お疲れ
というわけで、明人と一緒に一旦校舎外に出た渚。
何故かというと何か奢ってあげるためである。
校舎内だとそういうの販売禁止らしいので。
「神谷君食べたいものある?」
「あー…なんか、甘い物食いたいかな」
「甘い物かぁ」
そんなこと話しながら校舎外を歩く2名。
渚はきょろきょろと周辺を見渡している。
明人はまだなんか沈んでる気がする。
「そろそろ元気だしなよ。せっかくの顔が台無しだよ?」
「いっそ台無しになってくれ…」
「ああ…重症だ…あ。あれどう?」
「え?」
渚の指さす先にはタピオカの文字が。
どうやら学生がタピオカ売っているようである。
「あータピオカかぁ」
「どうかな。甘いと思うよ」
「じゃあ、それにする」
「じゃ、買ってくるからそこで待ってて」
「おう」
というわけで校舎外のタピオカ屋台に接近する渚。
ある程度列はあるのでそこに並ぶ。
しばらく経つと、渚の番が来た。
「これ、一つください」
「はーい、500円です」
「うわぁー高」
小声でつぶやく渚。
なお渚はタピオカそれほど好きではない。
むしろ嫌いか。
まあ、今回は明人のためなので仕方ないが。
というわけでタピオカ買って明人の元へと戻る渚。
戻ってみればなにやら明人の周辺に人だかりができている。
女子だらけである。
「あ、あの、花の季節の主役さんですよね?写真いいですか!」
「あ、ああ、いいよ?」
「ありがとうございます!」
なんかキャーキャーやってる。
すっげえ入りづらい。
「うわぁ…近づきたくない…」
まあ近づくだけで面倒なのはもはや見るだけで明らかである。
と、そこで明人が動いた。
「すまない。人を待たせてるんだ。次の人はまた今度ね。ごめん」
と言うと、スッと人だかりを抜けて渚の元へとやってきた。
「え、あ。来なくていいです」
「え!?なんで!?」
「ちょ、ちょっと空気読んで欲しいかな、なんて」
「そんなこと言われてもあんな中じゃ会話すらできないだろ!」
「あんな中の渦中に私を巻き込まないでください」
「あー…とりあえず場所替えよう」
「あ、もう行くことは確定なんだ…」
「校内で俺と会ってる時点である程度覚悟してくれ…」
「そういうことかぁ…」
ここまで渚に対して周辺から飛んで来ていた視線。
渚一人の時もそれなりに多かったものの、明人と会ってからというもの明らかに視線の量が増えた。
つまりこういうことである。
今回の映画のせいで明人の顔は余計広まってるのでそりゃまあ視線も飛んでくる。
ある意味学校に足を踏み入れた時点で渦中であった。
一旦場所を変える2人。
「女の子の目が怖かった…あれは刺される」
「流石にそこまで過激じゃないから…ごめん。巻き込んだ」
「まあ別にいいよ?なんとなく分かってたし。まあ実際に会うとびっくりしたけど」
「ただでさえ一か所に留まりづらいのに今回のあれのせいで余計ひどくなった気がするよ…」
「人気者も大変だね」
「もう顔隠して歩くべきか」
「それはそれで不審者」
「だよなぁ…」
校庭の隅で黄昏る明人。
だいぶ疲弊しているようである。
「あ、忘れてたけどはい」
「あ、ありがとう」
タピオカである。
奢る予定だったのでそのまま渡した。
「…あー普段は甘すぎると思ってたけど、今くらい疲れてるとちょうどいいや」
「うんうんいっぱい飲みな?」
「そうする」
しばらくタピオカを飲む音だけが続いた。
一心不乱である。
「うん。美味かった。ありがとな奢ってくれて」
「ま、代償は十分払ったでしょ」
「言うな…忘れそうだったのに…」
「恵美は俺のものだ…」
「やーめーてー」
いじられる明人であった。
□□□□□□
その後、タピオカで気分が多少落ち着いたのか、時間がたってマシになったのか不明だが、元通りに明人が戻ったので、文化祭を回り始めた2人。
「渚、こういうの得意?」
「射的?分かんない」
「分かんないって…やったことは?」
「えーでもこの間もやらなかったから…全然覚えてないや」
「じゃあ、渚からほら」
「え、なんで、なんで?初心者だよ!」
「いや、なんかそっちの方が面白そうかなって」
「そうかなぁ?じゃあやるよ?」
「おう。頑張れー」
というわけで、机に身を乗り出して構える渚。
まあ机に乗り出す分には反則にはなるまい。
「思いのほか…机が高い…!」
今の渚の背には少々荷が重かったようである。
仕方ないので背伸びして無理矢理高さを合わせにかかる。
で、今日の渚の格好も短めのスカートなので、まあ、見える。
後ろで待機してた明人が前にぶっ飛んできた。
「な、渚、渚」
「何っ、今集中してるんだけど!」
「…見えそうだぞ、その、下」
「えっ、あっ、玉が、飛んでったっ」
明後日の方にぶっ飛ぶ玉。
見えそうな下。
散々である。
「悔しい…」
「悔しがる前に下を気にしてくれ…」
「いや、二重の意味でだけど…」
めっちゃ顔が横にそれてる明人であった。
そんな感じで、文化祭は過ぎていった。
□□□□□□
そして午後3時。
一般客退場の時間である。
で、校門付近。
「じゃ、帰るね」
「ああ、来てくれてありがとな」
「うん、今日は誘ってくれてありがとう。楽しかったよ」
「ああ、俺もすっげえ楽しかった。あ、来週は稜子のとこで文化祭あるけどそっちも行くか?」
「うん、いいよ。一緒に行こ」
「よっし。じゃあまた連絡する。またな!」
「うん。またね」
そうして渚は学校を後にした。
その後クラスに帰った明人があの女誰状態になったのは言うまでもない。
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「こんにちはー」
「いらっしゃーい。ああ、渚ね」
日付改めて、本屋。
稜子に文化祭のご報告である。
「文化祭、行ってきたんだって?」
「うん。行ってきたよー。楽しかった」
「そう、よかったわね。え、どんな感じだったの?」
「恵美は俺のものだ…誰にも渡さねえ…って神谷君が言ってた」
「ぶっ。何よそれ、え、それどういうこと?」
「稜子ちゃんがさあ、神谷君が面白い出し物してるって教えてくれたでしょ?で、見に行ったら、神谷君が神谷君のまま主役で出てて、女の子にひたすら愛をささやく映画だった。そのセリフだよ」
「…ク…ふふ、あーっはは!ごめん、笑いが…収まらない…ふふ…」
「稜子ちゃんも大概腹黒いよね」
「あいつにはいいのよ。借りしかないし。あーでもそんなのやってたのかーうーわ物凄い現物見たかったなあ」
「あれは絶対現物見た方が面白いよ」
「今度あいつに原本のコピー貰えるように言おうかしら」
「やめてあげて?可哀そうだから。見た後凄いげんなりしてて大変だったんだよ」
「へーあいつも自分の見たんだ」
「うん、一緒に見ることになった。というか連れてった」
「ふふ…渚、あんたも大概ね?」
「まさかあんなのだとは知らなかったんだよ。でもまあ、面白かったけど」
「本人が隣にいるもんね…あー直接いじれなかったのがもどかしいっ!」
なお、後日明人の手から原本コピーを実際に得た稜子であった。
爆笑した。




