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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
69/177

混沌

夕方の民宿「しろすな」

渚含む友達4人が少し広めの和室で遊んでいた。


「そろそろ腹減ったなぁ」


「ああ、そろそろ5時30分か。作ってもよさそうな時間だね」


「お、やる?やるか闇鍋?」


「そうだね、時間もかかりそうだしやろっか」


「でも闇鍋ってどうするの?全員台所行ったら中身ばれるし」


「うーーん、とりあえず鍋のだしとは別に、いくつか鍋を用意しとくから、1人ずつその鍋で食材を調理して、最後にまとめてメインの鍋に入れるのはどうかな」


「それ大丈夫か?だしとか染みる?」


「あ、そうだね。あんまり茹ですぎると、だしとかも入らなくなっちゃうから下茹でくらいの軽い調理でお願いしよっかな」


「ああ、まあそれなら大丈夫か」


「んーよく分からんが軽くやればいいってことか?」


「そうそう、調理道具とかは今から出してくるから好きに使ってくれていいよ。でも使ったら洗ってね」


「おっけ。よし、じゃあ早速やるかぁ」


で、とりあえず下に移動。


「じゃあとりあえず、誰から準備していくか決めないとね」


「まあ公平にじゃんけんとかでいいんじゃね?」


「そうね。そこに時間かけてもしかたないし」


「じゃあじゃんけん?」


「じゃあじゃんけんにしよう!」


結果的に啓介、稜子、渚、明人の順番で料理することになった。


「おっし、じゃあ俺からだな。覚悟しとけ」


「変なものが入ってないように祈ってるから…!」


「変なもの入れてこその闇鍋だろう?というわけで変なものは入るからな!」


「何買ってきたのあんた…」


「見てからのお楽しみってことで!じゃ!」


そういって啓介がキッチンに入る。

いい笑顔だった。


「あ、そういえば、最後、どうしよう。鍋結局みんなのやつをメインの鍋に入れないといけないから、どうしよっかな」


「あーそれなら俺最後だしやろうか?俺見ることになるけど全員分」


「あーんー神谷君が大丈夫なら?嫌なら私がやるけど」


「やばいものが入ってた時に大丈夫かなという不安くらいかな」


「調理的にヤバそうなものだったらヤバいかな。そうじゃなかったらスルーでいいんじゃない?」


「まあ問題なさそうだったらそのままやるよ。ルール的にヤバそうだったらこっちに言いに来るって感じにしとく」


「お願いします」


そんなとこまで話していると、何やら玄関ホールの椅子のところに座る3人の下に良いにおいが漂い始める。


「…なんか肉の匂いが」


「焼いてるね」


「…鍋よね?」


「一応もしかしてと思って、フライパンも置いといたよ」


「置いといて正解だったみたいね」


「そして普通に鍋に入れる肉じゃ既に無さそう」


「焼いてるもんね。茹でてないしね」


「トップバッターこんなで大丈夫かこの鍋」


「提案しといてなんだけど、闇鍋ってすごいね」


「あいつが調子乗らないわけないしね…あー頭痛いわ」


「どんな鍋になるんだろう」


「最低限食べられるものであってほしいわね…」


しばらくすると啓介がキッチンから顔を出す。


「おっし、俺終わり!次!」


「じゃ、私ね。行ってくるわ」


「いってらっしゃい」


稜子を見送った渚が思わず啓介に問う。


「啓介君、お肉焼いてたよね?」


「あ、ばれた?」


「匂いが凄いしたから」


「おう焼いてた。まあ食える食える大丈夫大丈夫」


「まさかお肉の種類を変えてくるなんて思わなかったよ」


「いやね、なんかこうもっと面白いのやりたかったんだけど、肉で縛ったら意外と思いつかなくてさ」


「お肉縛りしてたんだ」


「やっぱ野菜と肉となんかかなみたいな」


「成程ね。うーん、意外と考え方被ったかなぁ」


「何、渚も野菜と肉となんかみたいな感じなのか?」


「うーん、大体?まあ何かは食べてからのお楽しみかな」


「へへ、楽しみにしてるぜ。俺よりヤバいのだったら笑うけどな!」


「それも食べてからかな」


「…意外とみんなそういう感じなのか…?」


明人の呟きは誰にも聞こえなかった。

しばらくして稜子が帰ってきて渚を呼ぶ。


「終わり。次渚よ」


「うん、じゃあ行ってくるね」


「てらー」


というわけでキッチンに入る渚。


「おわっ…意外と匂いがするなぁ…なんとなく、少しだけなら何入れたのか判るかもしれない」


匂いで何となく何を入れているのか想像する渚。

何となくだが判るものもある。


「うーん、もしかして私って普通過ぎたかな」


それに対して渚の選んだものは割と普通である。

少なくとも豚肉と白菜は普通である。


「でもなぁ、あんまりネタに走ると食べれなくなりそうだしなぁ…闇鍋を提案したのに私が一番闇鍋っぽくないかもしれない」


闇鍋を提案しておきながら一番まともっぽい渚。

食べれないのは嫌なので。


「とりあえず野菜を茹でて…お肉は最後でいっか」


普通に調理をする渚。

そしてその横には渚の唯一の闇鍋の闇があった。


「うーん、これどうしたらいいんだろう。このまま普通に入れたら絶対ふやけちゃうよね」


とはいえおおよそ普通に鍋に入れるものではないそれなので、扱いに困る渚。


「いやいっそのことふやかしてしまうか」


そしてちょっと悩んだ末に、ある意味開き直り始める。


「考えるのめんどくさいから、メインの鍋の用意をして、最後に考えよう」


とにかくメインを用意しないと最後が詰まるのでそれの準備も行う渚。


「よしよし、とりあえず野菜もオッケー。メインの鍋も準備ができた。お肉もだいたい大丈夫。さて、問題は、うーん…いっそのことメインの鍋にもう入れてしまうか、でもなぁ、うーん…あ、そうだ。キッチンタオルを用意して、サランラップを用意して、よしこん中に入れて最後に神谷君に入れてもらおう」


禁じ手の直接投入に踏み切りかける渚。

が、明人に後で直接入れてもらう方向で落ち着いたようである。


「終わったよー最後神谷君ね」


「おし。じゃあ締めまでやってくる」


「いってらっしゃい」


というわけで明人が最後にキッチンに向かう。


「…なんかさっきスーパーで会った感じ渚はまともっぽかったけど…」


「うん、なんか、闇鍋を闇深いものにする気にはなれなかったから、割と優し目かな?」


「まあまあ、渚が普通でも他がきっと普通じゃないから大丈夫だな」


「それが怖すぎるのよ。あんた何入れたのマジで」


「いや、まあ俺の割と好きなものではあるぞ?」


「曖昧過ぎる…いや闇鍋だからそりゃ見るまでぼかすだろうけどさ…」


「そうみんなが闇鍋の闇を担当してくれるって私信じてるから」


「そういえば明人はどんな感じだったんだ?スーパーの時」


「私は会ってないなー稜子ちゃんは?」


「いや、私も見てないわね」


「え?あのそこまで広くもないスーパーでか?俺も会って無いけど」


「え?野菜コーナーか肉コーナーにいれば会うよね」


「まあ普通は…?え、普通じゃない?」


「あ、そういえば神谷君の顔凄い楽しそうにしてたな」


「…あいつ、どこで何買ってたんだ?」


謎の不安感が3人を包んだところで明人が帰還した。


「おし終わったぞー」


「ありがとー」


「見た感じ結構闇鍋」


「闇鍋ですから」


「じゃあこっからは実食ね」


「いざ、実食!」


□□□□□□


というわけで食堂。


「はい、というわけでこちらですね」


明人が持ってきたのはメインの鍋。

闇鍋である。


「ざっと見る感じは、確かに色々入ってるけど…」


「…まあなんというか、普通の鍋ではないわね」


「まあでも食えそうじゃね?何故麺が2種類あるのか聞きたい感じはあるけど」


「最後に調理した神谷君の感想はどう?」


「…食ってからのお楽しみ?」


「なんか神谷君すごい楽しそうな顔してるよ?もしかして、結構楽しんでるよね?この状況」


「…まあ」


「ま、まあとりあえずこの場所に留まってても仕方ないし、食べてみましょ」


「じゃあ頂きます」


というわけで実食である。

とりあえず渚が動いた。


「とりあえず、お肉と白菜は、とって…ソーセージも大丈夫そう」


「おい渚ー選ぶなよ意味ないじゃないか」


「だって怖いんだもん」


「言い出しっぺあなたでしょうに」


「言ってから後悔したんです。でもちょっと楽しい」


「えーっと…これ、肉は肉でもステーキ肉よね…あ、さっき焼いてたのこれか」


「大丈夫食える!」


「そりゃ食べれはするだろうけど…はい渚」


「え!?私なの!?」


「いや私も食べるけど、道連れ?」


「じゃあせーのね!せーので食べよ!」


「じゃあ…せーの?」


同時に口に食材を放り込む2名。

直後何とも言えない顔になった。


「なんか、変」


「うん…その、別になんというか食べれなくは無いけど…変ね、すごく」


「ステーキなのに、鍋の味がする」


「まあ鍋だからな。食えるっしょまあ?」


「食べれるけども、違和感が凄い」


「…う、ちょっと待って変な味する」


「え、変な味?」


「…なんだろ、甘い…?」


「え…?鍋の味しかしないよ?」


「いや気のせいにしてははっきりしたけど!?」


「え、甘い物入ってるの?」


「闇鍋だからありえるんじゃないか?」


「神谷君まさか…」


「はいじゃあとりあえず俺らも食ってみるか」


「スルーされた!?」


「…確信犯ね…何入れたのよ…」


「えーっと…とりあえずそばとうどんと、後ナニコレ、ハム?え、ハム?」


「ハムだな」


「…まあ肉、肉か。…いやハムはねえだろ!?」


「食える食える多分」


「何このデジャブ」


「体に害があるわけじゃ無いから」


「まあ、とりあえず食ってみるか…」


というわけで啓介と明人も鍋の中身を食す。

明人も啓介も涼しい顔こそしているが、舌の上は混沌のそれである。


「…麺は、そのなんていうか、普通だな。2種類無ければ」


「でも片方そばでしょそれ?合うの?」


「いや絶望的に合ってない。食えなくは無いけど」


「奇跡的に思考が似ているのに似ていない」


「被ってないのが逆にすごいわね…いや普通麺持ってくるにしてもそばは無いでしょ…」


「…うんまあこっちはいいな。で、ハムだよハム。誰だよこれ入れたの」


「明らかに神谷君だよね。顔的に」


「ばれたか」


「さっきからハムとかそばで凄い喜んでるもん顔が」


「あんたか」


「いや、食えるけどヤバい物考えてこの辺にしたんだよな」


「料理ができる神谷君だからこそ、逆に怖いよねこの辺」


「そのね、ハムね。なんかね。すっごい変だわ」


「どう、まずい?」


「不味いって聞く?…いや、そのなんかなんとも…ただ少なくとも斬新な味わい…」


「…闇鍋が本気出してきた感じあるわね」


「でも真の闇はまだ潜んでそうだよね」


「そうね、さっきの謎の甘いの気になるし…というわけで渚はいこれ。ハム」


「あ、もうこれ私が鍋に触れる権利は無いんですね」


「だってこうでもしないとあなたきっと白菜と肉を食べる機械になるでしょ?」


「そ、そうなんだけど。そうなんだけど、頑張るから、お肉と白菜もください」


「仕方ないわね…というかこれ何?すっごいふやけた何かが…」


「あ、それ私のポテチ」


「は!?ポテチ!?」


「おいおいおい、渚が凄いの入れてやがる」


「だって、肉と野菜だと普通過ぎるかなって…私も闇鍋頑張ろうと思ったんだよ。私の精一杯の闇はポテチなんです」


「じゃああなたの闇だしいいわよね?はい」


「頑張るから、ちょっと量多くないですか」


「私も一緒に食べるから」


「ちなみにこれブラックペッパーなんですけど、明らかにコショウどっか行ってるよ」


「えーっと、ルールって確か液体に影響与えないじゃなかったか?」


「与えてないはず、大丈夫。多分与えてない」


「デジャブってる」


「まあ、最悪芋だからまだましでしょ…とりあえず食べてみるわ」


というわけでまさかのポテチを食べる2人。

当然ふやけているうえに渚のポテチの上には何か別のものまで乗っている。


「なんか、チーズついてる」


「あ、それ私のチーズ」


「なんだろう、なんか思ったより美味しい」


「まあそれ普通に芋にチーズ乗せてるだけだし…まあポテチ自体もふやけてるだけで食べれなくは無いわね…」


「ふやけてるとこが最悪だけどね」


「後で普通の食べたいわこれ…というかなんか私の汁にオレンジの浮いてるんだけど」


「お、柿の種だな!」


「はあ!?」


「いや俺柿の種好きだから」


「突っ込むか普通!?」


「まさかの発想が同じだった」


「いやこれポテチより凶悪じゃない?」


「え?ほんと?私にも入れて」


「自殺しに来たわねついに。はい」


「まあ、芋はまだ味分かるけど、柿の種の汁含んだ状態の味とか想像できんよな…」


「ポテチもポテチで思ったより美味しいだけで十分まずいけどね」


「汁に入れるものじゃない」


「じゃあ柿の種食べまーす」


汁付けの柿の種という得体のしれないものを食べる2名。


「ナニコレ不味」


「なんか…柿の種の味はするのよ。硬いし、するんだけど。その、汁の味も同時に来るから頭がおかしくなりそう」


「なんだろう。天国と地獄が同時に来てる感じ。絶対片方なら美味しいのに、両方来るから最悪の味が口の中に広がってる」


「…確かに、不味いな。これ。あとで袋で食うか」


「お菓子は後で、普通に食べたいね」


「…そうだな…って甘っ!?何!?」


「え?え?え?甘い物?あったっけ?」


「待て、いま少なくともこの中には11品の食材が入っている、つまり、あと1個なんか分からんのがいるんだよこれ」


「あと1個…何かある?」


「…見た感じ無いんだけど。…まあいいや行っちゃえ」


「え、あ!?稜子ちゃん!?私のうつわに闇が注ぎ込まれたんですが!?」


「まあ闇の発生源に闇を返すのは基本でしょ」


「ひどいよ!あんまりだよ!凄い量多いんだけど!?」


「死にはしないから大丈夫よ」


「じゃ、じゃあ行くから、行くから」


闇そのものと化している汁を稜子から大量投入された渚。

仕方ないので飲んでみることにする。


「ふへ!?」


「お、なんかあったぞこれは」


渚が固まりながらも汁を飲み込む。


「フルーツ…」


「え!?」


「絶対これ果物の味…」


「は?果物?」


「なんだろう、甘かったんだよなぁ。もう一回食べるね」


「なんか毒見みたいになってきたな」


「間違ってないでしょ」


「行きます…!」


再び汁に戦いを挑む渚。

今度は分析の余裕があった。


「うん、うん、ん…丸い。やわらかい。でもちっちゃい。なんだろう。凄い食べたことある気がするけど…鍋の味が濃い…」


「ん、ちょっと私も食べてみる」


「俺も俺も、え、汁でいいよな」


「うんうん、なんか白菜とかのところ食べるとよく出てくる気がする」


なんか挟まっている感じらしい。


「…ぐっ、うぇ、うわ確かになんか…いや食べた記憶はあるわね。甘いわやっぱり」


「…鍋に入っていい味ではないな」


「え、どれだろう」


「…クク」


「ちょ、明人?」


「…クク、ごめん無理、笑いが…アハハ」


「あっということはこの甘いのの原因お前か!何入れやがった!」


「アハハハ!いや、果物正解、ぶどう」


「ほ、ほんとだ!丸いのがあった!凄い見にくいけどある!」


「ぶどう!?あんた…えぇ…」


「…果物かぁ、しかも見にくい。クソ、俺の先に行かれた」


「いや、そんなに、探してくれると思ってなくて、ごめん、途中から笑いこらえるのに必死だった」


「うっ、やっぱり何度食べても不味い。まさか、神谷君がこんなひどいもの入れるなんて思わなかったよ」


「闇鍋だからな」


どや顔でそうかます明人であった。



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