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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
5/177

風呂掃除

「あーえーっとあとはー」


こちら「しろすな」内部お風呂場前。

要するに脱衣所。

そこに咲希の姿があった。

ただ普段正直だらだらとしている姿とはうってかわってせわしなくバタバタしている。


「中はやってもらってる。ここも必要なものはだいたいセット済み。脱衣籠とドライヤーあればいいよね?」


絶賛お掃除中である。

というのも普段なら入る前くらいにゆっくりやるし、こんな脱衣所までがっつり掃除とか絶対しない。

やるからには理由がある。

客が来ちゃったという理由が。


「あとはー」


特に何をするでもなくぐるぐると脱衣所を回る咲希。

この行動は何かすることを探しているときの行動である。


「あ、掃き掃除まだだわ。えーっと箒箒…」


近くの棚をごそごそし始める咲希。

どうやら咲希は脱衣所の掃除に手一杯らしい。

一応扇風機回してはいるのだが、それでも動き回っているせいか流れる汗を手で拭いつつの作業である。

ぶっちゃけ汗だくである。


「あー!掃除じゃなくて今すぐ風呂入りてえ!」


思わず叫ぶ咲希。

だが残念ながら先ほど渚が、風呂の時間を男8時までに設定したため、入れるのはそれ以降、まだまだ先である。

叶わない願いをぶつくさ言いながら、それでも作業はこなしていく。

そうして掃き掃除等々済ませていると、何故か脱衣籠に一つだけ服が入った状態で放置されていることを確認する。

だが、それに対して咲希は見向きもしない。

それもそのはず、それは渚の今日着てた服であるので。


「えーっと…まあいいや、とりあえず一旦こっちに置いといて」


渚の服が入った籠をいったん別の場所に置いてから掃き掃除を進める咲希。

籠に服があるということは、渚が着替えた証であるが、じゃあ渚どこだよという話である。

ただ、今やっていることは風呂掃除。

そう、ある意味脱衣所はサブである。

となれば本命は一つであり、ついでに渚もそこである。

脱衣所から扉一枚がらりと横スライドさせて中を見てみれば、一般ご家庭サイズと比べるとかなり広い風呂場、及び浴槽で格闘している渚の姿が見えるはずである。


「水場やだなぁ…」


そう、渚の現在の掃除担当場所は中。

風呂場そのものである。

ちなみに風呂場のサイズは軽い銭湯並み。

先ほどまでは咲希も手伝っていたが、脱衣所の掃除もしないといけないことを思い出したため、あえなくクソ広い空間に一人取り残された渚である。


「あんまり、汚れてないのが救いだけど…やっぱやだなぁ…」


普段風呂場の掃除を担当しているのは咲希である。

と言うのも本人が何度も口にしている通り、渚は水場が嫌いである。

洗い物とかはやるが、風呂場は完全に咲希にぶん投げてきた。

じゃあ、咲希が今回も中担当すりゃいいじゃないかと言う話になりそうだが、今の渚の格好が問題である。


「まさかこれを着る羽目になるとは…いや自分で着たんだけど」


そう、水着。スタイルにしてみれば競泳水着のそれ。

普段のスタイルと大して変わらない咲希と違って、服が濡れることを嫌がった渚は、自室にあった唯一の濡れても大丈夫な服足りえるこれを選んだ。

というか本人曰く、普段着てる服とかを濡らしたくないという方が大きかったようだ。

一応着替え自体は目の前の脱衣所で行ったので、廊下は普通の服で来た。


「…なんか、体にぴっちりしてるから変な感じなんだよなぁ」


忘れないように言及しておくと、一応彼女は彼である。

体組織は120%女性のそれだが、2か月そこらで自意識が完全に男から女になるかと言われれば土台無理な話。

つまり女性の競泳水着なんぞ慣れてるはずが無いのである。


「ま、まあ誰にも見せないからいいか。今は女の子、今は女の子…」


じゃあそんなの着れてるなんて羞恥心を無限の彼方に吹き飛ばしたのかと言えばこれも違う。

というか正直すっげえ恥ずかしいというのが内情である。

今は誰も見てる人がいないからぎりぎりいけてるだけである。

なおだったら着替えて脱衣所行けよという話になりそうだが、基本効率優先の咲希に一撃で破棄された。

もう水着に着替えた時点で中担当なのである。

自己暗示めいたことを呟いているのは羞恥の現れか。

一方、脱衣所の方の掃除をだいたい終わらせて一息ついた咲希の下に一人の人影が現れた。


「よし、まあこんなもんか?」


「あのー」


「ふぁ!へっ!あ、はい!なんでしょう!」


ちらと暖簾から顔をのぞかせるのは、おじさんである。

厳密にはお客さんである。

初客である。


「いやーあの、さっきお風呂の時間聞いたんですけども」


「ええ」


「いや、いつからいいのかを聞きそびれてしまってですね」


「あ、えっと、5時くらいからになりますね。すいません、今まだ掃除中なんです」


大急ぎで掃除してたのはこのせいである。

8時までに入っといてと言ったが、食事が7時。

ということはその前に実質風呂を済まさないといけないことになった男性客。

が、風呂掃除してないので入れませんでしたではたぶん許されないだろう。


「咲希姉こっち終わったよー。…あ」


そんな話をしていたら風呂場のスライドドアを横にスライドして渚が出かかって、すぐに首だけ出した状態になった。

目線の先の咲希の奥にお客を確認したからだろう。

本人的にも今の格好でお客の前には出たくないらしい。


「あ、さっきはどうも」


「あ、はいっ。えっとあの、まだ掃除中なので、えっと」


「ああはい。5時過ぎからと今彼女から聞いたので、その時にまた来ますね」


僅かに一言会話しただけだが、若干冷や汗のようなものが渚から出ているのは偏にその格好のせいだろう。

一応スライドドアは不透明なすりガラスなので、渚がどんな格好なのかは分かるまい。

仮にばれたら多分渚の顔が茹蛸になること請け合いである。


「すいません、わざわざ」


「いえ、大丈夫です。作業中のところ、お邪魔しました」


そういうとおじさんは暖簾から首を引っ込めて出て行った。

部屋の中にほっとした空気が流れる。


「あかん、びっくりした」


「ごめん、そういえばさっきいつからなのかを言うの忘れてた」


「いや、いい。唐突だったし、ほか全部伝えてくれただけ助かってるから…」


「あ、で、お風呂場の中はオッケーだよ。それ伝えたくて」


「あい分かった。とりあえず脱衣所も準備完了。問題ない」


「じゃあとりあえず一旦休憩でいいかな」


「そうだな、お前は夕飯の用意あるかもしれんけど」


「流石に7時予定だから、まだ大丈夫」


「じゃあ俺はとりあえず食事するとこの掃除してくる」


「そんな汚れてたっけ?」


「一応、一応な」


「じゃあ私も」


そこでちらと渚の姿を見る咲希。


「とりあえず着替えて」


「あい」


「スク水平気なのね」


「平気って?」


「いや、着るの」


「別に平気なわけじゃないけど、咲希姉みたいに水場作業できそうな服がないから仕方なく着てるんですっ」


そういう咲希はいつものタンクトップスタイルである。

ただ、下だけは普段より短く、生足露出が普段より多い。

別に見せたくて見せてるわけではない。

水場の作業を考えての格好である。

まあ咲希は別に廊下もこの格好で歩いてたが。


「あと、ほら、誰かに見せるわけじゃないから」


「いや見せるわけじゃないってそういう問題か?」


「他に何か問題が?」


「え?自意識の問題?」


「え?」


「え?」


「だって今の私は見た目はJKですし、着てても問題なくない?」


「いいのか、男としての自意識は」


「まあそうだけど、今は女なので男物着るのもなあと、あとボーイッシュな格好はなんか負けた気がする」


「お前は何と戦っているんだ」


「たぶんなんかそういうやつ。よく分かんないけど」


なお咲希にはこんな風に言われてるが、普段着くらいならともかく、水着はまだ早かったらしい。

自己暗示が必須の時点で適応できてない。


「逆に私は咲希姉が女っぽい格好したとこ見たことないのに違和感。別に嫌じゃないんでしょ?」


「まあ、別に、そんなに嫌だとは思わんけども」


「嫌じゃないなら可愛い格好してみたら?」


「でも今のスタイル楽すぎて」


「要するにめんどくさいと」


「分かっておるではないか」


「可愛い格好してみてよ」


「何そのリクエスト」


「え、見たいだけ」


「なんじゃそりゃ。…まあ別にやってもいいけど」


「言質とった。やってよ。絶対やってよ」


「あ、でも今日はやらんぞ」


「まあ別に今日じゃなくていいから。むしろお客さん帰った後で全然いいからやって」


「あと俺はコーデ無理だから」


「その辺は私に任せろ」


「男忘れてない?大丈夫?」


普段着は完全に女子に染まっている渚であった。

なお本人はアバター着せ替え感覚である。

水着はダメだったようだが。


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― 新着の感想 ―
[一言] ”日付と時間を伝えるのを完全に忘れて” 初客の、予約になっていない…。せめて日付だけでも確実に。
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