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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
65/177

予定

ある日の民宿「しろすな」にて。


「見てみて!カニ、剥けるようになったよ!」


キッチンにてどや顔をかます渚。

隣にいるのは明人。

最近「しろすな」に雇われた渚のお手伝いである。


「お、上手いじゃん!手慣れたな」


「凄いでしょ!私だってやればできるんだからね!」


盛大にどや顔をかます渚。

調子乗ってきた。


「おう、その調子だ!じゃあこっち頼むわ」


「任せ…なんかいいように使われてる気がする」


どや顔を濁らせる渚。

不満げである。


「そんなことないって。腕を見込んでるだけだから」


「上手いこと言うなぁ。まー剥きますけど」


「頼んだ。そっちやってるうちに他の下準備しとく」


ささっと他の準備を取り掛かる明人。

相変わらずこの辺の行動は早い。


「相変わらず神谷君のスペック高いよね」


「そうでもないって。こういうのマジで親に仕込まれただけだから」


「だってもうどっちが雇われてるか分かんないじゃん」


「あ、俺突っ込みすぎ?」


「いえいえ、そのままお願いします」


「いや、渚の手料理売りにしてるならやばいかなって…」


少し慌てる明人。


「私も手は入れてるから私の手料理は嘘じゃない」


「凄い屁理屈を聞いた気がする」


「いつかちゃんと手料理にするから!しばらくは下っ端だから仕方ないの!」


「下っ端って…ふっ」


少し口先で笑う明人。

それに対して渚が口を尖らせる。


「なんで笑うの」


「悪い、ちょっとツボった」


「くーーーやしぃ。絶対にいつか下っ端にしてやる」


傍から聞いてるとよく分からない切れ方をする渚。

それに明人が笑って返す。


「ははは。そうしてくれ」


「精進するからとりあえず今は私の手料理ちょっとで我慢するんだなって言うしかない」


「それを客前で言ったらある意味勇者だぞ渚」


「そもそも私の手料理売りにしてないし」


「あれそうなのか?」


ぽかんとした表情になる明人。

実際そんなことはどこにも書いたりはしていない。


「え?違うの?どこにも書いてないよそんなこと」


「あれそうだったのか…いや、この間少しお客さんと喋ったんだがそんな感じのこと言ってたから…」


「え、知らなかった」


「まあ酔ったおっちゃんだったから違うなら違うんだろうけどさ」


「じゃあきっとそういう側面もあったのかもしれない」


謎の納得をする渚。


「側面ってなんだ」


「側面は側面だよ。私は頑張るよ」


「そうしてくれ。じゃこれお願い」


「分かりましたぁ!頑張りまぁす!」


そうして夕飯が終わってから少しあと。


「半分くらい私の手料理もどきだったんじゃないかな?」


「えらい気にするな?」


「私が売りなら私は私の手料理にしないといけない」


「まあお客さん喜んでたみたいだしいいんじゃないか」


「それは間違いない。でも、神谷君に負けるのはなんかいやだから頑張る」


「なんかいやって何!?」


思わず突っ込む。

なんかいやだ、がなんかいやである。


「いやほらスペック高いじゃん?私も抜けるとこ一つくらい欲しいじゃん?」


「そういう理由?ふふ、まだ負けんぞ」


「だからじっくり研究させてもらうよ。いつか下っ端にするために…!」


「なんかその発言だとすごい小物臭するぞ?」


「小物じゃないもん!大物になるんだもん!舐めやがってぇ、絶対にぎゃふんと言わせてやるんだからね!」


「敗走シーンみたいになってるぞ」


「とりあえず今は小物ってことで逃げます。賢いものは無謀なことはしないのです」


「それでいいのか渚」


「大丈夫だよ神谷君。いつか絶対に抜かすんだもん。今くらい負けてもいいの。得るものはあるから」


「いや…なんかそんなに言われると俺だけ適当だと失礼に感じるな。俺もちょっと色々研究してみようかな?」


渚の発言に対して対抗心を何故か燃やしてくる明人。


「え゛!!!待ってよ!なんでそうなるの!」


「いや渚だけ努力して俺しないのなんかあれじゃん?それになんか新しいことやれるようになれば渚にも教えれるし?」


「いや、そうなんだけど、そうなんだけどさ!神谷君今の私のこと聞いてた?私は抜かしたいんだよ!なんでゴールが走るの!?」


「やっぱ…追われると逃げたくなるじゃんか?」


すごい決め顔で返される。


「そんないい顔で言われても嬉しくないよ。うぅうん。頑張るしかないか」


「ははは。頑張ってくれよ。まあ俺なんかすぐ追いつかれるさ」


「なんかちょっと決め顔でムカつくなあ神谷君。そもそもそういうこと言う人追いつけないんだよなぁ。基本的に」


「あ、分かった?」


「見てれば分かるかな」


「まあ、いまのは冗談にしてもだ。頑張れよ。応援してるから」


「うんうん頑張る頑張る。でも、あれだね、神谷君が来てもうちょっと経ったよね」


「そうだな。1週間くらいか?」


「ここは慣れた?割と、無茶言ってる気がするけど大丈夫?」


「まあ、昔来てたこと自体はあったし慣れたかな。無茶は言われてる気はするが大丈夫だ」


「それならよかったけどきつかったらちゃんと言ってね」


「ああ。それは言うから安心してくれ」


「そろそろ寒くなって来たし、コロッと風邪ひくと危ないからほんとに気を付けてね」


「そうだな。インフルとか持ち込んだら営業停止だもんな」


営業停止を気にする明人。

まあ実際渚が倒れたら営業停止なので間違いではない。


「別に営業停止とかじゃなくて単純に神谷君のこと心配してるだけなんだけどな。そもそも神谷君学校あるでしょ」


「まああるけど」


「私はともかく神谷君がインフルとかになったら学校行けなくて迷惑かけちゃうじゃん」


「1週間くらいの休みならなんとかなる。大丈夫だ」


「何が大丈夫なんだこの人は」


「あーでもテスト被ると不味いか」


「テストいつなの」


「え?2週間後くらいかな」


「え、テスト勉強は?」


「してるが?」


「え!?してるの!?」


「ちょっと待って渚から俺はいったいどういう風に見えてるの?」


「だって部活やってここでも働いてやる時間あるの?」


「ああ、まあ帰った後にやればできるし、学校行く途中の電車とかでも…まあやる時間はとれるとれる」


「時間の問題じゃないんだよ!なんなんだよ!神谷君!」


思わず膝をついた渚。

ちょっと生活パターンが理想的過ぎて意味が分からなかった。


「え、ちょ、大丈夫か?」


「大丈夫なわけないでしょ!なんでそんなハイスペックなの!ずるいよ!そんな濁りの無い心初めて見たよ!」


理不尽すぎる叫びを食らわせる渚。

そんなこと言われてもという感じになる明人。


「そんなこと初めて言われたよ!」


「だってほら!こんなに働いたら疲れるじゃん!正直寝たいじゃん!遊びたいじゃん!その気持ちは神谷君にはないの!?」


「え?だって寝てるし遊んでるぞ俺」


普通の顔でそう返す明人。

それを聞いて余計に叫ぶ渚。


「ああああぁあぁ駄目だぁ!なにも勝てる気がしなくなってきたぁ」


「ちょっと待って渚。俺の理解が追いつかない」


「要するに私はダメ人間ってことです。世界にごめんなさいです」


「いやそんなことはないだろ。悲観しすぎだろ」


「ど、どうやって生きてきたらそんな聖人君子になるんですか…」


「あ…えー…小学生くらいまでに修羅場ってるとなるかな…」


遠い目になる明人。

昔に色々やってるのは稜子や本人の話から知っている。


「あ…成程。なんかごめん、うん分かった気がする。私はダメ人間じゃなかった。超人じゃなかっただけだよ」


「多分こうはならない人生の方が幸せだと思うぞ」


「どっちもどっちだと思うよ私は、でもやっぱり心配かな」


「あーまあ風邪とかには気を付けるよ。心配してくれてありがとな」


「うんうん、うんうん。あの、ちゃんと寝てね。命削らないようにね」


「流石にそんなことはしないって大丈夫だ」


「テスト前になったら休んでもいいからね。咲希姉には私が言うから」


「おう。じゃあその時は…ってじゃあ先に、2週間後の1週間は休み貰っても大丈夫か?」


「えっと、うん、クリスマスの1週間前だね。いいよ言っとくね」


「ありがと。渚、そういえば、ここってクリスマス何かやるのか?」


クリスマス。

そうクリスマスである。

世間的に考えてイベントの1つや2つやってもおかしくはない。


「え?クリスマス?え、24日、25?お客さん入ってたっけ?」


「あ、お客いないとやらない感じ?」


「ううーん…多分。咲希姉はやりたいのかなぁ」


「えーなんか呼んだ?」


名前が呼ばれたのが聞こえたのか姿を見せる咲希。


「あ、咲希姉。咲希姉ってクリスマス何かやりたい?そもそもお客さんいた?」


「やりたいと思う?ちなみに客は確かいない」


「だよね。咲希姉だもんね」


「当たり前だよな」


さらさらっとそう返す咲希。

咲希にイベントやりたいという概念は無いらしい。


「らしいよ」


「やらないんですね何も…」


「まー私がやる気ないだけだから、なんかやりたいならどーぞどーぞって感じなんだけど」


「そういうことらしいよ」


「そうなんだ。てっきり何かイベント組んでるものかと思ってた」


「お客さんがいればやってみたかったよね私は。咲希姉はやる気無さそうだけど」


「クリスマスにそこまで特別感求めてないよね。基本関係ないし」


「じゃあ渚クリスマスフリーなんだな」


「うんうんフリーだよ。なんかみんなでやるの?」


「あーそうそう。毎年クリスマスに稜子とかと集まって軽いパーティみたいなのやってるんだよね。それなら渚もどうかなって」


クリスマス会のお誘いである。

そして渚がそれを断る理由がない。


「え、楽しそうやりたい!」


「あ、じゃあ来る?」


「うんうん。どこに行けばいいの?」


「場所的な問題でだいたいは俺の家か啓介の家か…まあどちらにせよあんまり広くないんだけどな」


「ふんふんふんふん。ねえねえ咲希姉。うちでやってもいい?」


「え、何を」


「聞いてなかったの?」


「ぼーとしてたので」


聞いてたようで意識を向けていなかったらしい咲希。

聞こうとしてない時はよくあることらしい。


「じゃまあ後で聞くね。で、神谷君、うちでやったらいいんじゃないかな。広いし」


「え、いいのか?確かに誰の家よりも広いけど…」


「ねえ、咲希姉。お客さんがいないならみんなでここでパーティしてもいいよね?」


「まあ…別に必要以上に汚さないなら好きにしてちょって感じ」


お客来てる時よか汚れないだろうし…と考える咲希。


「って感じだから多分大丈夫だよ」


「え、それでいいの!?」


「いいのいいの。気にしない気にしない。言質はとった」


「私がいいと言えばいいのだ。気にするな」


「って咲希姉も言ってるし大丈夫」


「じゃあ…ここで集まるって感じにしてもいいか?正直毎年狭い部屋で3人はきつかった」


「それで4人になったらもっと大変だよね。幸いお客さんもいないから大丈夫。みんなは大丈夫かな?」


「まあ俺と稜子はむしろ電車使う必要ないから問題ないし、啓介もまあ俺の家に来るパターンもあったから大して変わらないと思うから大丈夫じゃないか」


「じゃあ決まりだね!」


「じゃあ、すいません場所借ります」


「ええよええよ。気にせんといて」


そういうわけで、さらっとクリスマス会の会場が「しろすな」に決まったのであった。



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[良い点] 代表取締役の鶴の一声「私がいいと言えばいいのだ。気にするな」
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