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看板娘始めました  作者: 暗根
本編
44/177

出し物

「じゃー俺たちは教室戻るわ。付き合ってくれてありがとな」


「こちらこそ、ありがとー。そういえば、2人のところは何やってるの?」


「んー喫茶店かな」


「喫茶店かぁ。場所は?」


「105教室、ここの4階」


「分かった、じゃあまた後で行くね」


「ええ、じゃあまたね」


というわけで稜子及び啓介が、自分たちのシフトのため教室に帰還していった。

後に残ったのは明人と渚の2人である。


「さて、神谷君、どこ行こっか?」


「行ってみたいのはそりゃ稜子のとこだけど…流石にまだ早すぎるよな」


「流石に今行っても会え無さそうだよね。とりあえず他のとこ回ってから行ってみようか」


「そうだな。…それはそうと、渚、腹減らね?」


「うーん、あんまり?お腹すいた?」


「正直腹減ったかなって」


「じゃあ、何か食べに行こー」


というわけで、何か食べれそうなとこを探す2名。

こっちの学校は校内でもそういうの大丈夫らしく、色々展開されている。


「えー…カレーに、焼きそば、うどん、なんだかレトルトとか簡単に作れそうなものばっかだね」


「流石に学校でそこまで手がこんだもの作れないんじゃないか」


「でも、こういうところってさ、異常に高いと思うんだよね。コスパ悪くない?」


「まーそりゃそうだけど、せっかくだし。あ、そういやこの間奢ってもらったから今日は奢ろうか?」


「え、別にいいよ。悪いし」


「気にするなって。なんか食べたいものあったら言ってくれよ」


「んーーーーーーーあ、あのアイス食べたい」


「よし、あれだな」


指さした先にあるのは微妙な列。

渚が選んだ理由は値段か。


「ほい、これ」


「ありがとう」


「いいって、1個でよかった?」


「うん全然大丈夫だよ。ありがとう」


そういう明人は明人でアイスを持っている。

自分も食う気満々である。


「そういえば、神谷君は何味なの?」


「ん、チョコ味」


「美味しそう。ちょっともらってもいいかな?代わりに私のもあげるから」


「いいぞ?」


「じゃあはい、これあげるよ」


そういうと、スプーンに一掬いアイスを乗せて、明人の口元に突き出した。


「っ!」


「ん、まだ口にアイスある?」


「あ、いや大丈夫だ」


「早くしないと溶けちゃうよ?」


「あ、ああ」


そういうと目の前のスプーンアイスを頬張る明人。

若干顔が赤い。


「じゃあそっちのも頂戴」


「ああ…」


なんか微妙に放心した感じでカップごと渚に突き出した。


「ありがとー」


そのままスプーンを突っ込んで明人のアイスを一口食べる渚。


「んーチョコもやっぱいいねえ」


「そ、そうか?」


「うん、美味しいと思うよ?でも、アイスだけじゃ足りないよね、ほかに何か食べる?」


「あっ、そうだな。えっと…じゃあ、あの辺で」


というわけでしばらく食べ歩いた2名であった。

まあほとんど明人が食ってばっかだが。


□□□□□□


「ふーこれでしばらく持つな」


「もう今から稜子ちゃんたちのところ行くんだよ?なんでいっぱい食べちゃったの?」


「デザートなら別腹でなんとか」


「むしろ別腹とかあったんだ神谷君」


「いや、そりゃあるよ。人間だし」


「ごめん、ちょっと何言ってるか分からない。私が言ってるのは、神谷君が女の子っぽくてびっくりしてるってことだよ」


「え、そうか?まあ、基本嫌いなもの無いけどさ」


「うぅ、なんか伝わってない気がするけどまあいいや」


明人は女子がデザートを好むことを分かっていないようである。


「んー稜子ちゃんたちのところ行くのもうちょっと後にする?ちょっとはお腹空いてた方がいいよね」


「確かにそうだな。どこか行きたい場所とかあるか?」


「うん。さっきね、パンフレットで見つけたんだけど、ここに占いできる場所があるから行ってみたい」


「占い?渚そういうの好きなの?」


「うん、すごい好き」


これはもともとである。

転生前から変わってない。


「よし、じゃあそこ行ってみるか」


というわけでしばらく歩いて目的地。

占いの館的な場所である。


「うわぁ。布の無駄遣いぃ…」


「まあ、出し物だから…」


「でも凄いねえ」


「雰囲気はまああるな」


「とりあえず行ってみよっか」


というわけで中に入る2人。

待ってた人はほぼ0だったので早いもんである。


「人気ないのかな」


「言うなって…」


ぼそりぼそりとつぶやく2名。

実際中も閑散としている。

人気無いらしい。


「占いの館へようこそ!」


「うお!」


「こ、こんにちは」


なにやらテンション高めなお兄さんが出現する。

占い師というかマジシャンみたいである。


「なんか、手から鳩出しそう…」


「…トランプ持たせた方が似合ってるよな」


「うん…」


ぼそぼそ会話する2名。

そんな2人をスルーしてるのか聞こえてないのか、そのまま進行するお兄さん1名。


「では、そこの席に座りたまえ。迷える子羊の運命を私が占ってしんぜよう」


「お願い…します」


「よ、よろしく」


すげえぎこちない。

相手のテンションについていけてない。


「では何を占ってほしいのかな?」


「えーっと…何がありますか?」


「金運、仕事運、恋愛運、あああと相性診断だな」


「うーん…お兄さんのお勧めはなんですか?」


「相性診断」


「じゃあそれで、お願いします」


「では、お二人の生年月日を…」


どこからか本を取り出して構える目の前のお兄さん。


「えっと、19…あ、えっと…」


「え、19?」


「あ、えっと、2003年の8月10日です」


「あ、だよなぁ。びっくりした。あ、俺は2003年の9月27日」


「ふむふむ…」


で、めっちゃページに目を通しながら話し始める。


「お二人の相性の良さは…80%ですな!おお、これは高い!」


「へー高いんだって」


「いや俺に言われてもな…」


「あなたは…えー…大人しそうに思われがちなようですな。ただ。実際は意思が強く、物事に一途なようでいらっしゃる」


渚を指しながらそう話す占い師。


「大人しそうに見えた?」


「10年前、初めて会った時はまあ」


「え、逆に今は何なの!?ねえ!?」


「結構ぐいぐい来るなって感じ」


「成程ぉ?まあいいや」


「あなたの方は…非常に行動的ですが、一途に物事に取り組むのが苦手なご様子」


明人の方を指しながらそう語る占い師。


「逆にそう見えるか?」


「うん、行動的に見えると思うよ?飽き性だったりするの?」


「えー…そうでもないと思うんだけどなぁ…」


「ふんふんふん」


「つまりお二人は考え方がお互いによく似ているようですな」


「へー成程ねー」


「…似てるんだ」


「ま、所詮占いだし、そんなに気にすることないんじゃない?」


「そ、そうだな」


占いやってもらってる目の前でそういう渚。

空気読め。


□□□□□□


「よし、じゃあ行くか、稜子たちのとこ」


「おー」


ということでなんだかんだ時間を消費した2名はそのまま稜子たちのところに行くことに決めたようである。


「えーっと、105だっけ?」


「うん、そう言ってたよ」


「105…ここか」


明らかに並んでる列が見える。


「うわぁ、いっぱい並んでるねぇ」


「さっきとえらい差だな」


「なんでこんなに差がついちゃうんだろうね」


「さあ…」


とりあえず並んでいる列の最後尾に並ぶ2名。


「なんかさ、男の子が多いね」


「確かに、なんかあるのか?」


「なんだっけここ」


「えー…」


パンフを見直す明人。


「…メイド喫茶」


「ああ、メイド喫茶。成程。納得」


「分かりやすすぎる…」


「稜子ちゃんもちゃんと言ってくれればよかったのに」


「恥ずかしかったんじゃないのか」


「そうだろうね」


そうこうしているうちに列が進んでいく。

割とすぐに明人と渚の番が来た。


「2人はどこにいるかな。いるかな?」


「流石にいると思うが…啓介は裏方とかか?」


「メイド服着てたら面白そうなんだけどな」


「確実に噴き出すそれ」


「意外に似合ってるかもよ?」


「あの肩幅で?ナイナイ」


「分かってないなあ。似合ってないから似合ってるんじゃん」


「渚、何言ってるんだ?」


「え?そう思っただけ」


別に渚はBL趣味ではない。

念のため。

なんかそういう風に思っただけである。

というわけで入店。


「「「おかえりなさいませ!ご主人様!お嬢様!」」」


「おおおーー。すごいね!メイド喫茶だよ!」


「うわぁ…初めてこういうの入った…」


「すごいねえ!男の子も女の子もみんなメイドさんだぁ」


「うわほんとだ」


最初のテンプレセリフのところで野太いのが入ったのはそういうことである。

男女問わず全員メイド服であった。


「2人は、2人はどこかな」


「いっぱいいすぎて分かんねえ…」


「あ、啓介君みーっけ」


そういうと近づく渚。

啓介がたじろぐ。


「ちょ、渚」


「来たよー啓介君、似合ってるね」


「嬉しくねー!うわ、これ思った以上に恥ずかしっ」


「いや、むしろさあ、似合って無さすぎて似合ってるっていうか、格好いいと思うんだ逆に!」


べしべし啓介の腕を叩く渚。

啓介は顔を赤らめて横を向いている。


「まあ、その、なんだ、まあ、いいんじゃないのか」


「めっちゃ無理矢理言ってるだろそれ!」


「無理があるだろ!」


「うるせえ分かってるわ!」


啓介はガタイが良い。

まあそりゃ無理がある。

無理を通してしまったが。


「よしよし、1人は見つかった。さて、稜子ちゃんはどこだ!」


「ん、稜子探してんの?」


「うん。だって啓介君がいるのに稜子ちゃんがいないわけないでしょ?」


「ああ。まあいるが…ああ、じゃあそこ座って待っててくれよ。連れてくる」


というわけで席に座る2名。

明人は雰囲気が落ち着かないのかきょろきょろしている。


「どしたの神谷君きょろきょろして」


「いや…すっごいピンクだなと」


「確かに、すっごいピンクだね」


「慣れなさすぎて違和感がやばい」


「まあ確かに似合わないよね神谷君。むしろ、慣れてたらちょっと引くかも」


「…これは良かった、のか?」


「さあ、良かったんじゃない?」


その辺で2人の席に1名メイドが接近した。


「ん、え、あ、稜子!?」


「え、あ!可愛い!」


「い、いらっしゃいませ…」


「すごーい!髪がいつもと違ってふわふわ系だあ!しかも、いつもより化粧が気合入ってる!可愛い!」


「あ、ありがと。でも、メイド服よりそっちに目が行くのね?」


「メイド服は誰が着ても可愛いんだよ!でも稜子ちゃんがいつもより可愛いのはそれだけじゃ表せないから!」


「な、なんか照れるわね…」


「とりあえず可愛い。後で一緒に写真撮ろ!」


「まあ、それくらいなら別にいいけど…」


「…なんつーかよくやったな?それ」


「私だって別に乗り気じゃないわよ!クラスのみんなから半ば無理矢理…!」


「だって、稜子ちゃん可愛いもん。メイドにしないの勿体なさすぎるよ」


「ちょ、渚。やめてそれ以上褒め殺ししないで。恥ずかしくて倒れそう」


「へぇー?でも可愛いよね神谷君」


「え、んー、そうだな。可愛いな」


「ちょ、せめて茶化しなさいよそこは!」


「いやまあ客観的に普通に似合ってるから茶化しようがないというか…」


「――っ!」


顔が真っ赤の稜子。

褒め殺しは想定外だったらしい。


「あ、でも、どうせなら最初から言ってくれれば並ぶ時間も考えてもっと早く来たのに」


「それが嫌だったからに決まってるでしょ!誰が好き好んでこの格好見せたいか!」


「まあまあ、そんな着ることないしいいじゃない」


「絶対もう着ないからねっ!」


「それは残念」


マジで残念な顔の渚。

メイドが性癖なのでしゃあない。

昔からなので。


「とりあえずなんか頼みなさいよ」


「ツンデレメイドもいいね」


「違うわ!」


「冗談だってば。えっと、稜子ちゃんが恥ずかしがりそうなメニューって何があるの?」


「それをやらせようとしないで」


「じゃあこの、萌え萌えオムライスってやつ」


「ちょ、渚絶対あんた分かってやってるでしょ!」


「ちっ、ばれてしまったか。でも頼んじゃうもんね」


「わ、私以外の子に…」


「じゃあ啓介君に」


「そ、それならまあ…」


「じゃあそれで」


「明人は?」


「んー…俺はなんか飲み物で…あー…カプチーノ…はあとでいいのこれ?」


「読まなくていいでしょそれ…じゃあ明人はそれね。ちょっと待ってて。啓介に運ばせるから」


というわけで一旦離れる稜子。


「はあと…くすくす」


「いや笑うなよ。読まないといけない気がしたんだって」


「ごめんね、でもちょっと可愛くって」


「はあとで済んだだけマシだったか…?」


「どうなんだろうね。十分だと思うよ」


「正直この間の羞恥に比べればなんともない」


「そういえばこの間よりもあんまり人が寄ってこないね」


「…この前はあの頭の痛くなる映画の影響がでかいから」


「まあ、相変わらず目線は来て時々しんどいけど」


「ん、むしろ俺的には普段より少ないんだが…渚が見られてるんじゃないのかそれ?」


「え、なんで私なんか見るの?何も面白くないよ?」


「え、可愛いからじゃないのか?」


「ああ、成程…」


華麗にスルーをかます渚。

明人の方も大して気にして無さそうである。

正直に口から洩れたらしい。


「…なんか目線が増えた気がするんだが」


「今の会話が、多分周りに刺さったんだよ。正直バカップルぽくて辛かった」


「…なんかすまん」


「いえいえ私こそ、すみません」


と、そんなところで持つもの持って稜子が帰ってきた。


「あれ、啓介君は?」


「行けって言ったら無理矢理私が行かされた…」


「流石に耐えきれなかったんだね」


遠くに見える啓介の顔は清々しかった。


「じゃあ代わりに、稜子ちゃん、書いて、くれるんだ?」


「…ああああ!しっかたないわね!やるわよ!」


「あ、ほんとにやってくれるんだ」


「え、何が始まるのこれ」


「あんたは黙ってみてなさい!」


「あ、はい」


というわけでケチャップ取り出す稜子。


「美味しくなーれ、美味しくなーれ、萌え萌えきゅんきゅん♡」


もうなんかやけくそ気味である。

声がでかい。


「これでいいわよね!あーもう吹っ切れた!」


「え、え?」


「何よその目線」


「え、何、今の?」


「はあ?知らないの?いつもの呪文じゃない」


「じゅ、呪文って…」


「なんならあんたにもやったげようか?」


「いいです!遠慮しときます!」


「ほんとにありがとう稜子ちゃん。無茶ぶりに答えてくれて。凄い良い思い出になったよ」


「もう二度とやらないからね!せいぜい私の勇姿焼きつけときなさい!」


「焼き付けたよ!格好良かった!」


「じゃあそれ食べたら出なさいよ。なんかすっごい並んでるから…」


「あ、でも写真だけ一緒に撮って」


「はいはい…」


というわけで稜子とのツーショットを撮って退店した。

その後閉店まで稜子は吹っ切れていたらしい。


□□□□□□


「あー今日は楽しかったな。この前みたいに余計なこと考えないでよかったし」


「うん、楽しかったね。神谷君もこの間と全然元気が違ったよね」


「そりゃ、この間は羞恥を刺激され過ぎて穴に飛び込みたかったからな…」


「私は面白かったけどな。あれ」


「いや…まあ、出来は別に嫌いじゃないんだけどさ…その、知り合いとみるのは難易度が高すぎた…」


「それでも私は一緒に見れて面白かったよ」


「まあ、面白かったって言われるだけマシって思っとくことにする」


「それに今日の稜子ちゃんのがぶっちゃけ前の神谷君よりも羞恥心は酷かったと思うよ」


「…ああ、何か正直感動した」


「私も感動した。やってもらえないならやってもらえないでよかったけど、本当にやってくれるとは思ってなかった」


「あそこまで来るともういじるより先に賞賛しか無いわ」


「うん。すごい格好良かった」


滅茶苦茶好評な稜子メイドであった。

その辺で到着した電車に乗り込む2名。

今から帰りである。


「はぁ、でもなんか疲れたなあ」


「渚もテンション上がってたもんな」


「うん、凄い楽しかったからね。今日は一緒に来てくれてありがとう」


「俺も楽しかったし、むしろ一緒に来てくれてありがとうは俺の方が言わせてくれよ」


「うん。やっぱり友達と一緒に回るのが楽しいよね」


「だな。また来年も行こうな」


「うん、行く!あとで、稜子ちゃんと啓介君にもお礼を言っとかないとなー」


「そうだな。後でメッセ飛ばしとこう」


「うん。そうしよう」


で、そのまま電車に揺られる2名。

会話が止まり静かになる2人。

ふと明人が気が付いた時には、渚は寝ていた。

まあ後で起こせばいいかなとか考えて渚をそのままにしておく明人。

そうすると、電車の揺れのせいかなんなのか、明人の肩に渚の頭が倒れてきた。


「…」


どうしようになる明人。

まさか押し返すわけにもいかないが、この状況はなんかいい匂いしてくるし、明人の方が結構やばい。


「…」


ある意味起きてくれとか思いながら電車に揺られ続ける明人。

女の子と関わったことは数えられぬほどあるものの、ここまで無防備状態なのは初である。

今までもやろうと思えばこれくらいの密着は造作もなかったのかもしれない状況は多いが、明人の方が過去のトラウマから、逃走していたためこういう状況にはならなかったのだ。


「…」


明人がそんなことを考えてるとも露知らず、一ミリも起きる気配がない渚。

だいぶがっつり寝ている。

手のスマホが落ちかけている。

そのままずるっと落ちた。


「あ…」


流石に起きるかと身構える明人。

が、起きない。

寝息一つ変わらない。

そのままだとスマホがどこかに飛んでいきそうなので、一旦渚の頭を反対にやってスマホを拾う明人。

流石に頭動かしたし目覚めたかと思ったが、目覚めてない。


「…すごいな」


感心された。

ここまで深く寝てるのは想定外である。

再び席に座りなおす明人。

渚の頭が肩から離れたので、呼吸が多少平常に戻る。


「…あ、次で降りないとな」


そうこうしているうちに目的地。

降りる駅である。

ここで降り忘れると、山一つ向こうまで運ばれるので絶対に降りないといけない。


「おい、渚。次だぞ」


軽く揺する。

起きない。

寝息も変わらない。


「なぎさー。起きろー」


もう一回揺さぶる。

駄目だ。


「え、ちょ、渚?」


思わず生きてるか確認する。

呼吸してる生きてる。


「ああ、起きろー!山の向こうまで行っちまうぞ!」


結構強く揺さぶる。


「…うぅ」


「渚、降りる準備しろ?」


「…うぅん」


そのまま就寝。

おい。


「ちょ、やばい。もう着くぞ?なぎさーー!」


そろそろなりふり構わなくなってきた感じで、思いっきり揺すって、声を上げる。

他の乗客がいないのが救いか。


「降りた、降りたよ」


「降りてないー!」


「ううん…降りた、降りる…」


「ちょ…」


そこで電車がブレーキをかけ始める。

そして停車して扉が開いた。

もう猶予は無い。


「仕方ない…!」


スッと渚をお姫様抱っこする明人。

もはや問答してる暇はない。

あと10秒しないうちに発車する。


「渚、降りるぞ!」


「うぅん…」


そのまま渚を抱えて、駅のホームへと飛び出した。

その後ろで電車の扉が閉まった。

割と間一髪であった。


「…危なかった」


ふぅと息をついて、下を見ると、いつの間に起きたのか、渚と盛大に目が合った。


「…」


「あ、えっと、お、おはよう」


「…とりあえず、降ろすな?立てる?」


「うん、大丈夫。ありがとう」


「ああ…」


凄い気まずい空気が流れた。


「えっと、その、寝てたよね」


「あ、ああ、爆睡だった」


「多分起こしてくれようとしてたんだよね」


「…5回以上は」


「ほんとにごめん」


「いや、いいけど、その、気を付けろよ。一本先、山の向こうだから…」


「う、うん。気を付ける。ありがとう」


「お、おう」


反応がぎこちないのは、許されるべきであろう。


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[気になる点] 誤記:化粧が 「すごーい!髪がいつもと違ってふわふわ系だあ!しかも、いつもより化粧より気合が入ってる!可愛い!」 誤変換:発車 あと10秒しないうちに発射する。
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