明日はカニ
民宿「しろすな」2階。
咲希の部屋にて。
部屋の中で自分のパソコンに向かう咲希。
「よしまあこんなもんか?」
カタカタとパソコンでいじっているのはここのブログ及び、ホームページ。
書くことねえと毎日言いながら、渚になんかないと聞きながら一応更新自体はしている。
多少なりとも効果はあったのだろうか。
一時期完全に途絶えていた客足も、少しは増えたようである、
と、そんなことやっていたらピコンとスマホに通知が届いた。
「えーっと…俺に連絡飛ばす人は…」
そもそもあんまり外への人付き合いが無い咲希なので、連絡を飛ばしてくる人物は限られてくる。
連絡先を交換しているのがそもそも渚と大月兄妹くらいしかいない。
そして同じ家にいるにもかかわらず渚がスマホに直接連絡を入れることは、外に出ている時以外基本無いので、必然的に大月兄妹のどちらかになるのだろう。
「あれ、雅彦の兄さん?」
通知の発信者を見てみれば雅彦であった。
何か連絡されるようなことあったっけと考える咲希。
一応全く連絡が無いわけではなく、このブログ周りのことで相談とかはしてる。
なお雅彦の兄さん呼びはこの家限定の呼び方である。
『どうかしましたか?』
今ちょっといいですかと言われたのでとりあえずそう返す。
なかなか雅彦から連絡が来ることも珍しい。
咲希の方から聞きたいことがあって連絡したことは数度あったが。
『一つ気になったことがあって。民宿のことで』
『なんでしょうか?』
時々ここの経営助言とかはもらっているのでこういうやり取りも初めてではない。
民宿をいきなりやることになったため、アドバイスとかもらえるのはむしろありがたい。
今回もその手の話のようである。
『冬って何か特別なプランとか考えてるのかなって思いまして』
『現状何も無いですね。そもそもプラン1つしかありませんしね…何かネタがありますか?』
民宿やってるわけだが、現状存在している宿泊プランは1種類。
現状はそれで問題なさそうだが、経営難に陥る前には何か考えておいた方がよいのかもしれない。
現状収入源はここだけなので。
そして冬だと海に入るわけにもいかないし、特別なプランと言っても何があるんだと返信しながら思う咲希。
実際問題何かと言われても思いつかない。
海辺で黄昏るくらいはできるかもしれないが。
『いや、周辺の民宿のパクリなんですけど』
『大丈夫ですたぶん。それに周辺よく知らないのでむしろ教えてください』
これは事実である。
そもそも周囲の認識が昔ここに住んでいた2人が地元に帰ってきたとなっているとはいえど、あくまでもそれは周囲の認識の話。
咲希と渚からすればまだ来て数か月である。
しかも渚はともかく、咲希はそもそも外にあまり出ない。
全く周辺と付き合いが無いわけではないものの、そもそもあんまり会話することもないので情報とか入ってくるわけないのである。
『いや、その辺冬の季節って有名な食材がありまして』
『ああ、食材。何なんです?』
なるほど飯かと思う咲希。
料理周りは完全に渚に一任しているので忘れていたが、そういうとこに凝るならアピールポイントにはなりえるのだろう。
『カニですね』
『カニ。あれですか?あのはさみあるやつ』
パッと頭の中で単語と実際の物が結びつかなかったので聞き返す咲希。
あんまり身近な食べ物な感じはしない咲希。
少なくともそんなに回数食べたことは無い。
多分両手で数えられる範囲である。
『そうあれです。割と周りの民宿出してるよなーとか思いまして、咲希さんのところはやるのかなって思いまして』
『全く無かったですね。え、周辺そんなにやってるんですか?』
『自分の知る限りでは大体どこもやってるみたいですよ』
『そんなに凄いんだこの辺…』
咲希の中の勝手すぎるカニのイメージはなんというか高級品である。
なんかの集まりで年に1回くらい食べれればいいとかそんな感じであるため、提供する側に回るとかそういう発想は一切なかった。
まあそもそもそんなこの辺がカニラッシュしてるとか知らなかったのが一番大きいが。
『なんかわざわざそれのためだけに泊まりに来る人とかもいるみたいですよ』
『ものすごい有名なんですね』
『みたいです。普段はともかく、夏場と冬場は結構人来てる感じありますしね』
そういう時期になるとうちも明らかに客足増えますしねと付け加える雅彦。
まあ客が増えれば酒の消費も増えるのだろう。
当然売れ行きも上々というわけである。
『じゃあ、やらないと人来ないってことになっちゃいそうですね。そんなに周りがやってるなら』
『まあ、住んでる自分が言うのもなんですけど、冬場はやれること少ないですからねえ。娯楽施設とかほとんどないですから』
『なおさらこっちがアピールしとかないと人来ないってことですよね。ちょっと渚に相談ですかね』
『料理周りは渚ちゃんですもんね』
『私に料理スキルはありませんので』
『やらないんです?』
『現状は』
現状どころかやる気は無い。
多分改善するとしたら何かしらの理由で渚がいなくなったときであろう。
渚いるしいいやになってる感じはある。
『そういえば、カニの処理渚ちゃんできるんですかね?あ、仮にやるとしたらですけど』
『え、分かんない』
咲希は渚の料理の腕は信頼はしている。
信頼はしているがどこまでやれるのか具体的にはよく分かってない。
『鮭は出ますけど、他の海産物見た記憶ほとんど無いんで…どうなんだろ駄目かな』
『要相談ですね』
『ほんとに』
いろんな意味で、である。
そもそも渚は海産物全般あまり好きではない。
今回のこれも、食事の主導権が渚にある以上、渚が嫌と言ったらそれまでであるので。
流石にやってもらっている以上、咲希もここは強くは言えない。
『すいません、突然でしたけど、参考くらいにはなりましたかね?』
『大助かりです。いつもありがとうございます』
『いえいえ、今後ともごひいきに』
『こちらこそ』
そう連絡を終える咲希。
「カニねぇ…一回聞いてみないといかんな。そんな安い買い物でもないだろうしね。知らんけど」
頭の中でカニが回る咲希であった。




