準備
予約投稿ミスです。
大変お待たせしました。
「じゃあ、とりあえずカニの下準備するか」
「うん」
民宿「しろすな」1階キッチン。
やっとの思いで運び込んだカニを今からさばくところである。
担当メインは明人であるが。
「そういや渚は結局できるようになったのか?」
「残念ながらあれから一回もやってないからできないかな」
「そうか。じゃあ今日も一緒にやってくか」
「うん、お願いします」
ということで実際にカニを剥いていくことにした2名。
「あ、前回もなんかこのタイミングで聞いた気がしたけど、今日は何作るんだ?」
「この間作ったもの作るつもりだよ」
「じゃあ、剥き方とかはこの前と同じでいいか。じゃ、渚こっちのカニ担当で」
「分かった」
「とりあえずゆっくりでいいから。ペース間に合わなさそうだったら手伝うから安心してやってくれ」
「何から何までありがとう。頑張るね」
「おう。じゃあしばらくカニ剥きだな!」
というわけでしばらく黙々とカニを解体していく2人であった。
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「全然、切れない。神谷君なんか、裏技とかあるの?」
「裏技ってか俺の場合割と力技っていうか…」
そう言いながらカニの解体を進める明人。
手慣れているだけあってサクサク進む。
「私も力技でやってるのに、なんでそんなに剥き方に差が出るんだろう」
「まあその辺は慣れだって。最初は俺も似たようなもんだったし。ああ、でもあえて言うなら、なんというかハサミこうじゃなくてこう入れる感じ」
手で、ジェスチャーする明人。
それを見て頷く渚。
「ふんふん」
「まあ結局力で剥くことにはなるけど、俺はそっちのが綺麗に剥ける気がする」
「成程、こうかな」
実際に試してみる渚。
「ああ、そうそう、そんな感じ。で、そのままこう」
さらっと渚の手をつかんで誘導する明人。
「深すぎじゃない?」
「大丈夫、なんとかなる」
「私初めてなんだけど大丈夫かな」
「大丈夫大丈夫。最悪失敗したら、他の料理の方に回しちゃえばいいし」
「うーん、じゃいっかぁ」
「とりあえず思い切りよく」
「分かった」
言われた通りにやったら綺麗にできた。
カニ剥きの男流石である。
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「はぁ、できたぁ」
「お疲れ。いや、2回目の割には結構手慣れたんじゃないか?」
ようやく料理を終えて、一息つく2人。
時間的にはまだ余裕だが、それでも1人ではやはり厳しかったのが容易に想像つく。
「そう言ってもらえると嬉しいかな。でもやっぱり神谷君がいないと全然分からないね」
「やってるとそのうち体に染み込むぜ」
「神谷君の体はスープの具かなんかなの?」
「染み込み具合で言えば、おでんの大根みたいな状態」
「なんかいまいち分かんない例えだね」
「スープの具もよく分からんぞ」
お互いによく分からない例えを繰り出す。
「適当に言っただけだから。気にしたら負け」
「そうか?…うーん、おでんの大根の染み方的には美味い例えだと思ったんだがな」
悩み顔になる明人。
上手に例えたつもりだったようである。
「私おでん嫌いだから」
「あ、そういう理由。それは知らなかった。すまない」
おでん嫌い故であった。
この方向性から理解されないのは想定外である。
「分かればいいんです。分かれば」
「へー、渚意外と好き嫌いあるんだな」
「じゃなきゃ、料理当番なんてしてないよ」
「あ、もしかして料理当番やってる理由って…」
「私が嫌いなものを食べないため」
「やっぱりかよ!」
「いいじゃんだって美味しい物食べたいんだもん!」
渚が料理当番になっている理由は、当然咲希と渚のうち、料理がまともにできるのが渚しかいないというのが大きいのだが、もう一つの理由がこれである。
嫌いなものを食べたくないなら、自分が作ればいいじゃないの精神である。
「え、ちなみに渚何が好きなの?」
「ワンプレート料理」
「幅広いな」
「でも実際、オムライスでしょ、カレーライスでしょ、ドリアでしょ、親子丼でしょ、かつ丼でしょ、とりあえず一皿に収まるものが好き」
「海鮮丼とかは?」
「嫌い」
「例外思いっきりあるじゃないか」
「だって嫌いなものいっぱいあるんだもん」
ワンプレートは好きだが、すべて好きとは言ってない。
「逆に何が嫌いなんだ?」
「魚でしょ、貝でしょ、野菜でしょ、きのこでしょ、あと煮つけ」
物凄い大雑把な回答が返ってくる。
が、あながち間違いは言っていない。
ほんとに嫌いである。
「こっちはもっと幅広いな!というか魚介類駄目なのか?ここに住んでるのに」
「別に住みたくて住んでるわけじゃ無いし」
「あれ、そうなのか。てっきり帰ってきたからここ好きなのかと思ってた」
「嫌いじゃないけど、別に海の食べ物が好きなわけじゃ無い」
名前渚なのに詐欺である。
まあ本人も気づかないうちにここに居た上に、この名前だったので文句言われる筋合いは無いが。
「…スーパー、生命線なのか」
「うん」
「苦労してんだな…」
「これでも栄養面は一応気にしてるんだよ」
「魚駄目、野菜駄目…えーっとどうやって?」
「味付けで」
「あ、そう来るのか」
「それしかないよね」
「まあ、直接が駄目ならそれしかないよなそりゃ。突っ込みどころしかない気がするけど」
「私に突っ込んだらキリがないと思うよ?」
「…ああ、まあ確かに。昔からそうだったな」
遠い目になる明人。
何か渚との古い記憶を思い出しているのだろう。
どうやら昔から突っ込みどころ多数だったようである。
「その言われ方はなんか腹立つ」
「ごめんて。悪気があったわけじゃ無いから」
「ああはいはい。分かった分かった。お風呂入ってきなよ。学校から帰ってきたままなんでしょ?」
「凄いスルーされた気がする。まあ、そうなんだけど。時間的に直接来たからな」
明人は学校帰り直で「しろすな」まで来ている。
なので当然体は汚れている。
まあ手洗いはちゃんとしたので料理に支障は無いが。
「料理も作って汗もかいたと思うし、私今からご飯作るからその間に入ってくるといいんじゃない?あれだったらタオルとか貸してあげるよ」
「そっちは手伝わなくていいのか?」
「うん、いつも通りだから全然大丈夫」
「じゃあ、そこはお言葉に甘えさせてもらう。ありがたく入らせてもらうよ。正直体の汚れが気持ち悪いんだ」
「うん、でも8時前には出てきてね。女湯になるよ」
「あ、それはやばいな。厳守するよ」
当然今回は女性客もいるため、そこを過ぎると明人の社会性が死ぬ。
絶対に出ないといけない。
「あ、で、タオルいる?」
「借りていい?」
「お客さんに出すやつあるからそれ貸してあげるよ」
「おっけ、手早く入ってくるわ」
慌てて風呂に向かう明人であった。




