ボドゲ
「たのもー!」
「うわ、来た」
昼過ぎ。
そろそろ掃除するかと1階に掃除用具持って降りた咲希であったが、突然無遠慮に玄関口が開き、見覚えありすぎる顔が入ってくるのを見た。
美船である。
「うわって酷いなー?いっつも来てるじゃん」
「いやいっつも来てるからうわなんだろうが。なんだよこの前来た時に比べて遅いじゃん。来るかなとは思ってたけど」
「あんまり早く来すぎるとお昼に被っちゃうじゃん?ご飯食べてるの見るとお腹すくんだもん」
「いやお腹すくって昼飯食べてから来てるんじゃないのかよ…」
「渚ちゃんの手料理美味しそうなんだもん。とりあえず上がるよ?」
「もういいです好きにしてください。どのみち私今から掃除だけど」
「いいよー上で待ってる」
当然のように2階に行く宣言する美船。
上がり込み方が完全に実家である。
「嘘でも手伝うとかないんかよ」
「いやこの前来た時に映画滅茶苦茶いいとこで切っちゃったから、続き気になるんだよね!」
「当然のように映画見てるけど渚が契約してる奴だからなあれ!?」
「大丈夫、渚ちゃんも知ってるから」
「そういう問題じゃないと思うんですけど。明らかに渚よりも見てる時間長いぞ?」
渚は契約こそしているものの、家にいる時もあまり見ることが無いので、実質一番見ているのは明らかに美船である。
それこそ渚の数倍から数十倍は使っている。
遠慮は無い。
「あれそうなの?そこはあたしが月額制を有効利用しているとかそういう感じで」
「その理論無理あるだろ」
無茶苦茶な言い分を展開する美船。
でも実際どれだけ見ようが額が変わらないのは事実だったりするのだが。
「じゃ、上のリビングにいるから終わったら来てよね!」
「言われんでも行くわ!私の家やぞここ!」
そもそも掃除終わったら用具返すために上に戻るのでリビングは通る。
「そうだった」
「それ忘れないでもらえます?」
「じゃあ私上いるねー」
そう言いながら向かう先はキッチン。
何やら冷蔵庫をごそごそやっている。
「当然のようにキッチン入りながら言うなよ」
「映画見るなら飲み物と、お菓子は必須だよねやっぱ」
手に持っていたのは、お茶とお菓子の袋である。
無遠慮である。
「お茶は構わんけどお菓子は渚のだからほどほどにしろよ。怒られても知らんぞ」
「はーいはーい。ねえ咲希、ポップコーンない?」
「いやそこに無ければねえよ」
「そうかぁ…今度ポップコーン買ってきてここに置いとこうかな」
「あの物置じゃないからねここ」
そんなことをやりながら2階に行く美船を見送る咲希。
一応自室や渚の部屋には入らないように言ってあるのでそこは信用している。
その後、2時間くらい経って2階に戻る咲希。
「おーお帰り咲希。ねー一緒に見よ見よ映画」
「いやあのソファー丸ごと占拠しながらいうセリフかそれ?どうやって一緒に画面見るつもりなんだ」
「いやーこのソファー気持ちいからつい横になっちゃうよね?」
「座るとこそこしかないんですけど」
2階のリビング部分にあるソファーは一つ。
しかもそこしか座れる場所は無い。
あとは床である。
そしてそれほど広くないソファーなので横になられると完全に詰む。
「え、何見てんの」
「なんだっけ?えーっと…デッド〇ール」
「あれかい。通りで一時停止画面でもなんか見覚えあると思ったわ」
「あれー?咲希見たことあるんだ?」
「前に1回な。今どの辺?」
「半分すぎたくらいかな?」
「一番いいとこらへんか?ちょっと待って座るもの持ってくる」
「どこうか?」
「んーいいよ別に。部屋のクッション使えば座るとこ足りてるし」
と言って部屋から大型の饅頭クッションをいくつか持ってくる咲希。
相変わらず咲希の部屋にはそういうものがゴロゴロしているのでこういう時は困らないのである。
「咲希相変わらずそういうの好きだよね」
「座り心地いいんだよね。いる?」
「1個頂戴」
「あい」
「ありがとー。うお手がめり込むめり込む」
クッションをもふりながら映画を見る2名。
「うわ相変わらずえげつないグロさと下ネタ」
「まあまあそこが売りだからこの映画」
「ヒーローの定義壊れる」
「自分でヒーローじゃないって言ってるから」
会話しながら見続けていると、映画が終わった。
もともと半分すぎていたのでそれほど残りがあったわけではないらしい。
「というか週4も映画見て飽きんの?」
「普段映画とか見ること中々ないからねー。ここくらいしか見れるとこないから飽きないよ?」
「そんなもんなの?」
「そんなものそんなもの。ねー咲希なんかして遊ぼ?」
ソファーからずり落ちながらそう言ってくる美船。
「体制。ていうかまた奥から変なボードゲーム引っ張り出してくる気か」
「変なって心外な!あれは由緒正しい世界最古のボードゲームだから!」
体勢を正しながらそう言う美船。
「むしろどこにしまってあったんだよあんなの!私の家なのに私知らなかったぞあんなの置いてあるの!」
「なんか無いかなと思って、奥の方の上の方をごそごそやってたら見つけただけだけど」
「よく見つけたなマジで」
今まで家に来ていた時に暇だったらしく、倉庫からなにやら古いボードゲームを引っ張り出してきたのである。
咲希すら知らなかった何かであった。
まあその時はそれで遊んだのだが。
「でーまあ流石にまたあれやるのもどうかなーって思ったから今日は私がちゃんと持ってきたから。こっちで遊ぼー」
「もしかして、その、無駄にでかい鞄…」
「そのとーり!ご名答、人生ゲーム!」
大きめの鞄から人生ゲームが箱ごと出現する。
「いやそこまで言ってねえよ。というか人生ゲーム持ってきたの?マジ?」
「うん、家にあったから持ってきたー」
「2人で人生ゲームやるん?盛り上がりに欠けへんか?」
「大丈夫、渚ちゃん帰ってきたら参加してもらえれば3人だから」
「いやあの、途中参加できるタイプのゲームじゃないっしょ?」
「まあ適当に初期資金上乗せして人生の途中から始まってもらえば大丈夫だって!」
「人生に途中参戦とかありなん?」
「ありあり!きっとあれだよ、地下でずっと労働してて、ようやく一般社会に帰ってきたとこなんだよ」
「うわ何その嫌すぎる設定」
強制的に闇の深そうな人生に落とされる渚。
まだ参戦が決まったわけではないが十中八九参戦するのは予見されている。
「ちょ、まだ半分も行ってないのに既に借金地獄なんだけど」
「咲希、運悪くない?」
「そういう美船は運良すぎんか?なんでそんな資産ある上に子供にまで恵まれてん」
「順風満帆!よーし次回してー…4かぁ」
「えーっと4。…お前、家燃えてね?」
火災のマスに綺麗に止まる美船。
人生死ぬまで順風満帆とは行かなかったようである。
「燃えてる。…燃えてる!どうしよ!火災保険入ってないよ!今からでも入れる保険無い!?」
「無いです。諦めて燃え尽きて」
「いやー!」
家に叫びが木霊したところで別の声が階段を上がってきた。
「ただいまー。なんか叫び声聞こえたけど」
「あ、おかえり渚」
「おかえり渚ちゃーん!私の家なんとかしてー!燃えてる!今燃えてるの!」
「え?え?」
唐突過ぎて困惑する渚であった。
なおこの後ちゃっかり美船によって渚も人生ゲームに吸収された。
予定調和である。




