる感じじゃあないんで?」


「あ、私をさては生贄にしてますねそれ」


「あはは、人聞き悪いですね。そうなんですけど」


そんなこんなで再び先ほど飛び出した店まで帰ってきた3名。


「じゃあとりあえず今度こそ、咲希を着替えさせてくるから、兄貴ここで待っててね?」


「言われなくても待ってるよ。じゃあ咲希さん頑張れ」


「いい笑顔してますねぇ…自分関係ないからって全く」


「まあまあ、後で確認のために中まで引きずり込まれますから、おあいこってことで」


「私が恥ずかしいだけなんだよなー…」


「まあまあ咲希、とりあえず行こ?」


「戻る選択肢は最初から無いと。はいはい行きますよ」


□□□□□□


「じゃあ咲希、今度こそ着替え終わったら教えてね?逃げないでよ?」


「流石にここまで来たらもう逃げたりはしないけども」


「いやー楽しみ楽しみー」


というわけで再び試着室。

先ほどはキャミソール問題で着替える前に外に飛び出したわけだが、今回は着替えの障害になりそうなものは無い。

咲希的には誠に残念ながら。


「はぁー…これ、マジで着るの?…マジ?」


先ほどと同じ服を手で広げながら物凄く複雑な表情になる咲希。

物としてはオフショルニットとスカートなのだが、当然普段の咲希の格好からは盛大にかけ離れた何かである。


「ぅー…あー、いや、ヤバいっしょこれはうん。肩ライン本当にほぼ丸見えになるんじゃね?え?寒くない?いやそういう問題じゃないか?」


一人で勝手に混乱する咲希。

そもそも咲希の中身は女子とまともに付き合いすら無かった男である。

そもそも現在の体そのものが刺激強いのである。

普段の格好が適当なのは面倒くさいのが理由の大半ではあるものの、お洒落した自分に対して自分が過剰に反応しそうだというのも盛大にあるわけである。


「…しゃあなし。着るか」


とりあえず永遠と躊躇してても仕方ないと判断したのか、上半身に手をかける咲希。

一番上のダウンジャケットを除けばそもそも今の格好はTシャツ一枚。

脱ぐの自体は滅茶苦茶早く済む。


「…うん」


何故か下着姿の自分の胸を突っつく咲希。

ぶっちゃけ未だにここには嫌でも反応してしまう。

残った男成分が漏れ出るポイントである。


「…とりまキャミか」


つい先ほど買ったばかりのキャミソールをとりあえず着る咲希。

とはいえ、こちらは雰囲気的には普段のタンクトップと大して変わらないので羞恥的にはまだだいぶマシではある。

問題はこっからである。


「…うあー、いやー…あー。うん。よし」


覚悟を決めたらしい声を発すると、とりあえず上のニットを着てしまう。

そのまま鏡で確認してやる咲希。


「んー…あーいや、流石にこれにこれはねえな」


下に履いたままのジーパンを引っ張る咲希。

先ほど一度目にここに来た時にはそのまんまでいいんじゃないかというような発言をしていたが、実際着てみたらやっぱちょっとないわという感じだったようである。


「…下も着ちゃうかな」


というわけでサクッと下もスカートに履き替えてしまう咲希。

もうなんかこの辺まできたらあんまり抵抗感とかは無い。


「ぅーいや、やっぱ下が心もとないよねぇ…」


スカート慣れしてない咲希からそんな感想が漏れる。

普段本当にジーパンオンリーなので、そもそもスカートの感触に慣れない。

足の防備がとてつもなく下がっているような感じになる。

それほど短くないのにも関わらずこんな感想なので、短いスカートとか現状考えられない咲希である。


「あー…」


再び鏡で自分の姿を確認する咲希。

あれだけ嫌そうにしてた割には、角度変えて見たりしながらおかしい点がないか散々チェックしている。

案外やってみたら乗り気だったのかもしれない。


「んー…まあおかしくは、無いかな」


口ではそう言いつつも、なんか納得いかない感じの顔してる咲希。


「…ロングのがいいんじゃねーか」


言うが早いかポニテに適当に縛っていた髪をほどいてしまう咲希。

あまりやらない純粋なロング姿になった。

なおポニテにしてる理由の大半は、長い髪が邪魔だからである。

でも切りたくないのでこうしてるらしい。


「ん、個人的にはこっちのが好きやね」


そう言いながらやっぱり滅茶苦茶鏡見て自分の姿を確認する咲希。

普段滅多にやらない格好なので、楽しんでる節も若干あるようである。


「咲希ー終わったー?」


「うわ、ちょ」


試着室にちらっと美船が顔を出す。


「お、おおー!いいじゃんいいじゃん!てか咲希絶対そっちのがいいじゃん!」


「え?そう?」


「いやいいっていいって!やっぱ元いいからちゃんとした格好させれば映えるよねそりゃ!じゃあ兄貴連れてくるから待ってて!」


言うが早いか素早く外に駈けていく美船。

すぐに雅彦が引っ張られて戻ってくる。


「ちょ、痛い、痛いって!」


「いいからいいから!ほら、咲希、可愛いっしょ!ね、ね!見てみて!」


「え、えーっと…」


「あ、えっと、変じゃ無いですよね…」


さっきまではあんまり恥ずかしいとか考えてなかったのだが、自分の格好を人に見せてると考え始めたらちょっと恥ずかしくなってきたらしい咲希。

思わずそんなことを聞く。


「…あ、ああ、えっと、似合ってると、思います。はい」


「え、あ、ありがとう、です」


若干固まる雅彦と、動きがぎこちない感じの咲希。

そんな横の美船は若干不満顔である。


「え、ちょっとそんだけー!?もうちょっとなんか無いの兄貴ー」


「なんかって言われても…」


「いやだってあの咲希だよ!?お洒落の欠片も無い咲希じゃん!?見違えたっしょ!?ほらなんかもっとこうあるでしょ!」


「褒めてんの?けなしてんの?」


「両方!」


「をい。…ま、まあいいだろこれで」


結構恥ずかしくなってきたのでとりあえず話を打ち切って元の格好に戻ろうとする咲希。


「うんうん!じゃあそのままお会計しちゃおう!今日1日その格好ね!」


「え?…ええ!?」


退路を塞がれた。


「いや当たり前じゃんね?兄貴もどうせ一緒に歩くならお洒落した咲希のがいいじゃんね?」


「え!あ、ああまあうん」


さりげない雅彦からの援護射撃。

断りづらくなった。


「ちょ、雅彦さんも流されないでくださいよ!」


「というわけで決まりー。咲希、諦めてその格好で過ごすのです」


「えぇ…えー…」


結局そのままの格好で過ごすことにさせられた咲希であった。



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