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民宿「しろすな」にて家族連れが帰った後。
2階に戻った咲希はある意味いつも通り、お客がいなくなったのでいつも以上に羽を伸ばし気味にPCを叩いていた。
PCは咲希の唯一に近い能動的に行う娯楽である。
とりあえず暇ができればベッド上で転がってスマホを見てるか、もしくはPC前にいる感じである。
そんな感じでPCで遊んでいると、ノックも無しに部屋の扉が開いた。
「暇ー!」
「ちょ、せめてノックしろって」
「なんかないー?」
「ねえよ。というか映画見てたんじゃないのかよ」
突然扉を開けて入ってきた人物は、この家の人物ではない。
最近自然に家にいる割合が上がってきた美船である。
さっきまではリビングで勝手に映画を見ていたはずだが飽きたらしい。
「いやー一本見終わっちゃったからさー。渚ちゃんと一緒に」
「あれ、渚も見てたのか」
「勝手に見てたんだけど、なんかそのまま流れで一緒に」
「それでいいのか渚」
映画見れるようにするための契約金は渚支払いなので、まあ渚がいいのならいいのだろう。
「というか私の部屋に来たところで何にもないぞ?」
「えーなんかあるでしょー?」
「いや何にもないって。おいこらそこ、自然とベッド上に座ってもふりだすのやめろ」
「ふふーほんと何故かこういうとこだけ少女趣味だよねー?」
自然にベッド上に腰かけて、ぬいぐるみを手に取ってもふもふしだす美船。
それは見かねて一言つっこみをいれる咲希。
枕代わりにしてるやつもあるのであんまり綿が寄ると困る。
「じゃーそこの中とかは…」
「服。他何にも入って無いぞ」
「見ていい?」
「ご自由に。あ、出すなよめんどくさいから」
服の入っているクローゼットを開ける美船。
「はーい。…おお。なんか意外」
「何がさ」
「いや、最近になってここに来るようになってから咲希の格好今のそれ以外見たこと無かったから、ほんとにそれしかないのかと」
「なわけ。この格好が一番楽なだけだ」
そういう咲希の本日の格好はやっぱりいつも通りである。
タンクトップにジーパンである。
ただ、ほかに全く服が無いわけではない。
渚同様、ここに来た段階で既にこのクローゼットには服及び下着が入っていたのである。
まあほとんど触ってすらいないが。
「こっちはー…ナニコレ?」
「PCの周辺機器とか色々」
別の棚の方を探ってみれば、PCの周辺機器だの、なにやら色々置いてある。
最下段には小さな金庫も置いてあるので、貴重品とかもここに置いているようである。
「あとはー…って本当にこれくらいしかないんだ」
「まあこれがあれば大体事足りるからな」
PCを指さす咲希。
実際咲希の欲求のほぼ全てがPCで満たせるので間違いではない。
満たせないのは食欲と睡眠欲くらいなものである。
「えーこれじゃあ咲希の部屋来てもやることないじゃーん」
「いやだから無いってば。というかやることないなら帰ればいいだろ?」
「やだーいるー」
「えぇ…」
そのまま咲希のベッドに横向きで倒れこむ美船。
出ていく気は無さそうである。
と倒れこんだ次の瞬間に飛び起きた。
何か思いついたらしい。
「そういえば咲希。ブログってどうなってるの?」
「え、ああブログ?あー触ってないわ」
「えー勿体ない。せっかく作ったのに」
「いや何書けばいいか分からんからなんか最初に一回テスト投稿してから全然だわ」
そう言いながら作られたページを開く咲希。
ページとしての体裁は保っているが、記事はテスト投稿しかされていないようである。
「うわ、ほんとにこれだけなの?」
「これだけなんだな。というか言われるまで忘れてたわ存在」
こういったものをやるのは咲希は初めてである。
全くもってやり方も、どういう内容を投稿すればいいのかすら知らない。
で、結局何を書けばいいのかと悩んだ結果、ガンスルーしていた。
多分言われなければ思い出さなかったまである。
「えーほらーなんか書くことあるでしょ?ここの紹介とかさー」
「…なんか特筆することあるんかここ?」
「えーっとぉ…咲希と渚ちゃんでやってるとことか!」
「女2人しかいないとか発信したら明日にも強盗入りそう」
「あ、ぅー駄目かぁ」
「危険は冒したくないですね」
元の性別が何であろうが、今は女である2名。
色々男時代からすると変わったことは多かったが、力周りとかもがっつり女性化している。
まあ少なくとも大の男数人に取り囲まれるような事態になったら、その先は見えているのである。
猶更変な危険を冒す気にはなれなかった。
「んー…宿泊プランの紹介とか?」
「今1パターンしかないんだけど…」
「ま、まあ書かないよりいいんじゃないかな?」
とはいえ、この前サイトも作ってもらっているのでそっち見れば一発で分かるのでわざわざ紹介いる?という感じもする。
「…にゃー!駄目だ、ちょっと待って咲希。兄貴に聞いた方が早い!」
「え、いいよ。忙しいんじゃないのこの時間帯」
「大丈夫大丈夫。どうせ暇してるから兄貴も。ちょっと電話するね!」
「お、おう」
まあ大丈夫と言われてしまえば、止める道理もないのでそのまま通す咲希。
「あ、兄貴ー。あのさ、ブログとかって何書いてる?…あ、うんうん、そうそう。咲希。…え、参考にできると思えない?じゃあなんか案出してよ。…あーそういうのはいいね確かに。…ああ、はい。…どーせ暇してたんでしょ!いいじゃん!…じゃーね!」
咲希のベッドに座ったまま電話をかける美船。
どうやら雅彦に内容の相談をしているようである。
あっという間に電話を終えると咲希に向き直る美船。
「部屋紹介とかいいんじゃないってさ!」
「ああ、確かに」
「あとは海近いし、海の状況とかそういうのでもいいんじゃないかってさ」
「あー」
「あとねー…」
いくつか案を出してくる美船。
言われてみれば書けそうみたいな内容であったが、言われないと多分思いつかなかった感じである。
「あーありがと。それなら確かにかける気がするわ」
「じゃあ書いてみてよ」
「え、今?」
「咲希、今やらないとやらないでしょ?」
「何故ばれている」
「ふふー付き合い自体は長いんだから分からないはずないじゃん!」
「うえー」
というわけで実際に記事を書く羽目になった咲希。
文章だけでは味気ないという美船の助言という名前の強制により、下に行って写真撮ったりしながらの作業である。
「これ毎回するのマジ?」
「まーまーこれもお仕事だと思って」
というわけでなんとかまともな記事1号めが完成した。
「あー…まあこんなもんか?」
「いいんじゃない?内容は読んでないけど!」
「いやそこは読んで評価してくれよ」
「そこは渚ちゃんとかにお任せするー。ここの住人じゃないから細かいとこ分かんないし」
「一応住民じゃない自覚はあるのね」
でもしらないうちに2階にいるのが美船である。
「あーまあとりあえずできたし、また雅彦さんにお礼言っといてくれ」
「ふふ、流石あたし。役に立った」
「中継役だったけどな」
「細かいことはいいのだ」
「いや細かくない」
その後、一応定期的に更新されるようになったブログであった。




