闇
「お邪魔します。へー来るのいつ以来だっけ…」
「俺と同じなら小学生じゃないか?」
民宿「しろすな」玄関口。
明人と稜子がそこにいた。
「まあそっか。渚がここ離れた時期だものね。相変わらずひっろいわねここ」
「あ、おっす渚。お邪魔してる」
「あ、おはよ。2人とも。来るの早かったね。もうちょっと遅いかなって思ってたよ」
「ああ、ほんとは啓介も待って全員で来る予定だったんだけど」
「いや、あの、外寒くて」
震える稜子。
実際冬ど真ん中なので寒い。
「でまあ、早めに来るだけ来るかーって感じで2人だけで来た感じかな。あ、一応啓介には連絡してるからそのうち来ると思うけど」
「ああうん、外寒いよね。最近だと雪も降りそうな感じするしね。でもそっか、啓介君は後で来るんだね。分かったよ」
「多分30分くらいは遅れるってさ」
「30分ね、分かった。ほんとはみんなが来てから買い物に行こうかなって思ってたんだけど、啓介君が来るまでとりあえず待った方がいいかもね」
「そうだな。どうせだし、全員揃ってから行動したいしな」
本日はクリスマス。
幼馴染4人で集まってのクリスマス会である。
「うーん、でも、30分の間どうしよっか。遊び始めたら絶対に30分じゃ終わらないしなー」
「30分か、微妙だな」
「何かするには短いわね」
「ああ、そうだ。今日どんなことするか知らないんだけど、普段はどういうことしてるの?」
「ああそっか。伝えてなかったなそういえば。とは言っても集まって駄弁るか、ゲームとかやって遊んでるくらいなんだけどな普段って」
「ふんふんふん。ゲームかぁ。みんなどういうゲームやってるの?」
「この時はボードゲームとか引っ張り出してくること多いわね。一応クリスマスパーティなんだしみたいな。普段はそんなにそういうのやらないんだけど」
「成程ね、ボードゲームかぁ」
美船の姿が頭をよぎる渚。
最近人生ゲームに途中参加させられたりもしたので記憶に新しい。
「まあ、俺たちの家にあるやつなんて、オセロとかしかないから途中で飽きちゃって結局喋ってるってパターン多いんだけどな」
「レパートリー少なすぎるのよね。2時間もやれば流石に飽きるわ」
まあ3人でオセロ2時間もやれば飽きも来るであろう。
「うーんうーんうーん、うちって何があったっけな…オセロもあったけど、バックギャモンとか?」
「バック…?え、何?」
「えっと、バックギャモン」
「なんか聞いたことはある気がするんだけど…さいころ振る奴よね確か」
「そうそうさいころ振って、やるやつ。まあ私ルール全然知らないけど。一応あるんだよね」
倉庫の中に眠っているのを発掘した。
古めかしい見た目ではあったが一式は揃っていたので遊べなくもない。
「へーまあルールは調べれば最悪分かるでしょ。後でやってみてもいいかもね」
「オッケー、じゃあ後で出すね」
「後普段何やってたっけ?」
「え、食べて遊んで喋って終わりじゃないいつも」
「まあそうか…うん、まあそんな感じだな。クリスマスに集まってるからクリスマス会って呼んでるだけな感じがする」
「なるほどなるほど。私は分かったよ。じゃあ私やりたいこと言ってもいいですか!」
「そりゃもちろん全然いいけど。何かあるのか?」
「闇鍋をやりたいです!」
「闇…鍋…?」
「え、渚マジで言ってる?」
「そう!こういう時があったらやってみたいって思ってたの!」
「闇鍋かぁっ…ここでその単語を聞くことになるとは…」
「え、あの、渚、闇鍋ってなんだ?」
「え、闇鍋はね、鍋にとりあえず各々が好きなものを突っ込むやつ」
「へー…なんだか楽しそうだな!」
「あんた分かってないのよ…あれ、一歩間違えたら地獄なんだからね…!」
だいたい各々色々とんでもないものを持ち寄るため、ろくなことにならない。
「そう!でね、私も美味しくないのは食べたくないから、1つだけルールを決めようと思って。そのルールに従って闇鍋をしてみたいんです」
「ちなみに聞くけどどういうルール?」
「まず、鍋のベースは後で買ってくる鍋の素にします。それで、入れるものは、チョコとか、そういうスープに影響の出るものは禁止。っていうルールなんだけどどうかな?」
「あー…まあ、それなら最悪入れた本人に食べてもらう形でなんとかなるからいいか…闇鍋じゃなくなってる気もするけど」
カオス度はかなり減る。
「だって、本当に食べれないものができたら、お腹すいちゃうよ」
「そこは食べる気は無いのね」
「なんてたって私は好き嫌いが多いからね」
「発案者がそれって企画倒れじゃない?」
「やってみたかった。でも好き嫌いは多かったから。雰囲気を味わえる感じぐらいでいいかなって」
「…まあ私も変なもの食べたくはないし、それでいいけど」
「なんだかよく分からないけど、俺もいいぞ」
「じゃあそれでいこう」
それから数十分後。
啓介が合流した。
「おはよう。啓介君。久しぶりだね」
「おはよ、渚。いやすまん遅れた遅れた」
「そもそも住んでる場所が遠いから仕方ないよ。それよりも今日は来てくれてありがとう。そして私を参加させてくれてありがとう」
「いいっていいって。それに人数多い方がこういうの楽しいっしょ?」
「それは間違いないよっ。絶対楽しいよ!」
「まあボドゲやって食って喋って終わりだけどな!」
「あ、それなんだけどね啓介君。さっき闇鍋をやろうって話になったの。やってもいいかな?」
「え、闇鍋?ああ、闇鍋か、いいぞ。面白そうじゃん」
にやりとした顔になる啓介。
それを見て慌てて渚がルールのことを話す。
「うん、それでね、ルールを決めたからルールだけは守ってほしいんだ」
「ん?ルール?闇鍋にルールか?」
「うん、闇鍋だけどルールなんです。闇すぎると食べれなくなりそうで怖いから。それを防止しようと思って」
「マジか。闇作ろうと思ったんだが」
「闇、作りたい?」
渚が震える。
まあ闇を本気で作ろうものなら、絶対食べれないので。
「いやまあ、闇作るのは好きだけど、だいたい作った落とし前で食わされるの俺だからいいよ」
「ほっ…じゃあそういうことなので、今から食材を買いに行こうと思うから。行く途中にルールは話すね」
「おう、頼む」
というわけで食材を買いに出かける4名であった。
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近場の唯一のスーパーに来た4名。
とりあえず渚がベースをちゃんこ鍋に指定して準備完了である。
「じゃあ、手札がばれると面白くないし、ここで分かれて後で集合にしようぜ」
「了解!あ、ちなみに集合はどこなの?」
「外…」
「寒い!やだ!」
速攻で稜子が叫ぶ。
どうやら今日は本気で寒がっているようである。
「えぇ…集まるとこなくね?そうすると」
「じゃあ、時間決めといて、同じ時にレジ通ればいいんじゃないか」
「ああ、それならいっか。渚、選ぶのどれくらいかかる?」
「んー…15分くらい?」
「じゃあちょっと長めに20分にしとくか。じゃあいったん解散な。変なもん買うなよ!」
というわけで解散。
各々が好き好きの場所に散った。
「闇鍋…闇鍋…でも食べれないものは嫌なんだよなぁ…」
言っておいて後悔する典型例である。
「とりあえず美味しいものを買おう。きっとみんなが闇を買ってくれるよ」
「えーっと、とりあえず肉と、白菜を買おう。いくら闇鍋だって言っても、普通の奴も無いと面白く無さそうだし。食べれなさそうだし」
というわけで肉のコーナーに来た渚。
普通の豚肉を掴む。
「あれ、渚?あなたも肉?」
そんな渚に声がかかる。
稜子であった。
「え?稜子ちゃん?稜子ちゃんも?」
「いや、変なもの突っ込むくらいなら肉入れる方がいいかなって…」
「私もそう思って…考えること一緒だったね」
「…この後白菜じゃないでしょうね」
「何で知ってるの!?」
「ちょっと待って、私もそのつもりなんだけど」
もはや普通の鍋である。
「だって闇鍋じゃん!なんでそんな普通のもの買おうとしてるの!?」
「それあなたが言う?」
「だってみんなが変なもの買い過ぎたら、食べるもの無くなるかなって思って…!」
「えー…でもまあ渚が普通成分高めで行くならもうちょっと捻るか…」
「分かった。じゃあ私白菜は買うから!ラスト一品は頑張るから!」
「じゃあ白菜はやめて何か別のにするわ。…ここまで被るのは想定外だったわね…」
「私も稜子ちゃんが思いのほか常識人枠でびっくりしたよ」
「渚それどういうことよ」
完全に失言である。
稜子が怪訝な顔になる。
「え、どういうことでもないよ。ないよ」
「聞き捨てならないこと言われた気がするんだけど」
「え、え、じゃあまた後でね!」
「あ、こら逃げるな!」
渚は盛大に逃走した。
そのまま白菜の場所にまでたどり着く。
「えーっと、白菜」
「あれ、渚?」
またもや誰かに声をかけられた。
啓介である。
「あ、啓介君」
「なんだ、渚もここに用があるのか」
「うんうん。私も買いたいものがあるからね。啓介君は、にんじん?」
「おい、普通だなって目で見るなよ。意外と難しいんだよ固形物限定ってさぁ」
苦い顔をする啓介。
もっとネタに走りたかったが思いつかなかったようである。
「確かに言い出しといてなんだけど、分かる」
「液体に影響与えないってなるとこのへんになるんだよな…」
「啓介君もでも意外とまともだなぁ」
「お?言ったな?」
にやりと笑みを浮かべる啓介。
「え、あ?まともであってください!」
「もう遅い!覚悟しとけ!」
「うああああぁあぁ、そんなぁ」
というわけで約束の刻限。
各自がそれぞれレジを通過した。
「全員買えたか?」
「ばっちり」
「まあ大丈夫」
「問題ない」
「おっし、じゃあ食材の開示はその時までお預けな!」
それぞれの手には食材が3つずつ。
どうなるか分からない闇鍋が始まろうとしていた。




