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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
60/177

過去

民宿「しろすな」からちょっと離れたとこの本屋。

そこに渚はいた。

割といつものことである。


「そういえば、この前結局大丈夫だったの?私行けなかったけど」


「ああうん、この間はね。神谷君に手伝ってもらったから大丈夫だったよ」


「は?え、明人?あいつ手伝ってたの?」


「え、ああ、うんそうだよ。ちょっと前にカニのさばき方を教えてもらってたから、もしかしたらと思って頼んでみたら、引き受けてくれたの」


「あいつも大概頼まれると断れない奴よね…それで色々あったのに相変わらずっていうか」


ちょっと頭を押さえるのは稜子。

相変わらず本屋の番だが、やっぱり人がいる感じは無い。


「そうだね、でも凄い助かったよ」


「あいつ、無駄にその辺色々できるでしょ」


「うん、あまりにもできるからちょっと自信無くすよね」


「昔っからそうでね。癪なんだけど弱点ないのよあいつ」


「もはや反則だよね反則。主人公みたいだよね」


「ほんと。それで女の子いっぱい寄ってきて助けてってやってんだからほんと嫌になるわ」


「ラノベ主人公まんますぎて、前世で一体どれだけ徳を積んだらああなるんだろう」


「…世界を救うとか?ちょっと陳腐すぎるか?」


「異世界転生もの?」


「でももはや特技面だとチートの領域じゃないあいつ」


「うんうん、確かに」


「なんだっけ…運動勉強もほとんど上の方だし、料理できる、裁縫も確かできるし…あとなんだあいつできないことってなんだ?」


「できないこと無さそうだね。というか裁縫もできるんだね。知らなかったよ」


渚は裁縫はできない。

糸通しが無いと糸が通せないので。


「なんか偶に親に手伝わされてできるようになったって本人は言ってるけど。にしてはやたらレベル高いのよね」


「料理の時も同じこと言ってたよ」


「やっぱり?聞いてもだいたいそう言うのよ。親に叩き込まれてるのかしら」


「でも教えるのが上手いのかもしれないよね。だって、さばき方とか手慣れすぎてて、毎日やってる私がみじめになりそうだったもん」


「あいつの隣に立ってると全部引き立て役になりそうね」


「怖いねえ」


「ほんと、下手なラノベ主人公が可愛そうになってくるレベルだもの」


「でもあまりにも出来すぎてて敵役にもなりそう」


「確かに。顔も整ってるから案外適任かもね」


そんなことを語り合っていると本屋の扉が開き、聞き覚えのある声が入って来た。

明人である。


「おーっす」


「あ、悪役」


「こんにちは神谷君」


「おう、こんちは。え、でも悪役って何の話」


「こっちの話。気にしないで」


「気になるよその言い方されたら余計!」


「大丈夫悪いことは言ってないよ」


「なら良かった…良かった?」


「別に悪口言ってるわけじゃ無いわよ。ね?」


「ねー」


納得いかない顔の明人。

まあでも稜子も渚も何を話してたかは教えてくれないので無駄である。


「で、今日は何の用。どうせ冷やかしでしょうけど」


「よく分かってんな」


「なら来るな」


「いいだろ、話に来れる場所ここぐらいなんだし」


「え、神谷君友達いないの?」


「いや、そういうわけじゃ無いけど、基本的に稜子ここにしかいないからな。学校違うから会えないし」


「え、もしかして神谷君、稜子ちゃんのこと…?」


「え?あ、いや、そういうんじゃないぞ。よな?」


「無い無い。流石にもう無いわね」


「え、すごい否定するね。え、仲いいよね?」


「私からしてみれば腐れ縁としか言えないんだけど、まあ、仲はいいか?」


「え?え?神谷君は?」


「仲は…うん、まあいいと思うが…」


「え、あの、その、ごめんね」


「なんで渚が謝ってんのよ。というか明人がはっきり言わないせいで困惑してんじゃない渚!」


「え、言うことじゃないだろ!」


ヒートアップする2名。

渚は困惑していた。


「え?え?え?」


「えーっとね、渚多分知らなかったと思うんだけど、私昔こいつに告白してるのよ。で、振られてるわけ」


「あ、え?そう、そうだったんだ…ごめん、なさい。知らなくって。不用意に言っちゃったの、ほんとに、ごめんね」


「だから気にしなくていいってば。私にとって見れば既に終わった男だし?ねえ?」


「ねえって同意求められても困るんだが…」


「はっきりしなさいよ。なんか私が無理してるみたいじゃない」


「…小学生時代、渚がここを発った後にな。稜子に関しては。だからその恋愛とか、もう発展のしようが無いっていうか…」


「そう、だったんだ」


「まあ、なんだかんだ付き合いはあるから、別に嫌いじゃないわよ」


「いまだに色々助けてくれるしな。これで嫌われてたら泣く」


「嫌ってたらそもそもここに入れないわよ。出禁よ出禁」


「へぇ…そんなことがあってもそんなに仲良くいられるんだ…いいなぁ」


「まあ良いかって言われれば良いとは言えないけどね。おかげさまで延々と引っ付かれる私の身にもなってよね。事あるごとに私のところ来るんだから」


「そんな引っ付いてないだろ?」


「え、引っ付いてるよ?」


「え、マジ?そう見える?」


「だって、そういう風にしか見えなかったもん」


「だから言ったでしょうが」


「え、普通だと思ってた…」


「あ、そっか。そうだったね」


「なんか察されてる!」


「ごめんね、私が早とちりしたよ」


「気にしないで渚。だいたいこれが悪いわ」


「これって、え、そんな風に見えてたの?俺ら?」


「だって、好きでもない女の子のところに毎日行くのは、正直やばいと思う」


「ま、マジか。付き合い長すぎてずっと普通だと思ってたぞ…」


「稜子ちゃんも稜子ちゃんで受け入れてたから、2人ともそういう感じなのかなって」


「勘弁願うわね。昔はともかく、今はそういう関係になりたいとか思ったことも無いわよ」


「そうだったんだ…」


「ほんとに渚は気にしないで。別に今の関係が嫌なわけじゃ無いし。偶に鬱陶しいけど。ほんとにもう終わった話なの」


「そっかぁ。でもそうなんだね。そういう関係もあるのかぁ」


「自分でも変だとは思うんだけどね。まあ居心地悪いわけじゃ無いからずるずると。まあそこの阿保は普通だと思ってたみたいだけど」


「え、じゃあ、稜子との付き合いやめた方がいい…?」


「何を今更。余計なことしようとしないで」


「え、あ、そういうことが言いたかったわけじゃ無いんです!ほんとにほんとにごめんなさい!」


「ほら!どうすんのよ!無駄に渚が頭下げる羽目になってるじゃない!」


「な、渚。ほんとに、気にしないでくれ!俺がおかしかっただけだから!な!」


「ごめんねぇ…」


気まずい空気が流れる。

が、何か火が付いたのか、稜子が声を荒げる。


「だいたい、そもそも女子人気高いのに相変わらず頼みは受けちゃうわ、一緒に遊んじゃうわ、私の件で言えば家まで来ちゃうしっ!なんなら今も来るし!?ほんとにあんた付き合い方!分かってる!?」


「稜子ちゃん!落ち着いて!ほんとに、ほんとにごめん。私が悪かったよ」


「あぁああああ…はぁ…。明人っ!ほんとに全く!…ごめん、なんか話してたらムカついたからちょっと頭冷やしてくるわ!」


ヒートアップした稜子が職務放棄して奥へと引っ込む。

まあ客も他にいないので特に問題ないだろう。


「神谷君、ごめんね。私のせいで」


「いや、気にすんな。そもそも昔の俺がやらかしたのが悪いんだこれ。言われ慣れてるから問題ない」


「でもこうなったのは私が空気読めなかったせいだから。ほんとにすみません」


「いやほんと、そんな謝られるとこっちまで申し訳なくなるから。大丈夫、ほんと」


「うん、でも私は反省したよ」


「渚知らなかったから。仕方ないから」


「うん…」


「稜子もああ言ってるけど、すぐに機嫌戻してくれるから大丈夫だって。付き合いだけは無駄に長いから分かる」


「うん…」


「渚…そんな沈まなくても、渚何も悪くないぞ?」


「違うの、こんな風にしちゃったのがすごく、申し訳なくって…」


「稜子と2人だとよくなるぞ。渚のせいじゃないって。落ち込むなって」


「ありがとう…」


さっき以上に気まずい。

渚のテンションが駄々下がっている。


「あ、そ、そういえば、この間大丈夫だったか?」


「え、この間?」


「ほら、俺呼ばれた日」


「ああ!うん、神谷君が来てくれたおかげですごく助かったよ」


「そうかならよかった。またヤバくなったら呼んでくれよ。行けるなら行くからさ」


「うん。ありがとう。あ、そうだったっ!あのね、神谷君にその話で話があったの」


明人と稜子の地雷を踏みぬいたせいで完全に忘れていたが、明人に言わないといけなかったことがあるのである。


「俺に話?何だ?」


「この間神谷君手伝ってくれたでしょ。それで私も咲希姉もすごく助かって、それでまたあんな風に混んだ時に神谷君にまた来て欲しいんだけど、そのことで色々相談したかったの」


「んー?俺は時間さえ合えば手伝うぞ?」


「うん、うん。それで神谷君は何時だったら大丈夫かな?」


「学校ある日は…早くても5時からとかか?無い日ならだいたい大丈夫だな。基本暇してるから」


「部活とか大丈夫なの?」


「最悪俺はなんとでもなるから大丈夫だ!」


「え、あ、はい。ああ、そう、で咲希姉と話して、お給料払うから神谷君に是非混んでる日手伝いに来て欲しいんだけど大丈夫かな」


「え?給料!?そんな悪いって」


「ううん、ほんとに、それくらいしないと悪いぐらい手伝ってもらったし、それに、混んでない日も実は料理教えて欲しいなって思って、それも含めてかな」


「うーん…」


悩み顔になる明人。

どっちかというと給料出るとこに悩んでるようである。

ボランティア精神に溢れている。


「行きゃいいでしょ。暇なんだし」


「うお!」


「うおじゃないわよ。何よその顔」


「いや何時の間に」


「今。ああ、渚ごめんね。頭カッとなっちゃって。驚かせたでしょ。明人と2人だとよくこんな感じだからつい…」


「稜子ちゃん!ほんとに、私ももう言わないから!」


手をつないで謝りに入る渚。

全身全霊の謝罪である。


「はいはい、分かったって。私も気にしてないから渚も気にしない。おっけー?」


「わかった」


「で、なんだっけ?雇われ兵?」


「兵って、いや、まあ雇われにはなるんだろうけどさ」


「いいじゃない。そうすればここに来るのも減るでしょ。さっきも言ったけど、他の女の子にあんたがここによく来ることバレると面倒くさいから丁度いいわ。どーせあんた本買わないし」


「いや、そうだけど、渚いいの、俺で」


「むしろ来てくれるならありがたいです」


「じゃあ、俺は全然、大丈夫だって言っといてくれ咲希さんにも」


「うん分かった。本当にありがとう。詳しいことはまたちゃんと話し合った後に送るね」


「ああ」


仮契約を結ぶ2人であった。



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